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2014年6月 3日 (火)

結局誰が引き受けるべきなのか?

救急たらい回しと言うことをマスコミが盛んに取り上げていた時代があり、やがて救急医療の実際が知られるようになった結果報道が抑制的になったり、あるいは不要不急の救急車使用はやめようといったキャンペーンまで張られるようになってきた昨今ですが、やはり一定数のたらいを回されるケースと言うものはあるわけです。
特に何時間も見つからないような極度の受け入れ困難例では単純に近隣病院がどこも一杯であると言った医療需給バランス崩壊だけが理由となることはむしろ少数派で、これは確かに難航するだろうなと推察される背景事情が垣間見えるケースの方が多いのではないかと報道から推察しているのですが、先日報道されたこちらの場合も確かにこれは受け入れ先を探すのも大変だったろうなと考えさせられる症例であったようです。

救急受け入れ38回拒否 川口の骨折女性 昨年、搬送2時間超(2014年5月31日東京新聞)

 埼玉県川口市で昨年二月、自宅で骨折した五十代の女性が、複数の病院から救急搬送の受け入れを計三十八回断られていたことが、県の調査で分かった。

 県によると、女性は入浴のため衣服を脱いだ際に転倒して右脚を骨折し、一一九番した。女性は悪性リンパ腫が脳に転移しており、救急隊員がかかりつけの病院に受け入れを求めたが、病院側は「ベッドが満床」と断った。ほかの病院も「女性の持病は専門外」と断り、搬送先が決まるまでに二時間二十二分かかったという。

 昨年一月には、同県春日部市の路上で動けなくなっていた八十代の男性を警察官が発見して一一九番。だが、病院から受け入れを計三十六回断られ、救急車内で五時間八分待たされた。男性が住所不定で身元引受人がいなかったことが影響したとみられるという。

しかし記事のタイトルが意図的なのか単に判っていないだけなのかですが、骨折が問題なのではなく基礎疾患の方が問題なんだと思いますし、この状況で救急の新患として簡単に受けてくれる施設はさすがにそうはないのは当然と言えば当然で、こういう場合かかりつけがまず外来で受けて引受先を探して紹介入院させれば一番良かったと言うことなんでしょうかね。
ただもちろん地域によってはこうした難しい病気の患者の引受先がどう探しても見つからないと言うケースは十分あり得ることですし、JBM的に考えれば必要な治療も行えないことが判っているのに患者を引き受けてはならないと言うことになっていますから、制度的に見ますと誰が間違っていたと言うわけでもなく起こるべくして起こった状況であったと言えるのかも知れません。
その意味でむしろ記事の後段に紹介されているケースの方がより一般的に発生し得る状況ではないかと思うのですが、治療終了によって退院させればそれで終わりの若年者であればまだしも、身元も引受先も定かでない高齢者となると病気の有無に関わらず誰がその身柄を引き受けるべきなのかはっきりしないものがあって、先日もこんな象徴的なケースがあったと報道されています。

認知症女性に同行、盛岡へ 行政が拒否、京都府警(2014年5月28日47ニュース)

 京都府警右京署は28日、盛岡市に住む認知症の女性(72)が京都市内で見つかり、署員2人が地元まで付き添って引き渡したと明らかにした。女性は独り暮らしで身寄りがなく、盛岡市が受け取りに来るのを拒否したための異例の措置という。

 盛岡市生活福祉課の担当職員は「ほかの都道府県に迎えに行くことは今までなく、距離的に遠かったこともあり、引き受けに行くことはできなかった」としている。

 右京署によると、右京区の寺の職員が27日朝、境内でうつむきながら立っている女性を発見、同署に通報した。京都を訪れた経緯は不明だが、所持品の住基カードなどから住所が分かった。

注目いただきたいのは今回たまたま京都に来ていただけの一時的滞在と言う扱いで住所地の盛岡が引き受けているわけですが、これが例えばいつから京都にいるかもはっきりしない、盛岡には最後にそちらに住民票を写したことが判っているだけと言った場合に、果たしてどちらの自治体が事後の面倒を見るのが妥当か大いに議論の余地もありそうですよね。
さて、先日も紹介したように近年身元不明のまま保護される高齢者が各地で問題化していて、特に東京都の認知症女性が群馬県で7年間にわたって保護されていた事例ではようやく判明した家族に7年間分の保護費用約1000万円を請求か?などとも報じられ大きな話題になったところです。
結局家族への費用請求は行わないことで決着したそうですが、悪いことを考えるならば敢えて身元不明になるような状況下に高齢者を放り出しておいて養育コストを節約する一方で年金等はそのまま受け取っていると言った状況も考えられないでもないだけに、今後こうしたケースにどのように対応していくべきなのか、そして身元不明の状況で誰が身元を引き受け意志決定をすべきなのかと問題は山積していると言えます。
その点で興味深いのがマスコミ等の調査でも全国各地で大勢の身元不明者が存在していると言うことが明らかになってきているわけですが、そもそも身元不明者がいるかどうか調査もしなければ担当者も決まっていないと言う自治体も少なからずある、そして保護はしても個人情報保護の観点から身元不明者の詳細な情報等を公開することすら拒否している自治体もあると言いますから、まだまだ身元判明に至る道は遠そうですよね。

医療の場においても当然こうした方々を引き受けるにあたっては問題が数多くあって、そもそもどこの誰かも判らない場合に生活保護認定も制度上素直に行われるのかと言うことも問題なら、退院後自治体が保護者として引き取ってくれる確証があるのかどうかも問題ですし、例えばA市で発見された方がたらいを回されB市内の病院に搬送された場合にどちらの自治体が保護すべきなのかと言った議論もあり得るでしょう。
基本的にはこれだけ少子高齢化が言われる時代になっているわけで、親族が先にお亡くなりになって年老いた親だけが後に残されると言ったケースもままあるでしょうから、少なくともある程度の年齢になれば独居高齢者には社会的後見人を事前に設定しておくようにすべきだとも思うのですが、特定の自治体が先走ってこうした施策を行うと「あそこに行けば面倒を見てもらえる」と姥捨て山的に見られてしまうかも知れないですよね。
より緊急かつ切実な問題として意志決定能力もなく親族や保護者と言った本人意志の代弁者も存在しない場合、医療現場では何を手がかりとしてどこまでの医療を行っていくべきなのかと言う疑問もあるかと思いますが、ちょうど先日は救急医学会など3学会が合同で救急終末期医療のガイドラインを提示しパブコメ募集を開始していると言うことです。
注目されるのがこのガイドライン、「患者や家族の意思表示の確認が難しい救急や集中治療における終末期医療のガイドライン」として位置づけられていると言う点なのですが、現実問題として考えると親族がいるにも関わらず年単位で身元が判明しないケースもこれだけある中で、一見親族も身内もいないように見える方が本当に天涯孤独なのかどうかを確認すると言うのは非常に難しいだろうとも思えますよね。
それこそ亡くなった後で遺品を整理している段階で思いがけず遠い親族がいることが見つかった、連絡してみると「何故こんなことをしてくれたんだ」と後日クレームが入ると言うことも十分あり得るわけで、ガイドライン的に「まあこのくらいの医療が妥当なんじゃないか?」と提示されても、やはり防衛医療的に行動せざるを得ないと言う局面は少なからずありそうです。

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コメント

誰も引き受けたがらないんだから行政が面倒見るしかないんでしょうけどね…
ただ救急で身元不明の方が来るといまだにちょっと迷いますよね。
さいわいこのあたりでは生保で面倒はみてくれるんですけど。

投稿: ぽん太 | 2014年6月 3日 (火) 09時10分

管理人様へ

>これが例えばいつから京都にいるかもはっきりしない、盛岡には最後にそちらに住民票を写したことが判っているだけと言った場合に、果たしてどちらの自治体が事後の面倒を見るのが妥当か

生活保護法では、行旅人(この表現がただしいかどうかははっきりしませんが)が見つかった場所の自治体が保護することになっています。このルールのせいで大変な思いをすることもありますが・・・

投稿: クマ | 2014年6月 3日 (火) 09時10分

「成年後見」17万人が利用 13年末、親族以外が半数超える
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0203B_S4A600C1CR8000/

投稿: | 2014年6月 3日 (火) 09時17分

>生活保護法では、行旅人(この表現がただしいかどうかははっきりしませんが)が見つかった場所の自治体が保護することになっています。

もちろんおっしゃることはルール上その通りなのですが、現状においても元々住所不定の方ですら最低限の切符代を渡して「大○まで行けば楽に生保取れるよ」と送り出しているような現実があるわけです。
ましてや住民票があるなど特定自治体に一応の関わり合いがあったと言う根拠があれば、なんだかんだと理屈をつけてそちらに送り返そうとする動きは当然に出てくるのではないかと言う気がします。
何しろこの場合自治体にとっては完全に持ち出しとなることが死亡時まで確定的になるのですから、どうしても必要でない限りは出来るだけ抱え込みたくないと言う心理が働くのはやむを得ないと思います。

投稿: 管理人nobu | 2014年6月 3日 (火) 09時47分

全国で数えるほどの数しかいないんでしょう?
行政にとって小さすぎる問題だから放置されてたんじゃないですか?

投稿: てんてん | 2014年6月 3日 (火) 13時17分

管理人様へ
私の自治体では少なくとも自治体が積極的に切符代を渡すだけ、みたいな対応はしていないようです。
ただし、本人が元の生活の拠点に戻ることを希望した場合、きっぷを渡すことはあるようです。先日私が関わった方は航空券を2枚使って帰られました。
身元不明というわけではありませんが、最近多いのは刑務所を出所と同時に生活保護申請というパターン。しかも、出所した刑務所がもともと本人が住んでいた場所と違うというケースが結構あって、そういうのは対応に苦慮しています。

投稿: クマ | 2014年6月 3日 (火) 23時34分

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