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2014年4月17日 (木)

分娩時の脳性麻痺防止に求められる再発防止策

本日の本題に入る前に、先日出ていた海外からのこんな記事を紹介してみましょう。

保育器に勝るとも劣らない「カンガルーケア」 コロンビアから世界へ(2014年4月14日AFP)

【4月14日 AFP】南米コロンビアの首都ボゴタ(Bogota)にあるサン・イグナシオ(San Ignacio)病院の新生児集中治療室では、男性を含め新生児の親たちが生まれて間もないわが子を自分の素肌の胸でいとおしそうに抱きかかえている。繰り返しここへ通ってきては、この姿勢のまま5時間過ごすのだという。
 親子が素肌を密着させるこのシンプルな手法は、「カンガルーケア」として知られている。雌親が子を成熟するまでおなかの袋の中で育てるカンガルーにちなんだ呼称だ。30年以上前、保育器が不足していたコロンビアで始まった。当初は懐疑的な見方もあったが、今では同国全土はもちろん、世界中に広がっている。

■保育器と同程度の有効性

 カンガルーケアは簡単そうだが、一定のルールがある。親は授乳とおむつ替えの時以外、姿勢を変えてはならない。さらに、乳児が直立姿勢を保ちなおかつ肌と肌が常に触れているよう、夜間でも親は横になれない
 周囲の環境も大事だ。サン・イグナシオ病院の看護師らは、子宮内に似た状態を再現するため、照明を落とし、騒音レベルが60デシベルを超えないよう注意を払っている。
 カンガルーケアを標準化するよう1978年から推進してきたナタリー・シャルパック(Nathalie Charpak)医師は、「(カンガルーケアは)保育器と同じくらい有効」と述べている。カンガルーケアは今や同国外でも取り入れられており、同医師は、米国やスペイン、スウェーデンなど「30か国以上でトレーニングを実施してきた」という。さらにコロンビアの医師らは、その効果を伝えようとアジアやアフリカへも赴いている。
 その努力は報われつつあり、国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)によると、ブラジルでは「カンガルーケア」を一部に取り入れた育児プログラムを開始して20年で、5歳未満の乳幼児の死亡率が3分の2に減少したという。

■カンガルーケア採用を阻む文化の壁

 初めは「貧困層のための(保育器の)代替手段」という位置付けだったカンガルーケアは、世界保健機関(World Health Organization、WHO)が2004年に母乳育児を推進し、子どもの認知発達を刺激する手法と認めたことで勢いを得た。
 しかし複数の利点があるにもかかわらず、文化的な障壁によってカンガルーケアが受け入れられないところもある。シャルパック医師によると、「母親が(出産後入院先から)自宅に戻るとすぐに働く」ことがほとんどのインドやアフリカなどでその傾向が特に顕著だという。
 しかし、「カンガルー財団(Kangaroo Foundation)」が本部を置くサン・イグナシオ病院で実際にカンガルーケアを行っている親たちは、その有効性を強く信じている。連日30人ほどの母親らが、しっかりと布にくるまれてウールの帽子をかぶった小さなわが子を胸に抱きしめている。

「男性も含め」てカンガルーケアを行っていると言う点に注目していただきたいと思いますが、先日も福岡でのカンガルーケア訴訟が紛争化した事例を紹介しました通り(とは言え、実はこのケースではカンガルーケアではなかったとのことですが)、出産という大仕事を終えた直後の母親に何もかも任せて放置するというのはやはり心身の疲労上も無理があると言うもので、あくまでも通常と同じく周囲の見守りの中で行われるべきかと思います。
名前だけは日本でもずいぶんと有名になってしまったこのカンガルーケアと言うもの、どちらかと言うとそれを実施した結果深刻な事故が発生してしまったと言う悪名轟くイメージがあるせいか、第三者の間では必ずしも評判が良いとは言えないようですが、もともとカンガルーケアを行おうが行うまいが出産直後の新生児は不安定であり、実際には異常事態が発生する確率は同じであると言います。
事故症例数増加に伴いカンガルーケアにおいてリスクが高まる可能性のある状態と言うものが幾つか指摘されていて、記事にもあるように身体を起こした状態でないと駄目だとか、初産婦が危ないと言うのですが、病院側で管理していたならば当然に気をつけていただろう状況も、親に任せていると言う気持ちから目が行き届かなかったといった状況があるのであれば、これはカンガルーケアそのものの危険性を云々する以前の問題であるとは思いますね。

さて、その以前の問題なるものの一つとして新生児に常時見守りのためのスタッフをつけていられないと言う現場の状況があるとも言えそうですが、こうした人手不足と言う状況は無論新生児に対してのみ問題となることではなく、産科領域に関わる様々なトラブルの直接間接の原因となり得ると言う点で早急に是正が求められるのは当然ですよね。
本来皆保険制度の縛りがきつい他診療科よりも、自由に価格が設定できる産科領域の方がこうした部分で手厚い体制を取りやすいはずなのですが、実際には公立病院の不当廉売じみた分娩料金が議会の思惑によって安いままに固定されているため地域全体の相場が押し下げられているだとか、あるいはそもそもお金を出しても人材が集まらないといった様々な事情もあってかままならぬようです。
その一方で産科と言えば訴訟リスクの高さで知られるように様々なトラブルがあるところで、こうしたトラブル対策の一環としても期待されている産科医療保障制度の事例分析が先日発表され、事故事例の分析や評価を通じて今後の同種事故を抑制できるのではないかと期待されているのですが、見ているとその分析と評価にもいささか気になるところがあるようですね。

母体搬送、決定から出産まで1時間20分- 再発防止委、時間短縮の必要性強調(2014年4月14日CBニュース)

産科医療補償制度の再発防止委員会(委員長=池ノ上克・宮崎市郡医師会病院特別参与)は14日、分娩の際に発症する重度脳性まひの再発防止に関する報告書を取りまとめた。それによると、脳性まひ発症児を出産した母親のうち、出産時に母児の異常により緊急搬送されたケースで、搬送を決めてから産まれるまでに平均で1時間20.8分かかっていたことが分かった。同委員会は、出産までの時間を短縮するために、速やかに搬送できる体制や、搬送元と受け入れ機関との情報連携の構築を図るべきだとの考えを示した。【松村秀士】

報告書によると、同制度で補償対象となった重度脳性まひ児のうち、2013年12月末までに原因分析報告書を公表したのは319件。このうち、常位胎盤早期剥離などの母児の異常により緊急搬送した37件を対象に分析した。
搬送決定から出産までの過程で最も時間を要したのは、「受け入れ先機関の到着から胎児娩出まで」で平均42.3分。次に時間がかかったのは、「搬送受け入れ先機関の到着から緊急帝王切開術開始まで」で平均41.1分だった。それらに時間を要した要因として、同委員会は、▽緊急帝王切開術に必要な血液検査などを行った▽受け入れ先機関到着後の診断・入院決定までに時間を要した▽麻酔科医を待って手術を行った―ことを挙げた
池ノ上委員長は、同日に開かれた報告書発表の記者会見で、「搬送決定から娩出までの目安は30分程度」とし、出産までの時間短縮の必要性を強調した。

■脳性まひ発症の原因、常位胎盤早期剥離が最多

報告書では、重度脳性まひの発症原因に関する分析結果も報告。発症原因が明らかだった233件のうち、単一の原因で最も多かった病態は、常位胎盤早期剥離の74件だった。続いて、臍帯因子(49件)、子宮破裂(10件)が多かった。この順位は、13年5月発表の前回報告書と変わらなかった。

ここで注目いただきたいのは搬送決定から出産までの過程についての検討なのですが、もちろん母児異常によって緊急搬送されたぐらいですから可能な限り早急に緊急帝王切開を目指すべきなのは当然だとして、それについて時間を要した理由として術前検査を行っていたことや麻酔科医による麻酔を行っていたことを挙げ、現行の1時間20分と言う所要時間を半分以下の30分に短縮すべきだと言っていることです。
搬送決定から娩出まで30分以内と言いますと最短で搬送先が決まるのは大前提で、到着次第即座に手術室へ駆け込んでようやく間に合うかどうかと言うレベルだと思いますが、すでにこの30分ルールに関してはそれが行える施設は全体の30%程度であることが明らかになっていて、その理由として産科医だけでなく麻酔科、小児科、看護師らスタッフを常時待機させ手術室も確保しておくことが現実的ではないことが挙げられています。
そうは言ってもこうして再発防止委員会がここまで言い切った以上それを実施しない施設は怠惰であり、最悪民事訴訟などでも負けるということにもなりかねませんが、遅れた理由は術前検査や麻酔科医呼び出しのせいだとまるで悪いことのように言われれば、それらをすっ飛ばして実現するのは一体いつの時代の医療なんですか?と言う話ですよね。

この30分ルール問題に関しては以前から各方面で議論されていて、もちろん可能な限り時間短縮を図った方がいいのだろうし努力目標として掲げることはともかく、現実的に実現困難な目標を目安=基準として扱うことには弊害が大きすぎますし、ましてやそのために医療の質まで落としてしまえと言うのでは他のリスクが跳ね上がろうと言うものです。
理想的なことを言えばこうした緊急帝王切開を扱うようなどの施設でも30分とは言わないまでも例えば1時間以内に行えるように人員も場所も確保しておくべきであり、それが満たせない施設はそもそも引受先として不適切であると言う考え方で医師の集約化と施設の統廃合を進めていく考えもありだとは思いますが、それを行った結果施設へ搬送するまで何時間もかかると言うのでは時間短縮に何の意味があるのかですよね。
もちろんハイリスク症例はあらかじめ30分ルールでの対応が出来るような施設に入院しておくだとか、そもそも全ての妊婦においていつ何時緊急手術になってもいいように必要な術前データを集積し共有しておくべきと言った対策は考えられるし、お産に関して安全を追及するのであれば利便性や経済性を半ば無視してでもまず社会的対策としてそこまではやっておくべきなのだろうとは思います。
逆に言えば何ら妊婦検診も受けずかかりつけも持たないままいきなり救急搬送されてくる野良妊婦問題など誰が見てもリスクをてきめんに引き上げている社会的背景を放置したまま、最終段階の施設側に対するハードルばかりをひたすら引き上げるのは最もコストパフォーマンスが悪い方法とも言えるわけで、この辺り全てをひっくるめての比較検討までやった上で出された結論でなければ再発防止委員会の名が泣くと言うものですよね。

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コメント

>「搬送決定から娩出までの目安は30分程度」

できないなら産科の看板をおろすべきってことですねわかります

投稿: | 2014年4月17日 (木) 08時31分

前医で搬送すると決めてから搬送先で子供が出るまでが30分ってこと??
同じ院内ならともかくそれはいくらなんでも無理では?
全国的にそういうことできてる症例が何%くらいあるんですかね?
理想は理想でいいけど再発防止が目的なら現実もみつめないと仕方ないでしょうに…

投稿: ぽん太 | 2014年4月17日 (木) 08時54分

「先生のところは何分です?」って誰か突っ込まなかったのかw

投稿: aaa | 2014年4月17日 (木) 10時01分

一般外科領域だと開腹手術まで1時間強なら十分ではないかと言う気がしますが、この水準を要求されるとなると今後は搬送元医療機関側での対策が重要になってくる気がします。

投稿: 管理人nobu | 2014年4月17日 (木) 11時17分

>公立病院の不当廉売じみた分娩料金が議会の思惑によって安いままに固定されているため地域全体の相場が押し下げられている

だから以前から再三提言してるじゃないですか、日本産科学会は労働ダンピングしやがる公立産科勤務医は専門医剥奪して除名しろって。
実のところ本気で日本の産科医療を守る気なんかないんだろ産科医ドモはwwwww

>今後は搬送元医療機関側での対策が重要になってくる気がします。

分娩の際に発症する重度脳性まひの再発を防止する、という一点だけに絞れば、話はそうならざるをえません。視野を訴訟リスク回避レベルにまで拡げれば、おのずと別の解決法がありましょう。

その通り、産科を辞めればいいのだ。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年4月18日 (金) 11時00分

危なそうな場合は搬送先と連絡を取り合い早めに搬送準備を始めておくってとこですかね?
必要な術前検査もあらかじめやっておいてデータを共有するのも必要になりますか
ただそうなると搬送先はほんとに忙しいだけでぜんぜん儲からない仕事になりそうですが

投稿: 鎌田 | 2014年4月18日 (金) 12時06分

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