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2014年5月14日 (水)

救急の現場で代用的行為が広まる?

救急医療と産科医療と言えば昨今崩壊が叫ばれる二大巨頭と言ってもいいものですが、この両者が合併した産科救急ともなればどれだけ大変なことなのかと思わず身構えてしまいますよね。
ただ思いがけない急病にいつ何時襲われるかも判らない救急と違って、産科の場合基本的には妊娠が判明した時点でかかりつけ医を持ち定期検診によって状況を把握していれば一朝事あるときにもそうそう困ったことにはならないはずなのですが、検診も受診せず産気づいてから救急車を呼んで産科に駆け込むと言う「飛び込み出産(俗に言う野良妊婦)」の場合その限りではありません。
要するに約1年の準備期間がある妊娠というイベントに関しては一般救急と違って当事者側の準備によって大いに話が変わってくるし、特に救急搬送業務自体が需要急増で逼迫している中で計画的対応によって無闇に救急車を呼ばなくても済むようになれば当事者のみならず社会的利益もあると言うことなんですが、そうした社会的要請を反映してかこんな新業務が登場していると言うことです。

広がる「陣痛タクシー」=事前登録で病院まで―研修乗務員、防水シート装備も(2014年4月28日時事ドットコム)

 「陣痛が始まってからタクシーを呼んでいいだろうか。途中で破水してしまったら…」。妊婦のこうした不安を解消するため、防水シートなどを車両に装備し、研修で出産の専門知識を身に付けたドライバーが、自宅から病院まで妊婦を送迎するタクシーサービスが広がっている。

 「陣痛は始まっていますか。行き先の病院に変更はありませんか」。4月中旬の深夜、東京都世田谷区の妊婦からの電話に、オペレーターの女性が応じた。妊婦の自宅とかかりつけ病院の住所は事前に登録済み。付き添いの家族や破水の有無など2、3の質問を終えると、直ちに最寄りの空車を派遣した。
 当日、妊婦の元へ向かったのは乗務員の松原文相さん(41)。初めての陣痛搬送で緊張したが、「いつも通り安全に送り届けよう」と気持ちを切り替え、後部座席にシートを敷いた。夫に付き添われて乗車した女性は、時折苦しそうな声を漏らして横たわっていたが、病院で降りる際には「ありがとうございました」と声を掛けてくれた。

 全国ハイヤー・タクシー連合会によると、「陣痛110番」「マタニティータクシー」などと呼ばれる妊婦向けサービスは、2012年ごろから急増。タオルや防水シートを装備したり、混乱しかねない妊婦のために料金の後日払いを可能にしたりと、会社によってサービスはさまざまだ。
 今年4月現在、同連合会加盟事業者の5%を超える325社が、何らかの妊婦向けサービスを取り入れているという。松原さんが所属する都内大手「kmタクシー」は昨年3月からの参入だが、既に6700人以上を陣痛搬送した

この業務、事前に妊婦の自宅やかかりつけ先を登録しているというのが非常に重要なポイントで、もちろん今の時代ですから個人情報を云々する向きもあるかも知れませんけれども、いざ産気づいたと言うときには単に一報すれば最優先で指定先に送り届けてもらえるというのは切羽詰まった妊婦さんにとっても非常に心強いはずですよね。
実際の利用者数を見ても約1年で1社だけで6700人とは大変な実績ですけれども、もちろん多くの妊婦は(たまたま家族に自家用車で送ってもらうと言った場合は別として)分娩に当たって即救急車と言うことにはならないでしょうから、どうせタクシーを呼ぶのであればこうした専用のサービスを利用したいと考えるだろうことは十分理解出来ることです。
しかし当然ながらタクシー搬送となれば救急車と違って利用するのにお金がかかる、そして救急車よりも医療的対応や迅速性には劣るとなれば、これを利用する人は自ら一定のデメリットを甘受すると言うある種の犠牲的精神が必要になってくるとも言え、言ってみれば飛び込み出産などと言うことを考えない「民度の高い」方々が自ら不利益を被っていると言う言い方も出来るのかも知れません。
やはり人間を集団として考えるとこうした個人の資質や善意ばかりに依存したやり方はなかなかうまく行かない部分もあるもので、例えばこうしたサービスを利用した方々には分娩費用の補助が割り増しになるだとか、あるいはタクシー搬送中に何かしらあった場合に備えて公的な保険の類を用意しておくであるとか、個人の努力で社会も利益を得る分は何かしらのインセンティブとして個人に還元していくべきかと思いますね。

さて、同じく救急崩壊と言う現象から派生したもう一つの業務拡大として今春から救命救急士による各種医療行為の実施が認められたことが挙げられますが、これは全国一律に行うと言うものではなく各地域毎に救命救急士に対する教育や、医師からの具体的指示を得られる状況整備と言った環境整備の進展に併せて順次行っていくこととする厚労省のプロトコールが提示されています。
この点で興味深いのは制度発足以前に救命救急士が独断で点滴を行うなど数々の「違法行為」までしてきたとも報じられていることから、現場では前のめりに一刻も早く研修も体制整備も済ませて実施に向け全力疾走しているのかと思えば必ずしもさにあらずで、この辺りは当の救急隊は元より自治体レベルの行政も含めて救急と言うものに対しての認識の差と言うものが現れているようにも思えますね。
そんな中で東京消防庁が早速4月1日から運用を開始していて、国が定めた10時間の講義と14時間の実習を上回る12時間の講義と23時間の実習からなる教育プログラムを実施したと言いますからずいぶんと気合いが入っていますけれども、予定を上回る参加希望者が出るなど今後も順調に研修終了者を増やし、最終的には全救急車に有資格者を乗せる計画だと言います。
東京などは救急崩壊が問題化した地域でもありますから当事者意識も強いのでしょうが、もう一方の救急当事者である受け入れ側の認識がどのようなものとなっているのかと言えば、これまた人により地域により千差万別であるようで、必ずしも課題無しともしないようです。

救急救命士、輸液や血糖測定が可能に(2014年5月13日日経メディカル)
より抜粋

(略)
救急医は歓迎、ただし「落とし穴もたくさんある」
 救急救命士の処置範囲拡大について、現場ではどのようにとらえられているのだろうか。川越救急クリニック(埼玉県川越市)院長の上原淳氏は、「救急医療の現状を考えれば、医師の過重労働を軽減すべく、医師以外の医療スタッフが行える処置範囲を拡大すべき」と歓迎する。また、低血糖による意識障害の患者が搬送先選定に時間を要し、低血糖状態が長く続けば、脳へのダメージが脳梗塞と同程度にまで高まることもある。上原氏は、「搬送先が決まるまでの間に血糖値を測定し、低血糖の場合はブドウ糖溶液を投与できれば、患者が助かる可能性が高まる」と期待する。

 一方で、「落とし穴もたくさんある」(上原氏)。上原氏が危惧するのは、ブドウ糖溶液の投与によって患者の意識が回復することで、患者自身が搬送を拒否したり、搬送先の医師が意識障害の要因として低血糖以外を検討せずに済ませてしまう可能性があること。「意識障害を起こしたのであれば、医療機関できっちり原因を鑑別すべき。さらに、作用時間が長い血糖降下薬だと、再度低血糖を起こす恐れもある」と警告する。

 実際、実証研究でも、病院の選定に要する連絡回数は、介入群で有意に多い傾向にあった。これは、ブドウ糖溶液の投与によって血糖値が改善したことで、搬送先が決まりにくくなるといった事案が発生したことが一因ではないかと考えられている。

 また、上原氏は「救急救命士の判断に誤りがあった場合、脳出血を起こしているのに低血糖への処置がされ、搬送先で手遅れになるという可能性もある」と指摘する。

 こうした救急救命士の判断ミスによる有害事象は、実証研究では報告されていない。ただし、有害事象につながる恐れがあったケースとしては、「血糖測定のために穿刺を行ったが、血液の流出がなく測定できなかった」「血管が細く、静脈路を確保できなかった」などが報告されている。特に簡易血糖測定装置による血糖測定については、上原氏も「採取した血液の量が不十分で、全く異なる値を示すこともある」と強調する。有害事象の発生を防ぐためにも、救急救命士の判断や手技の精度を高めるべく、各地域でしっかりとした教育体制を整える必要があるだろう。

 野口氏は、救急救命士と医師の両方が教育にかかわるべきという意見。「ドクターカーが運用されているある地域では、救急救命士が医師の手技を現場で見る機会が多いため、静脈路確保の成績も大変良いという報告もある」(野口氏)。
(略)

ここで興味深いのは低血糖患者の搬送受け入れ依頼に関して「病院の選定に要する連絡回数は、介入群で有意に多い傾向」だったと言う実証研究での結果なのですが、本当の救急なら受けるがそうでなければなるべく受けたくないと言う受け入れ側の認識も垣間見えるようですし、いわゆる問題患者が何でもかんでも救急車で乗り付けたがると言う心理にいわば裏付けを与えるデータだとも言えるかも知れません。
ただ同じ低血糖を来した糖尿病患者でも意識障害があるとなれば緊急性はあるとして、意識があるのであればまずはかかりつけ医に相談してからで構わないのではないかと言う考え方もあって、この辺りは今後救急隊による処置が拡大され奏功例も増えていくと従来のようにまず高次救急に搬送すると言うスタイルばかりではなく、かかりつけ医に連絡し指示を仰ぐと言うルートも考慮すべきなのでしょうね。
ただ救急搬送側の事情を考えてみると、単に受け入れ先を探して搬送するだけであれば例えば出動一回30分で済んでいたものが、現場で処置を行いかかりつけ医に連絡をし場合によってはさらにそこから改めて搬送先を探すと言うことになれば30分では到底収まらず、今まで以上に搬送業務の手間ひまが増え需給バランスがますます破綻するということにもなりかねません。
この辺りは救急隊が単に搬送役たるに留まらず業務が拡大することの副作用とも言えますが、さらに加えて受け入れ側にしても必ずしも全てが業務拡大に積極賛成していると言うわけではなく、「下手くそがルート確保に手間取るくらいならさっさと搬送しろ」と言う声も未だにあるわけですから、やはり本業たる一刻も早い搬送と言う部分については最優先の命題たることを肝に銘じていただきたいですよね。

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コメント

責任とらない侵襲的行為が広まるのはどうなのか

投稿: | 2014年5月14日 (水) 07時55分

野良妊婦にペナルティーって難しいですかねえ。
ふつうの妊婦さんにサービスするしかないでしょうか?

投稿: ぽん太 | 2014年5月14日 (水) 08時28分

>野良妊婦にペナルティーって難しいですかねえ。

野良は診ない。野良を診させるような病院には勤めない、で充分かと。何人か見せしめにして野良のハイリスクを周知させれば妊婦死亡率も減るしいい事ずくめw
でもそんな事が可能ならそもそも産科医なんかやってないやねw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年5月14日 (水) 10時08分

いわゆる野良妊婦に関してはいざと言うときの搬送先決定の遅れなど、すでにそれなりのペナルティは存在しているようにも思いますが。
それよりもトラブルが発生したときに野良であったことがその原因であると言う社会的コンセンサスが成立するかどうかが重要かと言う気がします。

投稿: 管理人nobu | 2014年5月14日 (水) 11時03分

他人の仕事を代用行為扱いする医者の傲慢さに反吐が出る
お前らだけで勝手に人体実験でもやってろ

投稿: | 2014年5月14日 (水) 15時45分

野良妊婦が「不届き」だから断る、ペナルティ付けろというなら、
定期健診受けてない人など、自己管理すらしてない不届きな奴だから、医者に来たら罰金だな
不調でも放置してて搬送された人なんてのも、罰金だな
危険業務、自動車運転、スポーツ選手だって、それで怪我したら罰金でいいよな
山登りや渓流釣りで足滑らせたとか、救助なんかする必要もないね


投稿: | 2014年5月14日 (水) 16時26分

↑他は全然オーケーなんですけど、

>渓流釣りで足滑らせたとか

コレだけは勘弁して下さいw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年5月16日 (金) 11時59分

あと車の運転もw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年5月16日 (金) 12時05分

>定期健診受けてない人など、自己管理すらしてない不届きな奴だから、医者に来たら罰金だな

麻生さんはじめこれあちこちで言ってるのに反対する人どういうつもりなんだろ?

投稿: | 2014年5月16日 (金) 12時20分

異常出産=健康保険

危険業務による怪我=労災保険
スポーツ選手の怪我=断言はしないけど労災では?
自動車事故=自費ないし自動車保険

同列に扱う理屈がわかりませんな。

山登りや渓流釣りにいく人は損害保険加入を義務づければよいかと。

投稿: JSJ | 2014年5月16日 (金) 12時36分

師匠、魚飽きたって…

投稿: JSJ | 2014年5月16日 (金) 13時30分

治療費がどこから出てるかじゃなく、「不届き」だからペナルティ(例えば断るとか後回しとか割増料金とか低サービスとか)の認定要件だよ
危険を認識できたはずで、自己管理(危険な行為に手を出さないを含む)を怠ったということでいえば、みな不届きかと

あと、喫煙者の肺がんなんてのも自費で治療させるとか、後回しでいいのかな
山登りや渓流釣りは、損保加入というより、救助は民間会社に自費で要請かな
警察や自衛隊なども社会インフラだし、
要は、不届き者は社会インフラを使うなってことなんだろうから

投稿: | 2014年5月16日 (金) 13時34分

世界的にみたらそういうのは自己責任ってのが普通で、日本のように誰かに責任を取らせるって考え方が異常なのかも

投稿: たま | 2014年5月16日 (金) 13時51分

>師匠、魚飽きたって…

釣りは飽きてないんですよw。で、キャッチ&リリースは信条に反するもんで気が付くとコレhttp://www.hiehie.jp/11021.htmlが満杯ww

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年5月16日 (金) 15時28分

>治療費がどこから出てるかじゃなく、「不届き」だからペナルティの認定要件だよ

自動車保険とか損害保険を例に出せば分かりやすいかと思ったのですが、
保険料という形でリスクを冒すことに対して予めペナルティを払っているわけですよ。
リスクの程度によって保険料も変わりますし。
この限りにおいて、予め保険をかけておくのも、保険をかけずに事後に全額払うのも等価でしょう。

それに対して健康保険はリスクに応じて保険料が変わるようにはなっていません。
そこが同列には扱えない、と私が主張する所以です。

>救助は民間会社に自費で要請かな
その費用の担保も含めた損害保険です。

投稿: JSJ | 2014年5月16日 (金) 15時40分

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