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2014年5月22日 (木)

医療現場での感染防御対策が杜撰なのではと話題に

先日はHIV陽性患者が実質的にかかりつけ歯科医から診療を断られたと言う話を紹介しましたが、それに関連してどうやらいささか危なっかしいと言う歯科治療での感染防御の実態が報じられています。

歯削る機器 7割使い回し…院内感染懸念(2014年5月19日読売新聞)

 歯を削る医療機器を滅菌せず使い回している歯科医療機関が約7割に上る可能性のあることが、国立感染症研究所などの研究班の調査でわかった。
 患者がウイルスや細菌に感染する恐れがあり、研究班は患者ごとに清潔な機器と交換するよう呼びかけている。

 調査対象は、歯を削るドリルを取り付けた柄の部分。歯には直接触れないが、治療の際には口に入れるため、唾液や血液が付着しやすい。標準的な院内感染対策を示した日本歯科医学会の指針は、使用後は高温で滅菌した機器と交換するよう定めている。
 調査は、特定の県の歯科医療機関3152施設に対して実施した。2014年1月までに891施設(28%)から回答を得た。
 滅菌した機器に交換しているか聞いたところ、「患者ごとに必ず交換」との回答は34%だった。一方、「交換していない」は17%、「時々交換」は14%、「感染症にかかっている患者の場合は交換」は35%で、計66%で適切に交換しておらず、指針を逸脱していた。
 別の県でも同じ調査を07~13年に4回行い、使い回しは平均71%だった。

 研究班の泉福(せんぷく)英信・国立感染症研究所室長によると、多くの歯科では、人手や費用がかかり、簡単な消毒や洗浄をしただけで繰り返し使っているとみられる。
 厚生労働省によると、歯科での院内感染は原因の特定が難しく、国内で明らかになった例はない
 感染症に詳しい浜松医療センターの矢野邦夫副院長は「簡単な消毒では、機器を介して患者に感染する恐れのあるウイルスもある。十分な院内感染対策を取ってほしい」と話している。

もちろん口の中に直接突っ込む部分に関してはちゃんと交換しているのでしょうが、柄の部分を交換していないと言うのは一つには記事にあるようにそこからも感染するリスクがないわけではないと言う点と、それ以上に汚れた機器を触る手指を通じてあちらこちらに汚染が広がりやすいと言う点で、素人目にもそんなことで大丈夫なのか?と不安になりそうな話ですよね。
確かに歯科では自分がやった処置で感染症が発生すると言う実感に乏しいのだろうと言いますか、緊急やむを得ざる理由で必要最低限度の輸血を行ったとしても事後に感染マーカーが陽性になった時の気まずさなど経験したことがないのでしょうし、そもそも処置前後の感染症チェックを日常的に行っていると言うわけでもないでしょうから実態把握自体が難しいところはあるのでしょう。
ただこの辺りは医科において考えてみると内視鏡検査などがちょうど類似しているのではないかと思うのですが、こちらでは胃カメラ等を使用すればカメラ自体はハンドル部分までまるごと光源装置から取り外してその都度全体を洗浄消毒するのが基本ですけれども、これも20年ほど前に内視鏡検査を介したピロリ菌感染などが話題になってから消毒の重要性がようやく徹底されるようになったとも言えます。
そして現段階でも飛沫等のレベルまで考えてみると必ずしも検査室全体で完全防御の体制を取れているとは言い切れず、現状の対応で医原性の感染症のリスクがどれくらいあるのかきちんとしたデータが欲しいところですけれども、そうした対策に要するコストを考えるとこれまたどこまでゼロリスクを追及すべきなのか悩ましいところですよね。
歯科なども感染防御の重要性は頭で判ってはいても、歯科医激増による過当競争でワープア化著しいとも言われる経営状態ではそうそう無制限にコストをかけてもいられないと言う現実があるのだと思いますが、結局この辺りは当事者の自覚に委ねるだけでは不十分で、安全対策にコストをかけることへのインセンティブをどう確保するかと言う問題になると思います。

使い捨て器具を洗浄再使用 堺の医療機関、肺の手術で(2014年5月19日東京新聞)

 国立病院機構近畿中央胸部疾患センター(堺市北区)は19日、肺の胸腔鏡手術で3種類の使い捨て器具を洗浄、滅菌して再使用していたと明らかにした。器具に汚れが残っていたのが3月に見つかり、再使用を中止。厚生労働省の通達に沿っておらず不適切と分かったため、現在は完全に再使用をやめている。

 器具を使った手術は、導入された2008年から6年間で約2300件だったが、どのケースで再使用したかは分からないという。手術後、33人が感染症にかかり、うち8人が元の病気の進行や敗血症で亡くなったが、同センターは「感染症になった割合は低く、因果関係はないと考えている」とした。

この材料費問題も現代医療においてなかなかに悩ましいもので、材料費を実費算定出来るのであればまだしもですが多くの場合手術や処置に対する報酬の中に材料費も組み込んであると言うことになっている、そして年々道具が進歩するたびにその値段も高くなっていくのが通例で、手技によっては材料費のコストだけでほとんど儲けは出ないと言うことにもなりかねないわけですね。
制度的に考えても材料費が持ち出しになるのであれば再利用して材料費コストを下げた方が利益が大きいのは当然なんですが、注目いただきたいのはそうやって利益を上げられるのは行った医師ではなくあくまでも病院であると言うことで、別に頑張ってコストを切り詰めてもその分給料が上がるわけでもないのに何故余計なリスクを冒すのか?そこまで組織に対する忠誠心篤い先生方ばかりなのか?と言う疑問はありますよね。
まあこうした公的病院に勤務する医師の場合そこまで経営のことは考えている人ばかりでもなく、単にまだ使えるのにもったいない精神でやっている人も多いかも知れないでしょうし、ある種のカテーテルなどは再利用品で少しくたびれているくらいの方が使いやすい、なんてことを言う先生もいるようですから、使い捨ての道具だからと完全に100%リユースなしで回している施設の方がむしろ少ないんじゃないかと言う気がします。
さらに一部公立病院などになると経費節約と称して「それが必要な患者が来るまで一切機材ストックは置かない」などと無茶を言う施設もあるようで、その場合業者が営業していない夜間休日に急患がやってくれば何も手出しできないと言うことにもなりかねませんから、密かに内部ストックを確保する目的でリユース品を使用し使わなかった新品を貯め込んでおく、などと言ったいじましい手を使っている先生もいらっしゃるようです。

要するに個人の報酬には直結しなくても少なくとも診療上の必要や経営上の要請からすると再利用には一定の意義はあるのが現状と言うことですが、逆に再利用しないことへのインセンティブがどれくらいあるのかと考えると、今回のように洗浄が不十分だったと問題視されると言ったことでもない限り実はそれほどないのではないか?と言う気がしますでしょうか。
もちろん医者にしてもわざわざ自分の手で新しい患者を作るつもりはないでしょうから「これくらいなら問題ないだろう」と一定の確信があってやっていることと思われ、実際今回のように実際洗浄等が不十分で問題化すると言うのはむしろレアケースだと言うのは、逆に言えば一回や二回の再使用では実際上まず問題は起こらないし、何か具合が悪ければその時点で新品に切り替えることで十分だとも言えそうです。
医者側の立場はそれとして、患者からすれば正規の料金を取っているのに他人の使い残しを再利用されるのは許せる話ではないのも当然で、双方にとってメリットがある解決策としては機材コストは完全に別会計で計上できるようにすると言うのが最も妥当ではないかと思うのですが、そうなりますと機材価格は今以上に上昇し医療費を押し上げる原因になると財務省あたりはいい顔をしないでしょうね。
安全に対するコストをきちんと評価し安全対策を徹底した方が医療側にとってもメリットになるような診療報酬体系を整備していくのが筋だと言うのはもちろんなんですが、当面財政上の要因などもあってそれが難しいと言うことであれば、誰得?と言う議論は別にして一番手っ取り早く確実なのは洗浄、再利用することによって物理的に使用できなくなるよう、機材側をメーカーの手によって改良(改悪?)する道だろうと言う気はします。

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コメント

>誰得?と言う議論は別にして一番手っ取り早く確実なのは洗浄、再利用することによって物理的に使用できなくなるよう、機材側をメーカーの手によって改良(改悪?)する道だろうと言う気はします

そうすれば、そのお金のかかる機材で行われる手技は、コストの面で廃れていくわけで、財務省は万々歳ですね!

投稿: おちゃ | 2014年5月22日 (木) 08時50分

だからけっきょくはお金の問題なのですよ。
安全で使い勝手がいいと判ってる道具でも高いからって買ってもらえないですもん。
安全性が確認できたものには相応の診療報酬をつけてでも導入を進めてほしいです。

投稿: ぽん太 | 2014年5月22日 (木) 09時21分

正しく使ってたら基本的に安全なんだから有意差でないんじゃないかな?>安全性の確認

投稿: | 2014年5月22日 (木) 09時59分

安全対策もばっちりで使い勝手もよく考えられている器具が例えば1万円であったとして、それを再生していくとやはり安全性も使い勝手も劣化はしていくのだと思います。
そこで多少使い勝手は劣っても同じような機能はある品が例えば5千円であればどうか、それが千円であればどうかと考えていくと、報酬に対して無視出来るほど小さなコストになれば誰も無理に再生は考えないでしょうね。
この辺りはリユーサブルとディスポのどちらがいいかと言う議論とも絡む話ですが、使い勝手第一と言う視点から十分なコストをかけた高級リユーサブル機材も匠御用達的に今後見直されてくるのかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2014年5月22日 (木) 10時24分

注射器つかいまわしで肝炎量産した先生いるんだってね

投稿: | 2014年5月22日 (木) 11時23分

昔は注射器どころか注射針すら再利用してましたからねえ。

投稿: クマ | 2014年5月22日 (木) 22時07分

歯を削る機器、滅菌徹底求め通知へ…厚労省
http://www.yomiuri.co.jp/national/20140523-OYT1T50195.html

歯科医療機関で歯を削る医療機器が滅菌せずに使い回されている問題で
厚生労働省は、滅菌を求めた日本歯科医学会の指針を
徹底するよう日本歯科医師会に近く通知することを決めた。

 歯を削るドリルの柄の部分を滅菌して交換するルールの徹底を求める。
また、歯科医療機関への指導・助言にあたる都道府県にも指針の内容を改めて伝える方針だ。

投稿: | 2014年5月24日 (土) 13時26分

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