« 高齢出産社会と障害児誕生のリスク | トップページ | 医療費は削減できずとも公的支出の削減は可能? »

2014年4月24日 (木)

薬剤師の相場は崩壊せず軟着陸へ

ご存知のように東大と言えば世間的にも最高学府中の最高学府と言う認識で受け止められていると思いますが、それだけに東大生の動向と言うものは知的エリートの代表格として常に注目を集めるもので、先日は今春の東大生の入社がゼロだったことで某大手新聞社が「ついに東大からも見放されたか」と大いにショックを受けているなんて記事が出ていました。
実際に東大生に限らず最近の就職戦線のキーワードは「安定」と「反ブラック企業」だ、なんてことを言う人もいるようで、もちろん一定のリスクを取っても伸び盛りの新花形産業とも言えるIT系ベンチャーに挑む学生も決して少なくはないとは言え、全般的に見ると一流大学学生の就職先人気ランキングとしては大手銀行や商社など手堅い職場が並んでいると言います。
その意味で優秀な理系学生にとって将来の安定性と言う意味で鉄板とも言えるあの業界が近年大人気だと言うのも頷ける話なのですが、こちらの記事から引用してみましょう。

東大より医学部人気 予備校に1千万円の医学部用コースも(2014年4月19日dot.)

 医学部入試の人気が過熱している。2013年度は、全国の医学部の総定員9041人に対し、のべ13万172人が志願した。1999年度の志願者数は7万7940人。この年以降、志願者はほぼ毎年上昇し、13年度までに7割近くも増えた
不況になると、就職に強い理系が人気になります。理系のなかでも成績上位層は、やりがいがあって、生活が安定する医師を目指す生徒が増えています
 こう話すのは、昨春、国公立大医学部に1905人の合格者を出した駿台予備学校の石原賢一情報センター長だ。

 ここ数年、東京大学の合格者数ランキングの常連校で、「東大ではなく医学部」を目指す生徒が増えている。進学校では理系が人気で、例えば国公立大医学部に多数の合格者を出す東海高校(愛知)では、11クラス中9クラスが理系だ。
 これは同校に限った現象ではなく、さらに成績トップ層は医学部を目指す傾向にある。以前なら東大や京大の工学部、理学部、農学部などに進んだ生徒たちが医学部に集中すると、人材が偏り、将来的には他分野の人材不足まで懸念されるとの見方もある。
 駿台予備学校、河合塾、代々木ゼミナールなど大手予備校には、国公立大医学部受験者向けのコースや講座があるが、50以上ある「医学部専門予備校」のほとんどが私大医学部受験者のためのコースを充実させている。
「6年間の学費が約350万円の国公立大の受験者が、大手予備校で1年間学ぶ学費は、70万円から100万円くらいです。一方、6年間の学費の平均が3千万円を超える私立大医学部の受験者向けの予備校では、年間の学費が500万円を超えることも珍しくありません」(小林室長)
 代々木ゼミナール個別指導スクールの医学部専門のコースは、年間の学費が540万円。さらに、学費を含む総費用が年間1千万円という「私立大学医学部合格オールパックコース」もある。このコースには、学費、講習会授業料、特訓合宿参加費などのほか、新宿駅から徒歩5分の代ゼミタワー上層階にある寮の費用(2食付き)も含まれるという。

まあ深く考えずに食っていくこと優先なら現状で医学部は一つの安パイだと言うのは確かで、必死に幼小児から努力を重ねプロ野球選手を目指すよりも、同じ労力を勉学に注いで医師を目指す方が生涯年収の期待値と言う点では上回っていそうには思いますが、その理由の最たるものとしてとりあえず医学部に入れば高い確率で医師になれる、そして医師になればまず食いっぱぐれずに済むと言う安定感があるのでしょう。
医師の平均年収は景気動向にも左右されず過去30年ほど横ばいであったものが、このところ医師不足問題が大きな話題になると共にやや高まりつつあると言いますが、一方では医学部定員の大幅増に加え先日は久方ぶりに医学部新設がほぼ決まったとされ、このままではいずれどこかの時点で医師不足から医師過剰へと転じていくだろうとは言われているところですよね。
もちろん医師過剰になるまではどんどん増やせばいいじゃないかと言う声もあるわけですが、すでに歯学部は一足早く大過剰状態となりワープア化が進行すると共に学生を集めるのにも四苦八苦している、そして医師同様文系の代表的な上がりコーストも見られていた弁護士も同様に相場が崩壊し各地で法科大学院からの撤退が進んでいると言う点を見ても、うっかり需給バランスを崩壊させると苦労するとは言えそうです。
そんな中で最近またしても需給バランスの崩壊が問題になってきているのが薬学部なのだそうですが、これまたこちらの記事から紹介してみましょう。

1200万円超がパー 薬学部生の4割が薬剤師になれない(2014年4月19日日刊ゲンダイ)

「いまは大学を出ても、まともな会社の社員になれない時代。子供には国家資格を取らせ、手に職をつけさせてやりたい
 そう考える中高年は多いのではないか。
 我が子が医者や弁護士になれるだけの学力があればいいが、それは無理。ならば、偏差値50~60台で有名大学に入学できて、社会で通用する国家資格を得られる薬学部に我が子を進学させたい
 その親心はわかるが、無理はしない方がいい。薬学部に入れても4割は薬剤師になれないからだ。
 3月末に発表された第99回薬剤師国家試験は1万2019人が受験し、合格したのは7312人。合格率は60.84%(第90回は84%)だった。

■東京薬科大は100人以上が不合格

「国公私立大学の薬学部は計73校ありますが、薬剤師国家試験予備校の『メディセレ』によると、6年生新卒の大学別合格率は慶応大で82%、北里大78%、昭和大63%、帝京大52%。入試偏差値が低い大学は惨憺(さんたん)たるありさまで、第一薬科大は22%、奥羽大が26%、日本薬科大が34%、北陸大は35%でした」(都内の薬剤師)
 新卒全体の合格率は70%を超えたが、100人以上が不合格となった東京薬科大のような例もあった。
 今年は試験が「難しかった」(受験関係者)そうだが、薬剤師の過剰供給を嫌う厚労省は、今後も合格者を絞るともっぱらだ。
 私立大学薬学部の年間授業料はおおよそ200万円。ほかに施設費等を加えると、6年生の薬学部を卒業するには1200万円超の学費が必要だ。それだけの学費をかけて、国家試験不合格では親はたまらない。
「むろん、既卒者は卒業後も国家試験にチャレンジできますが、その合格率はさらに低い。卒業後、予備校に通っても合格できない人も多い」(前出の薬剤師)
 晴れて国家試験に合格できても、一流の製薬会社に入れるのはひと握り。多くは調剤薬局等に勤めることになり、その収入は正社員で600万円程度。パート時給は2000円台。
 やはり、志もなく、勉強もあまり出来ない子は人の命を預かる薬学部に入れてはいけないのだ。

しかし薬剤師になるのにもずいぶんとお金がかかるものだなと思うのですが、当然ながら?入試偏差値の高い学校よりも低い学校の方が授業料も高くなると言う傾向は医学部と同様であり、しかもそうした低偏差値の大学は国試合格率も底辺と言うことが多いですから、成績が芳しくない学生ほど急激に大きなリスクを負うことになると言えそうですよね。
薬学部と言えば2006年に4年制から6年制へ転換したことに伴う2年間の新卒者不在と、大手薬局チェーンなどによる薬剤師囲い込みが重なって年収が高騰しウハウハだと言われていたものですが、興味深いのは難関と言われる旧帝大を始め国公立大学では薬剤師になる資格のない4年制薬学部に留まるケースが多く、薬剤師資格を得られる6年制に移行した私学では多くが定員割れを起こしていると言うことです。
一見すると4年制に留まった難関薬学部からの薬剤師供給が途絶えるのだから薬剤師を目指す学生が6年制薬学部に集中してもよさそうなものですが、すでに国試合格率低迷の続く一部薬学部では是正を求める動きが見られるなど特に私学の合格率低下が顕著で、2000年代に入ってから各地で新設された新規薬学部では学生集めにも四苦八苦している結果全般にレベルが低下しているとも言います。
興味深いのはこうした学生レベル低下の懸念を反映してか、国試合格者数をすでに国が絞り始めているとも言われる一方で、現場レベルで見るとOTC薬の販売を進めている大手薬局チェーンなどを中心に薬剤師需要はまだまだ多数あると言われることで、少なくとも平均年収レベルで見る限り過去10年程度は給与相場は下落しているような気配はないようです。

この辺りは歯学部や法科大学院での大量増員によるワープア化が社会問題化したこともあってか、国としても早めに出口を絞り上げることで軟着陸を目指しているのかとも想像出来るところなのですが、来年以降も国試合格率の低迷が続くと言うことであれば薬剤師に関しても先行する歯科医や弁護士などと同様、国試の合格基準を切り上げることで育成数を削減していく方針に転換したと見なしてよさそうですよね。
好意的に解釈すれば歯科医や弁護士に比べると未だ需要が伸びていて売り手市場気味の段階でこうした方針転換を行ったと言うことは、国も国家資格職の数的コントロールに関して以前よりも少しは学んだと言うことを示しているのかも知れませんが、そうしますと今後どこかの段階で予想される医師国家試験合格者数の絞り込みに関しても同様の早め早めのタイミングで行われるのかです。
国民にすれば全国どこでも医師が大勢いた方が便利だろうし、昔から余るほどの医師の中から優れた者だけを残すようにすべきだと言う声も根強くある、そして医師を雇う病院経営者にしろ医師数が増えるほど収入も増えるし使えない医師の首は切りやすくなるしで基本的に医師数過剰は歓迎される一方、国としてはかねて医師数増は医療費増に直結すると言う声もあることから滅多矢鱈に増やしたくもないはずです。
被雇用者の立場としての医師にすれば相場崩壊するような状況は避けたいのは当然で、その点からは国が早めの絞り込みに転じたのだとすれば朗報とも言える話なんですが、今のうちに職場内での業務分担など早急な負担軽減策を講じないと、医療崩壊をダシに待遇改善圧力をかけられるほど不足していない一方で楽が出来るほど多くなったわけでもないと言う、何とも半端な立場に追い込まれる可能性もあるのでしょうね。

|

« 高齢出産社会と障害児誕生のリスク | トップページ | 医療費は削減できずとも公的支出の削減は可能? »

心と体」カテゴリの記事

コメント

厚労省は信用できない

投稿: | 2014年4月24日 (木) 08時35分

この場合合格者を調節するのは文科省の仕事なのでは?

投稿: ぽん太 | 2014年4月24日 (木) 08時57分

一応はこの辺りの医療職定数管理については文科省と厚労省が相談しながら社会的影響も加味して決めていくようになっているようですね。

投稿: 管理人nobu | 2014年4月24日 (木) 11時26分

まともな大学出て袋詰め師ってのも悲しいけどな。
まわりは底辺私立大卒ばかりで年収も高卒と大差ない。

投稿: あ | 2014年7月 3日 (木) 22時53分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/59517046

この記事へのトラックバック一覧です: 薬剤師の相場は崩壊せず軟着陸へ:

« 高齢出産社会と障害児誕生のリスク | トップページ | 医療費は削減できずとも公的支出の削減は可能? »