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2014年7月 9日 (水)

妊娠そのものが大変な時代における職場でのジェンダーのあり方

先日アメリカでは大学教授が「女子学生が10日間脇毛を剃らなかったら単位認定」なんてことを言い出したそうで、まあジェンダー規範に挑戦すると言う考え方の是非は人それぞれの解釈があるのだと思いますが、そんなアメリカにおいても究極のジェンダー固定化とも言うべき妊活と言うことはあるようなんですね。
ただ見ていますとやや日本における情報とは異なっている部分もあるようなんですが、そのあたりの種明かしをしてみると実は…と言うのがこちらの記事です。

いつか妊娠したい人が知っておきたいタイムリミット 米サンディエゴ州立大学のジーン・トウェンギ教授に聞く米国「妊活」事情(2014年7月3日日経ビジネス)より抜粋

(略)
トウェンギ教授は最新の医学的な研究を調べたり、インタビューしたりして著書を書かれ、「専門研究を見ても30代が悲観する必要はないが、現実的なデータは認識しておいた方がいい」という問題意識で、女性を励ましてこられました。著書によれば、米国では「35歳を超えると妊娠しづらくなる」と言われてきたそうですね。

トウェンギ:そうです。私は今3人の子の母親ですが、社会心理学者でありながら妊娠の現実について調べることになったきっかけは、30代半ばのころ、そろそろ子供が欲しいと思っていろいろと調べている時に、いくつかの「データ」に遭遇して大変混乱したからでした。
 例えば、「35歳から39歳の女性の3人に1人は、妊娠しようとし始めて1年経っても妊娠しない」などという、米国で良く引き合いに出される統計があります。また、American Society for Reproductive Medicine(全米生殖学会)の 2003年版ガイドブックの1ページ目でも、「30代後半の女性に、その後子供が産まれない可能性は30%」などと載っています。
 その一方で、別の査読付きの医学論文などでは「35歳から39歳の既婚女性が、妊娠しようとしてから1年以内に妊娠する率は82%」(David Dunson氏らの論文など)と載っている。一体どっちなの?とかなり困惑しつつ、まずは前者の「3人に1人は妊娠できない」のデータの出所について、本格的に調べてみました。

17世紀フランス女性のデータがいまだ健在

 そして驚くべきことが分かったのです。この「35歳以上の女性の3人に1人は妊娠できない」というデータは、1600年代から1700年代ぐらいまでのフランスの地方にある教会が取っていた出生統計がルーツでした。「いくらなんでもデータが古すぎる。現代女性の、もっと(妊娠の確率が)高い数値を示すデータを誰も引用しないのはおかしいのでは」と思い、さらに調査を進めました。
 もちろん、加齢とともに妊娠しづらくなる事実そのものに異議を唱えるつもりは全くありません。出産にタイムリミットはありますし、自然の摂理です。しかし、30代後半に関しては、一般に広く強調されているほど急速に妊娠しづらくなるわけではないのです。本当に自然に妊娠しづらくなるとはっきり言えるのは、40歳以降からです。これは、自然妊娠と人工授精に関する研究、双方に関して私が知り得た情報です。

『The Impatient Woman’s~』では、その、フランスの地方で17世紀から18世紀ごろに集められた出生データがいまだに権威ある学術誌でも頻繁に引用されているということでしたが、それは本当なのですか?。

トウェンギ:本当です。というのも仕方がない部分があって、現代女性の自然妊娠率に関する研究というのが、極めて少ないからです。私が知っている限りでは3件しかありませんでした。現代女性に対する大規模調査の結果がないために、結局先ほどいった1600年代~1800年代のフランス女性のデータにまで遡って使われてきたわけです。
 ほかによく引用されるものが、「Human Reproduction」誌に載った別の研究です。これも1950年代に公開された古い研究で、1800年代~1900年代の女性を研究したものです。こうしたあまりに古すぎる出生記録に基づいた研究は、避妊や受胎調節の可能性を全く考慮していないにもかかわらず、現代においても何度も何度も引用されて信じられてきたということです。
(略)
 参考までに、体外授精における研究で、卵子ではなく胎芽(妊娠8週目までの個体)に関するデータをご紹介します。30歳の女性の胎芽のうち、75%の胎芽が正常でした。一方、39歳では、正常な胎芽は47%でした。確かに正常である割合は減少しますね。
 ただこれが、自然妊娠ではなく、何らかの理由があって体外授精を選んでいる方々をサンプルとするデータであるということを考慮すれば、かなりいい数値ではないでしょうか。しかし41歳では31%、42歳では25%、43歳では17%…と一気に落ち始めます。問題のない胎芽になる割合が3分の1、さらには4分の1…と、40歳からは年々、劇的に減少していくわけですね。
(略)
 一番言いたいのは、30代の女性は、年齢を過剰にリスクとして意識しないでほしいということです。正常妊娠に至らなかった女性が比較的高齢だった場合、例えほかの原因であっても「年齢のせいなのでは」と、片づけられがちな場面は多いと思います。そうしたことを言う産婦人科医は日々のお産に忙しすぎて、最新成果をフォローできていない場合があります。しかし繰り返しになりますが、「妊娠」できるかどうかに関しては、40~41歳までが目安と言っていいでしょう。それが最近の研究に基づいて今の時点で言えることだと思います。もちろん現実には、42歳でも、43歳でも、自然に産んでいる人はいますけれど…。
 ただ、40歳以降からの乳幼児の育児は体力的にかなり大変ですから、お子さんを考えているのでしたら、そうした要素も考慮した方がいいかもしれないですね。

いわゆる生物学的限界以外にも体力的、社会的な出産限界と言うものはある点はしばしば見落とされがちですが、大卒レベルが当たり前になった今の時代に40代過ぎての妊娠では子が社会人となる前に定年となる可能性も出てくるわけで、特に家計の担い手には考慮すべき点かも知れませんね。
しかし移民も多いせいか平均出産年齢が25歳と先進国の中ではかなり若めのアメリカと日本ではいささか事情が違うところもあるのでしょうし、初婚年齢が30代に突入した日本で35歳からは妊娠は難しいなどと言い出せばパニックになりかねませんけれども、結局日本でも言われているように40歳を過ぎると自然妊娠はかなり厳しいと言う状況には変わりはなさそうだと言うことのようです。
別な考え方によるとおおむね閉経年齢の10年前から妊娠は難しくなるのだそうで、日本人の平均閉経年齢がほぼ50歳と言うことと符合する結果なんですが、逆に言えば閉経年齢にも大きく個人差がある以上妊娠可能年齢にも大きな個人差が予想されるし、それに関してはきちんと調べて見なければ判らないとしか言いようがないのでしょうね。
もちろん一般的に女性は35歳くらいまでに妊娠、出産をしておくのがいいと言う考え方は生物学的妥当性はあるにしても、それでは男の方はどうなんだ、精子だって老化していくじゃないかと言う反論は当然にあるだろうし、社会的な妥当性と言う点で女性のキャリアを無視して語るのはどうかと言う意見は無視出来ないものがあります。
その点で最近いわゆる女性蔑視的とやり玉に挙げられる発言が各地の議会で散見されると話題になっていますが、ジェンダー問題を別の観点から見た場合に先日こういう記事が出ていたのを紹介してみましょう。

都議会ヤジ問題にみる女性医師のキャリア(2014年7月3日日経メディカル)より抜粋

 先日、東京都議会において発言中の若い女性議員に対し、男性議員が「早く結婚したほうがいいんじゃないか」というセクハラやじを飛ばしたとされる報道を見ました。私がまず抱いた印象は「へぇ~。まだ“公の場”でこんなこと言う人がいるんだ」ということでした。

医師にはあり得ない“公の場”でのヤジ

 そもそも、地方議会でも国会でも、「ヤジ」というのは必要なものなのでしょうか?国会中継を見ていても、外野のヤジがうるさくて発言者が何を言っているのか聞こえないことがよくあります。そして私が見る限り、そのヤジは議会に相応しい品位あるものとは思えません。
 私たち医者は学会の場で、どんなにおかしいと思ったときでも、発表者にヤジを飛ばすことはありません。最後まで発表を聞き、質問や言いたいことがある場合は、手を上げて自分の意見を述べます。これはどの会社の会議でも同じことでしょう。「ヤジは議場の華」などとまことしやかに言われているようですが、このような恥ずかしい慣習はすぐにでも中止して欲しいものです。
(略)
 地方の基幹病院で臨床の第一線で頑張っている友人がいます。私と同様にシングルで子どもがいない彼女がよくボヤいています。「最近、若い女医さんが“妊活”と称して、当直に入ってくれないんだよねぇ。でもこういうのってデリケートな問題じゃない。上司の私がとやかく言えないし」「産休明けの女医さんが当直に入らないのは仕方ないとしても、早く帰らせてくれ、病棟の業務(受け持ち)はしたくない。でもキャリアのために手術はさせろ、学会で発表させろって、自分の要求ばかりしてきて困るわぁ。彼女が抜けた分の仕事を必死にカバーして、しんどい思いをしている男性の研修医の先生たちや、産休明けでも家族に協力してもらって、必死に当直している女医さんに示しがつかないんだけど…」
 またこうも言っていました。「もうすぐ産休に入る女医さんがいるんだけどね。切迫流産で何日も仕事休んでねー。みんなで彼女の仕事の穴埋めするのは、それはもう大変だったの。そりゃあ体調のことは仕方ないと思うのよ。でも先日、夏休みの希望日程を医局のカレンダーにそれぞれ書いていくことになったとき、その女医さんが真っ先に自分の休みの希望を書き出したのにはビックリしちゃった。だって彼女、仕事を休んでいた間はさんざんみんなに助けてもらっていたし、翌月からすぐに産休に入るのによ?!」
(略)

まあ前半部分の公の場でヤジなど不要と言う点は全くの同意で、何故ああした行為が未だに許容されているのかちょっと理解に苦しむのですけれども、テレビの討論番組(と言っても日本の場合、まともな討論になることはほとんどありませんが)などでもいちいちつまらないヤジや茶々入れをすることが日常茶飯事で、酷い場合になると司会役自ら好き放題言葉を挟んで発言を中断させるのですから何の為にゲストを呼んだのかです。
それはともかく注目いただきたいのは後半部分で、もちろん妊娠、出産というジェンダーに由来するハンディーキャップを抱える女性有職者のキャリア形成に配慮が必要だと言う総論部分に関してはそうそう異論がないものとしても、やはり現場スタッフの感覚からすると「それは同じ給料をもらう身としてどうなんだろう?」と疑問に感じずにはいられない部分も少なからずと言うことだと思いますね(特に同じ女医さんの立場からは厳しめになるのでしょうか?)。
公平に見て医療の世界というものはジェンダーその他の要因による差別が相対的には少ない業界だと思うし、女だろうがきちんと仕事をして高い地位に昇っていく人は幾らでも例に事欠かないのは良い点ですが、ただやはりそうした先生方が家庭人としても同様に充実しているかと言えばこれまた男と同様、いささか怪しいところがあるのも事実ですよね。
本来的には妊娠しようが出産しようがバリバリ働ける男並みの女医さんに合わせるのではなく、ごく当たり前の労働者の権利として産休も有給も十分に消化する女医さんでも普通に働ける職場環境を目指すべきだと言うのが筋なんだと思いますが、先日外科学会の調査においても妊娠中の当直免除すら半数の病院では行われていないと言う現実があるわけです。

職場での人間関係もやはり感情と無関係にはいられないので、がんばった分にはそれなりの見返りを期待したいのは当たり前ですから、この辺りはまず当直料引き上げ(せめて当直アルバイトの相場程度には!)など職場管理者として改善できる部分は幾らでもあるだろうし、長年続いている卒後年数に応じた画一的な給与体系が現代に求められる多様な働き方に合っていないのも確かでしょう。
それでも実際問題どんな自由な働き方をする医師であれいないよりはいた方がいいのも確かであって、この辺りは働ける時間帯では十二分にその能力を発揮出来るように勤務表を改めることもまた職場管理者の腕の見せ所ではありますし、逆に言えばそうした先生が働ける時間帯には他の医師はどんどん休んでもらうように勤務体系を改めていくべきなのでしょうね。
こういう話をすれば「医療の現場はそんなに甘いものじゃない!みんな休む間もなく目一杯働いているんだ!」とお叱りをいただきそうですけれども、同じように医療専門職として人手不足が深刻だと言われている看護師などはその辺りの業務の割り振りに関するノウハウの蓄積は大変なもので、何しろ基本的に女というジェンダーに関わることですから同じ女の先輩達の知恵を拝借することは恥でも何でもないのだとは思います。

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コメント

つうか医学部の女子定員規制しろってみんな思ってるでしょ?いくら定員増やしたって女が増えるだけじゃ意味ないんだから

投稿: | 2014年7月 9日 (水) 09時23分

>早く帰らせてくれ、病棟の業務(受け持ち)はしたくない。でもキャリアのために手術はさせろ、学会で発表させろって、自分の要求ばかりしてきて困る

女医さんに限らずいまどきの研修医も似たようなものだったりして…

投稿: ぽん太 | 2014年7月 9日 (水) 09時46分

女医さんが増えたおかげで臨床医の職場環境が望ましい方向に変わってきたと、私は感謝しています。
少なくとも、女医がいなくなれば医師不足が解消すると考えるような上司のもとでは働きたくないですな。

投稿: JSJ | 2014年7月 9日 (水) 09時49分

>シングルで子どもがいない彼女

生物学的には両生動物のクソを掻き集めただけの値打ちしかないと愚考しますw

>彼女が抜けた分の仕事を必死にカバーして、しんどい思いをしている男性の研修医の先生たちや、産休明けでも家族に協力してもらって、必死に当直している女医さん

労働ダンピング乙w

>その女医さんが真っ先に自分の休みの希望を書き出したのにはビックリしちゃった。

クビにすりゃいいじゃんw出来るもんならなww出来ないんだったら容認してるって事だから今さらぐちぐち言うべきじゃないよねwww?こーゆーのを「女の腐ったような奴」って言うんじゃないかなwwwww?

>つうか医学部の女子定員規制しろってみんな思ってるでしょ?

…少なくともボクは思ってませんが…。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年7月 9日 (水) 09時56分

女性医師が増えたおかげで男性医師の待遇も改善しているので、少なくとも私は歓迎しています。
産休はともかく、育児休暇や年次有給休暇はとりやすくなりました。
あと、当直をがんばっている医者が損をした気分になるのは、当直手当が安すぎるだけです。

投稿: クマ | 2014年7月 9日 (水) 10時21分

仕事をしないと言えば聞こえが悪いのですが、実際には定時まで仕事をしてその後の超勤残業を断っていると言うケースなのですから、労働者として別に恥じる点はないものと思います。
思うに経営に責任のある人々がもっと患者を増やせ、症例を稼げと言うのはいいとして、多忙だ多忙だと言っている現場の先生方が自ら仕事を忙しくするよう努力すると言うのは矛盾ですよね。
その意味で仕事を妥当な水準に抑えるためにちゃんと主張もし実現に向け努力もする方々の存在は、本来なら現場の医師にとってこそモデルケースとして歓迎されるべきものであったはずなのだと思います。

投稿: 管理人nobu | 2014年7月 9日 (水) 10時27分

>いくら定員増やしたって女が増えるだけじゃ意味ないんだから

医畜がお望み?

>医学部の女子定員規制しろってみんな思ってるでしょ?

みんな って誰? 
 

投稿: 感情的な医者 | 2014年7月 9日 (水) 11時33分

フルボッコワロスw

投稿: aaa | 2014年7月 9日 (水) 11時57分

>先日アメリカでは大学教授が「女子学生が10日間脇毛を剃らなかったら単位認定」なんてことを言い出した

こういうアホがいちばんウザいわホンマ

投稿: | 2014年7月 9日 (水) 12時15分

奴隷の鎖を自慢するだけなら愛想笑いもできますが、
「お前もコレをつけろ」と言われたら「ふざけんなボケ」ぐらい言いたくなりますわな。

投稿: | 2014年7月 9日 (水) 13時29分

医者なんて、出産ギリギリまで仕事を続ける妊婦(患者)に対しては、自覚がないとか、教育がなってないとか言うんだろうになー

投稿: | 2014年7月 9日 (水) 17時59分

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