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2014年6月26日 (木)

いざと言うときには役に立たない保険?

ちょっと今個人的に激しく盛り下がっているところなのですが、それはともかく全国の医師の先生方を様々な意味で悩ませる保険と言うものについて、先日こんな記事が出ていたことを紹介してみましょう。

被害者続出、いったいどういうことだ!「がん保険」がんになってもカネは出ない(2014年6月23日週刊現代)より抜粋

なりたくてがんになったわけじゃない。だからこそ、「いざ」というときのために備えてきた。それなのに「保険金は支払えません」なんて、あまりに理不尽じゃないか—そんなトラブルが頻発している。

「お客様のがんは対象外です」

「先生からは、確かに『がん』だと告知されました。まだ初期だから心配ないと言われましたが、まさか自分ががんに罹るとは思ってもいなかったのでショックでした。不幸中の幸いだったのは、がん保険に入っているから治療費の心配はしなくていいということ。
ところが、保険会社に申請すると、『お客様のがんは、保険の対象外です』と突き返されたんです。がんだと診断されたのにがん保険が下りないなんて、どういうことですか?これまで20年以上、万が一のためにと思って、保険料を払い続けてきたんです。いざというときの備えだったのに、肝心なときにカネが出ないなんて、保険ではなく詐欺じゃないか」
東京都在住の68歳の男性は、こう憤る。昨年、健康診断で大腸に異常が見つかり、内視鏡手術で切除した。医師からは、「早期の大腸がんです」と告げられた。
男性は、45歳からがん保険に入っていた。会社の上司が肺がんを患い、長期入院の末、退職せざるを得なくなったことがきっかけだ。加入したのは、がんと診断されたら一時金として200万円、入院1日につき1万円がもらえる保険。月に8000円弱の出費となったが、「収入が無くなり、治療費で貯金が取り崩されることを考えれば必要経費。安心をカネで買ったようなもの」だった。
それから23年。ついに「その日」が訪れた—と思ったら、自分のがんは「対象外」と冷たく見放されたのである。がんを患ったという事実に加え、保険金が支払われないという二重の衝撃に、当初、絶望するしかなかったという。
「保険会社に抗議の電話をすると、『お客様のがんは、ごく早期のがんで、ご加入のがん保険では対象外となります』と取り付く島もない。約款にはきちんと書いてあるというんです。でも、そんなこと加入当初に説明された覚えはありません。これじゃ保険会社にこれまで支払い続けてきたカネは、ドブに捨てたも同然です」

早期がんには払いません

がん保険に入っていたのに、がんになってもカネは出ない。そんなこと、あり得ないと思うだろう。だが、この男性が経験したような事態は珍しくない。病気になっていざ保険金を請求したら、保険会社からさまざまな理由を並べたてられて支払いを拒否されるケースが、いま増加しているのだ。とくに顕著なのはがん保険。これまで知られていなかった問題が、徐々に表面化している。
昨年度、国民生活センターに寄せられた医療保険に関するトラブルは1035件にも上っている。
「実際に相談を受けている現場の感覚としては、がん保険に関するトラブルはとくに目立っています。具体的には、保険勧誘時の説明不足から生じるものが多い」(国民生活センター相談情報部担当者)
保険金の支払い条件などは約款に細かに記されているが、契約時にすべての内容を担当者から直接説明されることはほとんどない。説明を受けたとしても、到底一度で把握しきれる情報量ではないため、がんと診断され保険金を請求してはじめて、自分が保障の対象外であることを知るのだ。
(略)

長い長い記事ですので是非とも全文を読んでみていただきたいと思いますけれども、まあしかし保険というものもあくまで商売として成立するだけの儲けが出るからこそ会社が存続し保険も引き受けられ、そしていざと言うときの保険金も払ってもらえるわけですから、保険会社が儲けているからケシカランと言うのはちょっと違うんじゃないかと言う気はしますでしょうか。
数ある医療系の保険の中でも特に癌保険と言えばトラブルが多い印象がありますが、一つには癌という非常にデリケートな疾患を扱うと言うことから来る難しさで、臨床の場においてもそれが癌であるかどうかの診断が医師の主観的判断に頼るしかない局面はままあるものですし、単純に入院した、手術を受けたと言う明白な事実関係だけでお金が出る保険に比べれば医師の側も苦労する局面が多いと言うものです。
ただそれ以前に保険の契約内容によって支払いが受けられないと言うことが相当に多いようで、こればかりは自分の望む補償のタイプに合った内容の保険を選ぶしかないとも言えますけれども、ひとまず記事から代表的な保険金が支払われないケースと言うものを抜き書きしてみるとこんな感じであるようです。

(1)保険金が支払われない種類のがんがある
 上皮内新生物(上皮内癌)には保険金が出ない、もしくは一時給付金が減額される商品がある

(2)加入後、すぐにがんになったらアウト
 多くの場合、加入後90日以内にがんが発覚したときは、保険金が出ない

(3)入院しないと保険金が出ない
 「がんの治療を目的とする入院をしたこと」が保険金支払いの条件になっている商品もある

(4)病歴告知をミスすると保険金が出ない
 過去の病歴や現在の健康状態について後に申告漏れが発覚すると、「告知義務違反」とされてしまう

(5)再発したらアウト
 再発したときの支払い条件も、商品によってさまざま

しかし記事を見ていますと新しい保険ほど契約者側にはメリットが乏しくなるかのように書かれていて、事実場合によってはそうした側面もあるのかも知れませんけれども、それでは昔ながらの保険をそのまま継続した方がお得なのかと言えばそういう訳でもないことも知っておかなければ判断を誤りますよね。
そもそも昔と今では癌という病気に対する治療のやり方も全く変わっているので、昔であれば基本的に死病ですからひとたび癌で入院すれば原則的に亡くなるまでそのまま入院するパターンが多かった、ところが今は入院期間短縮と言う目的もあり可能な限り従来の生活をそのまま続けながら治療をするようになっていますから、月に数日だけ入退院を繰り返しながら延々と通院治療していると言う方も全く珍しくありませんよね。
こうした方々に昔ながらの「入院○日目以降に保険金がおりる」「保険金の支払いは一生に一度だけ」と言ったタイプの保険がひどく相性が悪いことは言うまでもないことで、「保険金がもらえるなら治療が長くなっても安心だ」などと思っているとろくに支払ってもらえないと言うことにもなりかねないと言えます。
ただ確かに外資系がどっと癌保険に参入してきてからこの種の支払い条件のトラブルが多発している印象もありますけれども、日本と全く医療システムの異なるアメリカでデザインされた保険をそのまま持ってきたからと言う側面もあるのだろうし、日本においても医療が国際標準に近づいて来ているわけですから次第に思いがけない行き違いと言うことは減ってくるのではないかと言う気がします。

ともかくこうした保険というのは一時的に大きな支出に対応できない人がそのリスクを分散するためにかけているものなのですから、もともとさしたる治療費がかからない上皮内癌などが支払い対象外になったところで大したことはないし、そもそも日本では公的に運用されている皆保険システムがあまりに出来が良すぎて大多数の人にとって民間保険の必要性はまずないと言えます。
特にこれからの時代で一時的にせよ大金が必要になる可能性が高いのが健康保険でカバーされない先端医療や混合診療など、昨今盛んにその導入と拡大が進められている自費診療の部分ですが、このあたりは癌に限らず多くの方にとって利用する可能性のあることですから、標準的な保険診療以外も受けたいと考えるならきちんと条件を確認した上で加入しておくのはありかも知れませんね。
その意味で一番まずいのは何となく入っていたと言う人の不払いよりも、いざとなれば保険金が必要だから入っているはずの一部の人が過去の病歴を申告していなかった等の理由で支払いを蹴られる可能性なのですが、特に高血圧など一般的な疾患ならともかく癌など悪性新生物の病名告知を怠っているとまず確実に支払い拒否に遭うものと見ていいですよね。
「そんな大病を患ったことを忘れるはずがないのだから、隠したのだとしたら自業自得ではないか」と考えるかも知れませんが、ここで問題になってくるのが旧世紀末頃までの日本では本人に対して癌などの病名を告知しないまま治療すると言うことがかなり当たり前に行われていたと言う事実があると言うことで、本人は全くあずかり知らないところで思わぬ大病を経験している可能性が少なからずあるということです。
ちなみにこうした場合契約の前提となるリスク評価が正しく行えなかったと言うことでそもそも契約が締結されていない扱いになり、大抵は支払った掛け金がそのまま返還されるようですけれども、故意に隠して契約したと悪質性が認定された場合は掛け金の返還もなくなってしまう場合があり得ると言いますから、くれぐれもダメモトでチャレンジしてみようなどと変な気を起こさないことですよね。

こうした患者と保険会社の間のトラブルが発生した場合に患者から「先生、何とかしてください」と泣きつかれる場合も少なくないだけに、医師としてどう対処すべきかは喫緊の重要課題ですが、まず絶対にやってはならないこととして公的文書において嘘をついてはならないと言う大前提だけは守っておかなければ大変なことになると言うことでしょう。
ただし前述のように本人が知らないものだから病歴として自己申告もされていないし問診票等にも書かれていない、要するにカルテに物的な証拠が何もないと言う場合にたまたま家族から「実は先生、本人には言っていないのですが」と打ち明けられた、そして医学的に考えて今回の入院理由となった疾患とは無関係であると判断されるような状況において、敢えてそれを保険会社に書いて送るかと言えば悩ましいものがあります。
考えてみれば医師は患者の同意を得た上でその個人情報を保険会社に伝えるわけですから、知っているだけの全てを伝えずとも罰則はないどころか当の患者に不利益なことを伝えるのは患者との信頼関係を裏切るようなものですし、まして保険契約解除の理由として本人も知らない過去の病歴を保険会社経由で伝えられるとなればこれは大変な問題で、下手すると医師の方が訴えられかねません。
心情的にも保険会社と医師との間には直接の人間関係はなく、一方で多くの場合患者とは相応の長期間に及ぶ密接な人間関係が構築されている場合が多いと言う距離感もあって、どちらかと言えば患者側の肩を持ちたい先生の方が圧倒的多数だと思いますけれども、保険会社の方は大金のかかっていることですから可能な限りの手段を使ってでも事実関係を追及してくる可能性があることは考えておくべきでしょうね。
将来的には国民総背番号制で統一的なデータベースが構築され病歴を全国的一元的に管理するような時代が来るのだと思いますが、そうなると法的に調査権限が認められさえすれば医師が知っている情報は全て保険会社も知ることが出来る理屈となるだけに、これも未だアナログな手法も混在している今の時代だからこそ起こり得る悩ましいトラブルの一つだと言えるかも知れません。

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コメント

がん保険なんて飾りです
脳が弱い人にはそれがわからんのですよ

投稿: | 2014年6月26日 (木) 08時45分

おつきあいで某社の保険に2口、10年ほど間をおいて加入しております。
最初に入った保険はレーシック手術も保険金がおりる契約だったことに後で気がついてびっくりした記憶があります。
レーシック手術する気は今のところありませんけど。

投稿: クマ | 2014年6月26日 (木) 08時54分

保険料分を積み立てていればたいていの用は足りる気はしますけどね。
あと個人的には郵便局の簡易保険がノートラブルってイメージあります。

投稿: ぽん太 | 2014年6月26日 (木) 09時21分

保険の契約内容がどうなっているのかを知っておくのは契約に伴う義務と言われればその通りなのですが、あれも詳しく見ていくほど腹の立つことが書いてあって契約する気も失せる気がしないでもありません。
癌保険などは対象がシビアなだけに細かい規定が増えるのであって、単純に何であれ入院一日幾らと言ったスタイルの方が判りやすく間違いがない気がします。

投稿: 管理人nobu | 2014年6月26日 (木) 10時22分

担当の人と親しくしてれば多少の無理はききませんか?

投稿: てんてん | 2014年6月26日 (木) 12時20分

早期大腸がんで内視鏡切除で完治したのなら、大して医療費もかからないので保険金必要ないのに、何がショックなんでしょうね。
つぎの「大物」のがんできっちりもらえればよいだけ....

また、最近のがん保険は、通院化学療法や緩和ケアへの特別な保障もあるので、包括的入院保険ではカバーしきれない部分があります。

お得かどうかは横に置いて、最近の保険の方が「安心」は買えるでしょうね。10年くらいたったような初期からのがん保険のようなものが危ない気がします(早期がんではなく、通院がん治療で結局ほとんど保険金が出ない)

投稿: おちゃ | 2014年6月26日 (木) 13時08分

 医療技術のほうが どんどん進化しますから それにあわせて保険も更新するべき時代になった、のでしょう。 
 NBLや拡大内視鏡があたりまえになって、粘膜内がんを見落としてアドバーンストにしてしまった、という悪夢にうなされることは無いですか? こっちのほうも保険が進化していくのかしら? 
 

投稿: 保険は安心を買うもの | 2014年6月29日 (日) 16時35分

>担当の人と親しくしてれば多少の無理はききませんか?
期待してると裏切られるかも、という話。
「保険の理想と現実 アフターサービスは甘くない」http://www.nikkei.com/money/household/hokenhonto.aspx?g=DGXNASFK0200P_02072014000000&df=1(日経新聞より)

投稿: JSJ | 2014年7月 7日 (月) 11時45分

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