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2014年4月10日 (木)

働かないのか、働けないのか 就労支援に関わる困難

社会保障費抑制が政策上の大きな課題となる中で、各方面で自立支援と言うことが盛んに言われるようになっていますけれども、先日興味深い調査結果が出ていたことを紹介してみましょう。

ホームレス:就労希望者が大幅に減少 横浜市調査(2014年4月5日毎日新聞)

 横浜市のホームレスの高齢化・長期化が進み、就労希望者が大幅に減少していることが市の生活実態調査で明らかになった。市は路上生活が長引くと社会復帰の意欲の低下につながるとみて、就労支援だけでなく個別の生活状況に応じたサポートを進める方針だ。

 市は2012年1月に市内のホームレス111人から直接聞き取り、就労状況や収入、体調を分析。平均年齢は59.8歳で、07年の前回調査(53.7歳)より6.1歳上昇。路上生活期間は3年以上が52.2%、1年以上〜3年未満が27%で、07年と比べ長期化した。
 就労状況では、職に就いている割合は40.5%だったが、月収は2万〜5万円未満が51.1%と半分以上を占め、5万円以上は20%にとどまった。
 路上生活に至った理由は「仕事が減った」が31.5%、「倒産・失業」が27.9%に上った。一方で、「就労を希望する」(15.3%)は「今のままでいい」(33.3%)を下回った前回調査では「就労を希望する」(55%)が「今のままでいい」(12.5%)を上回っていたが、今回逆転した。

 市によると、全国のホームレスの数は13年1月時点で8265人で、減少傾向にある。ただ、政令市では横浜市の581人と川崎市の527人が大阪市の1909人に次いで多く、県全体では1395人に上る
 市は今回の調査結果を踏まえ、今年度から5年間の自立支援計画を策定した。
 巡回相談による医療支援や、自立支援施設退所後の住宅支援を強化。市発注の公共工事を受注した業者に寿地区の日雇い労働者の雇用をうながすなどして就労の場を確保する。さらに個別相談を進め、一人一人のニーズの把握に努める

5年前の調査と比べて平均年齢が6歳高齢化していることに留意いただきたいと思いますが、失業等のやむを得ない事情なりで新規参入した方々も大いにも関わらず離脱意欲が低下していくと言うのは横浜市のような大都市部では生活環境がいいと言うことなのか、ある程度長期的に環境に慣れてしまうとどこであっても住めば都的心境になってしまうのか、ともかく非常に示唆的なデータだと思います。
ご存知のように長引く不況下でもホームレスの方々に対しても各種支援活動が行われるなどしているわけですが、ホームレスとして生きることを決めている人々と失職等によりやむなくホームレスとなっている人がいるのだとすれば、少なくとも後者に対しては適切な支援を行うことで社会復帰を行うことが出来ると期待されているわけですが、これもなるべく早期に行わなければ復帰が困難になると言えそうですよね。
生活保護などにおいても実は同じ傾向が以前から指摘されていて、これは生保から離脱しようとした途端に各種社会保障経費の支払いがのし掛かってくる、しかも生保生活者は貯蓄などを行い難いと言う制度設計上の問題も大いに関係しているわけですが、生保受給者が増えすぎて困ると言うなら離脱しやすいシステム、離脱することにインセンティブを感じるシステムを用意しなければならないはずです。
ところが現状の行政は今ひとつこのあたりがうまく回っていないようで、確かに現場の人間からすれば面倒な就労支援などに汗水垂らすよりもさっさと月々の手当だけ渡しておいた方が楽でいいと言う、これまたインセンティブの欠如があるかとも思えるのですが、社会復帰の問題はこじらせればこじらせるほど解決困難になりがちだと言うもう一つの実例をこちらの記事からも見てみましょう。

やる気のある人の出鼻をくじき追いつめる 引きこもり支援“たらい回し”の現実(2014年4月3日ダイヤモンドオンライン)より抜粋

(略)
「自分がうつ病になったのは、会社に行く以外は引きこもっていて、ストレスのはけ口が皆無だったからだと思います」
 そう語る30歳代の男性は、高校時代から対人恐怖や赤面恐怖に悩み、会社に入社するものの、うつ病と言われて数年で退職。高校時代から含めると、ずっと長い間、引きこもり状態が続いているという。
 また、親に状況を訴えても理解はなく、家の外には、どこにも相談しようとしなかった
 そこで、男性は退職後、役所が開設する「ひきこもりサポートネット」に自ら相談。そのサポートネットの担当者に紹介され、福祉課や支援団体などに連絡した。しかし、「たらい回しや冷たい対応、高額な請求等で、結局、何の力にもなってくれませんでした」と明かす。
 その後、いろいろ調べたところ、「ひきこもり地域支援センター」という国の相談機関があることを知った。
 そこで、同センターに行って状況を相談。紹介された病院に通い始め、「外出が怖い」「食欲がない」「眠れない」「元気が出ない」などの症状を訴えたものの、こんな対応を受けた。
「病院の先生に処方ミスをされ、SOSの電話も煙たがられるようになりました」。
 さらに、男性が(処方ミスに対して)「私は食欲がないとしか聞いてない」と説明する医師の態度に怒り、同センターに連絡して抗議すると、
「私たちは、あの先生を提案しただけ
「私たちは、精神疾患のない『社会的ひきこもり』を対象としている
 と釈明されたという。
「誰が好き好んで孤独に引きこもるのか。何らかの悩みや事情があるからではないのか。 うわべだけの支援には、うんざりです。毎日、自分を精神的に責めているのに、崖から背中を押された気分になるのではないでしょうか」
(略)
 もちろん、役所の担当者や支援者、医療関係者の中にも、当事者の抱える問題に向き合い、本気で取り組んでいる人たちがいる。その一方で、本気ではない「形だけの支援」が、せっかく前向きになって、自分から変わらなければいけないからと思って赴いてきたような、やる気のある当事者の出鼻をくじき、つらい思いをさせているという構図がある。
(略)
 20歳代の「発達障害」という男性は、これまで障害者就業・生活支援センターや発達障害者支援センター、地域若者サポートステーションなどの公的支援機関に通い続けてきた。しかし、現在は「何の支援もなく、どこにも行く所もなく、実質引きこもり状態で生活している」状況だ。
「1年前までは就労支援を受けており、障害者雇用に前向きな企業との面接の話も頂くことができたのですが、支援機関の就労カウンセラーから“そんな態度では働くことはできない”という発言を受け、精神的に参ってしまい、通い続けることができなくなってしまいました」
 男性は「働きたい」「社会に参加したい」と思っても、現在受けられる支援は、障害ゆえのハンディキャップに応じたニーズから乖離したものが多く、その結果、引きこもり状態が続いてしまっていると明かす。
(略)
「就労支援を受けているときには、障害ゆえの特性を『社会性がない』と叱られたり、いままでやろうとしてもできないことを支援として行われることが多々ありました。その都度、それに対して、私から異議を唱えてはみたのですが、『発達障害という認知の偏りを持つ特性を持っているから、そんな風に被害的に受け取るんだよ』と言われることが多く、会話が成立することがありませんでした」
 男性は、本当にそうなのだろうかと疑問に感じつつ、いまだにどう受け止めていいのか、自分でもわからずにいる。
「4月に入っても、まだたらい回しは終わっていない状態です。こちらから働きかけても、連絡もなく、支援のための支援さえないようです」
(略)
 長年、引きこもり状態にある女性からは、こんな話を聞いた。
 彼女が住む最寄りの地区の地域若者サポートステーション(サポステ)に、勇気を出して相談に行ったときのことだ。最初は、スタッフから「よく来たね」と歓迎され、丁寧に対応された
 ところが、何度か通ううちに、だんだんとスタッフの様子が変わってきたという。
なんで求人に応募しようとしないのか?」「なんで就労支援のカリキュラムを受けようとしないのか?
 スタッフは、明らかにイラつくような態度で彼女に接するようになり、やがて連絡が来ることもなくなった
 そこは、就労より前の段階にある、人間関係の苦手な彼女が求めていた“支援の場”ではなかったのだ。
 サポステの場合、NPOなどの支援団体が国から委託を受けて運営している。中には、当事者の気持ちに寄り添って丁寧に向き合っているところもある。しかし、その一方で、「費用対効果が見えない」というサポステへの批判が高まる中、国の課した数的なノルマに追われ、就労実績を上げようと必死になっているところもあって、やっとの思いで訪れたような引きこもり当事者との間で、ますますミスマッチが生じている現実もあるのかもしれない。
(略)

個別のケースを見ていくとなるほど、おそらく関係者の考えの流れとしてはこんな感じだったんだろうなと想像出来るところも多々あるのですが、就労支援をする側としては「当の本人が一番熱心に動かなくて就労につながるわけがない」と言う考えがあるのだろうし、他方で支援を受ける側としては「今まで一人で頑張って無理だったのだからちゃんとした支援がなければ就労できるわけがないじゃないか」と言うことなのでしょう。
もちろん失業者にしてもたまたま何らかの事情で失職しただけの多くの人々は働く機会さえあれば働きたいと言う意志はあり能力もあるのだろうし、そういう方々に対してはともかく機会を与えるだけで何とか状況も好転していくのでしょうが、ある程度長期的にこじれてしまったケースではそうした通り一遍の対応では難しいし、関係する各段階においてもう少し専門的な対応が必要になりそうだと言えそうです。
そして要注意なのは冒頭の記事にあるように当初は単なる機会喪失による失業であっても、ある程度その状況が長く続くとそれによって状況がこじれてしまうことも少なくないと言うことで、ともかく働きたいが働けないと言ったタイプの難しいケースほど最初のとっかかりの部分を慎重にこなさなければならないのに、現状ではそこまでの丁寧な個別的対応が出来ているとはとても思えないようです。
逆に良い悪いは別として確信犯的に働く意志がない人と言うのも一定数いるはずですが、こうした方々に懇切丁寧な就労支援をしても労力の無駄とも言えますから、最低限単なる就労機会喪失者なのか、働きたいが働けない事情のある人なのか、それとも働く意志自体のない人なのかと言うことを区別した対応を行わないと当事者双方にとって不幸な結末になるのが見えているということでしょうね。

無職を一人食べさせるためには相応の税金を投入しなければならないが、どんなワープア状態だろうが就労させられれば支援コストもかからない上に多少なりとお税金も払ってくれる、それなら財政的にはとにかく皆に働いてもらった方が得だと言われればその通りなんですが、現場で就労支援をするスタッフにすれば「こんな面倒くさい人達相手に一生懸命頑張っても別に給料上がるわけでもなし」と考えてしまうのは仕方ないわけです。
また就労支援するにしても各段階で最善の対応が出来るような専門的スタッフを配置すればそれだけコストもかさむわけで、結局はかかるコストと期待される効果の兼ね合いでどのあたりが行政として社会として一番お得になるのかですが、特に働く気がない人々に対しては生活保護費減額や現物支給化など働かないでいることによるメリットをどんどん減らしていけば、一番手軽に就労意欲が増すはずだと言う声も根強くあります。
ただホームレスですら時間と共に離脱する意欲が失せてしまうことを考えると給付の抑制は社会保障費圧縮の手段としてはともかく、就労促進の手段としてはその効果は限定される部分もありそうですから、むしろ働きたい人に的を絞って生保受給状態から自力で稼ぎ税金を納めると言う段階に至るまでどう労働することのインセンティブを維持するか考えた方が効率的だろうし、社会的にも強く求められる方法論だと思います。
また働けないタイプの方に関して言えば一般的な労働者として直ちに社会復帰するのはハードルが高いわけですから、これも専門家の意見も取り入れながら公的に適切な仕事を割り振る労働給付と言ったものも考えていくのがいいんじゃないかと思いますが、就労以前に各地の民生委員や地域の長老なども動員して地域内での人間関係を構築していくことも重要となりそうな気がします。

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コメント

ホームレスと言っても無収入と言うわけではないというのは盲点でした。
働いてかせぐ意志がある人なら役所から住民サービスの下請けをお願いできるかも?
道路脇の草刈りや公園トイレの掃除をやってくれたら助かりますけど。

投稿: ぽん太 | 2014年4月10日 (木) 09時38分

ナマポへの給付は全て現物あるいは専用の金券とする(生活必需品にしか使えない)
生きるために最低限の給付のみ行いそれ以上を求める者には対価として労働を求める

投稿: | 2014年4月10日 (木) 10時05分

公園の清掃等の作業は実は町内会組織にとってそれなりに大事な収入源になっている場合もあって、誰彼構わず委託されてしまうと実際問題困ると言う部分もあるようですね。
ただ単純に労働力としてのみならず社会に出て仕事をすると言うことに慣れると言う意味でも、公的なルールとして給付の対価に業務負担をしてもらうと言う仕組みはありだと思います。

投稿: 管理人nobu | 2014年4月10日 (木) 11時04分

公的な仕事が既得権益化してるってのは、それはそれでナマポと同じ位なんだかなあと

投稿: | 2014年4月10日 (木) 12時09分

浜の真砂は尽きるとも世に既得権益の種は尽きまじw

投稿: aaa | 2014年4月10日 (木) 14時33分

産経新聞 4月9日(水)8時10分配信

生活保護の不正受給を防ごうと福岡市は4月下旬、専用ダイヤル「生活保護ホットライン」(仮称)を開設する。
不正受給に関する“たれ込み”を受け付けるほか、ギャンブルやアルコールなどに過度に依存する
受給者の生活立て直しに向けた支援に生かす。高島宗一郎市長は8日の記者会見で「行政だけではつかめない
情報をすくい上げる。生活保護の公平性を担保し、守るべき人をしっかり守りたい」と語った。

福岡市は生活保護の審査にあたって、市税の徴収状況から就業・収入の把握に努めるが、
個人のプライバシーに関わる収入や資産の実態を調べるのは難しく、不正に生活保護を受け取るケースが多発している。

24年度に福岡市が不正受給と認定し、返還を求めたのは1521件(4億5900万円)に上った。
受給総数3万1154件(784億円)の5%弱にあたる。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140409-00000503-san-pol

投稿: | 2014年4月11日 (金) 16時08分

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