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2014年6月11日 (水)

医者は不養生、と言うわけでもない?

先日も取り上げましたように勤務医自殺に関する民事訴訟で上司のパワハラが認定されたと言う件で、その後原告被告の双方が控訴に至ったと言うことが報じられていますけれども、被告側にしても指摘されているような行為自体は実際にあったと認めていると言うことで、判決の行方如何に関わらずやはり今の時代暴言暴行当たり前と言うやり方は通用しないと言うことを改めて学んでいただきたいものだと思いますね。
ところで先日司法系の相談サイト「弁護士ドットコム」で「勤務医に労基法は適用されるのか?」と言う記事が出ていまして、もちろん答えはイエスであることは今の時代の医師なら当然に知っていなければならない常識ですけれども、実際問題ブラック企業も真っ青な勤務状況を当たり前に強いられている職場などいまだに幾らでもあるわけですが、その状況に関してややブラック企業とは異なる事情があるようにも思います。
ブラック企業の場合働かせる方は法律上のルールも知った上で法の網をかいくぐって搾取すると言う故意性が強いと言えますが、医療現場の場合は働かされる側も働く側もそもそも法律上のルールに全く無知であって、「昔からやっていることだからこれが当たり前」と言う素朴な感覚で今の時代にあり得ない労働を継続していると言う側面がありますよね。
もちろん職場の管理者など労働を命じる側が法規に無知であるのは言い訳の余地のない怠惰としか言いようがありませんが、個人の権利と言うものはそれを自ら主張することによって初めて擁護されると言う面が多々あることを考える時、研修医として社会に出る以前に一通りの労働者としての常識は学んでおくべきだと言う気がしますが、まあ搾取…もとい、働かせる側の大学がそれを進んでやりたがるかどうかですよね。
いささか前置きが長くなりましたけれども、やはり過労死のリスクもある長時間労働を強いられていると言うことは健康面での不安も大きいということですが、その点に関して本来健康管理のプロフェッショナルであるとも言える医者自身の健康管理は一体どうなのかと言う記事が出ていたので紹介してみましょう。

「医者の不養生」は本当だった!(2014年6月9日日経メディカル)

 古くからあることわざ、「医者の不養生」は本当か――。日経メディカル Onlineが医師自身の健康状態について2286人に聞いたところ、67.6%が何らかの持病が「ある」と答えた。最も多かったのは高血圧で、脂質異常症、アレルギー(花粉症など)、腰痛・関節痛と続いた(図1)。

 回答を年代別に見ると、年代が上がるほど「持病あり」と答えた医師の割合が高くなり、30歳代は5割程度だったが、60歳代では8割以上が何らかの持病を抱えていた。30歳代ではアレルギー(花粉症など)が多かったのに対し、年代が上がるほど高血圧や脂質異常症、高尿酸血症などの生活習慣病が多くなっていた(図2)。胃炎・胃潰瘍は40歳代でのみ5位にランクイン。中間管理職として、苦労を抱える医師が少なくないのかもしれない。

 調査では、薬の服用状況についても尋ねた。高血圧があると答えた医師のうち、降圧薬を常用している医師は8割以上に上った一方で、脂質異常症や高尿酸血症は6割、糖尿病では5割程度にとどまった(図3)。

 今回の調査から、多くの医師が生活習慣病をはじめとする何らかの持病を抱えていること、一方で薬物治療に積極的でない医師が少なくないことがうかがえた。現代においてもやはり、「医者の不養生」が実態としてあると言えそうだ。

基本的な傾向として若い頃は症状訴えが強い疾患が多く、年齢が進むにつれて無症状ながら重大疾患の原因ともなり得る生活習慣病などの慢性病が増えてくると言う傾向は一般社会と同じ傾向ではないかと思いますが、こういう記事を見てむしろ気になるのが医師と一般人とで受診行動にどれだけ差があるのか?と言うことですよね。
例えば最近ドック学会が高血圧の基準値を変更したと話題になっていて、外来などでも高血圧患者の投薬拒否が続いて困っていると言う話もちらほらと側聞しますけれども、医師と一般人とで高血圧の治療に対して開始時期や治療意欲に差が出るのかどうか、要するに様々な医学的知識を持っている医師は一般人と比べて治療に積極的なのか消極的なのかと言う点です。
それを推定させる一例として健診等で脂質異常を指摘された人の比率はおよそ1/3程度と高いのですが、実際に治療を受けている人はその3~4割程度と言いますから必ずしも高いものではなく、症状もないだけに差し迫った危機感が抱きにくい脂質異常症が軽視されがちであると言われる所以ですが、医師の場合脂質異常の内服率が6割だと言いますからこれは一般よりもむしろ高いとも考えられます。
明確な結論を出すにはいささかエヴィデンスとして不十分ですが、特に困る症状もなければ緊急性もないが将来の大病の原因となる脂質異常に関してこういう状況であると言う点からすると、巷間しばしば流布されている「医者の不養生」と言う言葉は必ずしも適切ではなく、むしろ医師は自らの専門的知識に基づいてこれは有意義と考える治療はちゃんと受けていると見るべきなのかも知れません。
そしてそうした積極的なリスク管理の意識があり実践も行っているにも関わらず医師の過労死が一般平均よりもかなり多いと言った現実をどう考えるべきかで、しばしば言われる医師の平均寿命は一般人よりも10年短いと言う話はあくまでも文献的検討ですけれども、イギリスの調査でも小児科医の寿命は全医師中でも最も短かった、その理由は不規則な仕事とストレスの多さだと言われると何やら納得してしまいそうにはなります。
いささか脱線しましたが、必ずしも不養生ではないとしても医師自身が何をもって有意義な治療と考え積極的に治療をしているかと言う点も問題で、このいわゆる「プロが選ぶ」治療とはどのようなものなのかと言うことは多くの一般患者さんも非常に気になるところだと思いますけれども、先日なかなか興味深いこういう記事が出ていたことを紹介しておきましょう。

医師がよく飲んでいる薬は?(2014年6月10日日経メディカル)より抜粋

 日経メディカル Onlineが医師自身の健康状態について2286人に調査したところ、常用薬が「ある」と答えた医師が約半数に上った(図1)。2~3種類の薬を服用している医師が多かった。最も多かった組み合わせは、降圧薬と脂質異常症治療薬で、146人がこの2種類を含む薬を服用していた。
(略)
 薬のこだわりとしては「先発品を使う」「ジェネリックを使わない」という意見が34人から寄せられた。一方、「患者さんに出す以上、自分もジェネリックを使う」(50歳代男性、内科開業医)という意見も。ただし、あえてジェネリックを使うと答えていたのは4人にとどまり、現状では少数派のようだ。

自身で使って気に入っている薬や、薬についてのこだわり

・アメリカで不眠時にメラトニンを服用してよく効いて以来、メラトニンを服用していた。現在はロゼレムを使っている。(50歳代男性、小児科勤務医)
・メタボ予防に防風通聖散。(40歳代男性、精神科勤務医)
・感冒症状の場合、漢方薬をファーストチョイスにしている。(30歳代男性、循環器内科勤務医)
・きつい飲み会の前は五苓散を飲む。(20歳代男性、内科勤務医)
・不整脈のために服用しているβブロッカーは、過緊張や不安感にも効果があるように感じる。(30歳代男性、内科勤務医)
・SGLT2阻害薬を食べ過ぎる予定の時に頓用する。(30歳代男性、内分泌・代謝内科勤務医)
・PL配合顆粒を飲むと眠くなるので、かぜでつらいときは半分睡眠薬代わりに飲んでいる。(30歳代男性、呼吸器内科開業医)
・よほどでない限り、薬は極力服用しない。(50歳代男性、内科勤務医)
・生活習慣病の薬はとりあえず自分で試して、よさそうなら患者にも出す。(50歳代男性、泌尿器科開業医)
・在庫になっている薬を自分で使って整理する。(50歳代男性、内科開業医)

まあしかしあまり突っ込むのもどうかと思いますが、確かに有効なのでしょうけれども保険診療上それはどうよ?と言う目的外使用が相応に多いと言うのも医師の暴走と言うべきか自らを犠牲にした人体実験と言うべきか微妙なところなんですが、実際にその効果はどんなものなのか?と興味が湧くところではありますよね。
前段の医師の治療率が意外に低いものではないと言う話とも関連するのですが、とりあえず患者さんに処方する前に自分で試して見ると言う方は意外に多いようで、この辺りは特に生活習慣病のように有病者は多いが症状があるわけでもなく本人の病識に乏しいと言った場合、「僕も使ってるんだけど良いよこれ」式の勧め方は確かに有効なんだろうなと思います。
風邪の初期に漢方薬をよく使うだとか、同系統の薬の中でも特定銘柄にこだわりがあると言った点も概ね了解可能な話ではあるのですが、ここで注目したいのは先発品に対するこだわりを相応に多くの医師が口にしていることで、意識してゾロ(ジェネリック)は使わないとまで断言されるとこのご時世に何じゃそりゃ?患者には安い薬を使わせているくせにと言いたくなる国民やお役人の方々も多いのではないでしょうか?
ただ過半数の医師が「ゾロは効かない(ことがある)」と考えていて、3%の医師は一切ゾロを処方したことはないと答えていると言う調査結果もありますから、2286人中34人(1.5%)が自分にはゾロを処方しないと言うのは患者に対する比率よりも低いとも言えるかも知れずですし、そもそも比率から考えると大多数の医師は強いこだわりはないと言う解釈が一番妥当なのかも知れません。
ともかくも患者側からすれば「医師は自分にはこんな薬を使っているのに、患者には全く違う薬を出すのはケシカランじゃないか」と言いたくなるかも知れませんが、あくまでも病気のことを判っている医師が常時症状を見ながら自己責任でやっていることであって、何の知識もない一般人が同じことをやればうまくいかないだけでなく、下手すれば健康を損なう可能性すらあることは強調しておくべきかとは思いますね。

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コメント

同僚の間じゃEPA製剤は隠れファンが多い印象ですね。
でも夏にカプセルが溶けるって患者さんには不評なんだなあ…

投稿: ぽん太 | 2014年6月11日 (水) 08時58分

>>・よほどでない限り、薬は極力服用しない。(50歳代男性、内科勤務医)

でも患者には山盛り薬出すんだろ?
そんなにまでして儲けたいのかw

投稿: | 2014年6月11日 (水) 09時47分

時間とお金をかけて病院にくる方々は一般に何かしらの治療を望まれていると考えられるので、訴えに応じて一定程度の投薬を行うことはやむなきところかとは思います。

投稿: 管理人nobu | 2014年6月11日 (水) 12時54分

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