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2014年4月25日 (金)

医療費は削減できずとも公的支出の削減は可能?

ちょうどオバマ大統領の訪日とも絡めて議論が続いているTPP交渉ですが、以前からその争点の一つとして医療分野が小さくないと言うことが言われていて、その中でアメリカ側にとっての強みである民間保険参入などとも絡んで混合診療の大々的な導入が進むのではないかと言う予測があることは周知の通りですよね。
オバマケアとの絡みもあるのでしょうが、アメリカ側からは日本の皆保険制度を云々するつもりはないと言うメッセージがたびたび発せられてきたところではあるのですが、いずれにしても混合診療導入ということに関してはすでに進めていくと言う大方針は確定的で、どこまであるいはどのようにと言う議論が進められているところだと言えます。
そんな中で先日この混合診療問題に関して推進していくと言う厚労相の発言が出ていたのですが、見ていますと少しばかり気になる言い回しをしている様子だったので、本日まずはこちらの記事から紹介してみましょう。

混合診療で厚労相「患者ニーズ重視の制度に」(2014年4月19日NHK)

田村厚生労働大臣は札幌市で講演し、健康保険が適用される診療と適用されない診療を併用する「混合診療」について、安全性や有効性が確認されている薬は速やかに認めるなど、患者のニーズを重視した制度に改めたいという考えを示しました。

この中で田村厚生労働大臣は、健康保険が適用される診療と適用されない診療を併用する「混合診療」に対する健康保険の適用範囲の拡大を政府が検討していることに関連して、「有効性がよく分からない薬などへの適用は認められない。『厚生労働省はいつも守旧派で抵抗勢力だ』と決して思わないでほしい。国民の健康を守るのが大事なことを理解してほしい」と述べました。
そのうえで田村大臣は、「本当に効くことがある程度分かっている薬などは、安全性を確保して併用を早く認めたい。『早くこの薬を使いたい』と思いながら、末期がんで苦しんでいる患者などのために一生懸命頑張る」と述べ、安全性や有効性が確認されている薬は速やかに認めるなど、患者のニーズを重視した制度に改めたいという考えを示しました。

一見すると医療問題に関して必ずしも深く広範な見識をお持ちだとは言われていない田村厚労相らしく関係各方面に配慮したと言いますか、何とも言語明瞭意味不明瞭な発言だと言う印象を受けるのですが、ここで注目いただきたいのは混合診療拡大に関して「本当に効くことがある程度分かっている薬などは、安全性を確保して併用を早く認めたい」と言っていることです。
基本的に混合診療は認められないと言う旧来の立場から、少なくとも安全性に大きな問題がなければ認めていくべきだと言う立場へと移行しつつあるというのが全体的な流れと言えますが、本来的に言えば「本当に効くことがある程度分かっている薬など」において「安全性を確保」されているのであれば、それは保険収載によって保険診療扱いになるべきだと言う考え方もありますよね。
従来から混合診療導入反対の論拠の一つとして次第に保険診療の範囲が狭まり、特に高価な新規治療は保険収載されなくなっていくのではないかと言う懸念がありましたけれども、患者のニーズとしてはやはり安全で効くと分かっているなら保険診療が基本なのであって、混合診療で求められるのはあくまでも効くか効かないか分からないだとか安全性が不明確である部分に関して自己責任で行うと言うものであると思います。
そう考えると一見患者側の立場にすり寄った発言であるかのように思えますが、これが混合診療拡大における厚労省としての公的な基本認識なのか、それともあくまで田村厚労相個人の認識なのかも問題になってくるように思いますね。

混合診療に関しては他にも実際的な懸念が幾つもあって、例えばどの程度の危険性があるかがはっきりしない治療法を用いて何らかの重大な結果になった場合、それが医療訴訟の場においてどう責任を認められることになるのかと言う問題がありますけれども、医療を提供する側としては当面ある程度防衛医療的な立場で患者の強い求めに応じてやむなく行うと言うスタンスを取った方が安全ではあるのでしょうね。
医療費の観点から見ると混合診療導入が医療費を引き上げるか引き下げるかと言う議論もあって、患者からすれば100%自費の医療が加わるのだから窓口負担高騰を懸念して使い控えがあるだろうとか、逆に保険診療で使えなかった高い医療を上乗せするのだから高くなるだろうと言う考え方もありますが、国からすると仮に医療費そのものは高くなろうが混合診療なら国庫負担はさして増えないと言う計算は成り立ちますよね。
ともかく皆保険制度と言うものはシステム的に今までよりも優れた医療には今までよりも高い点数(料金)を認めると言うことになっているわけですから、幾らジェネリック活用の推進で薬剤費を削減しましょうなどと言っても医療の高度化に伴い医療費が増えていくのは当然のことであり、国としては少なくとも国庫負担だけはこれ以上大幅に増やすことはないよう四苦八苦しながら策を練っていると言えます。
そうした文脈の中で非常に分かりやすい話として出てきたのがこちら文字通りそのものズバリと言う医療費総額抑制策なのですが、こちらの記事から見てみましょう。

医療費抑制狙い数値目標要求へ 財務省、自治体ごとに(2014年4月18日朝日新聞)

高齢化による医療費の膨張を抑えるため、財務省は自治体ごとに医療費の「数値目標」をつくることを求める方針を固めた。医療をめぐる電子データの蓄積が進んでいるため、「ビッグデータ」として分析・活用することで無駄をあぶり出そうという考えだ。

 麻生太郎財務相が22日の経済財政諮問会議で提案する。医療機関から自治体や健康保険組合に送るレセプト(医療費の請求書)には、病名や治療、投薬などのデータがあり、電子化が進んでいる。このデータから適切な投薬量や入院日数などを割り出し、地域ごとに「標準的な医療費」の数値目標を出してもらう。
 実際の医療費が目標を超えても、必要な医療費を税金から出さないといった罰則はつくらない。代わりに自治体ごとに目標の達成状況を公表し、使いすぎを抑える方法を提案する。

 医療費をめぐっては財務省と厚生労働省が2002年、高齢者の医療費の伸び率を、国の経済規模を示す国内総生産(GDP)などに連動させて管理する手法を導入しようとした。しかし、自民党厚労族などが「必要な医療を自動的に打ち切るのか」などと猛反発したため、頓挫した。今回の財務省の提案にも反発が出る可能性がある。(疋田多揚)

医療費抑制に数値目標 安倍首相「社会保障を安定させる方針を」 経済財政諮問会議(2014年4月22日産経新聞)

 政府の経済財政諮問会議は22日、高齢化に伴って増加する医療費を抑制するため、数値目標導入を検討することを決めた。レセプト(診療報酬明細書)の電子データの活用が柱。都道府県や大企業の社員が加入する健康保険組合ごとの対応を求めたうえで、国全体での導入も想定している。
 安倍晋三首相は「社会保障を安定させ、次世代にしっかり引き継ぐための骨太な方針を掲げてほしい」と指示した。

 数値目標導入は麻生太郎財務相が提案した。レセプトデータに基づき支出目標を定め、目標を達成できない場合は、高齢者医療への財政支援で負担増を求め、逆に目標を達成すれば負担減にするインセンティブ(動機付け)の付与も提案した。
 民間議員からは、レセプトデータと受診記録を継続的に把握できるようにするための個人番号の早期導入が提案された。
 また、社会保障関係費全体の抑制のために2年に1回となっている薬価改定を毎年行うことや海外に比べて利用が進んでいない安価な後発医薬品の拡大などを求めた。

面白いのは全国的に医療費を比較検討し高い場合には改善を促すと言う考え方で、実際にどれくらい医療費やその使い方に地域差があるものか、それが何に由来するのかと言った検討も興味深いと思いますけれども、もちろん導入当初は厳しい罰則はなく数値目標的な運用をすると言うことになるのでしょうが、当然ながら明らかに数字が悪ければ医療現場に対しても何らかの改善の要望なり指導なりが来るようになるでしょうね。
このあたりはDPCなどの報酬と同じことで、悪いところが頑張って改善すれば平均値は下がり、今まで並みだった地域も今度は悪いと言われ始めると言う道理で、ひとたび導入されれば際限なく医療費削減に努力しなければならなくなる可能性が高いですし、実際そうした効果を狙ってもいるわけです。
今後制度が導入されればどうやって医療費を抑制するか各自治体が頭を悩ませることになるかと思うのですが、注目いただきたいのはこの数値目標の元データとなるのがレセプトデータであると言うことで、当然ながら国民が使った医療費そのものではなくあくまでも保険診療上の診療報酬額が基準になってくると言う風にも読み取れそうですよね。
仮にそうなると極論すれば保険診療の部分さえ増えなければいいわけですから、例えば今現在も盛んに行われている医療以前の健康増進プログラムをさらに徹底させていくこともありですし、場合によっては前述のような拡大されていく混合診療の制度をより大がかりに活用していくと言ったことも考えられるわけです。

ただもちろん制度の理念として保険診療でやれることをわざわざ自費の混合診療に持ち込ませるというのもおかしな話ですが、その点で一つ有力な方法論になるんじゃないかと言う気がするのが近年急速に普及が進んでいる市販薬(OTC薬)の存在で、風邪や筋肉痛など軽微なものであれば市販薬を使ってくれと言う方向に持っていけば医療費削減にも役立ち、また医療現場の過剰労働解消にも貢献するやも知れません。
そうは言っても現状でも病院に来た方が安いからと風邪薬一つもらうために受診する患者が大勢いるのだと言う先生も多いと思いますが、過去のレセプトチェックの実例を見てもお判りいただける通り保険診療のルール上は明らかに問題ない医療行為であっても切られると言うことは普通にあるわけで、保険者がその気になれば医療現場に振るうことの出来る影響力は決して過少評価すべきではないでしょうね。
その意味で今までは保険者の側にそこまでの介入を行う動機付けが乏しかったとも言えますが、幾ら診療報酬を改訂しても医療現場はあの手この手で医業収益を確保しようと努力し相応の成功を収めている現状を見る限り、そろそろ国としても別な方向からカードを切ってみた方がより効果的なんじゃないかと考え始めているようにも思えます。

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コメント

財務省が頭越しに医療政策を決めていくのを厚労省はどう思ってるんでしょうね?
医師会も厚労省と仲良くしたいならチャンスじゃないですか?

投稿: ぽん太 | 2014年4月25日 (金) 09時03分

うまく工夫すれば割合に面白いことになるかと思う話なのですが、出来高制による多診多療での収入確保と言うやり方はいずれ修正を迫られることになりそうです。
それに代わってどんな制度が現場にとってメリットがあるかを考えておかないと、単に財政上の要請だけから決められた制度を押しつけられることになるでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2014年4月25日 (金) 11時39分

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