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2014年6月17日 (火)

医療現場で発生した思いがけない犯罪行為

本日の本題に入る前に、まずはこちらの記事を紹介してみましょう。

医師養成で犯罪死の見逃し防止 死因究明計画を閣議決定(2014年6月13日47ニュース)

 政府は13日、犯罪死の見逃しを防ぐため、死因究明に習熟した医師を養成することなどを柱とする死因究明推進計画を閣議決定した。大都市と地方の格差是正を目指し、全国規模で研修を実施、警察の検視に立ち会って死因を判断する検案医の能力向上を図る

 研修は日本医師会に委託し、今後5年間で約4千人の医師を対象に実施。検案や解剖の実習のほか、コンピューター断層撮影(CT)などで遺体を分析する「死亡時画像診断(Ai)」の習熟を目指す

 推進計画は12年施行の死因究明推進法に基づき策定。検視官が遺体現場に立ち会う割合を現在の約60%から向上させることなども盛り込まれた。

死亡診断書と言うものは死体検案書と共通の書式になっていて、基本的には今現在治療中の病気によって亡くなった場合には死亡診断書、そうでない場合(異状死)は死体検案書を書くことになっている、そして死体検案書を書くにあたっては死体を検案しかねればならないと言うルールになっているわけですが、この辺りには様々な問題点があると指摘されているところですよね。
まずご存知のように一般的な病死ではない異状死の定義に関して意見が分かれていると言う状況で、法医学会は合併症による死亡も含めて診療行為に関連した予期しない死亡など非常に広範な異状死の定義を主張している、これに対して外科系学会などがそれはおかしいと反発していて、特に昨今では例の医療事故調への届け出とも絡めてどの辺りまでと言う議論は難しいものがあります。
またそもそもこの死体検案と言う作業自体が大昔の医学がろくに発達していなかった時代からの流儀で、あくまでも死体を外から眺めて問題がないかどうかを確認すると言うだけのことですからはっきりした死因など判る方が少ないと言うもので、必要に応じて解剖に回すだとか、記事にもあるように昨今話題のAiを併用するだとかでなければ先に結論ありきの形ばかりのものになってしまいがちですよね。
その意味では推理小説じみた犯罪行為の見逃しリスクと言うだけでなく、はっきりした死因を突き止めるためにも今の時代にふさわしい死体検案のあり方があるのだろうと思いますが、社会的に要求される診断の精度とそれに要するコスト、そして必要とされるマンパワーの捻出と言った諸点の兼ね合いから制度を考えるべきであって、ただかくあるべし論だけで突っ走ってしまうと現場がついて来られないともなりかねない懸念はありますね。

いささか前置きが長くなりましたけれども、マンパワー集約型産業の典型である医療において犯罪行為と言うものが人並みに発生する余地があるのは当然で、過去にも医療関係者の犯罪が多数報じられているところではありますし、また近年では診療に関連しての死亡事例で医師らの行為が刑事事件として取り扱われるべきかどうか?と言う議論もたびたび起こっているところですよね。
医療が専門職の多く集まる場である以上しばしば犯罪か否かの判断そのものも難しい場合が少なくないのですが、このところその専門職の最たるものである医師らによる全く専門職らしからぬ粗暴型犯罪が立て続けに起こったと言うことで、「いったい何が起こったのか?」と一部方面から注目を集めているようです。

人工透析患者のチューブ抜く=「死刑になりたかった」-49歳医師を逮捕・警視庁(2014年6月12日時事ドットコム)

 患者が人工透析中に、装置の医療チューブを引き抜き、殺害しようとしたとして、警視庁町田署は12日、殺人未遂容疑で医師橋爪健次郎容疑者(49)=東京都町田市小川=を逮捕した。同容疑者は「誰でもよかった。人を殺して捕まり死刑になりたかった」と容疑を認めているという。

 同署によると、橋爪容疑者は腎臓内科医として被害者の担当医だった。同容疑者と被害者にトラブルはなく、同署は詳しい動機を調べている。
 逮捕容疑は、11日午後8時20分ごろ、「あけぼの第二クリニック」(町田市中町)で、通院していた同市内に住む50代の会社員男性が人工透析を受けていた際、殺意を持って透析用監視装置に接続する医療チューブを引き抜き、殺害しようとした疑い。
 同署によると、男性がすぐに気付いたため、チューブ内の血液が噴出したにとどまり、命に別条はない。男性が治療を受けていたのは約50のベッドが並ぶ人工透析室で、近くにいた医療スタッフが対応したという。
 橋爪容疑者はチューブを引き抜いた直後、車に乗って同署に自首した。
 病院側は「事態の把握ができていないため、現時点では一切お答えできない」とコメントした。

研修医、灯油まき放火の疑い 島根大病院の施設(2014年6月14日朝日新聞)

 島根大医学部付属病院(島根県出雲市)の施設に放火したとして、島根県警は13日、近くに住む同病院研修医佐藤司容疑者(28)を現住建造物等放火などの容疑で逮捕し、発表した。容疑を認めているという。

 出雲署によると、佐藤容疑者は5月29日午前3時40分ごろ、鉄筋一部4階建ての研修医育成施設1階にある「研修医室」に灯油をまいて火をつけ、同室約200平方メートルを焼いた疑いがある。けが人はなく、病棟に被害はなかった。

 この部屋はパソコンなどがある学習スペースで、カードキーで出入りする。出火当時は施錠され、無人だった。床から灯油成分が見つかったため放火の疑いが浮上し、出入りができた関係者を調べていたという。

 井川幹夫病院長は、朝日新聞の取材に「いまだに信じられず、大変遺憾だ。トラブルも含めて調査中だが、二度と起こらないようにしたい」と答えた。

いずれも練りに練った計画的犯罪といった類のものではなく衝動的に行われていることのようで、特に東京の事件などは理由からして真っ当な判断力をもっての行動とは思えないものがありますが、いずれにしても一歩間違えば大変なことになっていたと言う点で行為の重大性は明らかですよね。
当然ながらネット上では様々な噂が飛び交っていると言う状況なのですが、どちらも元々はとてもそうした事件を起こしそうにないまともな人物であったと言う評判ではあったようで、東京の事件の場合は今春に同僚医師が辞めて容疑者一人になった結果看護師からも「仕事が大変そうだ」と心配される状況だったと言うことで、本人も半年程前からよく眠れず最近は仕事にも手が着かなかったと言っているようです。
島根の事件では移籍登録年から考えると昨春の卒業生のようですが、二年目研修医と言えば何かと心身のストレスも大きかったのでしょうか、詳細な事情などはまだ判らない段階ではありますがこれまた仕事上のトラブル等々が原因として考えられるところではありそうですよね。

医師の労働時間と言うものがどの程度かと言うことは、特に何かと議論になる当直時間の取り扱いなどを巡ってなかなか難しい議論がありますけれども、厚労省の統計によれば「男性勤務医はほぼ全年代で、女性勤務医も50歳前まで過労死認定基準に達している」週60時間以上の労働を強いられていて、特に20~30代の若手世代では週平均80時間以上だと言うのですから穏やかではありません。
ネットが一般化してきたこの10年ほどの間にこうした事実は当の医師の間にも広まるようになり、とりわけ他業種との交流を通じて医療現場の労働環境の異常性が知れ渡った結果いわゆる逃散、立ち去り型サポタージュと言ったことが各地で発生するようになった、そしてそれが医療崩壊と言う現象にも結びついてくるようになったことは周知の通りですが、問題はその結果何がどうなったかです。
労働者としての権利意識に目覚めた医師達があちらこちらで労働環境の改善に向けて動き出したことは当然ながら良いことだとしても、その一方で医療現場の総労働量を反映するはずの国民総医療費は近年の診療報酬削減方針にも関わらず増え続けているわけですから、一部の医師が今までよりも労働環境改善を達成しているとなれば別な医師達は今まで以上に労働環境が悪化している可能性が高いわけです。
「今どきそんな職場に好きこのんで居残っているのは単なるマゾ」だと言われればその通りですが、ご存知のように職場環境からうつなどを発症した場合に自ら真っ当な判断の元にその状況を離脱することは非常に困難であって、自殺を図ったり思いがけない奇行に走ってでもそこから抜け出したいと言う尋常でない判断を下してしまう可能性が高まるとは言えるでしょう。
今回の事件がそうした職場労働環境の問題ばかりに起因するものなのかは現時点では何とも言えませんけれども、自らの行動に関しても真っ当な判断の出来なくなった医者に大事な命を預ける患者の方こそ怖くなってくるのは当然であって、顧客満足度向上という観点からも職場の管理者はスタッフを犯罪行為に走らせるほど追い詰めるべきではないと言うことは当然と言えば当然ですよね。

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コメント

疲れてたんですかねえ…?
こういうのは心神喪失で責任能力なしってことになるのかどうか?
その場合医師免許は失効するんですかね?

投稿: ぽん太 | 2014年6月17日 (火) 08時42分

精神崩壊するまで職場に尽くした挙げ句これ一発で人生終わったなw

投稿: aaa | 2014年6月17日 (火) 09時00分

心神喪失の可能性はありますが、実際の所は本人を診察しなければ何とも言えません。
精神疾患の場合、相対的欠格事由に該当する可能性はありますが、ほとんどの場合症状が改善するまで免許停止になるくらいではないかと思われます。

まあ、心神喪失無罪or心神耗弱執行猶予になった場合、どちらも医療観察法に乗っちゃいますけどね・・・

投稿: クマ | 2014年6月17日 (火) 09時12分

ご指摘のように激務で人生変わるまで追い込まれたと言うことであれば、これは本人にとっても職場にとっても、そして患者にとっても悲劇と言うしかないことです。
ブラック企業など過重労働を強いスタッフの健康を害するような職場にはペナルティがあってしかるべきだと思うのですが、今後これらの施設での医師雇用にどれだけの影響が出てくるかにも注目したいですね。

投稿: 管理人nobu | 2014年6月17日 (火) 10時46分

好き放題に職場選べる立場で何やっても自己責任って言われそう

投稿: | 2014年6月17日 (火) 12時20分

心配しなくても安倍のおかげでこれからどんどん同じような事件増えるから

投稿: | 2014年6月17日 (火) 14時25分

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