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2014年7月 8日 (火)

積極果敢な医師確保策が裏目に?

地域で診療に従事する医者をあの手この手で確保する策を講じるのは昨今全く珍しいことではないし、田舎病院で働いてくれる先生にはもっと感謝の気持ちを表しましょうと言う声すら上がっている今日この頃ですが、先日医師のモチベーション確保策としてもさすがにそれはどうよ?と思わされるこんな記事が出ていました。

名医よ集まれ!養父市が「やぶ医者大賞」を創設!(2014年6月25日IRORIO)

信用出来ない医者や、医療事故などを引き起こした医者を一般的に「藪医者」と呼ぶ。なぜ「藪」と言うのか、考えたことがあるだろうか?竹やぶに入っていたほうが自然治癒力が発生するから?あるいは、医師と患者の信頼を「破る」からだろうか。

兵庫県養父市が「藪医者」の語源という説がある

やぶ医者の語源には、諸説ある。まず1つは、「野暮な医者」が訛って、「藪医者」になったと言う説。そしてもう1つは、田舎の巫医を表す「野巫」がなぜか「藪」になったと言う説だ。どちらも、少々無理とも思える説である。
有力な説として挙げられるのが兵庫県養父(やぶ)市発祥説だ。江戸時代、俳人森川許六がまとめた俳文集に、養父市にひっそりと暮らしている瀕死の患者を次々と治した医師が登場する。
その医師は「養父医者」と呼ばれ、住民から大いに信頼された。そして、その医者は自身の技術を後世に残そうと、弟子を多く取ったのだ。しかし、弟子たちは出来の悪い者が多く、養父医者の評判が落ち、いつしか下手くそな医者を「藪医者」と呼ぶようになった、と言うものだ。
真偽のほどは不明だが、1番説得力のある説ではないだろうか。

藪医者を逆手に取り、「やぶ医者大賞」を設置

養父市は25日、僻地などで医療に従事する優秀な医師を称える賞、「やぶ医者大賞」を創設したと発表した。受賞資格は「へき地の公的病院、または診療所(民間含む)に5年以上勤務する概ね50歳までの医師で、地域医療に頑張っている医師」(養父市ホームページより)で、表彰者には50万円と賞状が送られる。
応募方法は「私はやぶ医者です!」と名乗りでるのではなく、公的団体などによる推薦となる。「アイツはやぶ医者です!」と言われると、少々複雑な気もするが、あくまでも地域医療を支える医師を称える賞である。
この賞が医師にとって励みとなる事は間違いない。第1回の表彰式は、12月13日に行われる予定だ。

まあ何と言いますか、褒められているのか遊ばれているのか何とも微妙な話と言うしかないのですが、しかしこれをあくまでも他薦でと言うのは医師に対するモチベーションとして、なかなかに微妙なところではないかと思うのですけれども、それでも全国に報道されるほどのネタになった割にはさしたるコストもかかっていないわけですから、これはこれでうまい宣伝効果が期待出来るやり方ではあるのかも知れません。
ともかくも医師が足りない、もっと欲しいと言う声は全国数多にあって、どこでもあの手この手で医師を集めようとしているのは言うまでもありませんけれども、最近ではひと頃看護師の世界で問題化した御礼奉公システムと同様、巨額のお金を貸し付け返済を免除する代わりに働いてもらうと言うスタイルが非常に多くなっていますよね。
この方法論としての是非は今回置くとしても、基本的には何も知らない学生を言葉巧みにつり上げる究極の青田買いとも言うべき制度であることは言うまでもないところだと思うのですが、中にはその制度を妙な風に活用しているたくましい人もいるようで、先日から話題になっているこちらのニュースについて取り上げてみましょう。

医学修学金3080万円詐取? 2年で退学後、返済せず(2014年7月3日河北新報)

 医学部卒業生の地方定着を狙って自治体が学生に貸し付ける修学資金をめぐり、東海大医学部に在籍した男性(31)=北海道蘭越町=が宮城県登米、宮城県栗原、長野県大町、新潟県魚沼の4市から計3080万円を受け取りながら2年間で退学し、返済が滞っていることが2日、関係者への取材で分かった。4市のうち栗原市側は「地方都市の医師不足につけ込んだ悪質な行為だ」として返還を求めて提訴した。

 関係者によると、4市の貸付額は、登米1240万、栗原760万、大町720万、魚沼360万円
 男性は2010年11月に東海大医学部への編入試験で合格が決まり、4市に貸し付けを申請。登米、栗原両市から入学時の一時金を引き出した。
 栗原市を除く3市からは月ごとに支払われる資金も借り、毎月計65万円を受け取っていたが、13年3月に退学した。4市とも退学した際は資金を返還するよう条例で定めているが、男性は現時点で返していない。
 大町市は条例で、他自治体の修学資金を受け取っていないことを要件にしている。男性は11年3月30日に同市と貸借契約を結び、翌31日に栗原市、4月4日に魚沼市、5月17日に登米市と次々に契約。条例を守り、医師として各市内に勤務するという趣旨の誓約書を提出していた。
 男性は栗原市に「11年末ごろから日常的に不眠、動悸(どうき)、頭痛、めまいがし、勉学が満足にできなくなった。こらえていたが、症状がひどくなったので休養する」と釈明したという。
 男性の実家は山形市にあり、栗原市はことし3月、男性らに修学資金の返還を求める訴えを山形地裁に起こした。男性側は争わず、地裁は6月、請求通り男性らに返還を命じる判決を言い渡した。
 栗原市は「初のケースなので再発防止策などは慎重に検討する」(医療局)と説明。登米市は「再発防止の方針を早急にまとめたい」(同)と話している。

しかし言ってはいけないことなのかも知れませんが、これほど短期間にこれほど多額のお金を貸し付けるにしては傍目にひどく杜撰な仕事ぶりだと言う気がするのは自分だけでしょうか、あるいは貸付金が焦げ付くようなことがあれば地元住民から一言あっても全くおかしくない話にも見えますけれどもね。
実際問題体調不良等の事情があったのか元々詐欺的な狙いがあったのか記事からは何とも言えませんけれども、これだけ多種多様な自治体から資金を引き出していることから普通に考えるとまあ、狙って行った行為であると判断したくなる事例ではありますよね。
ただ気になったのが今回たまたま男性側が中退したために騒動に発展したわけですが、これが仮に順調に卒業し医師になっていた場合にどうなのかで、例えば最も多額の資金を貸し付けた登米市の場合は同市のHPにこんな風に記載されています。

【貸付対象者】
将来医師として登米市立病院・診療所で診療業務に従事する意欲のある医学部大学生

【返還の免除】
貸付総額を240万円で割った数に相当する年数(1年未満の端数が生じたときは1年)と、貸し付けを受けた期間に相当する年数を比較し、多い方の年数(必要勤務年数)を市立病院などで勤務した場合は全額免除となります。(勤務終了期間は、必要勤務年数の2倍に相当する年数以内

もちろん実際には貸し付けの契約に至るまでにもう少し詳しい文書があるのでしょうが、少なくともこれを見る限り複数の自治体から同様の資金提供を受けてはいけないとは書いてありませんし、記事からすると大町市以外はそうした規定すら存在していなかったと考えていいのでしょうか。
他自治体も登米市と類似の条件であったとすると3000万と言えばおよそ13年ほどの御礼奉公に相当する計算ですが、医師の場合基本的にその気になれば生涯現役ですからいざとなれば全額一括返済と言うことも可能な程度の稼ぎはあるでしょうし、貸し付ける側としてはローリスクな融資であると言う認識なのかも知れませんが、どうもずいぶんと審査が杜撰だったと言うことでしょうかね。
ともかくも個人情報保護が極めて厳しく言われている時代に他の自治体から資金提供を受けているかどうかを調べるのも難しいでしょうから、複数自治体から重複してお金を借り受けると言うテクニック自体は今後も十分に利用可能ではあるかなと言う気がしますが、その実際的な利用価値はどうなのかです。

例えば今回のように東海大学医学部に社会人が編入試験で入る場合は年齢不問で一次試験は英語と適性試験および書類審査、二次試験が個人面接とグループ討論と言う非常に緩い入試となっていて、ただ6年間で4000万円にも及ぶと言う高い学費がネックになっていたわけですが、当然ながらこの部分は自治体が全額出してくれれば何もハードルたり得ませんよね。
全国各地に多額のお金さえ出せば(さほど優秀な成績でなくとも)入れると言われる医学部は未だ少なからずあって、それらは多くの場合入学後に厳しい選抜を行うことで卒業生の質を確保しているわけですけれども、そうした大学でも進学の元手は出してくれる上に卒業までは毎月多額のお金も得られると言う、かなり自由度の高いおいしい融資だと言えそうです。
もちろんきちんと卒業し医師となるのであればまだしもですが、何かしら他に人生の目的があってそのためには多額の資金がいると言った場合に、とりあえず医学部に入学してお金を確保し本業の方をがんばってみると言うことも不可能ではない理屈ですし、融資も厳しい時代にこれほど簡単に何千万円ものお金が支給されると聞けば目的外利用してみたくなる人も少なからず出てくるかも知れませんね。
ともかくも制度的にあまり煮詰められたものではないと言うのは原則性善説に立って制度化されていると言うことなのでしょうが、やはりこれだけのお金を自治体と無関係な見ず知らずの人に貸し出すのであれば一般的にはそれなりの審査も必要なはずで、金貸し業務には素人であるだろう自治体の方々がどれだけそうしたリスクに配慮して制度を作り上げているのかです。

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コメント

今回は退学だったから明確な返還規定がありましたが、これが、
卒業はしたけど国試に合格できない(しない)、ということだったらどうなったのでしょうね。

投稿: JSJ | 2014年7月 8日 (火) 08時21分

>>勤務終了期間は、必要勤務年数の2倍に相当する年数以内

この規定にひっかかっていずれは返済を迫られるんじゃ?

投稿: | 2014年7月 8日 (火) 08時53分

でもいい教訓になったと考えるべきなんですかねこれは?
この手の奨学金ってあんまり軽々しくやって欲しくないです。
お金出す側も人の人生買ってる自覚が乏しいんじゃないですか。

投稿: ぽん太 | 2014年7月 8日 (火) 09時02分

とりあえず各地の自治体にはこの事件を受けて契約内容の見直しを急ぎ行う必要があるかと思いますが、当然ながら利用者にとっては不利益変更になることが予想されますよね。
利用者側も単純に出してくれるものならもらっておこうかではなくて、きちんと将来のキャリアを計算して妥当な契約を結んでいくべきだと思いますが、10代の受験生にそこまでの判断を求めるのも正直どうなのかです。

投稿: 管理人nobu | 2014年7月 8日 (火) 10時49分

前にも書いたような気がしますけれどもこういう奨学金はあくまでも借金の契約であり、借りたものは返す、ただし特別な条件をクリアしたら返済免除、という体裁であるべきだと思います。
登米市のHPに記載されているものは書類自体が返済免除が前提となっており返済方法についてほとんど記載されておらず過去問題になったお礼奉公とやっていることが同じで法的にかなり問題があるのではないでしょうか?

投稿: クマ | 2014年7月 8日 (火) 11時33分

この人勉強もできないで退学したくらいだから下手したらいま無職ですよね?
お医者さんでもない30そこそこの普通の人に3000万は返せないですよね?

投稿: てんてん | 2014年7月 8日 (火) 12時55分

そこで自己破産ですw

投稿: aaa | 2014年7月 8日 (火) 13時23分

2年半ぐらい在籍だから、2000万くらいは東海大学医学部のふところに入ったんでしょうか
儲かったのはそこだけか

投稿: | 2014年7月 8日 (火) 14時56分

つか破産宣告した場合3000万もらい得のまま?

投稿: | 2014年7月 8日 (火) 16時00分

残った財産で債務が整理されるはずですが、使った体にして家族なりに渡しておけば取り立てられんでしょうな>はさん

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年7月 8日 (火) 18時57分

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