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2014年3月11日 (火)

精子提供に関わるトラブル相次ぐ

本日の本題に入る前に、診療報酬改定に絡んで先日こんなニュースが出ていました。

帝王切開手術料2万円下げ 4月、人件費減で厚労省(2014年3月6日47ニュース)

 厚生労働省は6日までに、帝王切開で出産する場合の手術料を約2万円引き下げると決めた。現在22万1600円だが、4月から20万1400円にする。入院基本料などは別にかかり、窓口で原則3割を負担する。

 帝王切開手術の所要時間が短縮され、人件費が減ったという調査結果が出ているためで、2014年度の診療報酬改定で見直す。当初から手術を予定していたケースだけでなく、自然分娩中などに何らかの問題が生じて緊急手術をした場合も同じ金額。

 妊娠32週未満などで手術が難しい場合は現在24万5200円だが、3万円弱引き下げて21万6400円にする。

まあしかし産科医の先生方も例の30分ルールの影響もあるのでしょうが夜頑張って努力して手術時間を短縮してきた、その結果報酬が切り下げられるのではやってられないと思う人はいないのか?と気になるところで、こうした診療報酬改定が行われるとなるとよりよい医療を目指して改善努力を行うモチベーションもずいぶんと引き下げられそうに感じられますし、関係各方面から抗議の声が上がるのももっともかなと思います。
この件に関しては「新小児科医のつぶやき」さんがなかなかに面白い解説?をしていて一笑したのですけれども、個人的に思うところでは機材等のコスト比率が高い手技で普及が進み機材コストが下がっていくと言った場合に年と共に診療報酬が引き下げられるのは判るのですが、単純な帝王切開や腸切除と言った手技が確立している手技に関してそうコストが変わるということもないだろうと言う気がしますね。
コストが上がった、下がったということを厳密に検証するなら手技それぞれについてどのようなコスト要因があり、それが年代を追ってどのように変化しているのかと言うことを詳細に調査した上で報酬の見直しをすると言うのは有りなのでしょうが、今回こうしたことが行われると知れたことで今後は手術時間の短縮を目指す意味付けが変わってくるということもあるかも知れませんね。
いささか余談が続きましたが、本日はまたぞろ産婦人科領域から精子提供関係の話題を取り上げてみたいと思いますけれども、まずは少し前に表に出てきたこちらの話から見てみましょう。

ネットで精子提供持ちかけ 妊娠・出産も(2014年2月28日NHK)

不妊や未婚の女性に匿名で精子の提供を持ちかけるインターネットのサイトが数多く存在し、医療機関を介さない精子の受け渡しが行われて、妊娠や出産に至ったケースもあることが、NHKの取材で分かりました。
日本産科婦人科学会は、医学上のリスクが高く倫理的にも問題があると指摘し、厚生労働省も、「感染症の予防策が十分とは言い難いといった問題があると考えられる」としています。

夫以外の第三者からの精子提供について、日本では、産科婦人科学会のガイドラインに従い、不妊症に悩む法律上の夫婦だけを対象に、精子を洗浄して凍結保存し、半年後に改めて感染症の検査を行うことなどを条件に、一部の医療機関で実施されています。
ところが、こうした医療行為とは別に、妊娠を希望する女性に匿名で自分の精子の提供を持ちかけるインターネットのサイトが数多く存在することが、NHKの取材で明らかになりました。
このようなサイトは、40余り確認され、このうち11のサイトの提供者から直接、話を聞くなどした結果、実際に医療機関を介さない精子の受け渡しが行われ、妊娠や出産に至ったケースもあることが分かりました。
提供を受けた人の中には、不妊に悩む女性のほか、未婚の女性も含まれていて、結婚しなくても子どもを授かる方法を探していたところ、サイトの存在を知り、提供者の素性や経歴に不安を感じながらも利用を決めたとしています。
ほどんどの場合、金銭の要求はなく、精子を入れた容器を、シリンジと呼ばれる針のない注射器と共に受け渡されることが多いということです。
個人による精子提供について、日本産科婦人科学会は、ガイドラインで医療機関に課せられている洗浄や検査などが行われず、相手の女性が感染症などにかかるリスクが高いことや、匿名で行われるため生まれた子どもにとって父親を確認する手段がなく、倫理的にも問題があることを指摘し、女性が利用しないよう呼びかけることにしています。
また、厚生労働省は、「医療機関で行われる場合と比べて、感染症の予防策が十分とは言い難く、提供者が疾患を抱えているかどうかが分からないといった問題があると考えられる」としています。

厚労省、ネットでの精子提供による妊娠・出産を問題視(2014年3月10日ナース専科)

厚生労働省は、不妊や未婚の女性に匿名で精子を提供するインターネットのサイトが存在し、中には妊娠や出産したケースも出てきていることに対して、感染症のリスクなどを指摘し「問題がある」とした日本産科婦人科学会も、医学的なリスクの高さや倫理上の問題があるとし、利用しないように呼びかけている。

日本では、夫以外の第三者からの精子提供について、日本産科婦人科学会がガイドラインを定めている。不妊症に悩む法律上の夫婦のみが対象。精子を洗浄して凍結保存することや、半年後に感染症の検査を受けること、提供者の記録を保存することが義務づけられている。また、人工授精は指定された15ヶ所の医療機関のみで実施される。

厚労省は、第三者からの精子提供などの「生殖補助医療」について10年前に報告書をまとめている。その中で法整備の必要性が訴えられているが、未だ法制化は実現していない。自民党は、今後の法案成立をめざす考えだ。

最初に見出しを見たときには新手の詐欺か何かか?とも思ったのですが、要するに日本国内で個人対個人での精子のやり取りが行われていると言う事実が明らかになった、それではそれの何が問題なのか?と言うことになると思いますが、こうした精子提供を目的とした組織として精子バンクと呼ばれるものが実は日本国内にもすでに存在して活動をしていて、それなりの実績もあると言うことです。
こうした精子バンクにおいては不妊に悩む既婚夫婦のみならず独身女性や同性カップルに対して精子提供を行っており、注射器による自己注入(セルフ人工受精)も手がけているということですから、やはりどこまで事前のチェックや感染予防の処置を行っているかが気になりますよね。
表向きの反対理由としてはこうした適切な処置が担保されていない個人間の精子提供ルートは危険性が高いと言うことが問題視されているようですが、あまり表立って語られていないリスクとして記事にも小さく「提供者の素性や経歴に不安」云々とあるようにやはりどこの誰からの精子提供か判らない、と言うよりもぶっちゃけその精子は「優秀な種」なのか?と言う不安もあるのだと思います。
アメリカなどでは優秀な個人の精子には高い値がつくという話もあり、実際に中の人の語るところによれば選りすぐりのドナーが掲載されたカタログを見てこの人ならと思う相手の精子をオーダーすると言う身も蓋もないことをやっているようですけれども、例えば公益・非営利団体を謳う「日本精子バンク機構」などにおいてもドナーに関してこんな生臭いことを記載しています。

当機構は、過去に病院や精子バンクにおいて提供経験があり、各種検査結果と参考書類で高い安全性と
信頼性を保証できる者だけをドナーとして構成しています。
いずれも非常に高学歴で、容貌も魅力的な者であり、ご依頼者の皆様の高い信頼を得ております。
勉学のみでなく運動神経にも秀でたドナーも多く、依頼者の皆様の満足度も非常に高いです。
ご依頼者に対しては、提供前の面談時に、下記の各事項を証明する書類を提供することといたします。
内容をご確認ください。

①血液型証明書
②各種感染症に係る検査結果報告書
  (当機構のドナーはいずれも定期的に病院で血液検査・尿検査を行っております。)
(略)
④癌遺伝子に異常のないことを示す検査結果報告書(遺伝子検査報告書)
   ・α1一アンチトリプシン
   ・P53遺伝子
⑤ドナーの素養に関する参考書類
   ・大学卒業証書
   ・卒業証明書 
    (当機構のドナーはいずれも東大や京大、慶應等、国立又は私立の最難関大学を出ており、
     国内最高水準の学歴を有しています。

要するにどうせもらうなら少しでも良い精子をと言う需要があると言うことなのですが、非営利の団体においてもこれだけの売り文句が並んでいるのですから、もっと生々しい条件で売り込みをかけているサイトも当然にあるだろうとは想像出来ますよね。
ちなみに記事にもありますように産婦人科学会のガイドラインにおいては原則夫婦のみ、それも医療機関で受けることが対象と言うことでかなり限定的であり使い勝手が悪いわけですが、逆に言えばしょせんは学会の指針に過ぎない訳ですから、学会と無縁の民間の組織なり個人なりがこれに反した精子提供を行っても何らペナルティが与えられない道理です。
さすがに個人はともかくとして、ある程度医学的に妥当な管理体制を持つ民間機関なら医学的リスクという点ではまだ許容範囲内なのでしょうが、やはり気になってくるのはアメリカなどと同様高い資質を持つ者の精子を選んで依頼するということになるのかどうかで、当然依頼が集中し需要が高まったドナーに対してはそれ相応の見返りでもなければ…と言うことになれば後は容易に商業化にも結びつく余地はありそうです。

そしてもう一つ、ドナーの個人情報は開示されるべきなのか否か、行うとすればどの程度まで行うべきなのかと言う問題があると思いますが、すでに60年以上も行われている精子提供の歴史の中で大多数はドナーの素性は秘密にされている、しかし記事にあるように学会も「生まれた子どもにとって父親を確認する手段がな」いことを問題視していると言うなら、本来的にこれは開示されるべき情報なのか?と言うことになりますよね。
学会指針ではドナー名は匿名にすると定められているにも関わらず、誰が精子提供者かと言う情報は保管するよう求めているというのは非常に奇妙な矛盾ではないかと思うのですが、ちょうどタイムリーにと言うべきなのでしょうか、先日こんな話が持ち上がっていて場合によっては法的対応も辞さずと言うことになってきているようです。

遺伝上の父、開示を病院に請求 精子提供で生まれた男性(2014年3月7日47ニュース)

 第三者の提供精子による人工授精で生まれた横浜市の医師、加藤英明さん(40)が「遺伝上の父親を知りたい」として、人工授精を実施した慶応大病院(東京)に精子提供者の情報を開示するよう求める文書を7日、送付した。

 提供精子を使った不妊治療は「非配偶者間人工授精」と呼ばれ、国内で60年以上前から実施されてきた。1万5千人以上の赤ちゃんが誕生したとされるが、生まれた子どもが遺伝上の父の開示を文書で請求するのは極めて異例。出自を知る権利をめぐる議論に一石を投じそうだ。

 加藤さんは「精子提供者の開示を認める制度を整備してほしい」と話した。

実はこの加藤先生というのは最近テレビにも出演されているちょっとした有名人?で、当時の慶大病院で行われていた精子提供のドナーが慶大医学部の学生だったと言うことから同大卒の先生に「ドナーでしたか?」と聞いて回ったりと苦労しているそうですけれども、こうした立場に置かれた個人によっては遺伝学的な意味での親が誰なのか?と言うことを知りたい欲求が芽生えることもあるとは理解出来る話です。
ただ逆にドナー側の立場に立って考えると、精子提供が一回だけということはむしろ稀で可能な人であれば複数回提供している場合が多いでしょうし、個人情報は相手先に知らされないと思って提供したものが何十年かたってから見ず知らずの相手が「僕はあなたの子供です」と次々押しかけてくるとなると、認知だなんだと生臭い話で困る事はないにしても率直にあまり良い気持ちではいられないものかも知れません。
実際に加藤先生の場合も学生実習の最中にたまたま実父と血のつながりのないことが判明したのだそうで、当時ドナーが誰かを教えてくれるよう求めたところドナーは匿名を条件に協力していること、そしてそれを両親も納得していることを理由に病院側から開示を拒否されているそうですが、実は先の記事にもあるように平成15年の厚労省審議会の報告書では15歳以上の子供が望んだ場合ドナーの個人情報を教えるべきだと言うことになっています。
もちろんと言うべきでしょうか、その後もこの報告書の内容を実現する関連法規は整備されないまま相変わらず匿名を前提に精子提供は行われているわけで、常識的に考えれば仮に今後開示に必要な法が整備されたとしても情報開示が許されるのはそれ以後に提供を行う、「場合によっては個人情報を相手に知らせますよ」と言うことに同意して提供を行ったドナーに限るということになりますよね。

世界的な流れとしては情報開示は一定程度認める方向で法律が整備されつつあると言いますが、これまた開示範囲は国によって差があり氏名住所と言った個人が特定出来る情報も認めている場合もあれば、病歴や遺伝情報と言った「必要最低限」の情報しか提供しない場合もある、そしてもちろん日本と同様完全に開示は認めていないと言う国もあるのが現状です。
これからの時代病歴や遺伝情報が医学的にも重視されてくるはずで、そちらに関しては時には命にも関わることですからある程度の合理的理由になり得るかと思いますが、他方でドナーがどこの誰であるかと言う情報は純粋に「知りたい」と言う個人的欲求をかなえるだけに終始するものであり、またそうでなければドナーには優秀な人が多いだけに遺産相続等様々な問題が派生し大変な騒ぎになりかねないと言う懸念はありますよね。
そういう問題が予想されるからこそ法の整備が遅れているということもあるのかも知れませんが、いずれにしても加藤先生のようなケースについては結局ドナー側が了解してくれるかどうかの一点が極めて重要なポイントなわけですから、当面の妥協案として双方の仲立ちを勤める組織なりを用意してこうした場合のドナー側の意志確認を行い、どこまで開示を認めるか個別に決めると言った方法が妥当なのかも知れません。

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コメント

個人的には単なる遺伝子だけの関係を追い求めたいって気持ちはよくわからないんですが
それにしてもこうまで露骨な高スペック誇示はなんだか引きますねえ…
精子提供者の理想像ってどんなものになるんでしょうね?やはり親族血縁者ですか?

投稿: ぽん太 | 2014年3月11日 (火) 09時16分

慶大生の種をもらった子はやはり慶大生となるのかw
親の素性など知らなかっただろうに遺伝子の力はものすごいものだなw

投稿: aaa | 2014年3月11日 (火) 10時21分

言われてみると大いなる偶然ということになるのでしょうか?
可能であればこうした遺伝子的親と養親、子供の学歴等生活史が比較出来れば、遺伝要因と環境要因のどちらが個人の生育過程に大きな影響を与えるかについて示唆的なデータが得られるかも知れませんね。

ところで身内からの配偶子提供は今回のように子が遺伝子的に血のつながりがないことを知ると言ったトラブルは避けられる反面、親族内部における親子関係を混乱させる原因にもなる気がします。

投稿: 管理人nobu | 2014年3月11日 (火) 12時41分

安倍ウンコの精子は病弱無能遺伝子だな

投稿: jap18 | 2014年3月11日 (火) 13時17分

>>遺伝要因と環境要因のどちらが個人の生育過程に大きな影響を与えるかについて示唆的なデータが得られる

でも、それで遺伝要因が大きな影響を与えるというデータが出たら、より生臭い話になりそうですね。
そのうち、金持ち&優良遺伝子な群とその逆の群と二極化するのでは。

投稿: | 2014年3月11日 (火) 13時33分

たいへん素朴な疑問なのだが、非営利の精子バンクで精子提供者の質を云々する意味はなんなのでしょうな?
表向きはどうしても子供が欲しいが生めない人たちを助けるために設立されたものであるのだから、
失礼ながらそういう追い詰められた方々が精子提供者を選べるような立場か?とも思うのだが
ついでに言えば高級な精子提供者にはそこいらの有象無象よりも高い謝礼も必要なのではなかろうか?
表向き無償でやっているにもかかわらずコストばかりかかってはたいへんだと思うのだが

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年3月11日 (火) 15時25分

>たいへん素朴な疑問なのだが、非営利の精子バンクで精子提供者の質を云々する意味はなんなのでしょうな?

そらまあどうせなら高スペックなガキのがいいのは自明かと。育児コストは変わらんワケだし。「不細工でも可愛い」のは自分の子だけ!

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年3月11日 (火) 16時09分

いやむろんレシピエント側はそうでしょうが、精子バンク側に応需する理由があるのか?と言うことですな
ボランティアがホームレスに飯を配るのに一流料亭の折り詰めを用意するような不自然な現象に思えますが

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年3月11日 (火) 16時21分

高い謝礼を払うなら、それに見合ったスペックの子が生まれなかった場合は返金だよね

投稿: | 2014年3月11日 (火) 16時43分

表向きはどうでも利用者が増えればバンクにも利益があるってことでしょう
だから客寄せのための工夫も凝らしていると
純医学的にドナーの学歴容姿が必要な理由なんてないはず

投稿: | 2014年3月12日 (水) 04時59分

精子だけ高級でも意味あらへんがな……

投稿: 名無子 | 2014年3月12日 (水) 08時11分

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