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2014年7月30日 (水)

生殖医療と当事者の意志

いわゆる生殖医療も技術的進歩に伴って色々と面倒な状況が起こり得るようになってきていますが、最近こういう動きがあると言うことが報じられていましたことを御覧になりましたでしょうか。

代理出産など容認 法案今秋提出へ 「親を知る権利」課題に 「当事者以外も考えて」(2014年07月26日西日本新聞)

■新訳男女 語り合おう■ 
 代理出産や第三者からの精子・卵子提供による出産を認める生殖医療補助法案を自民党のプロジェクトチーム(PT)がまとめた。通常国会は見送ったが、秋の臨時国会への法案提出を目指している。ただ、医学的危険を伴う代理出産には反対論も根強く、子どもが遺伝上の親を知る権利をどう考えるかなど課題も残る

 「不妊治療の関係者だけでなく、すべての人に考えてほしい」。6月、東京都内で開かれた生殖医療技術の法制化を考えるシンポジウム。横浜市の医師で、第三者からの提供精子による人工授精(AID)で生まれた当事者の加藤英明さん(40)は、そう訴えた。
 加藤さんは医学生だった2002年、血液検査の実習で父親と血縁がないことに気づき、母親から事実を聞いた。「突然、人生のはしごを外された感じ。自分は一体何者なんだろう」。以後、その空白を埋めようと遺伝上の父親を捜し始めた。精子提供者は匿名のため手がかりは少なく、今も見つかっていない。
 シンポでは「生まれてくる子は治療に同意していないのに、一生背負っていく問題。提供者の情報管理やその後の告知ケアなど、少しでも納得できる対応が必要だ」と呼び掛けた。

 AIDは、国内では戦後間もなく始まり、1万人以上が生まれたとされる。1990年代ごろからは、海外で卵子提供や代理出産を依頼する例も増えてきた。そこで厚生労働省の審議会は2003年、国に法整備を求める提言をまとめた。
 しかし、議論が具体化しないまま10年が経過。現在は、第三者からの精子提供を条件付きで認め、代理出産を禁じるとした日本産科婦人科学会の倫理指針があるのみだ。加藤さんは「需要がある以上、生殖医療技術が広がるのは止められない。それなら、きちんと法律の枠組みをつくった方がいい」と指摘する。
 同じくAIDで生まれ、当事者の会をつくった東京都の石塚幸子さん(35)も「60年たってようやく声を上げ始めた当事者に耳を傾けてほしい。このまま卵子提供、代理出産と進んでしまえば、私たちのように苦しむ子どもが増えてしまう」と危機感を募らせる。

 PT案では、生まれつき子宮がなかったり、治療で摘出したりした場合に限って代理出産を容認。医学的に夫の精子と妻の卵子で妊娠できない夫婦は、第三者が提供した精子による人工授精や、提供卵子を使った体外受精などが認定医療機関でできるとした。
 一方、子どもが出自を知るための情報開示制度は「引き続き検討し、必要な措置を講じる」として結論は先送りになった。
 PT座長の古川俊治参議院議員は、出自を知る権利を認めることで精子や卵子の提供者が減る懸念や、誰がどう告知するか、親子関係が突然認知されて混乱が起きないか-などの課題を挙げる。その上で「近親婚を避ける、遺伝病で不利にならないという点で何らかの対処が必要だが、どこまで認めるかは慎重な議論が必要」との見解を示した。
 生殖医療に詳しい明治学院大の柘植あづみ教授は「これまでのシステムは、生まれてくる子や提供者のことはほとんど考えられてこなかった。さまざまな視点を踏まえ、法律を考えていくべきだ」と話している。

記事にも登場する加藤氏の件については以前にも取り上げたことがありますが、ともかくこの生殖医療に関しては誰も彼も一家言あるようで、しばしば「当事者以外も考え」過ぎることが問題を余計ややこしくしているんじゃないかと言う気がしますけれども、その理由の一つとして必ずしも当事者全てが平等に意志決定に関与出来ないと言う特殊事情がありそうです。
例えば以前から信仰心に由来する輸血拒否と言った問題がありますが、現在の日本においては成人のそれについてはほぼ「本人の自由」と言うことでコンセンサスが取れている、一方で本人にきちんとした判断力がない子供に関しては親の信仰にのみ基づいて子供の運命を左右して良いのかと言う観念論や、児童虐待ではないかと言う懸念に基づいて議論されている段階と言えますよね。
生殖医療に関してもやはり親が当事者であることも間違いないし、今現在生きている中で誰が意志決定者になるべきかと言われればこれは親が決めるしかないことなのはもちろんなんですが、その結果生まれてくる子供を全く議論の外に置いておくことが妥当なのかどうかと言う点に関してはもう少し意見が分かれる余地がありそうに感じます。
ただそうした課題が明確化された上で議論されるのであればこれは建設的な方法論策定へと結びついていく道になり得ると思うのですが、例えば最近こういうニュースがちょっとした話題になっていることを例題として取り上げてみましょう。

祖父から精子提供118人誕生 長野の病院、指針違反か(2014年7月28日朝日新聞)

 長野県の諏訪マタニティークリニックが、不妊夫婦を対象に、夫の実父から精子提供を受けて体外受精を実施し、118人の赤ちゃんが生まれたとする報告をまとめた。日本産科婦人科学会(日産婦)の指針では体外受精は事実婚を含む夫婦間に限定しており、第三者からの提供は指針違反の可能性がある。赤ちゃんの祖父が血縁上の父になることで、家族関係が複雑になる恐れもある。

 31日に東京都内で開かれる日本受精着床学会総会・学術講演会で発表する。

 クリニックによると、1996年11月から2013年末まで、無精子症など夫に原因がある不妊夫婦110組に、夫の実父から精子提供を受け、妻の卵子と体外受精させた。うち79組が赤ちゃんを出産し、2回以上出産した19組を含め計118人が生まれたという。

 03年に厚生労働省の審議会がまとめた報告書では、夫婦以外の第三者からの精子・卵子の提供による体外受精は匿名の場合のみ認めたが、夫婦の兄弟姉妹など血縁者からの提供は、家族関係が複雑になるため、当分の間、認めないとした。

 クリニックの根津八紘院長は「身内からの提供を望む夫婦は少なくない。血のつながりがあった方が、良好な家族関係を築きやすい」とコメントしている。

祖父の精子で体外受精、17年で118人誕生(2014年7月28日読売新聞)

 夫婦以外の卵子や精子を使った非配偶者間体外受精の実施を国内で初めて公表した諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町、根津八紘(やひろ)院長)は、これまでに夫婦79組が、夫の実父から精子提供を受け、118人の子どもが誕生したとする結果をまとめた。

 31日、東京都内で開かれる日本受精着床学会で発表する。

 同クリニックによると、1996年11月から昨年末まで、夫に精子がない110組が、夫の実父(50歳代~70歳代)の精子と妻の卵子で体外受精をした。子どもを得た79組中19組が2回以上出産した。移植1回当たりの妊娠率は38%だった。

 非配偶者間体外受精に関する法規定はないが、日本産科婦人科学会(日産婦)は体外受精を夫婦間に限っている。一方、厚生労働省審議会は2003年、匿名の第三者からの体外受精を認める報告書を出し、兄弟姉妹らからの提供は人間関係が複雑になりやすいなどの理由で当面は認めないとした。

 匿名の第三者の精子を妻の子宮に注入する非配偶者間人工授精では、国内で49年以降、1万人以上が生まれたとされる。日産婦も97年に追認している。

 国内の多くの医療機関では、精子がない夫婦が子どもを望む場合、選択肢として非配偶者間人工授精と養子縁組のみを示している

 根津院長は「身内からの提供を望む夫婦は少なくない。カウンセリングを重ねて、慎重に行っている。血のつながりがあった方が、提供者家族も含めて良好な家族関係を築きやすい、出自が明確になるという面もある」と話している。

ちなみに学会指針なるものは無論(そもそも根津先生は以前に日産婦を除名処分になっていたはずですが)厚労省の審議会報告書なるものについても全く強制力はなく、実際にこうした勧告を逸脱した生殖医療が行われているとたびたび問題視されているところですけれども、逆にそれを厭わない根津先生に是非と言う患者もまた少なからずと言う状況なのだそうですね。
法的にこういう場合子供という扱いになるのかどうかは当事者の認知次第なのでしょうが、遺伝子的に見るとこれは子供ではなく弟妹であって確かに家族関係が複雑になりそうだなと思うのですが、逆に血縁関係を重視する価値観に従って考えれば赤の他人の精子提供を受けるよりも、通常の出産と同等以上に家族全員が遺伝子的な関係を共有できると言う点でむしろ望ましいと言う考え方もあるかと思います。
前述のような話に従って考えるならばその複雑な家庭内環境を将来子供が知った場合に受け入れられるかと言った部分が一つ問題になるかと思いますが、これまた世界的なコンセンサス上は受精する以前の段階の配偶子は人ではないと言うことになっていますから、この点は輸血拒否問題と違って処置の結果生まれてくる子供には何か意見をするべき人格そのものが認められていないと言う考え方もあり得るわけです。
しかしながら一方で世間の反応を見ていますとどうもそうした子供の人格、人権といった視点での議論と言うのはほとんど行われておらず、祖父も含め親世代以上の家族内関係の議論に終始していると言う点は気がかりで、中には単純にこうした家族関係をして「気持ち悪い」と言った否定的言動に終始する人も少なくないと言うのは、それこそ子供を得て幸せになるべき当事者の不幸を招きかねない話かなと言う気がしますね。

基本的に子供が何を幸せと感じ何を不幸に感じるかと言うことは本人に聞いてみなければ誰にも判らないことで、当たり前に父親と母親との間から生まれてくれば誰しもハッピーになれるのであれば世の中こんなに多くの家族が積木を崩していないと言うものなのですが、そうであるなら子供の出生条件の差異とその後の幸福度なりとの間にどれほどの関連があるのか、きちんと調べてみないことには良いも悪いも言えないはずです。
ただ一例きりのケースレポートから一般解を導くことなど出来ないし、そんなことをしようとすれば正しい理解を誤ると言うことはサイエンスの世界では常識ですけれども、どうも世の中精子提供によって生まれてきてこんなに不幸だと感じている人がいる!(だから○○すべきだ!)式の議論に結びつけたがる傾向にあるようで、学会までもが大きな声に引きずられがちに見える現状の方がやや奇異な印象を受けますね。
もちろんこの場合一般的なやり方での事後調査による情報収集と言うのも、それこそ家庭内環境を複雑化しかねない危険もありますからなかなか難しいところですけれども、遺伝的問題や法律に関する課題なども含めて決断を下す当の家族内できちんと理解が行われていて、なおかつ完全な自由意志によって合意した上で行われた結果と言うのであれば案外特別な問題は起こって来ないんじゃないかと言う気がします。
逆に言えば当事者の誰かが「こうまでして子供を産まなければいけないのだろうか」等々少しでも疑問があれば行うべきではないと言うことになるでしょうが、本来的に全ての課題をクリアした上でなければ行うべきでないというのはこの種の処置全般を行う上での大前提であって、「もしや嫁が無用のプレッシャーを受けてやむなく同意したんじゃないか?」と言った疑問を一つ一つ晴らしていく責任も根津先生にはあるのだと思いますね。

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コメント

でも毎日顔あわせる義父ですよ?やっぱ気まずいでしょjk

投稿: kara | 2014年7月30日 (水) 08時56分

単純に、気持ち悪い

投稿: | 2014年7月30日 (水) 09時11分

だから体外受精などと不自然な方法論に頼るのではなく直接(r

投稿: | 2014年7月30日 (水) 09時34分

>だから体外受精などと不自然な方法論に頼るのではなく直接(r

それなんてエロゲ?w

投稿: aaa | 2014年7月30日 (水) 10時10分

まあものの考え方は人それぞれなのですが、とりあえずこれが有りだと考える人がこれだけの数いたと言う事実はあるわけで、おそらく潜在的な需要はずっと多いのだと思います。

投稿: 管理人nobu | 2014年7月30日 (水) 10時37分

生まれた子供はどう思うのか
絶対ばらさないって前提なんだろうけどね

投稿: | 2014年7月30日 (水) 10時45分

告知すべきなのかどうかでまた意見がわかれそうですけど。
でも本人が調べる気にならないとこれはわからないんだろうなあ。
遺伝子的にはなにもおかしなことはないのだし。

投稿: ぽん太 | 2014年7月30日 (水) 11時37分

オーストラリアの夫婦が不妊治療のためにタイの代理母に出産を依頼しました。
しかし代理母から生まれた男女双子のうち一人はダウン症だったのです…
夫婦は健康な方だけを受け取り、もう一人を拒否しました。

夫婦は代理母に報酬として117万円を支払っていました。
しかし出産した男女双子のうち一人、男の子ががダウン症と判明すると、
健康な女の子だけを引き取って帰国したと言います。
男の子の受け取りは拒否したとのこと。

代理母は生後6ヶ月の男の子を育てるため、そして支援のために募金を呼びかけています。
すでに500万円が集まっているそうです。

SNS上ではその匿名の夫婦に対する批判が殺到しており、
「なんて利己的なんだ!普段怒らない私ですら怒りを感じる!」
「信じられない!夫婦はこの子のために責任を果たさねばならない」
などとたくさんのツイートが発信されています。

http://www.dailymail.co.uk/news/article-2712562/Australian-couple-abandon-six-month-old-Down-syndrome-baby-poverty-Thai-surrogate-mother-healthy-twin-sister.html

投稿: | 2014年8月 1日 (金) 17時32分

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