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2014年4月15日 (火)

やや明暗が分かれてきた?小児科と産科の現状

大学病院と言えば市中病院で診断もついた難病患者の治療を担当する場所と言う側面が強く、一昔前は救急などろくに診られないと言う施設も少なくない印象でしたが、昨今では救急部が独立するなど救急に力を入れている施設も増えてきているようで、地域によっては市中基幹病院と比べても同等以上に救急を受けていると言う場合もあるようです。
ただ理念先行に現実が追いついていないと言うのでしょうか、救急部=各科輪番でやむなくこなす義務的仕事と言う現状も一部には見られるようで、元々勤務する各科医師にしてみれば市中病院では出来ない高度な専門的治療に従事することを望んで大学病院に来ているのに、何でも屋的な救急部の仕事に駆り出されるというのではモチベーションも上がらないと言うことはあるでしょうね。
もちろん現実的に大学病院においてもそうそう医師が十分確保されていると言う状況でもなく、当然ながら救急をやっていても本来業務である難病の診療もやらなければならないわけですから大変なのですが、その大変さの結果救急から手を引いた大学病院のニュースがこちらです。

佐大病院 小児救急終了 時間外に影響深刻(2014年4月5日佐賀新聞)より抜粋

 佐賀大学医学部附属病院は24時間365日対応してきた小児救急を3月いっぱいで事実上、終了した。財源だった国の基金が減額され、専門医を常駐させることが難しくなった。年間約4千件の小児救急を受け入れていただけに、「入院や手術が必要な子どもの時間外救急への影響が特に深刻だ」としている。
 小児救急は2010年度からスタートし、ベテランの専門医と臨床研修を終えた若手医師の7人態勢で日勤と夜勤のシフトを組んできた。国の「地域医療再生基金」を活用した県の寄付講座の一環。外科的な応急措置ができる小児科医の育成を図りながら、手薄だった県内の小児救急を充実させる政策医療的な側面も色濃かった。
 国の基金は13年度でいったん期限を迎えたが、2年間の延長が認められた。しかし、補助額が半減したため、小児救急事業は予定通り終了となった。

 佐賀大病院は、13年度の事業期限までに多くの若手医師を育成し、県医療センター好生館などに人材を供給して県内の小児救急を整備する計画だった。4年間で14人(うち女性5人)の若手医師を育てて県内の病院に供給したが、「小児科の抱える問題として過重労働で離職者が止まらず、いくら育てても人材不足は解消しない」(佐賀大)という。
 4月以降、時間外の救急に対応してきた「夜勤」はいなくなり、小児科病棟の入院患者の容体急変に備えて待機している当直医が対応することになる。3月に退職した佐賀大病院小児科学前教授の浜崎雄平医師は「当直は寝て休むことを前提に翌日も継続して勤務する。時間外対応を強いられる現状はあまりに過酷で、医療の安全面からも続けられない」という。
 昨秋から、好生館でも週に2日、小児の救急車の受け入れを始め、佐賀大病院の負担軽減を図っている。また、国立病院機構佐賀病院、佐賀中部病院(旧佐賀社会保険病院)を加えた4病院で1月、連絡会議を立ちあげて佐賀中部医療圏の小児救急の在り方について対策を協議している。
 佐賀大病院によると、12年度の小児救急の時間外受診は2286件で、うち入院が必要な重症ケースは14・4%、330件にとどまった。浜崎医師は「便利だからという理由で時間外受診されるケースも少なくないが、大学病院の本来の役割は重症患者への対応。小児救急の厳しい現状を踏まえ、小児専用の電話相談や佐賀市の休日夜間こども診療所を上手に活用してほしい」と呼び掛けている。(栗林賢)
(略)

大学病院の救急撤退と言えば、5年ほど前に鳥取大で救急部の教授以下スタッフが「心身の疲労」「心が折れた」などと訴え集団辞職すると言う事件がありましたが、当時救急部は専属医4人で重篤な患者900人を含む年間13000人の救急患者を診療していたと言いますから、まあそれは逃げ出したくもなるほどの大変な激務ではあったでしょうね。
今回の佐賀大学の場合も記事から判断する限り典型的なコンビニ診療に見えるのですが、何しろ大学病院で専門の先生が24時間365日救急対応をしてくれると言うのですから誰だって近所の老開業医を叩き起こすよりもそちらにかかりたくなるのが心情と言うもので、この辺り高度医療にも対応出来るよう体制を整備するほど軽症患者の需要も呼び込んでしまうと言うジレンマを感じさせます。
元記事の後半部分を見ていただくと判るのですが佐賀大では電話による小児救急相談というものもやっていて、こちらも今や年間2000件近くと言いますから大変なものですが、実際に病院にかかるよう助言されたケースはそのうちのごく一部であったと言うことから考えても、やはり人材も限られる中でコンビニ受診にも応需するより何よりまずは「便利だからという理由で時間外受診されるケースも少なくない」現状に対する対策が必要だったのではないかと言う気がしますね。

小児科の場合は一般救急と違って患者本人がはっきりした症状を訴えられず状態が判りにくいこと、そして親にしても多くの場合病院受診頻度の最も低い若年世代が多く医療に関する基礎的知識・経験が乏しいことなどから判断が難しいことに加え、少子化が叫ばれ始めた頃から自治体レベルでも小児医療無料化だの24時間診療だのと盛んに住民サービスの一環として需要掘り起こしに熱心でしたよね。
その結果各地で小児科医が疲弊し小児科医療そのものが崩壊してしまうと言うケースが散見され始め、例えば以前にも紹介した兵庫でのケースのように地域の医療資源を守るために保護者ら患者サイドが主体になって不要不急の医療受診を控えようと言う動きが医師確保にもつながるなど、やはり医療の永続性を守るためには患者に対する需要抑制対策と言うものが非常に大きな意味を持ってきていると言えるかと思います。
そしてもちろん、需要に対してひたすら応需することばかりを考えて突っ走っているといずれ佐賀大病院のように全てが破綻してしまうと言うことにもなりかねないのですから、供給側においても単なる供給力増強以外の対策を取っていくことが必要であることは言うまでもないのですが、先日医療崩壊と言う現象に絡めて医師不足が叫ばれた各診療科の現状を示すこんな記事が出ていました。

産婦人科・小児科・外科の医師は増えたのか 小児科は集約化で医師増に成功(2014年4月14日日経メディカル)より抜粋

(略)
学会入会者数には影響大   

 「臨床研修制度は産婦人科医の数に大きな影響を及ぼしている」。こう語るのは京大婦人科産科教授で、日本産科婦人科学会理事長の小西郁生氏。2004年の制度導入から2年後の学会入会医師数は、導入前年よりも減少。その後、若手医師や医学生に診療科の魅力を伝えるために始めた産婦人科サマースクールなどの学会努力により入会医師数は増加したが、2010年の見直しで選択必修科目となり、再度、減少傾向となっている。外科でも同様の影響が見られる(図11)。東大肝胆膵外科・人工臓器移植外科教授で、日本外科学会理事長の國土典宏氏は、「臨床研修制度の導入で外科志望者が減った」と嘆く。
 しかし、厚労省医政局医事課医師臨床研修推進室医師臨床研修専門官の國光文乃氏は、「産婦人科、外科共に、制度の導入以前から減少傾向にあった」と指摘する。また、「福島県立大野病院事件の影響で、訴訟が多いイメージが強い産科や外科を敬遠する若手医師が増えた影響もあるだろう」とも言う。すなわち、制度導入そのものが外科、産婦人科の医師数を減少させたのではなく、様々な社会的要因の一つにすぎないという考えだ。
 診療科別の医師数の推移(図12)を見ると、1994年と比較して2012年の医師数が減少しているのは産婦人科のみ。外科は94年とほぼ同じ数字まで回復している。ただし、医師の総数そのものが増加しているので、総数の推移よりも下に位置する診療科では相対的な医師数は減少している。

集約化で勝ち組に転じた小児科

 外科や産婦人科と同様、一昔前まで医師不足にあえいでいた小児科。制度導入時は必修科目だったが、見直しで選択必修科目となったのも、外科、産婦人科と同じだ。
 しかし小児科では、臨床研修制度の導入による影響をあまり受けていないと考えられている。日本小児科学会の会員数は右肩上がりで増加しており、現在、2万1000人に迫る勢いだ。2007年から試験が開始された小児科専門医も順調に増えている(図13)。
 國光氏は、「小児科を志向しやすい女性医師が年々増えていることが、ベースラインで影響しているだろう」と推測する。しかし、東京医科歯科大発生発達病態学/小児科教授で、日本小児科学会生涯教育・専門医育成委員会委員長の水谷修紀氏は、「女性医師の増加の影響もあるが、小児科医の増加には、学会を挙げて取り組んだ改革の影響が大きいのではないか」と言う。一昔前、小児科診療は危機的状況で、小児科医の過労死問題がメディアを賑わした時期もあった。「最悪の状況を好転させるため、小児科医の労働環境改善に取り組んだ」と水谷氏は当時を振り返る。
 学会が取り組んだ主な対策は、小児科の診療体制を集約化すること。「集約化しなければ、総倒れになるとの危機感」(水谷氏)にも後押しされた改革だった。その目的は、医師の労働環境を良くし、かつ診療の安全性を担保すること。小児科医を一定数以上確保できない医療機関を入院医療から、外来医療へシフトさせた。合わせて多くの地域が、医師会の小児科医と協力し、時間外診療を助け合う仕組みの構築にも努力した。
 国民にも、なぜ集約化が必要かを説明し、理解してもらう努力を惜しまなかった。「幸い、より良い医療を受けるためには、多少の不便を許容し、遠くてもしっかりした医療を提供できる基幹病院に入院することに社会が一定の理解を示してくれた」と水谷氏。入院施設を有する基幹病院は地域で共有すべき限りある医療資源と理解し、小児科を守ろうとする母親たちの協力にも支えられたという。
 小児科は、外来のみでも診療が成り立つ診療科であることも、短期間での集約化を可能にしたのかもしれない。
 集約化を進めることで、女性医師が働きやすい職場も増加傾向にあり、教育にも力を入れられるようになってきた。その結果、若手医師に選択される診療科ともなっている。
 臨床研修制度の導入は、小児科診療の危機的状況を招いた一つの要因だったかもしれないが、小児科は学会を挙げて体制を見直す好機と受け止め、逆境を味方にして状況を好転させたといえそうだ。
(略)

しばしば産科・小児科などと言う言い方をされるように医師不足問題に関わらずセットで語られる局面も多い産科と小児科ですけれども、非常におもしろいと思うのは顧客自体は減少傾向が続いている中で激務だ、医師不足だと言う問題が盛んに言われると言う共通点があった、そしてその対策に関して道が分かれた結果未だ四苦八苦している産科と比べて現状では小児科は一足早く勝ち組に転じつつあると言うことですよね。
もちろん記事にもあるように両者の本質的な差異が一つの分かれ道になっていることも確かで、例えば産科と言えば大野病院、大淀病院の両事件を始めとして何よりも他科よりもずっと高い訴訟リスクと言う問題が産科崩壊の最大原因として内外から注目を集めていた以上、まずはそちらに対する対策と言ういささかネガティブイメージを持たれやすいところからスタートしたのはやむを得ないとは思います。
ともかくも一般市民はもちろんマスコミや法曹に対するものも含めた啓蒙活動によって出産に伴うリスクと言うものを周知徹底してきた結果、「近年、医療訴訟は格段に減少した」と言うのですから狙い通りの成果は上がったとは言えますが、他方で訴訟リスク対策としても激務対策としても重要な医師の集約化と言う点では小児科に一歩遅れを取っていることは残念ですよね。
本来であれば多くの場合外来診療で済む小児科と比べて、最終的にはまず全例の入院が必要になり日常的に緊急手術も行われる産科の方が医師集約化の重要性が高いはずですし、医療安全向上と言う訴訟対策面から考えても1人診療はリスクが高いと思うのですが、この辺りは最近ようやく産科医も増加傾向に転じていると言いますから今後遅れてでも効果は出てくるものなのかも知れません。

学会と言うものも学術的な面ではともかく、実臨床の場においては医師会などと比べても今ひとつ存在意義がはっきりしないようなところがありましたが、今回の記事から見る限り小児科に関してはかなり積極的に学会が関与し臨床現場の状況改善に相応の成果を上げたという、他の診療科にとってもなかなか示唆的な結果となったようです。
この辺りは一昔前であれば各大学の医局が主導的力を発揮出来るかどうかが問われそうな問題でもあると思うのですが、逆に言えば医局の支配力が低下したからこそ医師の再配置などと言うデリケートな問題に関しても学会の影響力が発揮出来たとも言えるのでしょうし、内科的側面の強い小児科診療においては多くの場合に医師一人でも診療を担当できると言うことも良かったのではないかと言う気がします。
例えば緊急手術など外科的側面の強い産科領域においてはどうしても複数医師の協力と言うことも必要な局面があるでしょうが、産科に限らずしばしば言われるように所属医局の違う医師が同じ職場で働いていると医療に関する方法論の違いからか結局うまくいかなくなると言うことがままあるもので、学会主導による医師再配置を目指そうにも結局は系列医局と言うものの存在を無視出来ないのかも知れません。
ただ新臨床研修制度の導入以来大学の医局に所属せずに医師活動を続ける先生方は確実に増えてきていますし、この場合周囲の先生方のやり方を見て仕事を覚えていくのだとすると最初から複数の流儀に馴染んでいる可能性も高いでしょうから、将来的には医局による流儀の違いなども医師連携の垣根としてあまり気にならなくなっていく方向にはあるのでしょうね。
考えてみるとどこの大学にしろ長年の経験等から「このやり方が一番いい」と考えてやっていることでしょうから、若い先生方が複数の流儀に馴染み取捨選択していった結果ここの部分はこの大学のやり方、あの部分はあちらの大学のやり方と「いいとこ取り」が出来るようになっていけば、最終的に大学の系列を超えた地方レベル、全国レベルで最も妥当な方法論が出来上がってくることも期待出来るでしょうか。

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コメント

学会が医師の管理を行えるものとは知りませんでした。
たしかに言われてみると学会の偉い先生って大学の偉い先生でもありましたね。
でも小児科医の先生たちは皆さんこれで納得して従ったんですか?

投稿: ぽん太 | 2014年4月15日 (火) 09時32分

分散配置じゃみなつぶれるって現場の先生が言ってきたこと
あっちこっちの関連病院にいい顔してた教授が諸悪の根源だな

投稿: | 2014年4月15日 (火) 10時07分

>学会が医師の管理を行えるものとは知りませんでした。
 多くの先生方が「これなら良くなりそう」と予感できる方針を(タイミングよく)学会がしめしただけ。看板として目立ってくれて、貢献した。 「良くなるとは思えない」方針には、どなたがのたまっても動かなかったでしょう。学会の効能はその程度のはず。 

投稿: 感情的な医者 | 2014年4月15日 (火) 10時52分

「諸悪の根源」を1個しか挙げることができませんか?
 鑑別診断リストとしては いささか 貧弱です。

投稿: 感情的な医者 | 2014年4月15日 (火) 10時58分

小児科は決まり切った病気が多いせいか、内科や外科と比べるとまとまりがいい印象あります
内科だったら専門のバランスも考えないといけないからこんな簡単じゃなかったでしょう

投稿: おたる | 2014年4月15日 (火) 11時00分

たまたまの結果オーライであっても、先行する成功モデルが登場したということは後進にとってはありがたいことだと思いますね。

投稿: 管理人nobu | 2014年4月15日 (火) 11時23分

>学会が取り組んだ主な対策は、小児科の診療体制を集約化すること。
これのことでは?
小児科専門医制度 研修施設・研修支援施設 http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/shisetsu_tebiki.pdf

投稿: JSJ | 2014年4月15日 (火) 12時41分

考えようによっては新しい専門医制度による誘導の効果が先んじて実証された形ですかなこれは

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年4月15日 (火) 14時56分

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