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2014年6月24日 (火)

僻地からトラブルなく足抜けする方法

本日の本題に入る前に、先日たまたま見かけてちょっと笑ってしまったのがこちらのスレッドの話題なのですが、とりあえずリンクを紹介しておこうかと思います。

【参考】この間行った恐怖の村の話

色々と突っ込みどころは多々あるのですが、とりあえずひとたび僻地に足を踏み入れると足抜けも容易ではないらしいと言うことでしょうか。
ちなみにやはりと言うべきでしょうか、多くの方々が予想している通り場所は東北地方某県らしいんですが、山間の村でかつて診療所があったが現在は無医村化していると言うこと、そして今年新しいスタッフを募集していると言う情報からかなり特定出来そうでしょうか(ちなみに募集要項を見ますとちゃんと「その他村長が村の活性化に必要と認めた活動」も仕事に含まれるとされているようですね)。
ただ同村(がどこかはともかく)の名誉のために申し上げておきますと、この種の「田舎の村で働いてくれる人募集」的なものはどれもこれも似たようなものと言う声もあって、給料は国からの補助金上限まで(=自治体からの支給ゼロ)でそこから税金や実費と称してあれやこれや差し引かれるだとか、雪かき日当として相場相応程度の補助金が出ているはずなのに何故か給料などないばかりか参加費を徴収されるだとか言う話もあります。
だからどうしたと言う話で、そうした諸々の事情を承知の上で納得した方だけが逝けばいい…もとい、行けばいいだけのことですし、今回たまたまそうした折り合いがつかなかっただけであるわけですが、いずれにしてもまるで嘘や騙し、さらには脅迫のようなことをやってまで人を集めるようなことがあってはならないのは言うまでもないことです。

いささか前置きが長くなりましたけれども、僻地と言われる地域が何かと人手不足であるのは全国各地共通の課題で、そもそも人間がいないから僻地なのであって僻地に人がいないとは本末転倒の話だと言う意見もありますけれども、とにもかくにも社会活動を維持するためには各方面に一定程度の人材が必要であるとされているわけです。
とりわけ専門性が高く緊急の必要性もあると言った仕事の場合は単に人口何人当たりと言うだけでなく、何キロ圏あるいは何時間圏毎と言った地理的要因も加味してその分配を決めるべきだと言う意見は根強くあって、その筆頭格として消防救急であるとか医療と言ったものが挙げられるのも当然ですよね。
この点で医療の中でも産科小児科と言うジャンルは僻地に多い高齢者集落においては需要がさほどにない反面、産科小児科がないから若い住民が入ってこないなどとやり玉に挙げられ行政の重点的整備課題に挙げられやすい、また一方で特に産科の場合は里帰り出産と呼ばれる一時的な流入需要もあるだけに、単純に地域の人口や年齢分布だけで必要性が決められないところがあります。
特に少し走れば都会があると言う地域ならともかく、周辺隣接地域もまた僻地と言った場合にはそのどこかに基地となる基幹施設を置かなければ業務がうまく回りませんが、どこまで行っても僻地が続くと言う地域に外からわざわざ働きに来ようと言う人間が少ないのは医療に限らず当然のことだとして、その解消法として医療の世界としては少しばかり珍しい方法論が採られたと言うニュースが出ています。

日本初、産科医不足に悩む市民病院へ医師を派遣=医療法人 葵鐘会(2014年6月20日ニコニコニュース)

 医療法人 葵鐘会(きしょうかい。愛称はベルネット/所在地・愛知県稲沢市)が近日中に岐阜県中津川市と医師確保に関する協定を結ぶことになった。葵鐘会は2015年4月から10年間、中津川市民病院の婦人科医師不足を解消するため、同病院に医師を派遣する。(画像提供:葵鐘会)

 日本全国で、分娩を取り扱う施設の減少が続いている。中津川市民病院は、「東濃東部地域で唯一残された分娩受け入れ可能な総合病院産婦人科として地域医療の最後の砦となるべく奮闘している」という。

 しかし、同病院も産婦人科医師が不足しており、里帰り出産の受け入れなどはしていなかった

 葵鐘会は2015年4月から医師を派遣する。同病院の産婦人科は「24時間・365日・医師2人体制」で出産に対応できるようになる。現在の分娩制限を解除し、里帰り出産の受け入れもできるようになる見込みだ。

 葵鐘会によると、医療法人などが市民病院と産科医確保のための協定を結ぶのは、日本で初めてという。(編集担当:中山基夫)

民間診療所、「へき地」病院に産科医派遣-10年間、愛知の葵鐘会(2014年6月20日CBニュース)

 愛知、岐阜両県で産婦人科を中心にクリニックを展開している医療法人葵鐘会(愛知県稲沢市)は20日、岐阜県の中津川市民病院と産科医の派遣契約を締結した。派遣期間は2015年4月から10年間。24時間365日、医師2人の体制を提供し、現在の分娩数の制限を解除するほか、里帰り分娩の受け入れを再開する。派遣契約料は年間1億2000万円。葵鐘会によると、民間の医療法人が産科の医師を派遣するのは日本初という。【大島迪子】

 中津川市民病院によると、現在の産婦人科は常勤医2人、非常勤医4人。この体制になった12年10月以降、月の分娩数を30件に制限しており、里帰り分娩も受け入れていない。市内には民間の産科クリニックが1件しかなく、隣接する恵那市にも分娩できる医療施設はない。さらに、来年3月には同病院の常勤医のうち1人が定年退職予定という。

 医師を派遣する葵鐘会は、「ベルクリニック」などの名称で12の産科クリニックや不妊治療センターを展開している。医師は労働者派遣法で派遣できないことになっているが、厚生労働省令で指定される「へき地」に限って医師派遣を認めており、中津川市はこのへき地に指定されている

まずこの記事を見ていて時代が変わったなと思ったのは、地域でほとんど唯一と言ってもいい分娩施設が公立の自治体病院であり、しかも常勤2人に非常勤4人の産科医がいると言いますから僻地の医療機関としてはむしろ恵まれている方だと言ってもいいと思うのですが、そうした状況にある自治体病院においてすら分娩制限が行われているということです。
同院HPを見てみますと非常勤の先生も当直に入っているのでしょうか、一般外来も午前中だけに制限するなどかなり気を遣った態勢になっているのですが、同院では以前にもお産に絡んだ死亡事故があったり、重い後遺症が残って民事で賠償を命じられたりとトラブルが多発してきたようで、どうも現場はかなり危機的な状況に陥っているようです。
その意味では今回民間からの派遣で応援が得られると言うことは非常に助かるのでしょうが、これだけ厳しい状況におかれている中で応援が得られたからと一気に制限を全て解除してしまって大丈夫なのか、落ち着くまで様子を見ながら徐々に緩和していった方が安全なのではないか等々、外野から見ていますとついつい余計な心配もしてしまいますね。

ところで今回の産科医派遣が日本初であると言うことが強調されているのですが、その理由としてそもそも医師ら医療従事者は弁護士等と並んで労働者派遣法で派遣が禁止されている、ただしその例外として以下のような場合には派遣が認められると言うことになっているようです。

(1)紹介予定派遣
(2)病院・診療所等(介護老人保健施設または医療を受ける者の居宅において行われるものを含む)以外の施設(社会福祉施設等)で行われる業務
(3)産前産後休業・育児休業・介護休業中の労働者の代替業務
(4)就業の場所がへき地・離島の病院等及び地域医療の確保のため都道府県(医療対策協議会)が必要と認めた病院等における医師の業務

このうち紹介予定派遣というのはちょっと判りにくいかも知れませんが、一般に派遣と言えば派遣元の会社に勤務していながら派遣先で働くと言う形態ですけれども、紹介予定派遣と言うのはいずれは派遣先に雇用される(紹介)ことを前提にした一時的な派遣と言うことで、言ってみればひとまず本雇用される前に派遣と言う形で労使双方にお試し期間を置くと言う形でしょうか。
考えてみれば医局制度などもお金を取って医局に所属し、あちらこちらの病院に派遣されると言う意味では民間の医師紹介業者などとやっていることは全く同じですし、その意味で派遣が禁止されているのであれば医師が医局からあちらこちらにアルバイトに行かされるのも本当は駄目なのでは?などと考えてしまいますが、一応給料としては医局からではなく病院からもらうと言う点で紹介であって、派遣とは区別されるわけです。
何故医師(を含む医療職)において派遣が禁止されなければならなかったのかですが、基本的に医療と言うものは各職種が密接に連携してチームとして行わなければ非常に危険な仕事であり、そのためどこの誰がチームに入ってくるか判らない派遣と言う勤務形態にはそぐわないと言う判断があったためであるようです。
もちろん当直アルバイトなどの実態を見てもこんな話が現場の現実と無関係に出てきたものだと言う指摘もごもっともですが、実際問題として医師の雇用形態は派遣ではなく紹介と言う形が一般的であったために、これまでは別に何ら実害がなく誰も興味を抱いても来なかったと言うことでもあるのでしょうね。

今回思わぬところから派遣禁止ルールに引っかかりが出来、幸い僻地例外規定で派遣オッケーとなったわけですが、医師の雇用形態としてそもそも派遣と言うことにメリットがあるのかどうか、派遣会社(この場合は民間医療法人)に中抜きされるだけ損なのは明らかだし普通に非常勤として雇用された方がいいんじゃないかと言う考えもありそうです。
もちろん病院側にとっても相場からすれば金額的には決して得とは言えない契約内容だと思いますけれども、仮に自前で同じだけの金額を出してみたところで確実に同じだけの人材が確保出来るかと言えば、まあ可能性は控えめに言っても高くないと言えそうですよね。
派遣のメリットとして送られる側にとっては誰かが必ず来てくれると言う点があるわけですが、裏を返せば被雇用者側にしても週一回決まった時間に必ずその病院で勤務しなくても、派遣会社側との交渉で非常に自由な勤務形態が選べると言うメリットもあり、特に「あ、ここは駄目だ」と感じた時にはいつでも後腐れなく辞められると言うのは特に僻地と呼ばれる地域の場合、実はそれなりに大きなメリットなのかも知れません。
医療職に限らず一般社会においてもこうした自由度を優先して敢えて派遣に留まっていると言う方々が一定数いるようで、特に今の時代ですとあちらでもこちらでもブラックな落とし穴がどこに開いているか判りませんから、常勤にしろ非常勤にしろ本契約を結んで縛られてしまう前に実情を知りいつでも逃げ出せると言う意味では、派遣と言う雇用形態は紹介とはまた別にそれなりに使い勝手が良いと言うことなのでしょうかね。

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コメント

あの村?!

投稿: | 2014年6月24日 (火) 07時56分

うちの実家も相当な田舎ですけどここまでの連携プレーはないです。
ほんとにこんな風だったらプライバシーも何もないですね。

投稿: ぽん太 | 2014年6月24日 (火) 08時51分

派遣会社へ払っている金額がマージンを含んでいるため、
派遣労働者本人に支払われているのは相場程度の時給にもかかわらず、
直接雇用の会社の人間からは、自分の給料よりも人件費のかかっている奴とみられて憎まれたりしますね
直接雇用の医師が、やってらんねえと辞めたりしてw
医師派遣業、儲かりそうだなあ

投稿: | 2014年6月24日 (火) 11時11分

派遣にしても誰の取り分がどれだけになるのかも今後詰めていく必要がありそうですが、相場よりも手取りが下がっても派遣の気楽さを選ぶと言う人も他業種には一定数いるようです。
現場からの引きが強い医師のような専門職の方が、派遣で働くことのメリットはありそうに思いますけれども、まあ派遣で入っても気に入った職場が見つかればもちろん直接就職に切り替えるべきなんだろうとは思います。

投稿: 管理人nobu | 2014年6月24日 (火) 13時06分

いい加減田舎に医者を送るって発想をやめて
色々と集約化したコンパクトシティを目指した方がいいんじゃないの?

投稿: | 2014年6月24日 (火) 13時12分

車移動が当たり前なら田舎暮らしもそう悪くないですよ
歩いて5分のコンビニに行くのも車で5分のスーパーに行くのも大差ないから
田舎だからってへんな色眼鏡でみるのはやめてもらいたいです

投稿: コナン | 2014年6月24日 (火) 13時24分

地域としての僻地が問題となのではなく、さらに心の僻地でもあるというのが問題なのです。

投稿: 疲れ気味 | 2014年6月24日 (火) 15時51分

わかりました、色眼鏡でなく僻地の正直な感想をお答えしましょう。

まず、地理的な条件から学会に行きにくいです。
たいてい人員も少ないですから、交代もしづらいですねえ。
休息は取りづらく、働き方の選択肢も少ないです。産休後の女医さんが働ける場所にも乏しいですし。
地元の人はなぜかこっちの動向をすべて知っていてプライバシーも何も無いですし、
子供を進学校にやるのだって、選択肢が酷く限られます。

で、コナンさんはこれらを帳消しにして余りあるほど魅力のある田舎をご存知なのでしょうか?
これまでどなたかが仰ってましたが、若者が残らない田舎というのは、それなりの理由があるもので……。

投稿: | 2014年6月24日 (火) 17時15分

>地理的に不利
>働き方の選択肢も少ない、人員も少ない
>プライバシーも何も無い
>子供を進学校にやれない

田舎に住んでる人は、すでにその条件で生活してるわけですよね
ただただ、ご自分にはできない、と言えばいいのでは

元々田舎に住んでない人に、ああいう生活は無理なんで仕方ないですよ

投稿: | 2014年6月24日 (火) 17時57分

プライバシーについては確かにちょっと感覚違います
集落全体が家族的っていうか親族的な身内意識があるので
そういうのがきらいな人がいるのはわかりますけど

投稿: コナン | 2014年6月24日 (火) 18時50分

人口50万ほどの中堅都市住まいの私ですが、
「親族的な身内感覚」って恐ろしい言葉に聞こえます。
「骨肉の争い」「近親憎悪」って言葉が有る位で、
親族こそ拗れると、最悪な関係になる事が屢々です。
そして常は、親族ほどには頼りにならない、
いついきなり陰口や疎外を投げ付けられるかも分からない。
田舎にも良さが有るのは当然です、
地獄じゃないんですから、悪い、嫌な事だけで
構成された存在が有るはずがないですから。
人口の推移、これが全てを物語っているとしか言えません。

投稿: | 2014年6月25日 (水) 08時11分

>人口の推移、これが全てを物語っているとしか言えません。

え?
まともに人が住むところじゃないと言われている東京ですが、人口は増えています。

過疎化のもっとも大きな要因は、
そこにある産業では食べていくことが難しく、働く場が少ない。
(食べるだけなら何とでもなるでしょうが、いわゆる普通の暮らしができる収入)
働く場が多い中堅以上の都市まで通勤できる距離じゃない。
ではないでしょうか?

投稿: | 2014年6月25日 (水) 09時36分

いわゆる田園地帯でも都市近郊は人口増えてる

投稿: | 2014年6月25日 (水) 09時43分

言葉足らずでしたね、失礼しました。

>過疎化のもっとも大きな要因は、
>食べていくことが難しく、働く場が少ない。
激しく同意 です、しかしながら

>まともに人が住むところじゃないと言われている東京
これは「誰が」「どのような背景で」発言したかで
意味が全く変わるのではないでしょうか?
住環境や、環境のマイナス以上のプラスが有るから
人口は増え続けているのが東京だと理解しているのですが。
そういった差引勘定はドコにでも付いて回る事ですし
いわゆる「田舎」はその結果マイナスが多い、
だから地元で生まれた若者ですら逃げ出すという構造なのでは?
従ってマイナスもプラスもそれぞれ 何処の土地にも有るでしょうが
マイナスが許容しがたい程に多い場所は、人口推移の上で
顕著にその傾向が現れる事を言いたかったのです。

つまり「田園地帯でも都市近郊は人口増えてる」事は
プラスが上回れば、当然有り得ると理解しています、
田園地帯であることが問題ではないと言う事です。

投稿: | 2014年6月25日 (水) 09時55分

なんという盛り上がりw
おまえらホントは僻地大好きだろw

投稿: aaa | 2014年6月25日 (水) 10時49分

中津川は僻地と言っても、名古屋から中央線で電車一本でいけるので、条件次第では非常勤は集めやすいと思うのですけれどねえ。

少し早起きして電車に乗って一眠りすると、そこは終着駅 中津川駅

投稿: 元非常勤 | 2014年6月27日 (金) 07時02分

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