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2014年7月 2日 (水)

卵子提供 身近な海外渡航先としての台湾での現状

不妊治療の最終的な手段の一つとして行われる海外渡航での卵子提供という行為について、日本人の場合多くは卵子提供を受ける側なのですが、提供に応じるドナー側にとってもそれなりに難しい部分もあるのだろうなと感じさせるのがこちら台湾への渡航増加を伝える記事です。

“卵子提供を受け出産”増加 なぜ海外へ? 日本の現状は・・・(2014年6月30日TBSニュース)

 子どもができない、不妊を心配したことがある、または現在心配している夫婦の割合は3組に1組と言われています。ある42歳の日本人女性もその1人です。彼女は、台湾にある目的で渡航しました。それは卵子提供です。台湾の女性から提供してもらった卵子と、この日本人女性の夫の精子を体外で受精させ、その受精卵を日本人女性の体に入れて妊娠を試みようというのです。
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 手術当日。台湾の女性から提供を受けた卵子と、女性の夫の精子とでつくられた受精卵。凍結保存されていた8つの受精卵のうち、2つを子宮の中に入れる手術が行われます。女性には、条件に合う22歳の大学生の卵子が提供されました。
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 卵子提供による体外受精のための費用は150万円ほど。このうちおよそ30万円は、法律で認められている卵子提供者への「栄養費」という名目。つまり、謝礼金です。
 どのような気持ちで卵子を提供するのか、このクリニックで去年、卵子を提供した女性に話を聞くことができました。
 「やはり若い卵子が必要とされているので、やってみたいと思いました。(謝礼金なしでの卵子提供は)難しいです。本当に注射が多く、時間もかかり、おなかが張ったうえ、気分もすぐれなかった。採卵後もとても調子が悪かった」(卵子提供経験者[26歳])
 このクリニックには現在、卵子提供者が40人ほどいますが、不妊に悩む女性たちからの相談は世界各国から年間2000件以上あるといいます。
 「日本各地から東京や大阪だけでなく、地方から来る人も多い」(宏孕生殖医学センター 張 宏吉院長)
 日本からも週に2組ほどの夫婦が相談に訪れ、その数は増えているといいます。実は、卵子提供を受け、日本で出産した人は年々増加しています。今や1年に300人ほどと推計されますが、多くは海外で卵子提供を受けています。では、なぜ海外へ渡るのでしょうか。

 日本には、卵子提供について定めた法律はありません。病気による不妊などに限って、一部の医療機関で実施されることもありますが、極めてまれです。
 この状況を変えたいと、去年1月、病気による不妊の女性のためにボランティアでの卵子提供者を募りあっせんする全国初のNPOが設立されました。設立からおよそ1年半、不妊に悩む人たちからの相談は後を絶ちませんが、卵子提供者の数は20人ほどにとどまっていて、現在、新規の相談は受け付けられていないといいます。
 「日本で卵子提供の法整備ができてほしいし、体制が整って、私も子どもを産みたいっていう涙のお電話をたくさん頂く。(不妊相談の)募集は1日も早くしていきたい気持ちは最初からあるが、申し訳ない思いでいっぱい」(卵子提供をあっせんする NPO「ODーNET」 岸本佐智子代表)
 専門家は、卵子提供で生まれてきている子どもたちがいる限り、法制化を急ぐべきだとしています。
 「どうしても日本で行うということになると、(卵子提供は)無償ということになる。日本はドナー(提供者)がいないので、法律がないことが大きな問題だが、それ以上にドナー(提供者)を集めることが、今後、大変になってくるだろう」(慶応義塾大学 吉村泰典名誉教授)
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台湾においても2007年から本格的にメディカルツーリズムを開始しているのだそうで、特に移植医療などの高度先進医療を得意とするのだそうですが、その一環として行われている生殖医療に関して興味深い点は裏付けとなる法律において精子や卵子の売買は認めない一方で、ドナーに対する1500~3000ドルの補償金支払いを認めていると言う点が特徴的です。
骨髄バンクなども実際の骨髄採取は非常に大変な作業で、実際に経験されたドナーの方々に言わせると「こんなに大変だと知っていたら考え直したかも」と言うほどの負担感があると言いますが、日本国内では臓器移植も含めて金銭による売買は行ってはならないと言うことになっていて、これは倫理面で悪いことばかりではないにしてもドナーが増えていかない理由の一つになっている可能性はありますよね。
台湾の場合名目はともかく合法的にお金を出して卵子提供を受ける道筋があると言うことに加え、何しろ渡米することを考えればはるかに安上がりであると言う点で日本からの渡航者もどんどん増えているのだそうですが、これに応じるドナー側にとってもやはり相応の金額の支払いがあると言うことが大きなモチベーションとなっているようで、民族的な近さを考えても今後ますます日本にとって重要な地位を占めることになりそうです。
もちろんこうした医療を受ける方々と言うのはそもそも高齢でハイリスク妊娠であると言う場合が多いはずで、その意味で各種合併症のリスクも極めて高いと言う事実は知っておかなければならないし、当然ながら海外で治療を受け帰国した場合に誰がその後のフォローアップをするのかと言う問題もあって、今後は国内だけでなく国際的な生殖医療のルール作りが必要になるのかなと言う気もしてきますでしょうか。

さて、先日も慶応大OBの先生が精子提供によって産まれたと言う過去を知り、ドナーの情報を開示してくれと大学側に訴えていると言う話がありましたが、今の時代に隠そうとしても隠すことが出来ないと言うのは仕方のない話であり、配偶子提供を受けた、あるいは受ける側でも「可能であれば匿名ではなく、出産後も子に会ってもらえるようなドナーがいい」と言う声もあるようです。
もちろんドナー側にとっては遺伝子を分けた身内ではある一方で、例えば産まれた子供に障害があった場合に責任問題にも発展しかねないなど様々に気の重い状況もあり得るわけで、やはり実際には顔を合わせることなく匿名でのやり取りに終始しておいた方が安心だと言う心理が働くのはやむを得ないところだと思います。
台湾の場合金銭的やり取りがあることでやはりお金目的と言う若い女性が多く、純粋な善意による提供者よりもその辺りの事後のわずらわしさを厭う気持ちが一層強いのではないかと予想するのですが、興味深いことに家族という概念に対する歴史的文化的背景もあってか、匿名での卵子提供が行われるようになって新たなわずらわしさも生まれているようです。

匿名方式の卵子提供の功罪−台湾調査報告(2013年7月10日生殖テクノロジーとヘルスケアを考える研究会)より抜粋

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 匿名性が導入された背景には、家族関係が複雑化し、財産権や遺産相続に関わる法的トラブルが生じる事への懸念が存在した。人工生殖法の施行前には行われていた姉妹や親戚などからの提供ができなくなったことも、卵子提供が少なく抑えられている理由である。実際には姉妹や親戚などからの提供には、現在でもニーズがある(医師)という。また、伝統的に血縁が重視され、近親婚が忌避される文化的背景により、レシピエントは、卵子ドナーと配偶者(夫)が4親等以内でないことを証明するため、夫側の血縁に繋がる4親等内の家系図を全て埋めることが求められる(※精子提供の場合は妻の血縁に繋がる4親等以内の系譜の調査が必要)。卵子ドナーが匿名であるがために、レシピエントにこのような負担が生じている。しかし、卵子の受領に際して、膨大な家系図を埋めたとしても、近親婚の脅威を完全に防ぐことは難しい。配偶子提供によって産まれた子どもの情報の管理は衛生省が行っているものの、親から子へと、子の出自に関わる真実が伝わることは滅多にないと考えられる。したがって、子の結婚に際し、近親婚でないことを確認するための申請書類手続きは、制度としては整備されているものの、実際には利用されるケースは滅多にないであろうと推測される。また、病院や医師にとっても、配偶子提供は、煩瑣な書類手続きが必要であるため、実際のニーズよりも実施数は少なく抑えられているという(医師)。また、総合病院では、ドナーへの支払いシステムが確立されていないことも加わり、ドナーに関わる業務は、一定の仲介手数料を取る仲介業者に委託することが一般的となっている。
 配偶子ドナーは匿名であるため、レシピエントが知ることはできるのは、ドナーの身長、血液型、髪の色など限られた情報のみで写真の閲覧は不可となっている。ドナーは医師が選び、レシピエントが自分でドナーを選ぶことはできない。全ての書類をそろえ、約1ヶ月ほどで衛生省の審査を終了すれば、卵子提供が許可される。一人のドナーからの子の出生は1回までと決められている。子どもが産まれたらそれ以降は提供できなくなる。このため、一人のドナーが金銭目的で何度も提供することは避けられている。台湾では、外国人でも卵子提供を受けることが可能である。外国人が利用したケースはこれまで稀であり、現在のところ台湾への卵子提供ツーリズムはほとんど確認されなかった。しかし、合法的に行われているため、一見、海外からのクライアントが増えても不思議ではない条件が備わっているが、ドナーの選択が自由にできないためか、国内の患者数の需要を満たすだけに留まっている。人工生殖法では、卵子ドナーは20歳から40歳までと定められているが、レシピエントには年齢制限が課されていない。このため、50歳や60歳を超えた高齢患者への提供も行われている。医師への聞き取りによれば、そうした高齢婦人への卵子提供のケースは、遺産相続問題への対処や、成人した子どもの不慮の死などを理由とするものであった。これらは、家族制度上の要請によるものである。一方、未受精卵の凍結保存なども、一部の女性有名人が利用していることが台湾内で報道されており、自らの人生設計のために主体的に技術を利用する富裕層の女性も出現している。
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しかしお一人様が珍しくない今の日本であれば家を残すために高齢婦人が卵子提供を受けるといったことはちょっと考えにくいかも知れませんが、伝統的な価値観においてそうしたことが求められる場合にはやはり相応に需要があると言うことなのでしょうか、一方で医学的に言えばリスクばかりが高まるだろうこうした処置に対して台湾の医師が応需しているというのも興味深いですよね。
ともかくもこれだけ厳重な血縁証明が求められるくらいですから、恐らく結婚するに当たっても配偶子の被提供者は特別の苦労があるのだろうし、今後その数が増えて行くにつれて「血縁関係が発覚して結婚が出来なくなった」等々と社会問題化していくのか、あるいはそうした証明を求める社会的文化的価値観の方が変容を求められていくのかです。
ただそこまで血縁関係に忌避感がない(むしろ一部では緩すぎると言う批判もあるようですが…)日本においても決して他人事ではないと思うのは、最近遺伝子的な検査技術が進歩したこともあって血縁関係が解明されるようになった結果、長年実の子供だと思って暮らしてきた相手が実は赤の他人だった、実子だとの認知を解消してもらいたいと訴えるケースが実際に起こっている現実がありますよね。
また最高裁まで争われたケースで血縁関係がないと知りながら実子として認知した、しかしその後夫婦関係の破綻に伴い認知を取り消したいと言う訴えが認められたと言う事例もあって、ただでさえちょっとしたことで家族関係とは揺らぐものですが、ひとたび揺らいだ場合に遺伝子的な血縁関係の欠如はしばしばそれに促進的な働きを及ぼすとも言えそうです。
その意味で日本では処置としての安全性だとか配偶子を受け取ることの倫理的な側面ばかりが議論される傾向がありますけれども、実際にこうした子供が増えていき成長した場合に家族関係と言う文化的価値観まで問われることになりかねないわけで、他のあらゆるリスクよりも重視すべきファクターは実施の大前提として強固な家族関係が存在するか否かと言う点なのかなと言う気がします。
現代医療の性質として昔ほど深く個人に立ち入ることは避け、あくまでも契約関係に基づく診療に徹するのがよいのだと言う考え方が主導的になってきているように感じますが、生殖医療の現場においてはドライな関係ばかりでは後日に大きな禍根を残しかねないと言うことになるのでしょうか。

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コメント

台湾なら近いから日本からの渡航者が増えそう

投稿: | 2014年7月 2日 (水) 07時29分

どこの国にもそれぞれの事情があるものですね。
台湾なら言葉の問題さえクリアできれば国内と同じような感覚でしょう。
こういう情報が女性誌に取り上げられたらブーム化するでしょうか?
いいことなのか悪いことなのかなんともいえないですけど。

投稿: ぽん太 | 2014年7月 2日 (水) 08時42分

自分が利用する側になったと想像した場合にも、隣国であればずいぶんと物的心理的ハードルは下がると思われますから、今後周知徹底が進めば利用者はかなり増えるのではないかと思います。
ただその後のフォローアップの方がより重要であることは言うまでもないので、国内医療機関との適切な相互連携等正規ルート的なものを整備していただきたいところですね。

投稿: 管理人nobu | 2014年7月 2日 (水) 11時47分

逆に家を継がせるからとかの理由の方が納得できる気がする
生めるときに生まなかったくせに意地になって不妊治療してる高齢者板杉

投稿: | 2014年7月 2日 (水) 15時12分

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