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2014年5月19日 (月)

負担が増えれば消費は鈍るはずだという皮算用

高齢者医療費の伸びが気になるのは財政上の負担だけでなく、実際にそれを負担する国民にとっても同じだと思いますけれども、先日特に現役世代にとって気になるだろうこんな記事が出ていました。

後期医療、現役世代の負担増へ 高齢者保険料の伸び抑制(2014年5月17日東京新聞)

 厚生労働省は16日、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度で現役世代が支払っている支援金の算出方法を見直し、現役世代の保険料負担を増やす検討に入った。その分、高齢者の保険料の増加を抑える狙い。患者の窓口負担を除く給付費に占める、高齢者が納めた保険料の割合を2024年度時点で約1%引き下げる内容。

 健康保険組合や協会けんぽなど現役世代の医療保険制度では、高齢化で支援金が膨らんだ影響で保険料率の引き上げ傾向が続いており、さらなる負担増には反発が必至だ。

 厚労省は月内にも社会保障審議会医療保険部会に見直し方針を提示。来年の通常国会への関連法案提出を目指す。

基本的に医療費はどんどん増えていく一方であり、これに対して年金収入は必ずしも順調に伸びているとは言い難い現状ですから、定額収入に頼る高齢者にこれ以上の費用負担をさせるのは忍びない…と言う表向きの建前としては格好が付くとして、実際にはもちろん社会的(あるいはマスコミ的?)な反発を避けると言う気持ちが大きいのだと思いますが、問題は高齢者にとってはともかく現役世代にとってどう受け止められるかです。
現実に医療給付を受けると言う点で直接的な受益者であり、また各種の社会統計上も各世代の中でも一番お金を持っている人々をさらに優遇し、ワープア化が言われて久しい現役世代の負担ばかりを増すとなるとますます世代間資産格差は拡大する、それならせめて窓口負担くらいは現役並みにしろと言う意見も出てきそうな気もしますけれども、まあマスコミなどではそうした意見は採り上げられないのでしょうね。
ただ留意すべき点として、後期高齢者と言えば自らの医療内容に対して自ら意志決定する機会が次第に失われていく年代でもあって、結局のところ現役世代がその意志決定を行い高齢者医療費の増減を支配しているのだと考えると負担増は自己責任の結果であると言う考え方も成立するわけですから、今後理念以上に費用負担という面からも高齢者医療と言うもののあり方がさらにシビアに問われていくことになるのかも知れません。

ともかくも皆保険制度下の日本では長年お金のことで医療に差が付くなどとんでもない、誰しも最善の医療をお金のことは気にせず提供されて当然であると言う考え方が定着してきたわけですが、そうなりますと医療給付は多ければ多いほど皆が幸せになれると言うことになりますから、利用者である国民にしろ提供側である医療機関にしろどんどん高額な医療を利用する方向に認識が向かってしまうのは当然の結果ですよね。
この結果際限なく増え続ける医療費を抑制するために国は診療報酬を削減し医療単価を安くすることで総額の抑え込みを図ってきたわけですが、当然ながら医療機関側としては報酬切り下げによる減収分を多売で補わざるを得ない、そしてその結果医療現場はますます仕事量が増え人手不足が深刻化し、ついには国を動かし医師らの大増員政策に舵を取ってきたわけです。
もちろん働く人間が増えれば支払うべき給与コストも増えるし、働ける仕事量の総量も今まで以上に増えていくのは当然ですから、出来高払い制度下で医療費は今後も増え続けるのはまず間違いないはずですが、これに対して例えばDPCのような定額払い制度の導入によって医療費を抑える試みをしたところで、結局医療機関も商売である以上はより多くの報酬を得るためあの手この手で行動するのは当然で、そうそう大きな抑制効果があるとも思えません。
そうなると医療の提供側ではなく利用者側対策と言うものがどうしても必要になる理屈で、昨今ではいかに国民を啓蒙し医療の需要を減らしていくかと言うことが盛んに言われるようになっていますけれども、その戦略の一環としてこんな対策が検討されていると言う記事が出ていました。

健康優良企業の健保は国への納付金を減額…政府(2014年05月18日読売新聞)

 政府は、従業員がより健康になると、企業が国に払う医療関連のお金が減る新制度を導入する検討に入った。

 企業が従業員の健康向上に熱心に取り組むよう促し、国民の健康水準を高めることで、国の医療費の増大に歯止めをかける狙いがある。

 政府は6月にまとめる成長戦略に盛り込んだうえで、制度の詳細を詰め、2015年度にも新制度を始めたい考えだ。

 新制度の対象は当面、企業の健康保険組合(健保組合)とする。75歳以上の医療保険の仕組みである「後期高齢者医療制度」の中で、働く世代が高齢者を支えるため、健保組合は「後期高齢者支援金」と呼ばれるお金を国に年約1・6兆円納めている。

 政府は、従業員の健康診断の受診率に加え、〈1〉血液関係の数値など健康診断の結果〈2〉病気による従業員の休職率〈3〉メタボリックシンドロームの状態にある従業員の割合――などが良くなったかどうかをみる。改善が進んだ健保組合は後期高齢者支援金の額を減らし、負担を軽くする。逆に、健康診断を受ける従業員が少ない企業などはこの支援金を増やすことも検討する。

基本的に例のメタボ検診と言うものによって不健康な従業員が多いと見なされると企業ら保険者側に各種ペナルティーがあることは周知の通りですが、特に企業の場合はこれが従業員の選別すなわち健康不良従業員の雇い止め等にもつながっていると言う現実があって、今回のご褒美に関しても基本的には同じ問題が発生し得るものと言えそうです。
これを避けるためには集団としての改善率で見るのではなく、個々の従業員が実際にどれくらい改善しているかを指標にする方が妥当だと思うのですが、昨今では労働者の流動化が進んでいて必ずしも毎年毎年同じ会社で健診を受けるとも限らないでしょうし、また数字の悪い従業員はさっさと関連会社に異動させたりすると言ったことをされるとどうしようもありません。
特に企業城下町と言われるような大企業の系列化が進んでいる地域では、親会社から子会社へと健診成績の悪い従業員がつけ回されると言うことも十分あり得ると思いますけれども、やはり本来的には企業等の保険者ではなく数字が悪い個人に対してペナルティなりインセンティブなりを付与していく方が国民健康水準の向上にも医療費抑制にもより確実に寄与するのではないかなと言う気がします。
ただもちろん、大げさなことを言えば健康であることを目指すかどうかは個人の思想信条にも関わる問題でもありますし、もともと努力しても進行していくような基礎疾患を持っているような人が不利になると言うこともあるわけですから、単純に選挙対策ということで考えてもペナルティと言うことは言い出しにくく、可能性として高いのは麻生氏などが言っていたような健康であることへのインセンティブの付与と言うことになるのでしょうか。

医療費抑制の観点からするとやはり医療を受ける国民側への対策が必要であり、それに有効なのは間接的な税金や保険料の引き上げよりも直接的な窓口自己負担の引き上げであると考えられますが、先日は紹介状無しの大病院受診について、現在認められている選定療養の加算とは別に初診料・再診料分(それぞれ2820円、720円)は全額自己負担にすると厚労省が決めたようです。
保険外でプラスアルファの支払いを求める選定療養と違ってこちらは保険で支払っていたものを自費にするわけで、直接的な受診抑制効果に加えて副次的に医療費の公的負担を削減する効果もあるはずですが、減った分の患者が中小病院や診療所に流れるのか受診そのものを取りやめることになるのかで、特に前者の場合は結局のところ医療費が高くなるのか安くなるのか確定していないように思います。
無論多くの一般疾患は町医者レベルの「安い診療」で十分対応出来るとしても、例えば特定領域の専門家であればちょっとしたポイントを押さえた診察程度で白黒付けられる疾患でも、こつを知らない一般医であればあれやこれやと高い検査を繰り返しそれでも診断がつかないで専門家に送ると言う二度手間になる可能性もあるわけで、しかもその際には紹介状の文書費用と新たな初診料をいただくわけです。
そう考えると大病院限定の受診抑制政策は高い専門的な医療を控えさせると言うよりも、今のところ患者が多忙な大病院に集中することを押さえる効果が主体だと思われますけれども、これまた副次的に大病院の受診抑制を図った場合に患者行動がどう変化し、医療費が高くなるか安くなるかと言うデータは得られるわけですから、今度はそれを根拠として二の矢、三の矢を放つことは出来るのでしょうね。

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コメント

毎回の個人負担が多少増えても高額側の上限が上がらなければ許容範囲かと。
ただ軽い病気しかしない若い人にはますます保険の意味が減るでしょうね。
完全フリーアクセスさえこだわらなければもう少しやりようがあるのでしょうか?

投稿: ぽん太 | 2014年5月19日 (月) 09時23分

>従業員がより健康になると、企業が国に払う医療関連のお金が減る新制度を導入

どうみても有病従業員解雇推進政策です本当にありがとうございましたw

投稿: aaa | 2014年5月19日 (月) 10時07分

現在推進されている主治医制は、基礎疾患を持ち定期的に医療受診をしている患者に関しては過度の医療リソース浪費に対して抑制的に働くものと思われます。
普段の通院歴がない患者が突発的に受診してくるケースに対しては大きな効果が見込めませんが、こうしたケースは多忙な大病院にとって迷惑ではあっても医療費増加に対する影響は限定的に思えます。
将来的に英国式とまではいかないまでも家庭医から専門医へ必要に応じて紹介と言う流れを作るためには、そうした方がお得であると言うインセンティブをどこまで用意出来るかですね。

投稿: 管理人nobu | 2014年5月19日 (月) 11時02分

年金も医療もいつまで小手先ばっかいじって済まそうとするんだろ
いい加減にしてほしい
年金も
1給付を減らすか
2受給開始年齢を上げるか
3現役世代に負担させるか
しかないと今の水準の維持は無理だと説明するべき

最も高齢者は数が多く投票率も高い事からあっさり3を選択しそうですが...
どうにかなりませんかね?
例えば選挙区の区割りを年齢ごとに分けるとか

投稿: | 2014年5月19日 (月) 12時35分

後期高齢者世代の人って人口は多いけど、選挙に行けない寝たきりの人も多いはずですよね?
ひとまとめに老人票って言っても後期予備軍の前期高齢者が老人全体の意見を代弁してるのかな?
それだったら見た目ほどは老人票は多くないし勝ち目もあるかもですね。

投稿: てんてん | 2014年5月19日 (月) 13時10分

いま一番やっかいなのは75−80くらいの高齢者という役所の方の声を聴きました。1時間くらい、何も建設的なことを言わずに批判ばっかり、がザラだそうです。絶対数がすくなくても、インパクトが多ければ重視せざるを得ないって(対策を)のは、クレーマー問題と同様ですね。

あと、テレビを見ている、新聞を取っている世代を考えると、もうすこしわかりやすいですかね。
ターゲットが高齢者となっている、主要マスコミが批判する施策はとりにくいわけです。

投稿: おちゃ | 2014年5月19日 (月) 15時50分

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