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2014年4月 2日 (水)

病気の治療と仕事は両立できない?

このところ改憲議論と言うものが盛んに取り上げられているようで、何事も聖域化せず議論することは大事な事だとは思いますけれども、こうした問題に絡むと妙にヒートアップしてしまう方々も少なくないようで、先日は参院予算委で「政権の番犬」と罵倒されたことをきっかけに小松一郎内閣法制局長官と共産党の大門実紀史参院議員が国会内で口論すると言う、いささか大人げなさ過ぎる事件も発生したようです。
ともかくも野党各党は憲法解釈変更問題の中心人物である小松氏を引きずり下ろすと鼻息も荒いようですが、一方で小松氏と言えば今年に入って胃癌とも言われる大病で入院し一時は後任人事も検討されていたものを本人が続投を直訴し留任が決まったと言うほどで、現在も週一回の通院で治療を続けていると言いますから個人としても大変な状況にあると言えますよね。
個人と公人の双方で重大な状況にあるというその小松氏が通院治療のため参院決算委員会を欠席したことを巡って、先日は民主党の尾立源幸氏から「職責を果たしていない」と職務への適格性を問われたと言うニュースが出ていたのですが、これはまた炎上しそうな発言だなと思っていましたら案の定各方面から批判が出ているようです。

抗がん剤投与で欠席の小松長官に「職責果たしていない」 民主・尾立氏(2014年3月31日産経新聞)

 小松一郎内閣法制局長官が、抗がん剤を投与する通院治療のため、31日午前の参院決算委員会を欠席した。憲法の解釈見直しと憲法改正の違いについて質問するとして出席を求めていた民主党の尾立源幸氏は「職責を果たしていない」と激しく反発した。

 安倍晋三首相は、尾立氏から小松氏の適格性を問われると「決算審査に関係ない質問だ」と反論した。民主党の斎藤嘉隆氏への答弁では「経験と見識を生かし、法制局長官の職責をしっかり果たしてほしい」と擁護した。

 政府は、小松氏が毎週月曜日は投薬治療に充てていると説明している。

がん患者は「職務不能」なのか 小松長官批判した民主党議員に反発の声(2014年3月31日キャリコネ)

がん治療を理由に3月31日午前の予算委員会を欠席した小松内閣法制局長に対し、民主党の尾立源幸議員が「職務を果たしていない」と批判した。
しかし小松長官の治療計画は、あらかじめ「毎週月曜日」と決まっていたもの。通院治療をしながら働く権利を擁護する人たちからは、尾立議員は「人として思いやりがない」「これがリベラル政党のやることか?」と反発している。

罹患を理由に「退職・解雇」3人に1人の現状 「がんが発見された」――。そのことを理由に、会社を解雇されるなどして職を失う人は少なくない。厚生労働省の調査によると、がんを患った勤務者のうち、それまで働いていた職場を「依願退職した」人が30.5%、「解雇された」人が4.2%いたという。
自営業者の中には、仕事がなくなるのをおそれて、がんであることを取引先に黙っている人もいるという。2013年9月3日にNHK「ハートネットTV」では、早期発見にもかかわらず、会社から退職を求められたという女性が紹介されていた。
女性は、がんに対する「差別と偏見」を感じたという。医療の進歩により、身体に負担の掛からない手術の方法も開発され、働きながら治療する方法が増えてきた。しかし「社会の理解」は、そこまで進んでいない。

内閣府の世論調査でも、7割の人が「がんの治療をしている人はもう働けない」と答えている。しかし、治療にはお金が必要だし、家族の生活もかかっている。がん患者は休んでいればいいのだ、と強制する考えは、患者を精神的にも経済的にも追い込むことになる。
そのような事情を知る人は、長官の治療計画を知りながら国会に呼び出す尾立議員は「人として思いやりがない」「患者に対する理解が足りない」「悪意がある」というわけだ。2013年に夫人をがんで亡くした経験を持つ漫画家の須賀原洋行氏も、こう反発している。
「小松長官が今日の国会に来れなかったのを責めるだけにとどまらず、『職責を全うできないのなら辞めろ!』と国会で追及する民主党。全国で癌治療をしながら働きたいと思っている人達が今日の国会を観てどう感じただろう。これがリベラル政党のやることか?」 小松長官の病状については、週刊ポスト2014年3月14日号が「1月下旬に開腹して(胃がんの)摘出を試みたが、すでに転移が見られ、結局、摘出手術は行なわれなかった」という政治ジャーナリストの歳川隆雄氏のコメントを紹介している。

政策に関して意見の不一致があるのは当然のことで、政治的駆け引きとして色々と個人の資質を言い立てるのは(良い悪いは別として)ままあることなのですが、それにしてもここに個人の病気と言う問題が絡むと何しろ自分の責任でそうなったと言えるものでもないだけに、先日も民主党議員が安倍総理に「水を飲んだら下痢するぞ」と野次って批判されたように「人として思いやりがない」「患者に対する理解が足りない」「悪意がある」と言われかねませんよね。
この辺りは日本では政治家の類は中高年の役職になっていて、それだけに何かと基礎疾患を持っていたりするケースが多く健康問題は即座にデリケートな話題に直結しかねないですけれども、アメリカの大統領などは若くて元気が良くなければ365日24時間の重責に耐えられないと言う考え方があるようで、何人も健康問題や病死で終わっている日本の総理と違い戦後病気で辞めた大統領はまだ1人もいないようです。
警察官などに言わせると「65歳以上の証言はあてにならない」のだそうで、身体的にももちろんですが知的活動能力も年齢と共に低下していくのは棋士など知的職業人を見ても明らかですから、世間で言う定年年齢を過ぎたような人たちばかりが国の行く末を議論していると言うのもどうなのか、どうせ自分はすぐ死ぬ連中に国家百年の大計など期待出来るのかと言う批判は以前からあるわけです。
逆に闘病していると言うことが聖域化していいのか?と言う批判もあるところで、一般論としても小松氏くらいの年齢で大病を患ったとなればもう引退して療養に専念すればいいじゃないかと思えるお歳ではあり、恐らく辞めて生活に困る身でもないでしょうから、総理としても一連の議論を重大なものだと捉えているのであればなおさらに後任人事も考えてはおくべきだとは思いますけれどもね。

その安倍総理にしても前回の政権時代には難病治療中であることを秘めたまま職責を全うできないと退陣し大きな批判を浴びたわけですが、現在の第二次政権では今のところ健康問題では大きな支障はないようで、治療によって十分コントロール出来る疾患であるなら社会生活を全うしていただけばもちろん良いのですが、問題は本人が希望すれば病気持ちでも社会的制度的に職責を全うできる状況にあるかどうかです。
この辺りはどの程度からを職責を果たしていないと考えるか微妙なところですが、例えば近年メタボ検診に基づく職場へのペナルティーも導入され、労災防止という観点からも基礎疾患持ちに対しては非常に雇用する側も厳しく対応するようになってきた、その結果別に医学的には業務に全く支障がなさそうだと思える病態であっても雇ってくれない、契約を打ち切られたと言ったことが(表向きにならないまでも)多発している状況です。
確かに「糖尿病持ちは脳梗塞・心筋梗塞の発症リスクが2倍!」などと言われると「それじゃ機械を操作中に発作でも起こしたら大変だ」と言う考えになるのはリスクマネージメントからすれば当たり前ですが、健康向上のための医学的エヴィデンスの蓄積が雇い止めのエヴィデンスともなっているのは何とも不幸な状況ですし、データを出した医療の側にしてもそういう形での実社会への応用を期待していたわけではないんだろうと思います。
学者馬鹿が世間に与える影響の大きさも考えずに好き放題やった結果がこうだと患者さんからは恨まれかねない状況だとすれば、それをどう是正していくべきかと言うことも考えておかなければ「個人としては健康になったけど社会人としては死んだ。どうしてくれる」などと言われてしまいますけれども、こうした状況に対して末端医療現場で当面可能な範囲でどのようなことが出来るのかと言うことですよね。

例えば今回話題になっている化学療法なども今までは医療側の都合で治療スケジュールを決めることも多かったわけで、特に昨今の「日常生活を続けながら癌治療を」と言う考え方からすると今後ますます患者の社会生活に対する配慮と言うものが必要になってくるはずですが、そこで単純に「それでは患者さんの都合で決めましょう」で済まないのが治療には必ず予想外のトラブルが伴う「可能性が否定出来ない」と言うことです。
化学療法を行えば一般に当日、翌日あたりは一番調子が悪くなりがちであまり仕事の効率も上がらない状態だと思いますが、それに対して「治療後に何かあってもすぐ対処出来るよう週初めに行おう」と考えるか、「治療を行いながらでも社会生活を維持出来るよう休日前の週末に行おう」と考えるかと言うと、JBM全盛期以降の医療現場では当然前者の立場の方が圧倒的な説得力を持ってきたと言えますよね。
癌とは言わずとも検診で便潜血が見つかってカメラをしたところ大腸にポリープが見つかった、その場で切除したが経過観察のためそのまま入院することになったと言うケースは珍しくないと思いますが、患者からすれば「ただ念のために泊まるだけなんだから休日前にやってくれればいいのに」と思うだろうし、医療側からすれば「何かあった時にすぐ対応できるように入院させるんだから翌日休日では意味がない」と言うことになるわけです。

この辺りの曜日や休日との関係によって施設側の対応や事故リスクがどう変化するかと言ったデータは個人的にあまり目にしたことがないのですが、やはり治療をしながら普通に社会生活も送りたいと言う希望がある以上可能であるならば医療側も対応していくべきだろうし、そのためにもまずは社会医学系の先生方にしかるべきエヴィデンスを用意してもいただきたいと言うところでしょうか?
ただ何かあった場合には毎回休日出勤必須となれば単純にコストもかさみますし、ただでさえ日常業務だけでも忙しい現場も多いわけですからどうしても気持ち的に面倒ごとは避けたいと考えるのは仕方のないところで、国として診療報酬への配慮なりで何らかのインセンティブを用意出来るようになれば制度的に患者の社会復帰を後押しすると言うことにはなるでしょう。
一方では以前に「金曜入院・月曜退院が多い病院は診療報酬減額」と言う話に関して「新小児科医のつぶやき」さんが考察していたように週末はベッドを空けて救急患者に備えるべきと言う考え方もあるわけで、そう考えていくと「病人も普通に社会生活を送れるようにしましょう」と言う一見単純明快なかけ声の前には実に多種多様なハードルが横たわっていそうですよね。

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コメント

(テロで撃たれた濱口 雄幸首相が)入院中は幣原外相が臨時首相代理を務め、濱口首相は翌1931年(昭和6年)1月21日に退院した。しかし、野党・政友会に所属する鳩山一郎らの執拗な登壇要求に押され、同年3月10日、無理をして衆議院に姿を見せ、翌11日には貴族院に出席している。それでも政友会からの議場登壇要求は止まず、18日には登壇するも声はかすれ、傍目にも容態は思わしくなかった。4月4日に再入院した首相は翌5日に手術を受け、これ以上の総理職続行は不可能と判断。4月13日に首相を辞任した。民政党総裁も辞任し、退院後は療養に努めたものの、治療の甲斐なく8月26日午後3時5分に死去した。
____________________by Wiki

ライオン宰相と言われた浜口首相が凶弾に倒れたあと、致命傷となったのは、野党の国会質問に真摯に答えるため、安静を守らずに体力を奪われたからでした

民主主義を壊すのは、馬鹿な野党議員かも知れないという教訓は今日には活きていませんね

投稿: Med_Law | 2014年4月 2日 (水) 07時45分

でもまあ本人にとっても無理はしないほうがよさそうな状況ではあるんですよね…
本人がやると言い張っている以上誰かが止めないとどうしようもないんでしょうけど。
せめていつでも業務を代行できる副担当者をつけといたほうがいいかもです。

投稿: ぽん太 | 2014年4月 2日 (水) 09時07分

近い将来いつものブーメランの悪寒w

投稿: aaa | 2014年4月 2日 (水) 09時28分

政治家が空気を読めないというのはあまりよいことではないと思いますが、狭い業界内で閉じこもっているとそういう傾向が強くなってしまうのか、ともかく他山の石とすべき事例かと思います。

投稿: 管理人nobu | 2014年4月 2日 (水) 11時01分

① 小松一郎内閣法制局長官は、毎週月曜日に抗がん剤治療を行う
② この件は事前に政府が各党各会派に通知済
③ 参院決算委員会では、小松長官の答弁を求めるような案件無し
④ しかし、民主党は月曜日の決算委員会に小松長官の出席を要求
⑤ 政府は事前の通知に基づき出席は出来ない旨回答
⑥ 民主党は「国会の職責を果たせないならば辞任すべき」と強要
⑦ 民主党は「病気に甘えるな、氏ね」とさらに強要  ←イマココ

投稿: | 2014年4月 2日 (水) 11時17分

山本 孝史(やまもと たかし、1949年7月7日 - 2007年12月22日)は、日本の政治家。参議院議員(2期)、衆議院議員(2期)、民主党参議院幹事長、参議院財政金融委員長を歴任した。「山本たかし」の表記も多い。兵庫県芦屋市出身。

2005年9月26日参議院財政金融委員長に就任するも、12月に検診を受けて胸腺がんに侵されていることがわかり、2006年1月25日同委員長の職を辞した。同年5月22日の参議院本会議でがんに罹患していることを公表、がん対策基本法案の早期成立を訴えた。

2007年7月29日の第21回参議院議員通常選挙は病状を理由に選挙区からの出馬は困難として、比例区へ転出。議員の職責を全うする事が困難であるにも関わらず引退しなかった事に一部から批判があったものの、比例区で民主党が圧勝したこともあり再選された(得票数67,612票・党内当選者の中では20位で最下位)。その後も酸素吸入器などを装着しながらも登院し、病床につくまで最後まで活動を続けた。登院中は与野党を超え、医師の資格を持つ議員達が山本の万一の体調の急変に備えていた。

2007年12月22日午後11時50分、胸腺がんのため、癌研究会有明病院緩和ケア科(向山雄人部長)で死去。58歳没。

2008年1月23日に山本と共にがん対策基本法や自殺対策基本法成立に向け、与野党の垣根を越えて共闘した過程や、国会論戦を通じて親交のあった元厚生労働大臣の自由民主党参議院議員会長・尾辻秀久が参議院本会議場にて哀悼演説を行った。その中で山本が自らの病を告白し、がん対策基本法の早期成立を訴えた2006年5月の参議院本会議での代表質問を引用し、「すべての人の魂を揺さぶった。今、その光景を思い浮かべ、万感胸に迫るものがある。あなたは社会保障の良心だった」「自民党にとって最も手ごわい政策論争の相手だった」とたたえ、「先生、きょうは外は雪です。寒くありませんか」と落涙しながら呼びかけ、その功績をたたえた。

2008年1月23日自民党・尾辻議員による追悼演説
https://www.youtube.com/watch?v=SCbhuhos0xA
https://www.youtube.com/watch?v=Xg3dANg_RfM

投稿: | 2014年4月 2日 (水) 11時26分

こういうケースの場合、仕事を辞めさせない方が長生きしそうな気がします。
仕事がきちんと出来ていないとそういうわけにもいきませんが・・・

投稿: クマ | 2014年4月 2日 (水) 11時50分

>② この件は事前に政府が各党各会派に通知済
>③ 参院決算委員会では、小松長官の答弁を求めるような案件無し
>④ しかし、民主党は月曜日の決算委員会に小松長官の出席を要求

ほんとに知ってて出てこいって言ったんなら意地が悪い…
それだけの融通も利かせられないってことですよね?
安倍さん辞めさせる予行演習のつもりなんでしょうか?

投稿: てんてん | 2014年4月 2日 (水) 13時16分

病気を理由に辞任→「放り出しだ!無責任だ!」
病気があっても職務遂行→「職責を果たしてない!」

どうせえっちゅうねんww

投稿: この国の自称リベラルってw | 2014年4月 2日 (水) 13時26分

>どうせえっちゅうねんww

真摯に聞き流すwww

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年4月 2日 (水) 15時36分

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