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2014年7月 7日 (月)

医療事故調 来年のスタートに向けて積み残した課題

先の6月18日にいわゆる医療事故調を義務づける法律が成立し、今後調査手順などは厚労省が具体的にガイドラインで示すと言うことですけれども、先日そのガイドライン策定に当たるグループのトップである西澤寛俊氏(病院協会会長)がこんなことを言っています。

「事故現場にいた医療者が正直に発言できる仕組みを作りたい」(2014年6月20日日経メディカル)より抜粋

(略)
 厚生労働省の検討部会で示された主な事項は6つです。(1)第3者機関への届け出に関する事項(届け出項目、届け出方法など)、(2)第3者機関が医療機関に対して行う助言内容とその方法、(3)遺族へ説明する方法、調査の流れなどの内容、(4)医療機関が保管する資料とその取り扱い、(5)外部支援をお願いする際の手続きや、医療事故調査の調査項目など、(6)第3者機関が調査する際の手順など――です。

 この中でも特に十分な議論が必要な項目は、(3)遺族へ説明する方法、調査の流れ等の内容でしょう。遺族に納得していただけるような調査の仕組みを作り上げることが求められます。

 ただ、このとき、医療事故調査の目的を忘れずに議論することが大切です。往々にして、事故調査(原因分析)と事故対応を混同した議論が見られます。医療事故調査の目的は、「原因究明と再発防止を図り、これにより医療の安全と医療の質の向上を図る」ですから、私たち研究班はそのためのガイドライン案作りに徹するべきだと考えます。つまり、個人の責任を問うようなことや、医療ADR(医療における裁判外紛争解決)については議論しないということになります。遺族には当然ながらしっかりと説明しなければなりませんが、医療事故調査報告が個人の責任を問うようなものになってはならないのです。こうしたことをしっかりと念頭に置いた上で、遺族への報告のあり方、医療事故調査の方法などを議論していく予定です。

 一部報道によると、「遺族への医療事故調査結果の説明の仕方によっては医療訴訟につながるのでは」という懸念があるようですが、医療事故調査制度の目的、つまり「原因究明と再発防止」からずれるようなことはしないし、すべきではないと考えています。

 では、原因究明と再発防止のための医療事故調査とは一体どのようなものなのか――。それは、秘匿性、非懲罰性を担保し、関係者らが正直に、そして自由に報告できるような仕組みだと考えます。

 例えば、医療事故現場にいた医師が、「そのときには気付かなかったけれど、今思えば、こうすればよかったかもしれない」と気付くこともあるでしょう。しかし、「こうすべきだった」と言った途端に罰せられるのではないか――という恐れが発生してしまうのが現状ではないでしょうか。現場にいた当事者が正直に、自由に発言できるようにすることが、事故の状況を把握するためには欠かせず、再発防止を考える上で必要です。ですから、再発防止のために現場の医師らが自由に発言できる秘匿性、非懲罰性を担保した調査の仕組みを考えなければならないと思います。

 また、医療機関の中でも組織の責任者と現場の医療者で利害関係が発生する惧れもあります。あってはならないことですが、個人に罪をなすりつけて組織を守ろうとする医療施設が出てくることも考えられます。患者さんだけでなく、医療者も被害者になる惧れがある。こうしたことも念頭に置く必要があります。

 一般に、遺族には原因究明してほしいという思いのほかに、「もう二度と繰り返してほしくない」という願いがあります。今回の研究班のメンバーにも入っていただいた患者遺族の永井裕之さん(患者の視点で医療安全を考える連絡協議会代表)は、「同じことは繰り返してほしくない、だから正直にいってくれ」と言ってらっしゃいます。だからこそ、現場にいた医療者が正直に発言できる、そういうガイドライン案を作りたいと思います。
(略)

「再発防止のために現場の医師らが自由に発言できる秘匿性、非懲罰性を担保した調査の仕組みを考えなければならない」と言う部分には航空機事故調などの先例を考えても全く同意すべきコメントと言えますが、マスコミを始め世間の考え方がそうなっているかと言えばかなり否定的ですし、場合によってはガイドライン策定作業に対して外部からのクレームが入る、そして方針も変質していくこともあるかも知れませんね。
ともかくも本当のことを知りたいと言うのであれば本当の事を言っても何ら自分には不利益にならないと言うことが担保されていなければならない、一方で患者や遺族等の立場からすればやはり懲罰へ結びつけたいと言う感情が否定出来ないものがあり、また事故調ではペナルティが課せられずとも民事訴訟などへの道が残されている以上証言する側としてもどこまで言っていいものやら判断が難しいところです。
どのような制度が出来ようが当面は自らに不利益なことは証言せずと言うことになりそうなのですが、その結果患者遺族側の不満が高まればペナルティを導入してでも本当のことをしゃべらせるべきだ、などと言う声も出てくるかも知れずで、結局は社会全体としての認識が改まってこないことには出てくるのは誰にとっても不満の残る報告書ばかりと言うことにもなりかねません。

さて、来年秋にはいよいよ医療事故調が始まると言うことで世間の関心も高まっていますけれども、この医療事故調の基本として診療行為に関連して患者が予期せぬ死亡をした際には第三者機関に届け出ると共に院内での調査が必要となると言うことで、この予期せぬ死亡と言う文言が非常に気になるところですよね。
もともと医療の世界で届け出ると言えば医師法21条の異状死体の届け出義務と言うことがあり、それでは事故調発足後は第三者機関に届け出ると共に警察にも届け出を行わなければならないのか?と言う疑問が湧くと思いますが、実は先日厚労相の方から大変に大きな意味を持つ答弁が為されていたと言います。

医師法21条問題は外表異状説で解決(2014年7月2日医療ガバナンス学会)より抜粋

1 厚労大臣の答弁
6月10日、田村憲久厚生労働大臣が参議院の厚生労働委員会(石井みどり委員長)において、医師法21条について外表異状説に立つことを明確に答弁した。
すでに厚労省では、医政局の田原医事課長と医政局総務課の大坪医療安全推進室長とが外表異状説を支持する見解を、再三にわたって表明している。しかし、厚労省トップの発言は無かったので、これが求められていた。
厚労大臣答弁によって、遂に、医師法21条を巡る長い間の混乱に終止符が打たれたのである。あとは、死亡診断書記入マニュアルの変更のみであるが、これも平成27年度版から改定されるらしい。

2 医療界の納得に向けて
(1)法律の解釈論
外表異状説(外表面説)は、もともと田邉昇氏(医師、弁護士)と佐藤一樹氏(医師)だけが唱えていた説である。都立広尾病院事件東京高裁判決を丁寧に分析して唱え始めた。この説は、医師法21条の文言(医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。)にも沿っている。「異状死体」を見つけたら届け出ろ、というのが素直な条文の読み方であろう。ところが、かつては歪んで読み替えられ、「異状死」(異状死亡)を見つけたら届け出ろ、と流布されてしまった。異状な「死亡」などという言葉は条文には無い。つまり、「異状死」という言葉は、医師法21条の法律用語としては、そもそも誤りだったのである。
この外表異状説は,合憲限定解釈という憲法的視点を充填すれば、法律家にも納得感があろう。憲法38条(黙秘権)を生のまま打ち出して、医師法21条は違憲であると主張するのも一般の法律家には受けが悪い。しかし、条文を読み替えて、ただちに医療過誤を異状死としてしまうのも、それこそ憲法38条と正面から衝突してしまう。そこで、医療過誤の有無とは全く関わりなく、単に外表面の異状の有無のみで判断するということならば、医師法21条を合憲としつつも憲法38条との衝突を回避できる。これこそ合憲限定解釈であり、一般の法律家も支持しうるところであろう。
(2)誠実に対応すべき相手は遺族
次に、理屈を離れて、医療界の素朴な感覚としてはどうであろうか。
外表異状説をそのまま適用するならば、「医療過誤が明らかだったとしても、外表にさえ異状がなかったならば、警察に届け出なくてよい。」という結論に至る。これでは、医療の倫理に反するのではないか、隠ぺいとなるのではないか、などといった漠然とした不安を拭い切れないかも知れない。
しかし、この不安には視点の欠落があるように思う。患者の遺族には、そもそもの大前提として、医療過誤の存在を認めて説明し謝罪しているのが当然だからである。医療者は誠実に対応しなければならない。しかし、誠実に対応すべき相手方は、第一に患者の遺族である。医療者が誠実に対応すべきなのは先ずもって遺族であって、業務上過失致死罪という本来はおかしな犯罪を捜査する警察では決してない
もちろん、誠実に対応すべき相手方は遺族だけではなく、第二に医療者自らである。つまり、その医療事故を契機に再発防止策を案出して医療安全を向上させねばならない。
第一に遺族対応、第二に再発防止対応、これが医療者の行うべきことである。極論で言えば、警察には誠実に対応しなくても、医療の倫理にも反しないし、被害者たる遺族に誠実に対応しているのだから、隠ぺいでも無い
(略)

ご存知のように医師法21条には「医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。 」と言う文言があり、このことからいわゆる医療過誤あるいは医療事故等々、様々な予測されない死亡に関して警察に届け出義務が発生するのでは?と言う考えが従来主導的であったわけです。
特に近年は事故調議論と絡めて医師法21条がすなわち医療現場への司法介入を招くものであるとして非常に議論が盛んでしたが、2012年には厚労省の見解として「医師法21条は診療関連死を届け出ることを義務づけたものではない」と言うコメントがあり、死体の外表部分に異状がなければ警察には届け出る必要はないと言う解釈が示されたわけですね。
警察に届け出るのはあくまでも見た目の異常がある場合であり、死因や死亡に至る過程が異状であった場合には届けなくていいんだよと言うことはいわゆる医療事故等々で病院側が警察に届けなかったことをすわ、医師法21条違反だ!と大騒ぎすることが間違いであると言うことですが、今回大臣の口からも明確に言質が得られたことで異状死体なるものの定義が明確になったように思われます。

こうなると犯罪性のある死体を発見したと言うケース(そもそもこうしたケースでは真っ先に警察を呼ぶでしょうから届け出も何もないはずですが)以外で、一般の臨床医が医師法21条に基づいて届け出を行うと言うことはまずなくなったと考えられますが、現実問題として病院側から今も警察に届け出が行われるケースは決して少なくないと思われます。
この理由として記事にはそもそも条文の文言に対する誤解から何でも予想外の死亡は届け出が必要であると考える医師が少なくないこと、そして最大の理由としてそうした誤解に基づいて院内マニュアルが整備された結果、異状死体でも何でもない診療に関連した予測しない死亡例においても届け出を行わなければならないと院内マニュアルが整備されてしまっていることが挙げられています。
警察側としても医療機関側から自主的に異状死体だと届けられれば調べないわけにはいかないし、警察が介入すればマスコミやご遺族も「医療ミスだ!」と騒ぎになると言うことで、いわば医師自らが火のないところに自ら火を放った結果の騒ぎが発生する仕組みが出来上がっていたと言えますが、今後は院内マニュアルさえ改訂すればほぼ警察の介入とは縁がなくなると考えてよさそうですよね。
無論細かいことを言えば何を以て外観上の異状だと考えるかは非常に難しいものがあって、それこそその道の名医レベルであれば見た目だけでも「この死体は明らかにおかしい」と指摘できる徴候が幾つも見いだせるのかも知れませんが、結局のところこの法律はそうしたケースを拾い上げるためのものではないと言うことなのですから、まずは院内マニュアルの文言を確認しておくべきかなと言う気がします。

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コメント

実質的に21条骨抜きですか?
応召義務も柔軟な見解出してくれればいいのに…

投稿: ぽん太 | 2014年7月 7日 (月) 09時27分

うそをつく必要もないけど正直過ぎる必要もないよね

投稿: | 2014年7月 7日 (月) 10時42分

医療事故の定義も調査方法も今後厚労省令で定められるわけで、全てはこれから、というのは仕方ないですが、
「秘匿性、非懲罰性を担保し、関係者らが正直に、そして自由に報告できるような仕組み」といっても所詮は省令に過ぎないわけです。

たとえば刑事訴訟法には
「第九十九条  裁判所は、必要があるときは、証拠物又は没収すべき物と思料するものを差し押えることができる。但し、特別の定のある場合は、この限りでない。」とされていますが、
この「特別の定」というのは省令も該当するものなんでしょうか?

投稿: JSJ | 2014年7月 7日 (月) 11時35分

裁判所に関しては検察によって起訴されたものにしか手が出せないので、司法介入の入り口である警察との絡みが減ることによってそもそも関与自体が減っていくことを目指しているのなと言う気がします。
ともかく警察や検察の中の人もどうやら医療紛争に関しては面倒くさいと言う感覚をお持ちであるようなので、その点で医療現場と必ずしも対立するものでもないかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2014年7月 7日 (月) 12時00分

つまりベッドから転落して頭を打って死んだ場合には届け出義務はやはりあると言うことですか?

投稿: kan | 2014年7月 7日 (月) 14時37分

ルール上はともかく、家族とも特にトラブルがなければ明らかな事故は届け出たことはありませんな
首を吊ったり飛び降りたりの場合はさすがに届け出なければしかたがありませんが

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年7月 7日 (月) 16時49分

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