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2014年6月16日 (月)

お産に関わる立場の違い

本日まずはこちらの記事を紹介してみましょう。

新型出生前検査で陽性、確定診断受けず2人中絶(2014年6月11日読売新聞)

 妊婦の採血でダウン症などの胎児の病気を調べる新型出生前検査で、病気の疑いがある「陽性」と判定された妊婦2人がその後の確定診断を受けずに人工妊娠中絶をしていたことが読売新聞の取材でわかった。

 新型検査は「陽性」と出ても実際には病気ではないことがあり、検査指針で「医師が十分説明し、理解を得ること」と定めている。検査実施病院を認定する日本医学会は事態を重く見て、病院に詳細な報告を求めた。今後、再発防止に向けた対応を協議する。

 新型検査は例えばダウン症の場合、「陽性」と出ても35歳の妊婦なら20%が、42歳では5%は実際にはダウン症ではないとされる。確定には羊水検査など腹部に針を刺して調べる検査が必要だが、従来の血液検査に比べて精度が高いため、新型検査の結果のみで中絶する恐れが懸念されていた。

この新型出生前検査に関しては以前にもお伝えした通り、一定確率で検査陽性であっても確定診断で異常は無かったと言う事態が発生し得ることが知られていて、それだけに実施各施設とも事前に十分な説明を行い理解を得た上で実施すると言う方針でやっているはずなのですが、それでも確定診断を行わずに中絶をしていたケースが実際にあると言うことをどう考えるのかです。
学会は病院側に問いただす姿勢でいるようですけれども、別ソースによれば当該妊婦はいずれも検査を実施した病院とは別な施設で中絶手術を受けていたと言うことで確信犯的行動と言うのでしょうか、ともかくも検査実施施設ばかりが至らなかったと単純に解釈するのもどうなのかですし、対策を講じたところでこうしたケースを阻止出来るものか微妙ですよね。
何故こうしたことが起こるのかですが、確定診断の羊水穿刺が10万円単位の費用を要しそれなりに高価であることから「それならそのお金を中絶費用に回した方が」と考えてしまうのは、そもそも高齢妊娠の比率が高く不妊治療等長年多額のコストをかけているだろう背景事情を想像するに十分あり得る話だと思いますし、実際年齢が高くなるほど偽陽性の確率は下がってくるわけです(20歳で50%→40歳で10%)。
これに対して「それでも最低10%以上も偽陽性があるじゃないか」だとか言った様々な意見もあるんだと思いますが、結局のところこうした問題は当事者と周囲との間で立場の違いから来る意見の相違はあるもので、制度的にこれこれの通りにしなければ一切検査は受けさせませんとでも言うのでなければ、最終的には各人なりの考え方に委ねるしかないのかなと言う気がします。
さて、その立場による意見の相違と言う点に関連して、先日少しばかり興味深い調査結果が出ていたので紹介してみましょう。

無痛分娩、賛成? 反対??--反対派の大半は男性「子供に対する愛情が薄れる」(2014年6月13日マイナビニュース)

出産には様々なスタイルがあるが、その中の1つで最近注目されているのが「無痛分娩」。薬を使って痛みを和らげるもので、世界的に見ると珍しい方法ではないが、日本では無痛分娩を選択する妊婦さんはまだ少数派。そこで今回は、マイナビニュース会員300名に「無痛分娩での出産、賛成ですか、反対ですか」と聞き、その理由についても質問したので紹介しよう。

Q.無痛分娩での出産、賛成ですか、反対ですか。
賛成 83.0%
反対 17.0%

賛成派の意見
・「痛みの感じ方は人それぞれだから」(49歳女性/学校・教育関連/専門職)
・「お腹を痛めて産んだ子という表現はありますが、痛くなかったからと言って子供が大事じゃなくなるわけでもないですし、余裕があるならそうしたら良いと思います」(23歳女性/運輸・倉庫/販売職・サービス系)
・「生理痛だけでもしにそうだから」(24歳女性/団体・公益法人・官公庁/事務系専門職) ・「よく鼻からスイカ出す感じとか言われるけど、正直怖すぎて自分が耐えられる気がしない」(24歳女性/医療・福祉/専門職)
・「無痛分娩が可能なら賛成、次回に恐怖心が残らないためにも良いと思う」(27歳女性/電機/技術職)
・「わざわざ痛い思いをするのは、美学でもなんでもない」(32歳女性/小売店/販売職・サービス系)
・「痛い思いは誰でもしたくないと思うから」(31歳男性/商社・卸/営業職)
・「痛すぎて、もう2人目を産みたくないと思ってしまう人もいるかもしれないので」(48歳女性/主婦)

反対派の意見は「痛みを伴ってこそ……」
・「痛みを伴ってこそ子供に対する愛情も深まると思う」(31歳男性/機械・精密機器/技術職)
・「自然でないから」(50歳以上男性/不動産/経営・コンサルタント系)
・「なんか出産って感じではないから」(27歳女性/商社・卸/秘書・アシスタント職)
・「痛みを感じないのは自然に反する」(32歳男性/金融・証券/専門職)
・「子供に対する愛情が薄れると思うから」(25歳男性/農林・水産/技術職)
・「痛みを知ってこそ母親になれると思います」(32歳男性/機械・精密機器/技術職)
・「母親としての自覚を持つには痛みにも意味があると思う」(26歳女性/生保・損保/営業職)

無痛分娩賛成派が83.0%となったが、その理由については「本人がしたいようにすればいいと思う」といったもの。「よく鼻からスイカ出す感じとか言われるけど、正直怖すぎて自分が耐えられる気がしない」と、自分自身が出産するときを想定しての意見も見られた。「痛すぎて、もう2人目を産みたくないと思ってしまう人もいるかもしれないので」と、2人目以降の出産に影響が出ることを懸念しての回答もあった。その他、「海外では主流な国もあるから」「他の先進国ではポピュラー」と海外での事例を挙げている回答者も複数いた。
反対派の多くは男性。「自然でないから」や「痛みを知ってこそ母親になれる」といった意見が男性から出ていたのが特徴的だった。日本では「お腹を痛めて産んだ子」といった言葉があるが、そういった考えが根底にあるので海外ほどは無痛分娩が普及しないのかもしれない。

調査時期: 2014年6月3日
調査対象: マイナビニュース会員
調査数: 男性107名・女性193名 合計300名
調査方法: インターネットログイン式アンケート

無痛分娩と言うものに関連した有名な話で、イギリスにおいても当初分娩痛を原罪と同一視する宗教観から反対意見が根強くなかなか普及しなかったのですが、1853年に当時のヴィクトリア女王が無痛分娩を行ったことをきっかけにようやく普及するようになり今では3~4人に1人が無痛分娩を行っていると言いますし、最先進国のフランスやアメリカでは大多数が無痛分娩であると言います。
こうした状況を支える環境としてフランスなどは麻酔科医が日本の2~3倍はいると言いますし、アメリカでも全土で24時間の無痛分娩に対応出来る施設が整っていると言ったように、もちろんそれが可能な状況にあると言うことが前提条件ではあるのでしょうが、日本で無痛分娩がほとんど行われていないと言うのは可能か否かと言う以前に根強い反対意見があるからと言う理由も大きいように思います。
代表的な意見としてまさしく「自然ではない」「痛みを感じてこそ子供に愛情がわく」と言った理由が語られてきたわけですが、今回の調査を見ていて非常に興味深いと思われるのが実は大多数の意見としては「本人の好きにすればいい」と言う賛成意見であると言うこと、そして前述のような伝統的反対意見を唱えているのが実はお産をしない側である男性であったと言う点ですよね。
今回はネットでの調査と言うことで、おそらく年代的に出産経験がないか、あっても乏しい若年世代に対象が偏っているのではないかと思いますし、実際にお産になれば親や姑等周囲の年長者の声も決して小さなものではないと思われますけれども、少なくとも直接的な当事者である若い女性に関して言えば大部分が無痛分娩肯定派であると言う事実はもっと知られていいことだと思います。

医学的には無痛分娩を行ってもお産にまつわる総合的なリスクは特に高くはならないだろうと言ってよさそうですが、日本の場合麻酔管理の都合などもあって無痛分娩なら計画分娩でと言う施設が多いようで、副次的な問題として陣痛促進剤の使用も増えてくるとなればこれに伴う別なリスクも増えてくるのだろうし、産科医側として積極的にお勧めしにくい理由の一端もこのあたりにもあるのかも知れません。
ただお産を経験した人の中には「あんなに苦しいことなら二度とゴメンだ」と言う人も少なくない一方で、特に双方を経験した方々にはお産に対する恐怖感・忌避感が薄まったと言う声が少なくないようですから、少子化対策が叫ばれる時代にあって何もわざわざしんどい思いをせずとも楽に産んでもらった方が社会としてもメリットがあるんじゃないかと言う考え方もあるでしょうね。
その大前提として前述の陣痛促進剤に関わるJBM的なリスクもそうですし、通常のお産と違って大部分助産師にお任せしておけば済むと言うものでもないだけに設備やマンパワーの充実も必要だろうと言うことで、どうしても割高になるコスト面の補助なども含めて周囲の支援も充実してこないことには、やはり男である場合が多い産科医の立場からは積極的に推進しようと言う気にはならないものかも知れません。

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コメント

>反対派の多くは男性。「自然でないから」や「痛みを知ってこそ母親になれる」といった意見が男性から出ていたのが特徴的だった。

なんとなく女親がそう言ってる気がしてたんで意外なんですが。
でも男がこんなこと言うってちょっとどうなんだろうなあ…
自分が妻の立場だったら夫からこんなこと言われたら「ふざけんな」ですよきっと。

投稿: ぽん太 | 2014年6月16日 (月) 09時34分

私の無痛分娩施行例は、2例=自分の子供の数です。ようするに、嫁さんの出産にしか実施したことがありません。土日深夜時間を問わないことを考えると、1例10万でもやりません。実施の多いアメリカでは、麻酔科のドクターフィーが別途あるようです。我々が要求する対価と、世間とのズレも大きいと思います。(産科院長とは明確にズレてました。5万でやりませんか?と提案されました。当然お断りしましたが。)

投稿: 関西の麻酔科 | 2014年6月16日 (月) 09時46分

お産は自費払いなんだからオプション料金とる分にはかまわないんじゃないかな
プラス15万~20万と件数上限ありだったらどうだろう?

投稿: てるてる | 2014年6月16日 (月) 10時23分

無痛分娩が主流の国は、どれくらいの費用でやってるのでしょうね?

投稿: | 2014年6月16日 (月) 10時39分

>5万でやりませんか?

日本産科婦人科学会はコイツ除名しろよw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年6月16日 (月) 10時56分

アメリカの場合は出産費用は全くケースバイケースですが、硬膜外麻酔の追加費用については3000ドル~10000ドルくらいのようです(ただし保険に入っていれば当然支払い額は安くなりますが)。
日本においては15万円程度と言う金額を聞いたのですが、正直現状ではあまり大勢の希望者が出てきてもキャパシティーが不足してしまうでしょうし、少なくともディスカウントを推奨する環境ではなさそうです。

投稿: 管理人nobu | 2014年6月16日 (月) 10時56分

>>(産科院長とは明確にズレてました。5万でやりませんか?と提案されました。当然お断りしましたが。)

院長目線じゃ楽なお産がお得価格でできます!って売り文句で顧客ゲットできるんだから当然の要求かと。
ト○タが下請け業者に徹底的に値引き要求して安売りでシェア伸ばすのと同じことでしょ。

投稿: | 2014年6月16日 (月) 11時13分

利用したいけど10万円を超えたらちょっと考えますね
利用者にとってはなるべく安くして欲しいものですけど

投稿: てんてん | 2014年6月16日 (月) 12時49分

>3000ドル~10000ドル

これで、大多数が無痛分娩をやってるのですか?へえー
大多数といったら、かつかつの生活の人だって相当割合いるんでしょうからそう言う人も含まれますよね・・・
ということは、保険での補填が機能している?
しかしそれも、大多数が保険に加入していなければ成り立たない話ですが、そうなのだろうか。

投稿: | 2014年6月16日 (月) 14時50分

すみません、ざっとググってみた程度なので上で記載した金額は分娩費用込みになっている可能性もあるかも知れません。
改めて探してみますと硬膜外追加費用が1000ドル台と言うところもあるようですから、日本よりもずっと高い部屋代等々で総額100万超だと言う分娩費用全体の中では必ずしも高価すぎるわけでもなさそうです。
そもそも麻酔で高いドクターフィーのかかるハイクラスのお産を選択する方々はあらかじめそれに備えた保険に入っているでしょうから、無保険者以外にとってはそう無理な金額でもないのでしょう。

投稿: 管理人nobu | 2014年6月16日 (月) 15時08分

友人の嫁がアメリカで約10年前出産しました。ちゃんと?見積書を貰うようです。1週間入院硬膜外費用や小児科医診察代も含めて150万ということでした。麻酔断って、二日で帰って、結果なんとか80万に抑えたそうです。

投稿: 関西の麻酔科医 | 2014年6月17日 (火) 09時02分

>麻酔断って、二日で帰って、結果なんとか80万に抑えた

要するに、医者だって自分らが受ける立場になれば、バカ高い麻酔なんか断るということじゃんw

投稿: | 2014年6月17日 (火) 10時12分

10万くらいの差だったら楽な方がいいな

投稿: | 2014年6月17日 (火) 10時24分

↑友人が医者だなんてどこにも書いてありませんが?

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年6月17日 (火) 10時28分

>要するに、医者だって自分らが受ける立場になれば、バカ高い麻酔なんか断るということじゃんw

高い医療を患者が断るのも自由ですが、安い医療を医者が断るのも自由です。ですので、日本では、無痛分娩が市場として成立していません。アメリカでは成立していますので、見積もりを見て患者が決定するのです。ケチな日本では、今後も市場として成立しないでしょう。

投稿: 関西の麻酔科医 | 2014年6月17日 (火) 10時29分

親が娘に麻酔の費用をカンパしてあげればいいんじゃないかな?
どこの親だって子供が苦しむのは嫌でしょ。
出産祝い代わりと思えばそう法外な値段でもないのだし。

投稿: ぽん太 | 2014年6月17日 (火) 10時41分

そもそも論ですが、無痛分娩反対17%は、無料でも反対なんでしょう。一方、賛成83%は、無料なら受ける、や5万なら受ける、が相当混ざっています。20万でも受けるが50%を超えているなら、もう普及しています。

投稿: 関西の麻酔科医 | 2014年6月17日 (火) 10時46分

>20万でも受けるが50%を超えているなら、もう普及しています

ふうん・・・麻酔科医は十分足りてるんですね、へええ

投稿: | 2014年6月18日 (水) 11時08分

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