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2014年5月 2日 (金)

てんかんに対する規制がさらに強化

唐突にと言うべきでしょうか、先日こういうニュースが出ていたことをご存知でしょうか。

てんかん、就活での開示促す 福岡労働局、高校に文書(2014年4月30日朝日新聞)

 厚生労働省福岡労働局が2012年7月、てんかんを患う就職希望の生徒に主治医の意見書をハローワークに提出するよう、福岡県内の高校に求めていたことが30日、同局への取材でわかった。公正な選考採用を定める職業安定法などに触れる恐れがあり、厚生労働省は同局を指導した。患者団体は「差別的だ」と批判している。

 同局によると、県を通じて文書で公私立各校に求めた。文書では「持病がある生徒・障害を持つ生徒を一律に選考から排除することはあってはならない」としつつ、「てんかんの生徒は主治医の意見書をハローワークに提出し、早期の職業相談を」と記した。新規高卒生への求人はハローワークが仲介して学校に出している。厚労省は不適切だとして12年9月に同局を指導し、翌月に全国の労働局に再発防止策をとるよう通知した。

 同局によると、11年4月に栃木県で持病を隠して運転免許を不正に取った運転手がクレーン車を運転中に発作を起こして小学生をはねるなど、てんかんの発作によるとみられる事故が相次いだために文書を出したという。

公的機関がわざわざ文書で公式ルートに流した通達であるということに留意していただきたいと思いますが、労働局にこうした要求を学校現場に対して行う権限があるのかどうかと言うことも疑問ではあるのですが、てんかんだけを取り上げてと言う点で何かと物議を醸しそうな話であることは間違いありませんよね。
栃木のクレーン車事故などを始め一連のてんかん患者が絡んだ事故で、その多くが疾患コントロールが不良で主治医に運転を禁じられるなど本来運転免許の欠格事由に相当する状態であったり、そもそも病気そのものを隠していたと言うことが知られるようになったことから、社会的にてんかん患者に対する運転規制強化が叫ばれるような状況になっていることは周知の通りです。
ちょうどこの5月から薬や薬物によって事故を起こした場合の罰則を強化する自動車運転死傷行為処罰法が施行されることになっていて、特に薬物等のみならずてんかんや躁鬱病、統合失調症など安全運転に必要な判断能力を欠けると見られる特定の疾患の影響で「正常な運転に支障がある状態」で事故を起こせば厳罰に処すると言う、なかなかに厳しいものとなっています。
地理的状況や職場に求められる技能と言った点で現実的に自動車に乗れなければ仕事にならない、てんかん患者には仕事をするなと言うことかと言う反対意見ももちろんある一方で、意識も失うような危険性があるのに運転などされてたまるかと言う素朴な市民感情もありでなかなか難しい判断ですが、現実的な影響としてこうした規制強化がどのような影響を及ぼすのかということですね。

「てんかん隠した」55% 患者の周囲、理解が不足(2014年4月19日日本経済新聞)

 てんかん患者の半数以上は自身の病気を隠したことがあり、その背景には周囲の理解不足があることが、製薬企業グラクソ・スミスクライン(東京)の調査で分かった。

 今年1~2月、現在てんかんの治療を定期的に受けている成人男女計300人に質問した。

 てんかんを周囲の人に隠したことが「よくある」「時々ある」と答えた人はそれぞれ27.7%ずつで、計55.4%が隠した経験をもっていた。

 家族以外の周囲の人が自身の症状を理解してくれているかを尋ねると「しっかり理解」は9.3%にとどまった。「ある程度理解」の31.7%を合わせても半数に満たなかった。周囲の理解不足の中で、カミングアウトをしづらい現状が浮かび上がった。

 てんかんを患って困ったことを複数回答で挙げてもらうと「いつ発作があるか分からず不安」が46.3%で最多。以下は、差別や偏見がある(28.3%)▽仕事に支障がある(27.7%)▽就学・就職に支障がある(25.0%)――と続いた。

 日本では約100万人がてんかんを患い、毎年5万人が新たに診断される。しかし京都・祇園で2012年に通行人7人が死亡した暴走事故など一部患者による重大事故が相次ぎ、患者全体に厳しい目が向けられた。

 東北大の中里信和教授(てんかん学)は「不幸な事故により、患者さんがこれまで以上に不安を抱えながら日々の生活を送る状況になってしまった。周囲の理解が患者さんのより良い治療や社会参加の促進につながる」と話している。〔共同〕

理解が不足しているから患者が隠すのか、患者が隠すことを理解しているから規制強化が進むのか微妙なところなのですが、少なくともフォークリフト等機械の運転を伴う作業に関しては各職場の判断でてんかん患者は関わらせないと言った自主規制が現実に行われ始めているようで、それは事故を起こされれば会社にも損害賠償請求が来るかも…と考えれば自然にそうなるだろうなとは思います。
もちろん雇用時に「私はてんかん持ちで」などと申告すればそもそも雇用されないと言うことにもなるのでしょうが、ただ留意いただきたいのはこうした基礎疾患によるセレクションと言うものは別にてんかんに限った問題ではなく、例のメタボ健診の導入や労災回避のための予防的措置という理由によって、ちょっとそれは過剰反応なのでは…と思われるレベルで雇い止め等の自主規制が行われていると言う現実があります。
もちろん血圧か高ければ脳卒中や心筋梗塞発症のリスクが上がる、そして作業中に発作でも起こされれば大事故になりかねないと言う考え方の道筋はそれなりに理解出来るのですが、現実問題として長年きちんとコントロールされた血圧良好な患者のリスクがどれほどあるのかと言うことだし、むしろギリギリ要治療レベルを回避しているような無治療の高血圧予備軍の方がよほどリスクは高いと思うのですけれどもね。
このあたりはメタボ健診導入によって患者=労働者個人ではなく雇い主の方にペナルティーを導入したということとも無関係ではありませんが、栃木のクレーン事故で会社側にも損害賠償責任を認めたように基本的に民事ではより責任を取りやすい(支払い能力が大きい)相手から金を取るようになっている以上、リスクマネージメントとしてもてんかんに限らず有病者をわざわざ受け入れる意味は会社側にはないとも言えます。

社会の側の予防措置はそれとして、一方では罰則強化によっててんかんへの締め付けが強まってくれば有病者は就業等で露骨な不利益を被るということですから、他方では決して他人に知られないよう隠そうと言う衝動が働くのも当然で、社会にとって罰則強化による利益と患者の潜伏による不利益とどちらが大きいのかと言うことですよね。
この点で示唆的なのが多くのてんかん事故報道によれば事故を起こした患者はてんかんの病歴を隠して免許を取得していただとか、きちんと医師の指示に従わず治療を怠っていたと言う問題行動が多く認められたと言うことで、この点はてんかん協会など患者側団体からも「社会的責任が欠如している」「極めて遺憾」と批判的コメントを出していたところですが、逆に言えば社会的責任に訴えるしかないとも言えます。
患者側からすればカミングアウトするメリットが無くデメリットばかりでは黙っていようとなるのは当然で、何らかのインセンティブとして例えばこうした持病による社会的規制を受ける場合には障害者枠に含めるなり会社側に一定の雇用枠を設定すれば、会社側としても実質健常者と変わらない労働力を法的強制枠で雇用できると言うメリットが産まれるかも知れませんね。
技術的な観点から見るとマイナンバー制導入に伴いあらゆる疾患歴を一元管理するようになれば免許の不正取得と言った問題はなくなるはずで、そうした対応は個人情報保護の観点から問題があると言う意見も根強いのですが、ただ犯罪歴等の情報は社会的規制に関わる必要性から現在も流通している以上、同様に規制対象となり得る病歴も流通していておかしくはないと言う考え方もあるでしょうね。

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コメント

義務があるのに怠ってしまったなら社会的制裁を受けるのは仕方がないんでしょうか。
せめて義務を負うべき範囲が妥当なものなのかどうかを我々もしっかり見ていかないと。
患者が病気を隠さないですむだけの妥当なインセンティブって何なんでしょうね?

投稿: ぽん太 | 2014年5月 2日 (金) 09時20分

周囲の理解不足って具体的にどういうことなんだろ?
病気を隠して働いてても見のがしてくれってこと?

投稿: あまちゃん | 2014年5月 2日 (金) 09時53分

企業側も、コントロール良好なてんかん患者さんを拒否したいのであれば、感情論では無くきちんとしたデータに基づいて拒否するべきです。
医者から運転OKの診断書をもらっていて、薬もきちんと飲んでいて、その上での事故というのは、確率的には一般人の事故よりも少ないような気がしますが・・・どこかに統計ありませんかね?

投稿: クマ | 2014年5月 2日 (金) 11時15分

世間の注目はてんかんに集まっているようだけど、ほとんどの人に影響のある話ですよね。>自動車運転死傷行為処罰法
どうやって証明するかという技術的な問題はあるにせよ、風邪薬を飲んで人身事故をおこしたらアウトでしょう。

何が言いたいかっていうと他人事じゃないってことなのだけど。

投稿: JSJ | 2014年5月 2日 (金) 11時23分

てんかん以外にも多くの疾患がコントロール不良であれば事故を誘発し得るし、てんかんであってもきちんとコントロール出来ていれば危険性が特に高いわけではないはずです。
てんかん事故が注目され実際に調べて見ればきちんと治療を受けていなかったと言う例が多いわけですが、例えば職場健診で糖尿病に引っかかったのに放置している人などそこらに幾らでもいるわけです。
少なくともそうしたリスクの大小と実際の管理状況を客観的に比較検討し危険度に応じた規制を行うと言うのでない限り、科学を離れた恣意的な規制であると批判される余地は残るでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2014年5月 2日 (金) 11時29分

てんかん:誤解と差別、後絶たず 病名告知で就職不利に
http://mainichi.jp/select/news/20140429k0000e040149000c.html?inb=ra

投稿: | 2014年5月 2日 (金) 12時45分

ところで話変わるのですが、知的障害ってありますよね?あれって何かはっきりした基準があるのですか?
つまり障害者差別が問題だったら、テストの成績で差別するのはよくないってことにならないのかなと。
あるいは普通だったら落第なのに知的障害って一筆書いてもらったら障害者枠で合格、みたいな。

投稿: てんてん | 2014年5月 2日 (金) 12時51分

JSJさまへ
おそらく法律を作った人は脱法ハーブを想定してこの法律を作っていると思われます。
しかしご指摘のように、向精神薬や風邪薬で事故を起こした場合も適応されるとなるとかなり問題になりそうです。

投稿: クマ | 2014年5月 2日 (金) 14時23分

警察のてんかん患者に対する偏見は異様な程のものものです。長年発作のない服薬だけ患者がたまたま旅館のおかずにアルコールが微量含まれていてその後偶然何かに巻き込まれた、それがてんかんに関係ない話でも全面的「病気による発作」と騒ぎ立て、「患者が悪い」と決めつける、という事例も身近で起きています。また軽微な自動車事故で100%相手が悪くても(止まっているのにぶつけられるとか)、片方がてんかん患者であれば「問答無用」で患者が悪者にされる。そして、免許は取り上げられ保険はきかず、地域からも追い出される…。考えてみてください。年寄りや道に迷った人の逆走は、事故でもなければ野放しで話題にもならないが数はものすごく多い。私も見ました。逆走車が何台も、挙句に列までなしているのを…。てんかんの患者の重大事故は全国ニュースで何日も報道され続けます。その扱いが公平とはとても思えません。犠牲者には気の毒ですが、通常の死亡事故がそこまで報道されることがあるか、考えてみてください。隠す以外に生きる道がありますか?

投稿: たま | 2015年10月 7日 (水) 09時07分

脳疾患の患者にはかなり偏見があるみたいですね
脳出血歴のある人が貰い事故にあったとき、相手側が完全に非を認めているのに、警察は脳出血歴の人に執拗に非を押し付けようとして酷い対応だったので、今後のためにドライブレコーダーを付けたと言ってた

投稿: | 2015年10月 7日 (水) 09時33分

>私も見ました。逆走車が何台も、挙句に列までなしているのを…。

…もしかして逆走していたのは貴殿の方でわ…?

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2015年10月 7日 (水) 09時53分

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