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2014年4月 7日 (月)

足りないところを手助けしてもらうための前提条件

元ネタが少し古い話なので現状に照らし合わせて必ずしもどうかと言う部分もあるのですが、世に言うところの産科医不足問題に関連して先日はネット上での興味深い議論が紹介されていました。
時期的に有名な奈良県・大淀病院事件の起こった後の頃で、「そんなに医師が不足だ不足だと言うならさっさと何とかしたらどうなんだ?」と言う市井の素朴な疑問に対して既存のマスコミルートではなく、ネットなどを通じて各方面の方々が直接啓蒙を行っていた時期に当たると思いますが、今から振り返ってみますとその後議論が一回りも二回りもする以前の素朴な時代と言う気がしないでもないでしょうか。

産婦人科医の不足についてどう思いますか?(2014年4月1日アメーバニュース)

医療業界では、医師や看護師の慢性的な人手不足が深刻化しています。人手が足りないことから救急で運ばれる病人の受け入れを断られ続けたというニュースも耳にします。しかし救急の場合には、取り返しのつかないことになるため問題の早期解決が望まれます。教えて!gooにも、次のような質問が寄せられました。

「産婦人科医師の不足対策」

MIKENEKO99さんは病院のたらい回しで妊婦が流産したという事件を知って、産婦人科医師の不足を招いた原因に問題があるとし、緊急時には産婦人科医師以外でも診られないのか、またこうした縦割りの問題を解消して制度化できないものかと意見を募っています。

■医師不足より診療を受けていない妊婦の問題

この質問に対して次のような回答が寄せられました。
「医師不足以前に、6ヵ月になるまで一回も医者に行ってなかったので掛かりつけの医者が居ないのでたらいまわしにされたのが原因だと思いますよ。普通は妊娠に気づいたら診察してもらっていると、急な状態でも、掛かりつけの病院がすぐに診てくれるので、事件にすらならなかったはずです。医師不足を解消する以前に妊娠しても病院に行けないのを解消するほうが先だと思いますよ」(hajime1018さん)
「『お金がないから』などという理由で妊娠しても産科にかからない人がいます。では自宅で産むのかというとそうではなく、産む直前になって救急車で病院にかかろうとするのです。検診も受けていないから正常に発育しているかもわからないし、それでいて何かトラブルがあったら訴訟では、産科医のなりてが少ないのもたらいまわしにあうのも当たり前な気がしませんか?そのような患者さんを引き受けたためにきちんと検診を受けている人の出産が疎かになってはいけないと思いませんか?」(morisato13さん)
事件によってクローズアップされ、まるで病院に非があるようにも報じられましたが、普通に検診を受けて、かかりつけの医者がいれば事態は変わっていたのでは、という意見です。

■出産を取り扱うのは総合医でも大変

「いわゆる僻地の総合医の範疇に入る医師です。総合医と呼ばれる分野の医師でもお産を取り扱える人はほとんどいません。そのぐらい現在はお産という分野が特殊になっています。まして現在最前線で頑張ってらっしゃる産科医がやっている程度に『安全に』お産を取り扱える医師は総合医の中では皆無でしょう。だからこそ彼らは専門家なのです」(localsgさん)
医師でも、出産を取り扱うのは非常に難しいと、医師を名乗る回答者からのコメントだけに、これが日本の医療現場の現実なのかもしれません。みなさんは産婦人科の医師不足について、どのように感じていますか?

当時は全く妊婦検診も行わず産気づいてから救急車を呼ぶ症例を「野良妊婦」などと言う表現もあったなと懐かしく思い出しますが、とりわけ医療サクセスの悪い国々においてはジェネラリストが正常分娩の知識も一通り持っている(あるいは、持たざるを得ない)と言う場合もままある中で、基本的に専門家ばかりがお産を取り扱ってきた日本は恵まれていたと言う考え方もあるでしょう。
逆に言えばそれだけお産というのはセンシティブな問題でもあることは圧倒的な産科医の訴訟リスクの高さからも明らかであるし、研修医が産科ローテで妊婦への処方のポイントを学ぼうとしても「そういうことは専門家に任せておけ!」と一喝されたなんてこともあるように、ただでさえリスクの高いものなのに素人が半端な知識で手を出すべきではないと言う産科側の考え方も影響していたように思いますね。
この辺りはまさに改善すべきは供給側なのか需要側なのかと言う問題と絡んでくると思いますが、客観的事実としてお産件数は年々減り続けている中で産科医をどんどん増やせと言う主張に説得力はあるのかどうかで、本来的に業務が減るはずなのに多忙感が改善しないのだとすればその理由は何かと言うことを考えてみなければならないと思います。
かねて産科領域に限らず是正の必要性が言われている医師分散配置が悪いのか、それとも医師でなくても出来る業務を医師に押しつけているのが問題なのかと考えていくと結局は医療の業務分担をどうするか、言葉を変えれば素人に半端な知識で手を出させることを認めるべきか否かとも極言できるかと思いますが、国としては大原則としてこうした医療の分業体制あるいは権限委譲を推進していく立場にあるわけですね。
財政的に考えれば医師がしてきたことを看護師が、看護師がしてきたことを一般職スタッフが行えるようになればコストの高い専門職に対する需要を抑制できて医療費削減にもつながるし、多忙極まり不平不満の蓄積している専門職の労働環境改善にとってもいいじゃないかと言うことなんですが、これに対する反発として一番根強いのが「素人にやらせて何かあったらどうするの?」と言う当の専門職側の声だと言えます。

病院前医療に立ちはだかる「責任問題」の壁(2014年4月4日日経メディカル)

 厚生労働省は2014年2月、「救急医療体制等のあり方に関する検討会」(座長:昭和大病院長の有賀徹氏)がまとめた報告書を公開した。救急医療体制の取り組みに関する現状および課題として、全13項目が挙げられている(図1)。
 この報告書で筆者が特に注目したのは、救急救命士や看護師といった医師以外の医療スタッフを、積極的に活用することが前提となっている項目が多いことだ。

 例えば、「(1)メディカルコントロール(MC)体制について」という項目では、救急救命士などの助けを借りて、地域の病院前医療体制を充実させていくことを提言している。救急救命士などが行う処置は基本的に医師からの指示や指導、助言を得る必要があるため、病院前医療においては指示や指導を行うMC体制が重要となる。
 一方で、14年4月に改正救急救命士法が施行され、救急救命士に認められる処置の範囲が拡大した。心肺機能停止前の重度疾病者に対しても静脈路を確保し、輸液ができるようになったり、血糖測定や低血糖発作症例へのブドウ糖溶液投与もできるようになった。救急救命士などによる病院前医療が充実すればするほど、MC体制の業務増加に直結することは間違いない。
 不要不急の小児救急受診を減らすための「(3)小児救急電話相談事業について」「(4)院内トリアージの標準化について」といった項目も、医師以外の医療スタッフの働きで救急医の負担を減らそうという提案だ。これまで以上に、救急の現場でコメディカルの活躍に期待が掛かることになる。

 ただし、これらのコメディカルの力を借りる解決策では、万一事故が起きて訴訟などの「責任問題」に発展した場合にどうするかが課題になる。これまでにもさんざん指摘され議論されてきたことだとは思うが、コメディカルの業務範囲が拡大し、医師の肩代わりをする範囲が増えれば増えるほど、責任も大きくなる
 やはりここがネックになるのか、前述した救急救命士の処置範囲の拡大も、全国で4月から一斉に開始されるわけではなく、しばらくは様子見しながら体制を整える地域も多いようだ。

 素晴らしい仕組みが提案されても、実行に至らなければ絵に描いた餅にすぎない。実行を決断するには、ある程度の免責制度をつくるか、万が一のときに機能する賠償責任保険への加入などを徹底しなければ、責任問題に発展しがちな救急関係業務をコメディカルと分担する体制をつくることはできないのではないか。
 報告書は現状と課題を浮き彫りにし、解決への方向性を示した。これからは、実際にどう機能させていくかを具体的に詰めていく作業になるだろう。その過程の中で、救急医療の華の部分と比べれば地味ではあるが、本質的な課題である「ミスの責任は誰がとるのか」がどうクリアされていくのか、注視していきたい。

多忙な専門職の業務を少しでも減らすための政策に当の専門職から文句を付けられたのではたまらないと言う声もあるでしょうが、この辺りは医療に限らずどこの業界でも同じことで、下手くそにやらせて失敗したら単にやり直しの二度手間になるばかりではなく、顧客トラブルにも発展し責任問題にもなるじゃないかと考えると「それなら最初から自分でやった方が早い」と言う発想ですよね。
こういう考え方をしている限りは職場教育と言うものはうまくいかないんだろうなとも思うのですが、考えてみると医療現場の教育システムというのは長年「俺は忙しいんだから仕事は勝手に見て覚えろ」式のやり方が平然と続いてきたと言うところもあって、ようやくこんな旧態依然とした方法論ではいけないと見直しが本格化したのは新臨床研修で新人達が自由に研修先を選べるようになってからだとも言えます。
もちろん人間相手に行われる医療は一回限りの失敗が許されない仕事であって、能力技能のない素人に失敗覚悟でやらせるわけにはいかないと言う考え方を持つのはいいのですが、その理屈で行けばいつまで経っても若い人に仕事を委任譲渡するわけにもいかず、幾つになっても最前線で過酷な奴隷労働を続けなければならないと言うことにもなってしまいますよね(実際にそういう人もいらっしゃるようですが)。
どんな名医でも最初は素人として現場に出てきた、しかしそれが一人前になれたのは教育によってであることは明白なのですから、能力が足りたいから駄目だと言うのなら十分な能力を備えられるようになるまでの教育システムを整備すればいいのだし、仕事に必要なスキルが取得出来ない、させられないと言うのは本質的には教える側の責任問題ではないかと言う気がします。

責任問題と言うことで言えば産科領域においても町の助産院がさんざんにこじらせた症例をどんどん送りつけてくる結果、訴えられるのは最後に引き受けた産科医であると言うジレンマが以前から言われていましたけれども、救急においても同じ院内のスタッフならまだしも縁もゆかりもない救急隊員の失敗までこちらに押しつけられるのではたまらないと考える医師は決して少なくないようです。
しかしこれも現代の医療の考え方からすると失敗したと言う事実を誰か個人の責任だとして追及すれば終わると言うのではなく、あくまでも組織として責任を取るべきと言うことになってきているのだし、「家が全焼してしまった場合は出動した消防隊一同辞表を書くべき」なんてことになっていないことからも判るように、例え命の関わるような現場においても個人責任追及をしないと言う考え方は社会に十分受け入れられる余地はありそうです。
もちろん事故が起こらなければ起こらないにこしたことはないわけで、業務を委譲するからにはきちんと教育体制を整えるのも専門職側は努力していかなければならないし、委譲したならしたで何かおかしい気がすると相談を受けた時にはきちんと業務を支援ないし引き継げるようにはしておかなければならないでしょうね。
ただ基本的にこういうことは別に救急隊や看護師教育にばかり限る話ではなく、こうした人々がうまく教育出来るのであれば当然に座学的基礎知識はある研修医などの教育も効率的かつ確実に行えるようになるはずで、言ってみれば手間ひまかけて体制を整備することも無駄にはならないかと思います。

ところで事故対策に関して少しばかり問題だと思うのが医療現場でも医療事故なりが起これば必ず院内の事故対策委員会なりで検討し対策を取りましょうと言う風になってきていますが、この対策の考え方として業務をいかにシンプルにして誰にでも判りやすくすると言った考え方ではなく、ただひたすらに確認の徹底と言った煩雑化する方向での力業で押し切ろうと言う風潮が少なからず見られると言うことです。
例えば先日は高血圧の薬を出すべきところを名前がよく似ている糖尿病の薬を間違って出してしまい、低血糖脳症から植物状態になってしまった患者の家族が薬局を訴えたと言う大変不幸な事例がありましたけれども、こうした事例が院内で起こっていれば「看護師と薬剤師のダブルチェックでは駄目なんだ!医師も交えてトリプルチェックにすべきだ!」なんて事故対策が取られていたかも知れません。
実際にそういうやり方でどんどん多重セーフティを推し進めていった施設もあって、あまりに日常業務が煩雑になり過ぎてスタッフの残業も増え疲労が蓄積した結果、あり得ないようなケアレスミスが頻発し散々だったわけですが、ものの判っている専門職ばかりで構成される医療現場においても素人のような単純ミスは決してなくならないわけです。
未だに起こる酸素などの誤配管事故に対して病院ではボンベを種類毎に分けて置く、スタッフにも決して間違えないよう周知徹底するなどと言う対策を講じる、一方世間ではコネクター形状をガス毎に変えて物理的に誤配管できなくすると言った話もありましたけれども、ことヒューマンエラーと言うことに関しては素人でも間違わないように長年様々な工夫を凝らしてきた他業界の知恵こそどんどん取り入れていくべきかと思いますね。

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コメント

>緊急時には産婦人科医師以外でも診られないのか

緊急時だからこそ専門家じゃないと手が出せないんです。
それより妊娠中の通常診療でどれだけ手助けできるかどうかでしょう。
喘息持ち妊婦さんの管理を手伝ったことがありますが産科の先生はこういうのはご存じないですからね。

投稿: ぽん太 | 2014年4月 7日 (月) 08時45分

ところでコメディカルの人は仕事増えてよろこんでるんですか?
仕事増やさないと給料も増やさないと逃げ出す人が出そうな気が

投稿: 亜加地哲也 | 2014年4月 7日 (月) 10時12分

まあ他診療科の先生方も決して暇を持て余していると言うわけでもないでしょうから、他科応援がどこまで出来るかと言うと微妙なところですよね。
応援診療としてはおそらく産科よりも小児科の方が需要が大きい気がしますが、ローテート研修でどこまで対応出来るようになるか今後に要注目だと思います。

投稿: 管理人nobu | 2014年4月 7日 (月) 11時44分

医者「仕事減らせ、医学部定員増やすな、混合診療やめろ、皆保険死守しろ、報酬上げろ、消費税非課税は差別だ」


じゃあどうしろっちゅうねん

投稿: | 2014年4月17日 (木) 20時24分

それ全部いってる人が違うから

投稿: | 2014年4月18日 (金) 22時32分

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