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2014年6月 9日 (月)

札幌医大の道内枠 さらに増える

少し前の記事ですけれども、本日まずはこちらの記事を紹介してみましょう。

研修医で地域医療維持 宮城・気仙沼での実践紹介(2014年5月19日読売新聞)

 東日本大震災の被災地で医療に携わった医師の川島実さん(39)が18日、兵庫県朝来市新井のあさご・ささゆりホールで「災害を乗り越えつながる地域医療」と題して講演し、医師不足に悩む但馬地域で医師を確保するヒントをアドバイスした。

 川島さんはプロボクサーとして2000年度の西日本新人王を獲得し、引退後に医師になった。11年にボランティアとして被災地を訪れ、地域で唯一の病院でありながら医師不在となった宮城県気仙沼市立本吉病院で院長を務め、総合診療を担った。

 川島さんは震災後に急増したアルコール依存症に対し、理学療法士やケアマネジャーらを交えた「他職種連携」で断酒会の発足に結びつけた取り組みなどを紹介。東京の病院を回り、研修医を毎月2人ずつ交代で受け入れて医師を確保した経験から、「研修医の教育機関として生き残る」ことを説明した。

 そのうえで、スタッフの適切なサポートで患者と研修医の不安を取り除いたといい、「無理に若い医師を定着させようとせずに、地方ならではの魅力を感じて残ってくれる可能性に期待したほうがいい」と助言した。

 講演会は市と公立豊岡病院組合が主催し、市民や医療関係者ら約100人が聞き入った。

元プロボクサー医師として御高名な川島先生らの応援で辛うじて存続することを得た本吉病院の事例はこちらの記事などを始め被災地発の美談として各方面で紹介されているところですが、その裏事情とも言うべき医師不在に至った経緯に関してはあまり報じられることがないようで、いずれにしても同院が今後どのような経過を辿っていくかは未だ予断を許さない状況と言えるでしょうか。
本吉病院に限らず全国各地で医師不足を訴える地域は数限りなくあって、そのそれぞれで医師確保策と言うものが講じられているわけですが、しかし今回本吉病院で行われたような研修医を安く使い潰しの効く労働力として期待するのは臨床研修制度の趣旨から言って如何なものかと言う気もしないでもありません。
ただ将来に対して未だ自力だけで道を切り開くことの出来ない若手労働者を都合良く活用すると言うことは医療に限らずどこの業界でも現実的に行われていることで、特に近年では一昔前にあれほど社会的なバッシングを受けた看護師の御礼奉公システムが医師の世界にも広がってきていると言うのは非常に問題なしとしない現象だと思うのですが、その点に関して本日はこちらの記事を見ていただきましょう。

札幌医大「道内枠」増へ 医学部入試、推薦は20人(2014年6月5日北海道新聞)

 札幌医大は4日、来年度の医学部の入試で、卒業後9年間、道内での研修や勤務を義務づける「道内枠」をこれまでの55人から、少なくとも75人に増やす方針を明らかにした。道外への医師流出を防ぎ、道内の地域医療に貢献する人材を育てる狙い。

 医学部全体の定員110人のうち、35人分の推薦入試については、これまで道内枠はなかったが、来年度からは20人分を新設する。残りの15人分については、これまで同様、道が奨学金を貸与し、一定期間を知事指定の道内の地方病院などで勤務すれば、奨学金返還を免除する「特別枠」とする。

 推薦以外の75人分の一般入試については本年度、道内枠が55人で、残り20人は勤務地などの条件がない「一般枠」だった。来年度からは道内枠55人の合格者を決めた後、残り20人は道内枠から漏れた志願者と一般枠の志願者の中から、成績上位者を合格させる。道内枠志願者が残り20人の枠で合格した場合、道内枠の入学者として扱う

色々と難しいことを書いているのですが、よく見ると110人の定員が実質ほぼ全部が道内枠+特別枠で将来を縛られていると言ってもいい状況で、特に一般枠で合格したにも関わらず道内枠として扱われると言うのはどうなのかとも思うのですが、この道内枠なるものは平成25年度入試に導入されてから短期間でここまで増えているわけですから、よほどに受験生からも好評であると言うことなのでしょうか。
ただこの札幌医大の道内枠と言うものがいささか普通と違うと言うことは以前に「新小児科医のつぶやき」さんが解説をしているので参照いただきたいと思うのですが、興味深いのは卒業後に御礼奉公をすると言う義務はあるにも関わらず奨学金等の物的な給付はなく、その結果卒業後の就労先縛りも借金返済のカタにと言うのではなくあくまで本人と保護者の誓約書に基づいた義務にしか過ぎないと言う点です。
そんな義務ばかりでメリットのない一方的な契約が成立するのか?と誰しも考えるところでしょうが、この道内枠で出願した場合には仮に道内枠で落ちても第二志望として一般枠に併願したことに自動的になると言うことで、言ってみれば二回チャンスがあると言うことですね(当然ながら一般枠で出願した場合には道内枠への併願扱いによるダブルチャンスは認められません)。
またそもそも札幌医大の学生は道内出身者で道内に残って勤務していく者の比率が非常に高いと言う現実もあったようで、その点で大学側としても可能であれば道内出身者を優先して入学させたいのに成績等の関係で出来なかったと言う事情があったのだとすれば、少なくとも大学側と地元学生との間では囲い込みによる道外出身者締め出しによってwin-winの関係が構築出来るのかも知れません。

ともかくも巨額の奨学金縛りが法的に極めてグレーゾーンであることは看護師の御礼奉公騒動においてすでに散々議論されてきたことで、医学部で近年同じ道を辿っていると言うのは非常に興味深い現象だと思っていたのですが、しかしこの札幌医大のシステムはそうした金銭縛りによるものではなくあくまで信義によるものであると言う点で、法的にはまた別な解釈が出来そうですよね。
ただ当然ながら借金ではなく紙切れ一枚であるだけにそれを破る心理的ハードルは低くなる理屈で、さすがにマッチング等の日程もありますから卒後初年(~初期研修期間の2年間)くらいは地元への勤務者も増えるのでしょうが、本年以降そのハードルを越えた方々がどれだけ誓約書通りに北海道内での勤務を続けていくのかと言うことは興味深く見守っていくべきかと思います。
別な方面でこの制度のメリットを考えてみますと、道内枠によって一般枠よりも医学部に入りやすくなる(すなわち、医師免許を得やすくなる)と言うメリットを札幌医大は学生に与えているとも言えるわけですが、ご存知のように近年医学部人気は非常に高まっている一方で、医学部定員は新設も含めほぼ上限に達したと見られていますから、医師になりやすい道を提供すると言うだけで学生への訴求力は大きいのかも知れません。
しかしやはり物を知らない若者を目先の利益で釣り上げて良いように利用すると言う点では既存の奨学金縛りとも何ら変わらないのは確かですから、学生はもちろん保護者の方々にしても利用前には十分に検討してから行われるのがいいだろうとは思うのですが、それでも今の時代にあってはこの程度のことはまだしも良心的な契約の部類に含まれるのでしょうか。

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コメント

>道内枠によって一般枠よりも医学部に入りやすくなる(すなわち、医師免許を得やすくなる)と言うメリット
ここに含まれている灰色のウソを見抜く力が受験生及び保護者には求められる、ということですな。

投稿: JSJ | 2014年6月 9日 (月) 08時23分

地元が作った地元民のための医大であればこういうのもありなのかなと。
でも建前上は全国に開かれていないといけないから変な入試になったんですかねえ?
この調子だといずれ道州制になったら域内限定免許ができちゃうのかも。

投稿: ぽん太 | 2014年6月 9日 (月) 08時57分

国家資格持ちって国全体の財産みたいなもんでしょ?
一部地方が勝手に独占するのってどうなんだろう?って思うんだけど

投稿: | 2014年6月 9日 (月) 10時13分

>一部地方が勝手に独占するのってどうなんだろう?って思うんだけど

こうした懸念も理解は出来るのですが、国が全医師を管理し今日は網走明日は小笠原と派遣するような状況よりは、まだしも大学選びで就労地域だけでも自由意志が発揮出来る方がマシなのでは?とも思います。

投稿: 管理人nobu | 2014年6月 9日 (月) 11時21分

少子化な上に医学部の定員増、しかも北海道地域からの学生選別、、10年後北海道の医療レベルがさがるのではと心配になりますが、どうなんでしょうか?

投稿: 通りがかり | 2014年6月 9日 (月) 11時40分

北海道 国公立大学偏差値
北海道大学[医医]73
札幌医科大学[医]70
旭川医科大学[医医]68

まだまだ底辺まで余裕ありそうだ

投稿: | 2014年6月 9日 (月) 13時19分

う~ん、こういう不利っぽい条件でも学生が集まるものなんですね…
医師免許さえ取っとけば元は取れるってことですか?

投稿: てんてん | 2014年6月 9日 (月) 13時31分

都道府県立、市立の医科大学が地元民100%枠でも構いません。
地域に枠を設けない国立の医学部がありますから。

投稿: physician | 2014年6月 9日 (月) 22時51分

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