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2014年8月20日 (水)

目標を定めて確実な医療費削減を目指す時代へ

今春頃から財務省筋が方針を固めたと言う報道をお伝えしていた医療費支出の自治体別数値目標設定と言う話に関して、いよいよ具体的な検討が始まったと言うニュースが出ていますけれども、とりあえずは目標設定とデータ収集から始め、目標未達成の場合のペナルティ等は当面のところは設けないと言う予想通りの内容になりそうです。

医療費:都道府県に支出目標 抑制目指し来年度にも(2014年8月9日毎日新聞)

 政府は各都道府県に対し、2015年度にも医療と介護費に関する1年間の「支出目標」(上限額)を設定させる方針を決めた。医療機関が請求するレセプト(医療費の内訳を記した診療報酬明細書)や特定健診などのデータに基づき算出し、膨らみ続ける医療、介護費の抑制を目指す。11日以降、有識者による専門調査会で具体的な検討を始める。

 税と保険料で賄った12年度の医療費(自己負担分は除く)は35兆1000億円で、介護費(同)は8兆4000億円。団塊の世代が全員75歳以上となる25年度には、それぞれ54兆円と19兆8000億円に膨らむと推計されている。国の財政を圧迫する最大要因と言え、支出目標の設定は6月に閣議決定された経済財政運営の基本方針「骨太の方針」に盛り込まれた。

 目標設定に当たってはレセプトのほか、価格の安い後発医薬品の普及率▽平均入院日数▽高齢者数などの人口構成−−などの指標を使い、複数の市町村にまたがる地域ごとに「妥当な医療費」を算出。医療費の低い地域を「標準集団」と位置づけ、都道府県が妥当な支出目標を決める。

 国は目標を超えた都道府県に対し、当面はペナルティーを設けない方向だ。ただし原因の分析と具体的な改善策の策定を義務づけ、支出の抑制を促すことになりそうだ。

 議論は、社会保障制度改革推進本部(本部長・安倍晋三首相)の下に設置した専門調査会で始める。算出方法を巡っては、産業医科大学(福岡県)の松田晋哉教授らが開発した、診療科別の入院患者数▽救急車による平均搬送時間▽人口構成−−などを基に地域単位で合理的な医療費を推計するシステムがベースとなる見通しだ。【中島和哉】

国民皆保険制度で全国一律公定価格による医療を平等に提供していると言う現在の建前に反して、自治体毎の医療費にはかなりの差があると言うことは以前から言われているところで、それも厚労省の統計から概観するところでは人口分布や年齢階層の差異によると言うよりも東日本で低く西日本と北海道で高いと言う、なかなかに興味深い傾向を示しています。
北海道は冬になると高齢者の社会的入院が多くなるだとか、一般に西日本の方が東日本よりも医師数が多いと言った様々な事情も関係しているのだろうし、より現実的に地域毎の保険の査定の厳しさも大きな影響を与えていそうなんですが、ともかくも分析上は医療費に寄与する度合いとして入院医療費、特に高齢者におけるそれの寄与が大きいと言うのはまあそうなんだろうなと言う気がします。
いずれにしてもこうして全国横並びで競争のように医療費削減を強いられると言うことになりますと、それではどこをどう削るかと言うことが大きなテーマとなってくるわけですが、本格的に医療費支出抑制の方法論が議論されるようになってきたと言うこんな記事も出ています。

「風邪薬は無意味」は医療界の常識?保険適用除外の動き 医療費削減議論が本格化(2014年8月16日ビジネスジャーナル)

 6月に上梓した『絶対に受けたくない無駄な医療』(日経BP社)が出版から1カ月で3刷りとなり、想定よりも売れ行きが好調だ。国を挙げた無駄な医療選定作業が進みそうであることも関係していると思われる。ここ最近で日本の医療経済の観点に関する大きな動きといえば、社会保障制度改革推進会議が7月に始まったところだろう。民主党政権時の社会保障制度改革国民会議と同じく、慶應義塾長の清家篤氏が議長を務め、首相の諮問に応える。医療や介護について、無駄を省きながら効率的に機能を強化することを目的としている。社会保障費の増大が問題視される中、無駄な医療の削減は必然の流れといえよう。

●風邪薬の保険適用除外は世界的潮流

 7月18日付日本経済新聞は、この社会保障制度改革推進会議に関連し、健康保険組合の見方として風邪薬や湿布薬を保険適用外とする改革案を紹介していた。この案に反発を覚える消費者も多いかもしれないが、「風邪薬を保険適用から外す」というのは世界的な潮流から見れば違和感はない。
 薬を保険適用外とする施策は過去にも何度か行われてきた。例えば、ビタミン剤の単純な栄養目的としての処方が2012年4月から保険適用外になった。また、最近でも14年4月から、うがい薬単独の処方をする場合は保険適用外になった。以前では風邪で診察を受けた際に、ビタミン剤が栄養補給目的で処方されたり、うがい薬のポピドンヨードが処方されることがあった。結局、ビタミン剤やうがい薬は市販で手に入るし、保険適用により医療機関で安価に手に入れられるのは問題だと結論付けられた。この施策により、国費負担がそれぞれ50億円ほど削減できた。
 もっとも、医療費抑制は重要だが、それにより医療を受ける人の健康が害されたり、寿命が縮んだりしては元も子もない。ビタミン剤やうがい薬は、省いても医療の成果には影響しない、ほとんど無駄な医療行為と判断された面があるのは見逃せない。

●科学的根拠に基づく「無駄な医療」

 今後、国が無駄な医療を削っていく上では指針が必要になる。削減が医療の成果に影響しないと証明できる科学的根拠がいるのだが、実はそのような根拠に基づき「無駄な医療」を列挙したものがすでに存在する。米国医学会がまとめた「Choosing Wisely」である(7月14日付当サイト記事『「無駄な医療撲滅運動」の衝撃 医療費抑制も期待、現在の医療行為を否定する内容も』参照)。
 前出自著では「Choosing Wisely」の内容を100項目にわたってまとめているが、風邪に対してはあらゆる薬の処方は不要とされている。風邪に薬が要らないというのは、医療の分野では長く常識であり、風邪薬への保険適用は変えられない悪弊でもあった。日本感染症学会や日本化学療法学会はガイドラインで、風邪はほぼすべてウイルスを原因とするもので、抗菌薬は効かないとしている。さらに、「Choosing Wisely」では解熱薬すら無用であるとしている。従来の科学的な根拠によると、薬を使っても使わなくても風邪の治療には影響ないとわかっている。国としても、医療行為の成果につながらず、市販薬でも置き換わる薬に保険適用を続けていくわけにはいかない。そうした判断の下で、これから風邪薬が保険適用外となっても不思議はない

●70歳以上の医療費引き上げも

 さらに8月3日付日経新聞によれば、70歳以上の医療費引き上げが検討対象にあるという。この方針には高齢者の負担増につながるとの反発も多いが、無駄な医療費削減の観点からすると、必ずしも悪いところばかりではない。ちなみに「Choosing Wisely」は、高齢者への医療行為も安易に増やすべきではないとしている。日本では、高齢者に対しても積極的に検査や治療を行う傾向はあるが、実際に健康の維持や寿命の延長につながっているのかは見えないところがある。高齢者への検査や治療が、寿命の延長につながるかを研究で証明するのは難しい。ただし、医療機関は感染症にかかっている人が多く訪れ、検査や治療には思わぬ事故のような有害性や副作用も伴うので、病院受診が高齢者のリスクにつながる可能性があるのは確かだ。高齢者にとって、医療機関での受診が経済的な負担になるのは、たとえ自己負担率が低くても変わらない。
 そのような背景から、「Choosing Wisely」は高齢者への安易な積極検査、積極治療を控えるよう求めている。米国は、保険制度も異なるから、同様にとらえられないとはいえ、検査や治療に伴うリスクが薄弱な日本では見習える部分も多々あるだろう。
 医療費抑制の流れがつながる中で、何が無駄で効率化できるのか。議論を進める上では「Choosing Wisely」のような指針の策定が重要になってくる。(文=室井一辰/医療経済ジャーナリスト)

まあ風邪に対して風邪薬が無駄かと言えば多くの社会人からは何を言うかとお叱りを受けそうですけれども、あくまでも医療経済学的な側面から言えば民間薬として売られているもので医学的にも特に必要がないものは保険適応から外しても構わないのではないかと言う話であって、仕事に支障を来すような風邪症状を抑えることが社会的に意味があるかどうかと言う話とは全く別問題であると言うことですよね。
ただ風邪薬に関しては一般に病院ではいわゆる風邪薬単独で処方されると言うことはあまりなくて、定期受診のついでにだとか他の治療薬と併用してと言った処方のされ方をする場合が多いでしょうから、保険外になった場合に風邪薬だけ出せない理由を長々と説明しなければならないのか、混合診療の例外にしてはどうなのか等々実臨床に与える影響を考えて議論にはなるところだと思います。
当面は処方をされれば当然院内、院外を問わず薬局で薬をもらうわけですから、この段階で処方対象外の薬も一緒に「買って」もらうと言う運用をすることになるのかですが、風邪薬のコストに対して比べれば病院の診療コストも決して小さなものではありませんから、結局は「風邪ぐらいで病院に来るな」と言うことを徹底していかないことには医療費削減効果はさほどではないかも知れませんね。
この辺りはまたぞろ日医あたりからは「一見風邪と思える症状でも重大な疾患が隠れていることがある」式の反対論が出そうですし、確かにそれはそれでごもっともな話ではあるのですが、万に一つの可能性のために過剰診療を行うのは医療経済学的に許されないと言うのが現在の話の流れになっているのですから、今後はOTC薬で改善しない場合に正しく外来に誘導すると言った方向で考えていくのが妥当なのかと言う気がします。

ただ医療費支出に関しては実は風邪薬の果たしている浪費への貢献など微々たるものですし、記事にもあるようにうがい薬で50億、ビタミン剤で50億削減しましたと言っても昨年度41兆円にも達した医療費に対して言えばまさに誤差範囲、ちりも積もれば山となるとは言えやはりちりが積もらぬ対策よりも山が崩れぬ対策の方が優先じゃないかと誰しも考えるところでしょう。
もちろん費用対効果とは別な視点で軽微な症状を訴えてやたらとコンビニ受診をしたがる方々に対する抑制効果があれば勤務医の疲弊防止につながると言うメリットもあって、この辺りは金銭的に換算してどの程度のものなのかと言うデータを是非打ち出していただきたいところですが、深夜営業、24時間営業のドラッグストアが各地に整備されてくれば単なる風邪で時間外に来院する患者は減ってもらいたいところです。
それはともかく山に相当する最も金のかかる入院コストをどう削減するか、特に近年の話の流れとして漫然と行われてきた高齢者への無駄な医療は制度的にも制約していくべきではないかと言う議論の方がより重要であるとして、高齢者医療に関しては「高齢者は単に歳をとった大人ではない」と言う別枠扱いを単にガイドライン等で謳うだけでなく、医療制度の上でどのように実現していくのかと言うことですね。
そこでせっかく後期高齢者医療制度と言う別枠で切り離したわけですから診療報酬上の誘導をと言うことになりますが、例えば高齢者に関しては悪性腫瘍の治療や人工透析などを若い人同様にやるのはどうなのかと言うのであれば診療報酬によって抑制的に行われるように誘導すべきだろうし、逆に健康寿命を延ばすためのリハビリ等に関してはもっと手厚く報酬を配分すると言うこともありでしょう。
後期高齢者医療制度が出来た時にもさんざんに高齢者切り捨てだ、現代の姥捨て山だと大騒ぎになったものですが、医療そのものの目指す目的が異なるのに報酬体系が若い人と同じと言うのは逆に高齢者にとっても損であるはずですから、これからは年代毎にもっとも適した医療を受けられるように個別に最適化の道を探っていくべき時代なんじゃないかなと言う気がします。

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コメント

入院患者についちゃいくら診療報酬あげても自己負担上限があるんで患者行動には無関係って気もしますが
そこで病院が悪者になってどうにかしろってのが国の本音なんだかどうなんだか

投稿: 鎌田 | 2014年8月20日 (水) 08時49分

限定的な混合診療として自費部分を組み込むと言った大胆なことが出来れば色々とアイデアはあると思うのですが、混合診療絶対反対な方々からは熱烈な反対意見が出ることでしょう。

投稿: 管理人nobu | 2014年8月20日 (水) 10時57分

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