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2014年5月16日 (金)

大麻ですら合法化される時代に酒ときたら

文学作品で大酒飲みが最後には血を吐いて死ぬと言った描写が結構あったものですが、アルコール性肝硬変による門脈圧の亢進から食道静脈瘤の破裂によって死に至ると言うシナリオは残念ながら未だにしばしば起こりえることですし、アルコール性肝硬変の特性なのか患者自身の治療意欲の欠如によるものなのか他の肝疾患による静脈瘤に比べて進行性で予後不良と言う傾向があるように感じます。
別にそこまで酷いことにならずとも酒の席の失敗と言うレベルであれば多くの人々が経験していることでもあるだろうし、過度の飲酒が身体に悪いと言う事は今どき誰でも承知している常識レベルの知識だと思いますけれども、先日どれほど身体に悪いのかと言うことを示すなかなか気になるデータがWHOから発表されたと言うことです。

過度の飲酒原因で死者330万人 WHO、対策促進を呼び掛け(2014年5月12日47ニュース)

 【ジュネーブ共同】世界保健機関(WHO)は12日、過度の飲酒が原因の病気や事故による死者が2012年に世界で約330万人に上ったとの報告書を発表した。全死者の5・9%に当たり、アルコール規制などの対策を促進させるよう各国に呼び掛けた。

 報告書によると、10年の15歳以上の1人当たりアルコール消費量(純アルコール換算)は6・2リットル。ただ、15歳以上の人口の61・7%がアルコール類を摂取していないことから、飲酒人口の1人当たりの消費量は平均を大幅に上回るとみられる。

もちろん有害なのは有害で間違いないのですが、元データに当たっていないので何とも言い難いことながら記事から読む限り、ここでは「過度の飲酒」と言う非常に主観的な指標に基づいた統計調査であるように見えると言う点に留意ください。
少し前からアメリカで大麻合法化と言うことが話題になっていて、その中で大麻の害は喫煙やアルコールに比べてもたいしたことはないと言った論調で擁護論が展開されることがあったのですが、煙草にしてもそうですがアルコールもこうしてWHOからその有害性が指摘され規制や対策が急がれる時代に、それら有害物質と比較して無害性を強調すると言うのも何だかなあと言う気はしますでしょうか。
ちなみに厚労省の死因分析によればいわゆる三大死因(癌などの悪性新生物、心疾患、脳血管疾患)が世代にもよりますがそれぞれ10~30%程度ですから、全体の30~40%を占めるその他の死因の中でもかなりメジャーなものに位置づけられるのだと思いますけれども、特にアルコールの場合子供や老人以上に社会的生産年齢に死者が集中していることが予想されると言う点で影響はより大きいかなとも思えます。
この点で日本と言う国は実は生物学的にも社会文化的にも要注意な国と考えるべきで、よく言われるようにアルコール代謝能力には人種差が大きく白人よりもアジア人は一般に酒に弱い人が多く日本人の半数程度は生まれつき酒を飲むのに向かない体質であると言いますよね(ただし、これまた経験的にも知られているように長年酒と親しんでいくことで徐々に処理能力が向上するとも言うのですが)。
そうであるのに古くは魏志倭人伝にも「人の性、酒を嗜む」とも記されるほどの酒好きであり、「日本人は基本的に優秀なのにあのとんでもない飲酒癖だけは悪徳レベルだ」と戦国時代末期に来日した宣教師達を嘆かせたりと文化的には飲酒に対して非常に寛容あるいは促進的であると言うことは、今日にまで続く宴会・飲み会の慣習一つを取って見ても明らかです。
さすがにこれだけメタボ健診だ、国民健康増進だと言った話が財政上の要求からも国策として推進されている中で、わざわざ高い金を払って飲酒をし自ら不健康になっていくと言う習慣を放置しているのもどうかと考える人が出てきて不思議ではないはずですが、案の定と言いますか日本においてもようやく公的な対策が推進され始めています。

アルコール・ディジーズ放置の大罪(2014年5月14日日経メディカル)より抜粋

 昨年12月の臨時国会で、「アルコール健康障害対策基本法」なる新法が可決、成立したことをご存じだろうか。テレビや新聞ではほとんど報道されず、取り上げられてもベタ記事扱いだったので、初耳という読者も多いだろう。
 2006年に成立した「がん対策基本法」に次ぐ第2の疾患対策法なのだが、メディアを含めて社会の関心が極めて低いのはなぜだろう。酒類メーカーがマスメディアの大口スポンサーとなっていることが記者たちの筆を鈍らせたのかもしれない。が、何より酒類が日本人の食生活に深く浸透していることもあり、アルコールの生体に及ぼす悪影響、社会に与える損失が如何ほどかをメディア関係者を含め多くの国民が認識していないためだと筆者は考える。
 厚生労働省研究班の試算によると、飲み過ぎによる社会的損失は年間4兆1483億円で、そのうち飲み過ぎによる疾患や外傷の治療費は1兆226億円に及ぶという。わが国で何らかのアルコール関連問題を有する人は654万人、依存症者とその予備群は440万人、治療が必要な依存症者は80万人、アルコール関連の疾患や外因による年間死亡者数は3万5000人と推定されている。

刑事処分を受けたDVの7割近くが飲酒のうえでの犯行

 また、飲酒運転で検挙された男性の5割、女性の4割が依存症の疑いがあり、深刻なDV(ドメスティック・バイオレンス)の3割、刑事処分を受けたDVの7割近くが飲酒のうえでの犯行という調査結果もある。自殺既遂者の家族に面接して自殺前の出来事などを聞き出す心理的剖検の結果、自殺既遂者の21%にアルコール関連問題の既往があったとの報告や、法医解剖が行われた自殺既遂者の血中アルコール検出率は48%と約半数に及んでいたとの報告もある。
 世界全体では年間およそ250万人がアルコール関連の原因で死亡しており、その数は世界の全死亡の3.8%、疾病負担の4.5%に相当するとして、WHO(世界保健機関)は2010年5月の第63回総会で「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」を決議し、加盟国に総合的な対策を求めた。
 わが国でもWHOが求める対策を実施するためには、国としての基本路線を示す法律が必要だとして、2010年夏にアルコール関連3学会が協働して基本法制定に向けて動き出した。全日本断酒連盟やアルコール薬物問題全国市民協会といった市民団体も加わり、「アルコール健康障害対策基本法推進ネットワーク(アル法ネット)」が発足。日本医師会や日本看護協会などの医療団体や学会に幅広く賛同を呼び掛ける一方、超党派のアルコール問題議員連盟が法案作りを進めた。関係省庁・団体へのヒアリングを経て、2013年5月に議員連盟が法制局に骨子案作成を指示。同年6月に法案がまとまり、11月の議連総会で全党合意が確認され、12月の国会で可決、成立した。
 アルコール健康障害対策基本法ではアルコール健康障害を「アルコール依存症その他の多量の飲酒、未成年者の飲酒、妊婦の飲酒等の不適切な飲酒による心身の健康障害」と定義。健康障害の防止対策の実施に関して国・地方公共団体・事業者・国民・医師等・健康増進事業実施者それぞれの責務を規定した。医師等の責務としては、「国及び地方公共団体が実施するアルコール健康障害対策に協力し、アルコール健康障害の発生、進行及び再発の防止に寄与するよう努めるとともに、アルコール健康障害に係る良質かつ適切な医療を行うよう努めなければならない」(第八条)と規定している。今後2年以内にまず国が基本計画を策定し、それを基に都道府県が地域の実情に即したアルコール健康障害防止対策を策定することになる。

 アルコール健康障害というと、依存症や急性中毒(異常酩酊)などの精神障害や肝臓・膵臓・食道など消化器系の臓器障害がメーンと思われがちだが、アルコールは生活習慣病や癌、認知症、うつ病など日常ありふれた疾患の要因あるいは増悪因子であることが近年の疫学研究などで明らかになっている。
(略)
 このような明白なエビデンスがあるにもかかわらず、糖尿病や高血圧など日常ありふれた疾患の危険因子として飲酒が強調されることはほとんどない。せいぜい「飲み過ぎには注意しましょう」という、ほとんど説得力のない無意味な常套句が語られるだけである。高血圧の食事指導において食塩摂取量の上限、糖尿病の食事指導において総カロリー量の上限がよく強調されるが、それら疾患の予防・治療に厳密なアルコール制限を強調する医療関係者にはお目にかかったことがない
 医師をはじめ医療者、研究者、公衆衛生関係者、専門誌編集者、診療ガイドライン作成委員、マスコミ関係者のほとんどが大なり小なり飲酒習慣を持っており、アルコールの害を指摘することに後ろめたさを感じたり、指摘することが自分の首を絞めることになるからだろうか。普段たばこを吸っている医療者が、喫煙の害を諭したり禁煙を勧めたりすることがしにくいことと同じである。また「飲酒は社会の潤滑油でありストレスを和らげる」といった飲酒の効用を評価する見方や、「依存性が強いため指導しても改まらないだろう」といった端から諦めの気持ちもあるかもしれない。
(略)
 現在、治療が必要なアルコール依存症者80万人のうち、専門治療を受けている患者は4万人(5%)にすぎないという。先に紹介したわが国の大規模疫学研究(JPHC研究)でのベースライン調査では対象地域の男性の40~70%が「ほとんど毎日飲酒する」と回答していた。
 飲酒は脳や肝臓、心臓など様々な臓器にダメージを与えるだけでなく、毎日必ずどこかで起きている傷害事件や性犯罪、交通事故、自殺、DV、子どもの非行の多くに絡んでいる。妊娠中の飲酒が胎児に催奇形をはじめ悪影響を及ぼすことは数多くの研究で明らかにされている。大学の新歓コンパで新入生が急性アルコール中毒で死亡するという痛ましい事件が繰り返される背景には、アルコールの害への無知がある。アルコール・ディジーズ放置の罪は計り知れない。
 アルコール健康障害対策基本法の施行を機に、今後医師にもアルコール健康障害防止への取り組みが求められる。が、冒頭に述べたように飲酒の害をほとんどの国民が認識していないことから、まず飲酒の害に対する啓発を図り、依存性が強いことから個人の力だけでは問題飲酒を止めることができないのだという社会的コンセンサスをしっかり形成することが必要ではなかろうか。かつて喫煙の害を率先して啓発したように、学会や医師会などが国民の健康を守るプロフェッショナル集団として、国や社会に積極的にアルコール健康障害防止キャンペーンを張るべきだろう。
 「不適切な飲酒」「多量の飲酒」とは具体的にエタノール換算でどのくらいの量を指すのか、疾患を予防する上でどこまでの飲酒量なら許容されるのか、など日常診療での指導に生かせる指針を学会などで作成してもらいたいものだ。禁煙指導における禁煙補助薬のように、依存症を和らげて禁酒指導をサポートする、副作用の少ない禁酒補助薬の使用も今後求められよう。
 以上のように飲酒の有害性を独り主張し、「飲酒に対する寛容な態度・正当化こそが様々な問題飲酒を助長する最大の要因ではないか」と言っている筆者が、周囲から白い眼で見られなくなる日が来ることを願っている。

まあしかし医療現場で飲酒の害がスルーされているかと言われれば異論無きにしも非ずですが、高血圧で塩分制限をとなれば「日本人の食習慣ではWHOの塩分摂取推奨基準を満たすことは困難で」云々と話が長くなるのに対して、飲酒に関しては「いいから酒やめろ」の一言で済んでしまいますからねえ。
ともかくアルコールに限らず世の中の習慣の多くが何らかの理屈によって「こんな大罪見過ごすわけにはいかない!」と批判され得るものであることは例えば近年の捕鯨・反捕鯨論争などを見ても明らかですし、マスコミ的には正義の御旗を押し立てて反対運動を先導しやすいものの一つではあるのだろうと思います。
医学的悪影響と言う事で考えますと幾ら「赤ワインのポリフェノールが」云々と擁護論を展開したところで「飲まないで済むなら飲まない方がマシである」の一言でFAなのですからあまり議論の余地はないと考えていますが、酒も煙草も大麻もたしなまない管理人としてもここまで諸悪の根源扱いされると何やら一言反論でもぶちたくなると言うのは生来の天の邪鬼の故でしょうか(苦笑)。
ともあれ、社会的影響と言うことから考えてみるとアルコールによる害はもちろんですが、禁酒による悪影響と言うことでどうしても有名な禁酒法と言うものを思い出す人間は少なくないはずで、例えば煙草なども締め付けを強化することによって隠れて吸う人が増えた、その結果思いがけないボヤ騒ぎなども発生していると言った話もあるようですから、悪いものだから禁止すれば良くなると言うほど必ずしも単純ではなさそうに思います。
酒に限らず何であれこの世の中大抵のことは生きている限り身体に悪いことばかりで、料理の焦げなども発癌物質として捉えれば徹底的に規制されても仕方がないほど有害無益な存在であることは明らかなのですが、だからと言って香ばしい焦げ目もついていない健康的な?焼き物しか食べられないような社会で長生きしたところで何も楽しいことはない、などと言えば「焦げに対する寛容な態度・正当化こそが発癌リスクを助長する最大の要因」と言われてしまうのでしょうか。

ただもちろん、どんな詭弁を押し立てても擁護しようがないと言うほど明らかにそれは問題なレベルの酒飲みもいることは事実で、酒にしても個人の楽しみとしてたしなむ範囲であれば有害性も外に出歩いたり空気を吸ったりするのと同様に自己責任の範疇で済むことですが、その一線を越えたときに何ら対応する根拠がないと言うのはやはり問題ではあると思います。
社会的に見ればコントロール不能なほど飲酒に行動を支配されてしまうのが問題なのだと考えると、やはりこれは数ある中毒性物質濫用問題の一つと考えるべきであって、まずは明らかに対応を求められるレベルの依存症患者への対応は最優先で推進していく必要がありますけれども、その点で現在専門的なアル中外来の類は数も少なくなかなか予約も入らない状況なのは困ったことではありますね。
もう一つ、自傷他害の恐れのある精神疾患には措置入院という制度があり、禁止薬物による中毒に関しては警察が対応すると言う法的位置づけがあるのですから、ここまでになれば社会的に有害であると言うレベルを公的に定義し、それらに対して強制力を発揮してでも対策を行っていくと言うことも必要なのだとすれば、ではその基準をどこに置くかと言う問題があります。
飲酒の影響に関しては非常に個人差が大きいと言うことを考えると飲酒検問のように数値的にこれ以上はアウトと言ったやり方でいいのかどうかで、この辺り問題行動の発生頻度や深刻さと飲酒量やアルコール血中濃度との関係などを定量的に示すデータが欲しいところですが、当面は条例等で新たなルールを定めてでも迷惑行動、問題行動と言った行動面に絞っての対応を取っていくのが現実的なのでしょうか。

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コメント

ちなみに室町時代の酒宴では、嘔吐が大事な要素だったそうで、
参加者が嘔吐するような酒宴こそが良い酒宴だとされていたとか。

投稿: JSJ | 2014年5月16日 (金) 08時25分

末はMallory-WeissかBoerhaaveか…南無南無…
ヨーロッパじゃ飲むより食べる方で吐いてはひたすら食うってことやってたそうですね。
美食家の執念たるや恐ろしいというべきか。

投稿: ぽん太 | 2014年5月16日 (金) 09時11分

自分が飲んだくれて死ぬのは勝手にしろだが他人にまでまずい酒押しつけんなといいたい

投稿: | 2014年5月16日 (金) 10時12分

話は少し飛びますが、個人的に現代の若者気質の変化として一番大きく感じるものの一つが飲酒に対する態度でしょうか。
将来的には日本の飲酒人口もどんどん減っていくのではないかとも思えるほど興味がなさそうな人が多い気がします。

投稿: 管理人nobu | 2014年5月16日 (金) 10時52分

プライベートの楽しみが少ない田舎の病院では仕事の後に飲み屋に繰り出すのが、独身あるいは単身赴任の医療スタッフにとって数少ない楽しみなんですが… 田舎では高所得者な分、飲む量も半端ないです。病院スタッフが来なくなったは田舎の飲み屋の半分近くは潰れます。

投稿: | 2014年5月16日 (金) 11時08分

病院スタッフが来なくなったは→来なくなったら に訂正です。

投稿: | 2014年5月16日 (金) 11時09分

イギリスのデイリー・メールが伝えたところによれば、米国マサチューセッツ州の男性(23歳)が、SNSに生きた金魚2匹を酒に入れて飲む映像を公開、物議を醸していると報じられた。
http://mogumogunews.com/2014/05/topic_6651/

投稿: 酒飲みって… | 2014年5月16日 (金) 11時09分

↑白魚の踊り食いとなんら異なることはないと思われ。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年5月16日 (金) 11時51分

東洋の秘儀として伝えられる人間ポンプなるものがありましてな

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年5月16日 (金) 15時13分

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