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2014年5月21日 (水)

必ずしも評判のよろしくない主治医報酬の位置づけは

今年度の診療報酬で開業医や中小病院に対して算定を認められたいわゆる「主治医報酬」ですが、かねて複数診療科を受診している患者の全体像を把握し管理する医師が必要だとは言われてきたわけですから、とりあえず何と何の治療をしていてどんな薬を飲んでいるかと言うことが一発で把握出来る問い合わせ窓口が確定するだけでも有意義なことだとは思います。
他方で近年では診療科の専門性を超えた全人的な診療を担当する総合診療医と言うものの必要性が言われていて、もちろん専門医不在の地域で日常的な管理を各科横断的にこなせる医師が必要であると言う理由もさることながら、複数診療科にまたがって治療を受けている患者などは各科専門医が揃った大病院にばかり集まってくると言うことの解消も期待されていると言えますよね。
一見するとどちらも1人の患者を全体的に把握すると言う点で似たようなものにも思われ、そうであるなら総合診療医が主治医を担当するのだろうなと考えたくなるのももっともなのですが、主治医報酬を設定した厚労省側では「そうではない」とはっきり断言していると言うことです。

今なぜ「主治医」なのか(2014年5月7日日経メディカル)より抜粋

(略)
外来、在宅の24時間対応が必要

 今改定では「主治医機能」を評価する点数として、同加算のほか、200床未満の病院と診療所を対象とする包括払いの「地域包括診療料」(月1回1503点)が新設された。
 いずれの点数も、高血圧、糖尿病、脂質異常症、認知症の4疾患のうち2つ以上を有する患者が対象。同じ疾患を複数施設で診ている場合は、1施設のみ算定できる。
 算定要件は、(1)服薬管理、(2)算定患者に対する24時間対応、(3)在宅医療の提供、(4)健康管理、(5)介護保険制度への対応─など(図1)。
(略)
「主治医」の診療科は問わない

 今改定で厚労省が示した「主治医機能」とは、自身の専門分野にかかわらず、他医とも連携しながら幅広い疾患に対応し、疾病予防から在宅医療、介護まで1人の患者をトータルに診る機能を指す。
 類似した概念として日本医師会が掲げる「かかりつけ医」のほか、専門医制度の見直しで基本領域の専門医に位置づけられた「総合診療専門医」などがあるが、厚労省保険局医療課長の宇都宮啓氏は、「主治医」は総合診療専門医とイコールではなく、科目を問わないと明言している(詳細はVol.3にて)。
 「機能分化」を主要テーマに掲げた今回の診療報酬改定では、外来医療の分野でも、大病院と診療所・中小病院の機能分担を意図した改定が行われた。大病院外来に対しては、専門・紹介外来中心の運営に誘導する狙いから、前回の2012年度改定で導入された紹介率、逆紹介率が低い大病院の初診料などの引き下げ措置がさらに強化された。
 この見直しとセットで位置付けられているのが、地域包括診療料と同加算(主治医報酬)の創設だ。
 大病院が患者を逆紹介しても、逆紹介先が、専門分野以外の相談や時間外の受診といった多様なニーズに対応できなければ、患者が再び自己判断で大病院の外来や救急外来を受診することになりかねない。そこで、患者が抱える様々な疾患の管理や各種の相談、夜間診療などに一元的に対応できる「主治医」を増やそうとしているわけだ。
(略)

宇都宮氏の「主治医は総合診療医とイコールではない」と言う言葉に注目いただきたいと思いますが、リンク先の別記事を参照しますと興味深いのが専門医受診の必要条件となるような英国式の「ゲートキーパー」でもないと明言していると言う点で、それでは一体どういうものを目指しているのか?と気になりますよね。
少なくともここで言う主治医はジェネラリストとしての専門性を総合診療専門医で担保するような性質のものでは全く無く、それどころか全身管理能力を求められない眼科耳鼻科と言ったマイナー診療科の医師であっても構わないと言う話であれば、ここで求められているのは結局のところ治療ではなくマネージメントを担当する役割ではないか、さらに極論すれば医師ですらなくてもいいのではないかと言う気がしてきます。
その点で大病院の専門診療・紹介患者診療への特化とセットで語られていることは注目すべきで、要するに多くの患者は医学的には地域の開業医で外来診療が可能なレベルであっても様々な不安や疑問もあり、どうしても何かと大病院に頼る傾向があるわけで、そうした諸々の面倒事も含めて取りあえず患者のことは全て一任出来る担当者を決めておくと言う意味合いなのだと考えられます。
その意味で算定要件として24時間対応と言うものを求めていると言う点は非常に象徴的であって、要するに昨今あちらこちらで自治体等が行っている病院にかかる前の電話相談サービスと言った類の機能を個別の患者事情を把握した上で行うことを求められていると言うことなのでしょう。
この点で例えば他科受診をしている患者があれこれと専門外のことを相談してくる、それに対して医療専門家としての立場から一般常識レベルの答えを返せると言ったレベルの対応こそ一番求められているのだと思いますが、専門分化が著しく標準的治療法も毎年のように変わってきている昨今、特に専門分野の狭いマイナー診療科の先生方が本当にこうした対応が可能なのかと言う疑問は残るところですよね。
ただその昔とある社会医学系の先生が「ボクは心臓のことは素人だが、心臓について一般の市民に講演させたら循環器の専門医よりもうまくしゃべれる自信があるよ」と自信満々で言っていた、などと言う話もあるくらいで、本当にそれが医学的に正しいかどうかは患者には判らない、ただ話を聞いて素人を納得させられるかどうかこそが多くの場合より重要なことなのだと言う考え方もあるでしょう。
実際にこうした「医療相談好き」の患者が今までどこに相談してきたかと言えば近所のおしゃべり好きのオバサンであるとか、せいぜいがたまに会う親戚の看護婦くらいであったりしたわけですから、とりあえずそのレベルの医学知識よりは妥当な医学常識に基づいて説明してくれるのであれば現状よりも悪くなることはないとは言えるのかも知れません。

先の往診料大幅減額で医者が来なくなったと各地の老人ホームが悲鳴を上げていると言う話がありますが、ホーム往診なら契約打ち切りで済みますが主治医ともなればハシゴを外されたからと明日から主治医降りますとは言えないでしょうし、国にしても当然そういう事情を知っている以上主治医算定が定着した頃合いで容赦なく報酬を切り下げるだろうと考えると、主治医報酬支持がごく少数に留まるのもやむなきところですよね。
ただ実際問題ホームに往診してどんな医学的処置が行えるかと言えばほぼ「安心感の付与」くらいしかないはずで、そう考えると救急車でいきなり担ぎ込まれるようないわゆる急病時はともかく、日常診療において患者需要の多くは実は医療技術にはなく丁寧に話を聞き説明をしてくれる、何でも相談に乗ってくれると言う部分にこそあるのではないかと言うことも言えそうです。
同じような国民皆保険制度を導入し医療費を低額に抑制してきた日本とイギリスとで何が違うかと言えば、英国では初診を担当する一般医は人頭割で、主治医として患者何人を抱えていると言うことに対して幾らの報酬を得ているのに対して日本ではあくまでも出来高制であって、その結果日本の医師は世界各国水準の2~4倍にも及ぶ患者の診療をこなさなければならないと言う状況にあります。
その中で患者の話を丁寧に聞くなどと言う行為は診療報酬上全く評価されてはいませんから、早い話がそうした患者が増えるほどクリニックは赤字が拡大しやがて廃業に追い込まれると言う淘汰の圧力が働いていると言えますが、英国式であれば抱え込んだ患者数によって報酬が決まるわけですから、むしろ余計な検査などコストのかかることは一切せずおしゃべりの相手でも務めていた方が儲かる理屈です。
もちろん「あの先生はよく話を聞いてくれる」と評判が良くなるほど患者が集まり頭割り報酬が増えるのですから、とにかくゆっくり時間をかけて患者とよく話をしよう、そして患者からの評価を高めようと言う方向で淘汰の圧力がかかっているわけで、欠点数多で医療崩壊最先進国だなどと言われながらも英国の医療が日本などと比べてはるかに高い国民の満足度を誇っている理由の一つがこの辺りにあるのかも知れませんね。

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コメント

国の意図としてはとりあえず患者の引受先を確保したいのでしょう。
逆紹介しようと思ってもうちじゃ診られないって断られるケース多いですから。
でも主治医の責任範囲についてはちょっとあいまいさを感じるんですよね。
専門外の患者ばかり抱えた名ばかり主治医が増えてきたら大混乱必至ですよ。

投稿: ぽん太 | 2014年5月21日 (水) 08時51分

報酬だけとっておいて何かあったら全部近所の総合病院に丸投げの悪寒w

投稿: aaa | 2014年5月21日 (水) 10時28分

多忙を極める大規模病院の勤務医にとっては、普段の何もない間だけでも患者を引き受けてくれるのはそれなりのメリットを感じるのではないかと思います。
ただ制度の詳細を必ずしも存じ上げないのですが、仮に主治医報酬にそれなりにうまみがあると言う事になれば大規模病院においてもサテライトクリニックでの加算と言った道を目指すようになるかも知れないですね。

投稿: 管理人nobu | 2014年5月21日 (水) 11時27分

算定出来る疾患が決まっているのに、それについての専門性を問わないのは奇異な気がしますが
24時間対応を求める以上は急変も想定しているのでしょうに、なんだかちぐはぐですね

投稿: | 2014年5月21日 (水) 11時32分

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