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2014年3月13日 (木)

お隣韓国で大規模医師スト勃発

つい先日の3月10日にお隣韓国で医師協会主導による全国的な医療スト(集団休診)が行われたのですが、それがどうやら予定よりもずいぶんと小規模なものに留まったようです。
その際に取られた政府によるスト阻止の方法論というものがなかなか興味深いなと思ったのですが、まずはこちらの記事から見ていただきましょう。

医師協会が「スト」 政府の医療政策に反発=韓国(2014年3月10日聯合ニュース)

【ソウル聯合ニュース】大韓医師協会は10日、政府の医療政策に反発し、同日午前から1日間の集団休診に突入した。
 休診は、救急室、集中治療室(ICU)などを除く大学病院などの研修医や街の開業医らを中心に行われる。大規模な集団休診は、医薬分業に反対し休診が行われた2000年以来となる。

 同協会は昨年12月に遠隔医療導入や医療の営利化など政府の医療政策に反発し、集団休診を決議。今月1日に集団休診の是非を問う会員の投票により実施が決まった。
 協会側は「政府が強行しようとする遠隔医療導入や医療営利化政策に反対する。これ以上間違った制度や健康保険制度を放置することはできない」と集団休診の背景について説明した。

 同日は患者数が多い月曜日のため、集団休診による患者の不便が予想される。政府は被害を最小限にとどめるため保健所をはじめとする全国の公共医療機関の診療時間を延長するなど非常医療態勢を敷いた。
 協会側は同日の集団休診後、11~23日に「週5日、週40時間勤務」の順法診療と順法勤務を行う形で闘争を続け、24日から6日間の集団休診を実施する計画だ。

「スト」突入の医師協会に業務開始命令=韓国政府(2014年3月10日朝鮮日報)

【ソウル聯合ニュース】韓国政府の医療政策に反発し大韓医師協会が10日午前から1日間の集団休診に突入したことに対し、保健福祉部関係者は「休診している医療機関を確認次第、業務開始命令を出す」との方針を明らかにした。

 医療法59条では医療機関が正当な理由なく集団で休診し多大な支障が生じることが懸念される場合、保健福祉部長官や地方自治体の首長は業務開始命令を出せると規定している。

 業務開始命令に従わない医師に対しては11日に行政処分事前予告状を送り、21日までに業務停止処分を下す方針。意図的な違法休診が明らかな場合は行政処分だけでなく刑事告発も検討するという。
(略)

韓国医師会のスト低調 政権が抑え込み(2014年3月11日産経新聞)

 韓国の医師でつくる大韓医師協会は10日、朴槿恵政権が掲げる遠隔医療推進の方針などに反対し、事実上のストライキに当たる「集団休診」を行った。だが、政府が同調した医師には罰則を科すと警告したため、保健福祉省の集計で、休診した医院は全体の29%、総合病院や大学病院で集団休診に同調した医師も一部にとどまった

 朴大統領は同日「国民に被害を与える行動の責任を必ず問う」と述べ、厳しい処分を予告。医師協会は今月下旬にも集団休診を呼び掛けているが、政権の強硬姿勢で抑え込まれそうだ。朴氏は政策への反対に厳しく対応する政権運営を続けている。(共同)

そもそも何故こんな騒動になったのかですが、韓国では77年から公的医療保証制度が始まったわけですが、もともと企業が従業員サービスの一環として安価な(当然、給付水準も低い)民間保険を用意していたこともあって、公的医療保障は低負担低給付な内容(医療費全体での公費負担割合が約50%。日本は80%超)に留まっていたわけです。
ところが2000年以降に社会保障全般の充実の中で給付水準の改善が図られ適正負担適正給付に改まってきた、その結果医療費が急増し財政負担が増す(とは言え、未だに日本など諸外国と比べて総医療費はかなり低いようですが)中で様々な医療費抑制政策が取られるようになり、例えば2012年には入院医療費の包括払い制導入に反対して医師協会主導で手術拒否を行うなど抗争が本格化してきたわけです。
医療保険制度が導入され給付水準も改善されれば誰しも気軽に医療を受けられるようになり、日本でもそうであったように当然医療職の仕事量は急増するわけですが、もともと韓国は主要国中でも医師数が最低水準(人口千人あたり2.1人。日本は同2.2人)であり医師不足傾向が顕著であった、しかも総医療費ではGDP比で日本の半分程度と強い抑制がかかっていますから、要するに「仕事は激増したのに給料は増えない」状態ですよね。

どのくらい仕事が増えたかと言えば1977年には国民の入院日数・外来日数が0.1日・0.7日であったものが、2009年にはそれぞれ1.9日・16.1日になったと言いますからざっと20倍ですが、その間の医師数や医療機関の増加はおよそ4倍強程度ですから単純計算で仕事量は5倍!となると、それは余程に心の広い医師でもなければ「この状況で報酬支払いまでケチるか!」と言いたくもなるでしょうね。
今回のストに関して表向きは国民世論の支持がある医療営利化反対を旗印として掲げていると言え、本音のところは診療報酬引き上げを狙っているのでは?と言う批判は各方面から出ているようですが(これに対して医師協側は「点数のことなど口にしたこともない」と言っているそうです)、諸外国と比べてまだまだ医療費が少ないことは事実ですから、あまり強引な医療費抑制政策にも無理があるのかなと言う気はするでしょうか。
医師のストと言えばドイツが有名ですけれども、あちらは元々医師の給与が例外的に安く医師の国外脱出が続いている中であくまで労働者の権利として賃上げ要求が行われているもののようで、国民も「それは当然誰にでも認められた権利だよね」と当たり前のように見ていると言う点でいささか方向性が違っていて、この辺りはとりあえず本音と建て前を使い分けたがるのは日本のみならず東アジア文化圏共通なのか?とも思えます。
ちなみに今回のストに続いて週40時間労働と15分の診察時間の実現を求めて2週間の遵法闘争(要するに、法定労働時間の厳守)に入る予定だそうですが、日本での例を考えてみるとこちらの方がより明確なエヴィデンス付きで効果的な勝負が出来るのではと言う気がしますね。

それはさておき、こうしたニュースを見ると「韓国では医師にはスト権すら認められないのか?!」と思わず考えてしまいそうなのですが、よく見てみますと記事によれば「医療機関が」正当な理由なく集団で休診した場合処罰の対象となるとも読めますので、それならば医師らが集団で休職し結果として医療機関が休診せざるを得なくなった場合は処罰の対象とならないのか?などと抜け道の存在も考えてしまいますよね。
日本では別に制度的に医師のストが禁止されていると言う訳でもないでしょうが、実際問題およそ行われることがないのは一つには我慢強い国民性(医師の場合むしろマ○レベルかも知れませんが)だと言うこと、そしてもう一つは医師会などにしてもそうですが、こうまで大々的に全国動員をかけられるほどの組織力、影響力を持っている組織がないと言う点で、このあたりはかねて「医師にも労組を!」と言う声がある所以でもありますよね。
ただ現実的に見ますと医療崩壊などと言われ始めた頃から医師の労働環境改善の必要性が言われ始めた中で、実は逃散のような手段こそが労働環境改善に一番有効なのではないか?と言うことが実例として明らかにされてきたわけで、実際に逃散→医療崩壊→待遇大幅改善と言うコースをたどった例はこの頃から全国各地で相次いでいるわけです。
そう考えると日本でも仮に何らかの団体が声をかけて大規模ストを打てる状況となったとしても、その結果「助かるはずの命が助からなかった!どうしてくれる!」などと言われるリスクも考えればあまりメリットもないのかなとも思えるところで、とりあえず現時点では未だにもって「嫌なら辞めろ」がFAと言うことになるのでしょうか。

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コメント

集団で勤務時間厳守ってなかなかいいアイデアに思えます。
日本でも一度やってみたらどうなるでしょうね。

投稿: ぽん太 | 2014年3月13日 (木) 09時13分

最近の研修医はすでにそれ実行しているらしいですよ>勤務時間厳守

投稿: ゴマ | 2014年3月13日 (木) 09時54分

医師を始めエリートの人たちには週40時間労働じゃ物足りないって人も多いじゃないですか
40時間を超えてるかどうかだけで判断するのは危険だと思いますけど

投稿: | 2014年3月13日 (木) 10時11分

もちろん働きたい人が働ける自由も重要なのですが、その場合もあくまで労働量を自己管理できる権限が担保されていることが大前提で、いわゆる医師は管理職か否か?という問題にも通じるのではないかと思います。
ただ労働者の中では相対的に発言力が強く、また他者に対して労働管理上の責任を負うことも多い医師という職種については、一般労働者以上に労働管理の知識や見識は持っておくべきだとは思いますね。

投稿: 管理人nobu | 2014年3月13日 (木) 10時48分

<ホテル阪神>料理人時間外100時間超 総支配人書類送検

毎日新聞 3月13日(木)9時53分配信

 ホテル阪神(大阪市福島区)の料理人に月100時間を超える時間外労働をさせていたとして、西野田労働基準監督署(大阪市)は12日、ホテルの男性総支配人(56)と運営会社の阪急阪神ホテルズを、労働基準法違反の疑いで書類送検したと発表した。料理人の男性が倒れて死亡し、発覚した。総支配人は「人手が不足していた」と話し、容疑を認めているという。

 送検容疑は昨年7月、労使協定で定めた上限の月60時間を超える時間外労働を、男性にさせたとしている。

 労基署によると、男性(当時54歳)は昨年8月上旬に倒れ、脳幹出血で死亡。前月の7月に月101時間の時間外労働をしていた。男性を含め4人が90時間以上の時間外労働をしていたという。

 阪急阪神ホテルズの広報担当者は「捜査には全面的に協力する」としている。【石戸諭】

投稿: | 2014年3月13日 (木) 11時43分

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