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2014年4月30日 (水)

認知症老人鉄道事故の余波

先日の認知症老人の鉄道事故で遺族である91歳の妻に対する巨額賠償金請求が名古屋高裁で認められた件で各方面に反響が続いていますが、同種の裁判に関してあまり聞かないのは鉄道会社が損害賠償請求を怠っているからではなく、ほとんどの遺族は和解に応じて金銭の支払いに同意しているからなのだそうで、興味深いのがこの和解による賠償金額が最終的に100万円ほどに落ち着くケースが多いのだそうです。
鉄道が止まることによる経済的損失はとてもそんな金額で収まるものではないでしょうから、要するに鉄道会社としては損害賠償をとったと言う名を得ることを優先しているということなのでしょうが、想像するに遺族に多大な迷惑がかかるという評判を維持することによって鉄道自殺などを抑制したいという意図があるのかも知れません。
いずれにしても今回請求された側も介護認定を受ける高齢者であるにも関わらず監督義務があるとされ、家族の助けも得た上で介護義務を果たせない状況ではないとして賠償が認められたのですから、苦労して努力もした結果こうした不利益を被るのであれば最初から介護義務など放棄した方がマシではないかと考えてしまいがちですが、国策を議論する場においてもこの件に関して国策との乖離を指摘しているようです。

医師会が徘徊事故の損害賠償判決を批判、「地域でみるなんてできない」(2014年4月28日官庁通信社)

認知症で徘徊していた高齢者が電車にはねられて亡くなった事故で、85歳(当時)の妻に約360万円の損害賠償を命じた名古屋高裁の判決について、介護の専門家でつくる社会保障審議会でも反発の声があがった

日本医師会の高杉敬久常任理事は28日の会合で、「認知症の高齢者を地域でみるという政策が進んでいる一方で、ちょっと目を離したすきの列車事故で賠償を命じるなんておかしい」と批判。「こうしたことがきちんとされない限り、地域で認知症をみるなんてまったくできない」と訴えた。

「認知症の人と家族の会」の田部井康夫理事も、「絶対に納得できない」と反発。「JR東海に損害が発生したのは確か。それを社会がどう補填するか、その仕組みを議論すべき」と意見した。

確かに国策によって認知症老人は地域で引き受けるべきだとされている中で何とも微妙な判決でもありますし、国としても正直これは困ったと言う判決でもあるのでしょうが、問題の本質として高齢認知症患者だから問題なのか、それともそもそも鉄道事故で遺族に損害賠償請求がいくのが問題なのかと言う点で今ひとつ認識が割れているようにも感じますがどうでしょうね?
一般論として鉄道事故に限らず何かしら大きな影響を与える事故が起こったと言う場合、その損害賠償を当事者に請求すると言うのは被害者にとっても十分な賠償の支払いを受けられない可能性が高まると言う点で、基本的にこうしたことには保険なり公的補償なり確実に支払いが見込めるやり方で対応するようにした方がより大きな社会的正義が実現すると考えられると思いますね。
ただ鉄道事故の場合もそう言う側面があるようですが、こうした損害賠償の類を懲罰的なものと捉える考え方が未だに多く残っていて、要するに刑事に及ばないものを民事で解決することで被害者感情を満足させると言うことなのだと思いますが、本質的にこれらは別々のものであり代用すべきものでもないはずです。
この辺りの感覚は医療訴訟などでもすっかりおなじみのものだと思いますが、そうした問題を考える上でも先日少しばかり目に付いたのがこちらの不幸な火災事故の件なのですが、まずは記事から紹介してみましょう。

火災現場の住所間違え消防放水3分遅れる 86歳女性死亡も因果関係は否定(2014年4月22日スポーツ報知)

 東京消防庁は21日、東京都北区で3月下旬、女性(86)が死亡した住宅火災の際、現場住所を取り違える連絡ミスがあり、放水開始が約3分遅れたと発表した。

 同庁によると、3月23日午後1時15分ごろ、北区東十条の木造2階建て住宅から出火。2棟が全焼し、マンションなど2棟の外壁が焼けた。近くの住民の通報で、現場から約20メートルの距離にある王子消防署東十条出張所から、男性小隊長(57)が直行。小隊長は住所を確認、出動指示は本庁が行う仕組みのため、出張所にいったん戻り、通信勤務員(20)に住所を伝えた。

 その際に通信勤務員が聞き間違え、住所の号数字が誤って本庁に伝わった。出張所から出動した消防車は、現場から100メートル以上離れた消火栓にホースをつなぎ、午後1時半に放水開始した。連絡ミスがなければ、女性宅から約40メートルの場所にある直近の消火栓を使い、約3分早く放水を始められたという。

 同庁によると、署員は現場住所をメモに記録するようマニュアルで定められているが、小隊長はメモを所持していなかった。一般的な消防車の放水量は毎分500~600リットルという。

 女性の遺体検証の結果などをふまえ、管轄する王子消防署の新井進署長は「ミスと死亡との間に直接の因果関係はないと推定している」としている。同署幹部は17日に遺族に謝罪した。

お亡くなりになった方は残念だったとは言え、実際問題3分では恐らく消火活動の結果に大した違いはないはずですし、恐らくこれによって今後紛争化することもないと思いますが、例えばこれが医療事故であったとすると訴えられる可能性が決して少ないものではないし、仮に訴えられた場合は過失によって結果が変わった分は賠償しなければならないとして一定額の賠償金を命じられる可能性は大いにあるんじゃないかと思いますね。
他方で全国的にこの種のちょっとした過誤による消防活動の遅れは確率的にも一定数発生しているはずですが、それが裁判沙汰になると言うことがほとんどないのは一つには国民感情として消防活動にはこの程度の期待値が求められる、それに達していなければミスだ、賠償だと言う受け取り方をしていない、そして消防活動は医療よりも個人個人の顔が見えにくく特定の誰かを訴えたいと言う気持ちにはならないからだと言えそうです。
この点で日本の医療が崩壊に追い込まれるほど医療訴訟が頻発した原因の一つとして主治医制なるものの存在を考えずにはいられないのですが、「僕に任せなさい」と全部引き受けた以上は何か期待以下の結果が出れば「あいつが悪い」と思われてしまうのはいわば必然で、これが完全交代勤務制でいつも違う医者が入れ替わり立ち替わりであれば少なくとも個人の責任追及=懲罰感情には直結しにくいんじゃないかと言う気がします。

こうして考えてみると冒頭の鉄道事故にしても老妻と言う個人だけが全ての責任を問われる体制になっていたことが最大の問題で、少なくとも特定個人の責任を問われないレベルにまで責任の分散を図っておくべきだったかと思うのですが、その方法論として考えてもやはり家庭内に閉じ込めての介護よりは、施設等で組織として集団体制で面倒を見ると言ったやり方の方が安全であるとは言えそうですから困りますよね。
認知症老人の事故と考えてみると、例えば老人が突然目の前に飛び出した結果運転手がハンドル操作を誤り激突死と言ったケースで老人が純然たる被害者とは誰も思わないでしょうが、こういったより責任追及を受けやすい場合もあり得ることを想定してみれば、鉄道会社が損害賠償請求をするのがおかしいで済む話ではないし、老人なり家族なりの責任を追及すればいいと言う話でもないでしょう。
その場合保険なりで少なくとも経済的な損失だけでも十分に補償できれば、人間冷静になって考えれば相手にもそれなりの事情はあってと納得出来る間口も広がるはずで、国策として地域に老人を帰すのであればセットで何かあったときに責任は公的に引き受けると言う姿勢も必要だろうと言うことです。
もともと人間立場上の対立が感情的対立にどうしても結びついてしまう生き物なのですから、やはり賠償の要求と個人への責任追及が直結するような制度では余計な感情的対立を煽るだけになりかねず、その過程で誰もがもっと不幸になるだけだと言う気がします。

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コメント

そもそも自殺するのに列車に飛び込みたいか?鬱だからやっちゃうんだろうけど思いっきりグロじゃん

投稿: | 2014年4月30日 (水) 08時52分

御存知だとは思いますが、
http://www.im-lawoffice.com/colum5.html
遺族側の落ち度についてきちんと報道されていないように見えます。

投稿: 通りすがり | 2014年4月30日 (水) 08時58分

考えたら当たり前ですが本人に代わって判断してた奥さんもいい年なんですね。
本当に責任を問われるべきなのは息子世代じゃないかって気も…

投稿: ぽん太 | 2014年4月30日 (水) 09時12分

この事故に関しては現状で司法ルール的に判断すると親族が責任を取るしかない状況であって、それ故に上で紹介いただいた記事のこの一節が最終的な結論になるんじゃないかと言う気がします。

>http://www.im-lawoffice.com/colum5.html
>責任を負う根拠がない程度にあらかじめ予防措置を講じておく紛争予防の大切さを感じた。

投稿: 管理人nobu | 2014年4月30日 (水) 11時17分

徘徊老人むけの損害賠償保険がいりますね
でも普通はもらうことの方が多くて列車事故は例外なのかな?

投稿: tama | 2014年4月30日 (水) 11時41分

29日午後7時15分頃、前橋市荒口町の市道交差点で、近くの無職男性(86)が、同居している
アルバイト女性(62)の軽乗用車にひかれ、腹などを強く打って間もなく死亡した。

前橋署の発表によると、女性は男性の息子の内縁の妻で、男性が自宅にいないのに気づき、付近を捜していた。
同署は、男性が道に横たわっていたところを、女性がひいたとみて調べている。現場は街灯がない丁字路。

2014年04月30日 10時37分 Copyright c The Yomiuri Shimbun
http://www.yomiuri.co.jp/national/20140430-OYT1T50036.html

投稿: | 2014年4月30日 (水) 11時55分

鉄道線路内への進入事故の被害は、誰が補償するというのだろうね?
JRを批判する人は、救済運動でお金を払うのが良いんじゃないのかな?

事故を起こした本人に責任能力が無いとしても、その財産で償ってもらわないと、被害者は泣き寝入りです
過失責任が違法行為による損害賠償の基本である以上、被害を救済するためには誰かが「違法・有責」でなければならない、というような理屈が見えてくるような判決です

JRが利益を上げている企業で、その企業が払えば良いというのであれば、
「医療で利益を上げている人が、医療で不幸になった人が被害を及ぼしても、加害者に費用請求してはいけない」
という主張に反論できなくなります

徘徊する家族が起こした事故の被害を補償する損害保険に入ろうとすると値段が気になりますね。。。

投稿: Med_Law | 2014年4月30日 (水) 16時17分

責任ってなんなんだろ
十分な資産があったから、警報機のスイッチを入れるぐらいの責任とれって・・・そういうものなのかね
徘徊老人に資産がなかった場合は、ヘルパーなど雇うのは無理だから責任は問えない、となるのか?
ほんなら、ビンボーで24時間見守れませんって行政に届け出ておけば、行政の責任になったりするかな

投稿: | 2014年4月30日 (水) 18時12分

>7年前、愛知県の91歳の認知症の男性が電車にはねられて死亡した事故を巡り、JR東海が遺族に賠償を求めた裁判で、2審の名古屋高等裁判所が賠償額を1審の半額にした判決について、JR側は不服として最高裁判所に上告しました。

だそうです。
この展開は正直予想してなかった。

投稿: koma | 2014年5月 9日 (金) 09時01分

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