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2014年3月14日 (金)

やはり地雷か?!心筋炎症例で賠償判決出る

医療の世界には「その症例に出会ってしまった時点で高い確率で紛争化するリスクを覚悟しなければならない」と言う意味で「地雷」と呼ばれる疾患・病態が幾つかありますけれども、その中でもとりわけ踏みやすいものの一つがこちらの疾患ではないか?と改めて思わされる判決が先日出ていました。

中学生死亡は誤診と6千万円賠償 長崎地裁、病院側に命じる(2014年3月11日47ニュース)

 長崎県新上五島町の上五島病院で2010年、入院中の女子中学生=当時(13)=が死亡したのは誤診が原因として、両親が約9千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、長崎地裁は11日、誤診を認め、運営する県病院企業団に計約6455万円の支払いを命じた

 担当医は腸炎と診断したが、実際は急性心筋炎だった。井田宏裁判長は「重度の心筋炎を疑い、治療が可能な医療機関へ転送していれば救命できた。転送義務に違反した」と判断。過失はないとする病院側の主張を退けた。

 判決によると中学生は10年9月、頭痛や吐き気で救急外来を受診。病院は処置をしたが症状は改善せず、3日後に死亡。(共同通信)

誤診の中1女子死亡、長崎県病院企業団に賠償命令(2014年3月12日読売新聞)

 長崎県新上五島町の上五島病院で2010年9月、中学1年の女子生徒(当時13歳)の容体が急変し死亡したのは、医師の誤診で適切な処置が行われなかったためだとして、女子生徒の両親が、病院を運営する県病院企業団(長崎市)を相手取り、約9025万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が11日、長崎地裁であった。井田宏裁判長は誤診を認め、同企業団に約6455万円の支払いを命じた。同企業団は県と県内の5市1町で構成している。

 判決によると、女子生徒は吐き気や頭痛を訴えて同病院を受診。感染性腸炎と診断され入院したが、3日後に死亡した。病理解剖で、死因は「腸炎ではなく急性心筋炎と推察される」との結果が出ていた。

 井田裁判長は「血液検査の結果から重症の急性心筋炎を疑わなければならなかった」などと医師の誤診を認め、急性心筋炎の処置を出来る病院へ転院させる義務があったとした。

 同企業団は「判決文を見ていないため、コメントできない」としている。

離島から転院させず少女死亡 長崎の公立病院に賠償命令(2014年3月12日朝日新聞)

 長崎県の離島、新上五島町の上五島病院で2010年、入院中の少女(当時13)が死亡したのは、医師が他の医療機関に転院させなかったことが原因だとして、長崎地裁(井田宏裁判長)は11日、少女の両親に約6400万円の損害賠償を支払うよう、病院側に命じる判決を言い渡した。
(略)
 判決によると、医師は血液検査などから、少女がウイルス性肝炎の疑いがあると診断し、転院の必要性について考えていなかった。しかし判決は、血液検査などから急性心筋炎を疑うことができたと指摘。より高度な機器で治療できる医療機関に転院させる必要があったと判断した。
(略)

わずか13歳にしてお亡くなりになった女子生徒の御冥福を祈るしかありませんけれども、最も早い冒頭の共同の記事では「重度の心筋炎を疑い、治療が可能な医療機関へ転送していれば救命できた」との裁判長の判断が示される一方で、他紙による続報では救命可能性については記載されず単に転院義務違反だけを問う形になっていることに留意ください。
判決の詳細がわかっていない現段階では何とも言い難いのですが、三日で亡くなるような心筋炎を「治療が可能な医療機関へ転送していれば救命出来た」と簡単に断ずるのもどうなのかで、こんな判断をされては転院先を探そうにも受け入れ施設も「100%救命できなければ損害賠償か!」と亡くなった際のリスクを考え引き受けに躊躇してしまいそうですね。
それにしてもこの心筋炎と言うもの、子供から老人まで誰にでも起こりえる上に重症のものは非常に早い経過で死に至る可能性もかなり高い、そして直接的に有効な治療法がないと言うことで当直医などにとっては重症例に当たらないようにお祈りしたくなる病気の一つですけれども、恐ろしいことに初期症状が一般的な風邪によく似ていて多くは見過ごされやすいと言う特徴があります。
ちょうど先日もこんな記事が出ていたのですけれども、咳が続いて肋軟骨が痛むなどと言うことはごく日常的に見られるだけに「この前こんな記事が出ていたんだけど実は自分も」と外来に大勢押しかけられても現場の先生方も困るというものでしょうし、実際のところはそれと診断が付かずに見過ごされている軽症の心筋炎もかなりあるんじゃないかと思いますね。

「水を飲んだときだけみぞおちのあたりがしみる→食道ガン」―内科医が教える「恐ろしい病気のサイン」とは?(2014年3月3日アメーバニュース)

(略)
ケース7.風邪のせきで胸が痛い、と思っていたら……急性心筋炎だった(44歳/女性)

心筋炎とは、心臓を動かしている筋肉(心筋)にウイルスが感染して炎症を起こす病気です。最悪の場合は心不全を起こし、死に至るケースもあります。

子どもから高齢者まで、誰でもかかる可能性があります。息を大きく吸ったときに胸の痛みを強く感じたら要注意です。

このような症状に少しでも心当たりがあるときは、早めに医師に相談しましょう」と泉岡医師。放っておくと危険な大病のサインは、想像以上に多種多様であることに驚きます。○○だろう、と自己診断することが最も危険なのかもしれません。

心筋炎が怖いと言うのは診断が付きにくいと言った臨床的な扱いの難しさに加えて、やはりあらゆる年齢層に起こりえると言うことにあるんじゃないかと思いますけれども、統計的データはありませんが高齢者が心筋炎で死んで訴訟沙汰になるケースよりも子供の死亡例で紛争化したケースの方が妙に目立つのも、「元気だった子供が急に心不全で亡くなる」と言う現象が医師も含めて多くの人にとって完全に想定外だからなのでしょう。
その意味で「新・小児科医のつぶやき」さんが「新宮心筋炎訴訟」と呼ばれる有名な紛争化事例を詳しく解説してくださっていることはありがたいことですけれども、特に門外漢の当直医にとっては高齢者ならともかく風邪症状で担ぎ込まれてきた小児にいきなり心不全を疑って検査をすると言うのは、それが当直時間帯に多くの施設で可能なのかどうかも含めてなかなかにハードルが高そうに思えます。
実は今回の訴訟に関しても提訴された時点で取り上げていらっしゃるわけですが、前述の記事と併せて解読する限りでは2010年9月13日早朝に同院を受診しそのまま(経過観察目的で?)入院、そして三日後には亡くなっていると言うことで、週初めでもあり常勤小児科医も2名いたようですから仮に門外漢の当直医が拾ったとしても、少なくとも日勤帯以降で小児科医が全く診ていなかったとは考えにくいでしょう。
当時の記事を見ても臨床的には心筋炎を全く疑ってもいなかったようで剖検によってようやく診断されたらしいのですが、ここでも疑わなければ見つからない致命的な疾患としての心筋炎の恐さが表れていますし、常勤の小児科医がいて命に関わるような重症になっても診断がつけられるわけではないと言う現実も知っておかなければならないように思います。

実際にこうした地雷症例に当たった場合にどう対応すべきなのかと考えるのですが、もちろん心不全症状がある場合は年齢に関わらずそちらをチェックし場合によっては即座に専門医に送るのは当然として、紛争化するような症例であってもほとんど心疾患を疑わないような段階でどこまでルーチンで心筋炎除外の鑑別を行っていくべきなのかと言うと、いわゆる感冒症状を呈する患者の数を考えるとなかなか悩ましいものがありますよね。
前述の新宮心筋炎訴訟などもそうした臨床現場の悩ましさを考えず?当たり前に心臓を精査すべきだったと言っている(ように見える)からこそ「神鑑定」などと揶揄されているわけですが、紛争化するケースとしてはほぼ死亡例でしょうし、その場合どこかの時点で入院にはなっているでしょうから、とりあえず入院時のルーチンとして症状の如何に関わらず心原性酵素や心電図くらいはチェックしておいて損はなさそうに思います。
心筋炎ではありませんが高齢者なども「まさかこの症状で心筋梗塞とは!」と言ったことがままあるだけに、「患者さんが「胃が痛くて…」と言っていても心電図くらいは必ずチェックしろ」は今や当直医にとってもマストだと思いますけれども、もう一つ重要な点としてやはり後になって誤診だ、藪だと言われるリスクを分散する意味でも、少しでも自信のない患者は一人では診ないで必ず他の医師にもコンサルトすると言うのは地味に重要なんだと思いますね。
その点で今回の離島のようなケースではそう簡単にコンサルトする相手もいない可能性があるわけで、その場合「当院で入院させるなら責任を負えるのはここまで」「もし実際の病態が想定を超えていたら診断もつけられないまま死ぬかも知れません」と言うラインをきっちりと最初に提示した上で、亡くなっては困る若年者や患者家族が少しでも不安や不満を感じている場合は即転院と言う対応もJBM的には十分考えられそうです。
ただまあ、末端医療機関の全部が全部そうした対応をした結果送られる先の大病院では今まで以上に多忙を極めベッドの調整も付かないと言うことになるでしょうから、お金のかかる急性期のベッドを減らそうと言う国策が推進されつつある中でいつでもどんな検査・処置でも出来るわけでもない末端の臨床現場はどうやって我が身を守っていくべきなのか、なかなか難しい時代になってきたと言えそうですね。

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コメント

救急そのものが地雷w

投稿: aaa | 2014年3月14日 (金) 09時01分

こういう症例ってあれ?もしかしてヤバいかも?って思った頃に急死したりするんですよね…
もう何度も何度も地雷を踏んで学べる時代じゃなくなってきてるんでしょうか。
ただただ不幸にしてお亡くなりになった方のご冥福をお祈りします。

投稿: ぽん太 | 2014年3月14日 (金) 09時34分

今回の場合は入院後3日で死亡ですから、入院時検査で疑いを持たなければ診断に至らない可能性は高そうですね。
こういうケースは患者家族にとって不幸なのはもちろんですが、医療従事者にとっても不幸な症例であるかと思います。

投稿: 管理人nobu | 2014年3月14日 (金) 11時11分

もう無過失保障しかないのでは?
ただし民間にやらせると、産科のように保険会社のお小遣いにしかならないので、公的なもので。

投稿: RForest | 2014年3月14日 (金) 12時49分

こういう判例が出る以上、医療現場には徹底したゼロリスク防衛医療のための検査が不可欠になる。
プライマリケアをやる外来医師は胸痛患者には迅速血液検査と緊急心臓エコーは必須ということですね。
それができない開業医は急な胸痛・腹痛・頭痛はすべて例外なく紹介状書いて病院送りでいいでしょう。
忙しい開業医の外来診療で地雷を判別するのはまず不可能だと思いますので。
もちろん循環器・脳外科・外科が揃っている救急指定病院に。それがリスクマネージメントというものです。
結果的にそれが不定愁訴だったとしても問題にはならないと思います。
しかし13歳の頭痛・嘔吐だと普通は心筋炎など疑わわないし、普通は片頭痛かと思いますけどね。
気象予報士も予報外れて被害や負傷者/死者が出たら訴訟で責任を問われるべきですね。

投稿: 逃散前科者 | 2014年3月15日 (土) 16時25分

プロならさ金取ってる客の前で切れるなよ。 いやさすがにその通りだろw

投稿: | 2014年5月24日 (土) 06時24分

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