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2014年3月31日 (月)

変わるべき医療制度と変えたくない人々の相克

本日の本題に入る前に、まずはこちらのニュースを紹介してみましょう。

厚労省、肺がん検診の指針見直しへ-問診に代わる情報収集法など明確化(2014年3月27日CBニュース)

 厚生労働省は、市区町村が実施する肺がん検診の指針を見直すことを決めた。今国会に提出されている診療放射線技師法改正案が成立すると、検診車でエックス線撮影を実施する際に医師の立ち合いが必要なくなるため、問診に代わる安全に撮影をするための情報収集方法を明確にし、機器の日常点検などを推奨する内容に変える。法成立後、速やかに通知する。【君塚靖】

 厚労省は肺がん検診の指針の見直し案を、27日開催された「がん検診のあり方に関する検討会」に提示、同案は了承された。この指針は、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」と呼ばれるもので、同省健康局長名で都道府県に発出される。

 この指針では、市区町村が実施する肺がん検診について、対象年齢40歳以上、検診間隔は年1回。検診項目は、問診、胸部エックス線検査および喀痰細胞診としている。喀痰細胞診の対象者は原則、50歳以上で、喫煙指数(1日本数×年数)600以上および6か月以内に血痰があった、のいずれかに該当することが判明した人としている。

 法改正により、医師の立ち合いがなく、問診ができなくなるため、問診に代えて医師以外の医療従事者が、妊娠の可能性の確認など安全な撮影に必要な情報収集ができるような、自記式を含めた質問項目を明確化する。喀痰細胞診の対象者は質問によって、喫煙指数600以上などに該当する人になる。

 このほか、新たな指針には、エックス線撮影を実施する医療従事者と責任医師との連絡体制や緊急時マニュアルの整備、機器の日常点検などの管理体制の整備も盛り込まれることになる。

胸部単純レントゲン検診の意味合いについては諸説あって、癌検診としては意味がないと言う声も根強いものがありますけれども、肺癌でなくとも結核などの発見の契機になることも未だ少なくないことを考えるとそれなりに意味はあると思われる一方で、昨年の唐突な厚労省の通達によって検診車に医師の立ち会いが求められるようになったことから、「これでは検診が出来なくなる」と全国自治体から悲鳴が上がっていましたよね。
基本的には今回の指針見直しはこれに対する公的対応というべきものであって、ようやく公式にも医師の立ち会いが不要になったことは喜ばしいことですし、実際に立ち会っていたにしても妊娠の有無など事前問診レベルで医師の判断が求められるようなことはまず考えられなかったわけで、ようやくお上の定めた制度面が現場の実態に追いついたとも言えるでしょう。
こうした問題が表面化したのも大本を辿ればとりあえず医療に関わることは何でも医師に任せておけば間違いないと言う考え方にあったわけで、今の時代は特定看護師制度の導入などにも見られるように少なくとも実施面に関してはどんどん医師以外に任せる方向に話が進んでいますけれども、逆にこうしたことが医師の主体性を侵害するものだと強固に反対している方々もあるわけです。
その背景にあるのは(昔ながらの既得権益固守などと言うものでなければ)最後に責任を取らされるのは医師なのだから、下っ端が勝手にやったことまで責任を被せられてはたまらないと言う考え方でしょうが、今の時代医師であれ誰であれ個人で責任を負うという考え方自体が時代遅れとなってきている以上、業務は組織内で分担し責任も組織で負うと言う方向に進んでいくことは歴史的必然だと思いますね。

考えて見ると今までのように需要が増えただけどんどん供給も増やす、あるいは供給過剰や需要減少で余力がある場合には無理矢理需要を発掘してとにかく常時フル操業を維持するというやり方が現場の疲弊を招いたのであって、その意味で今回の検診車の件などもそうですが技術知識を持つ専門職を制度的な理由から取り立てて専門的技能を必要としない仕事に駆り出すことなど非効率極まると言えます。
また医療制度に関しても常時満床状態を維持しなければ赤字になるような薄利多売前提の報酬体系が「3時間待ちの3分診療」などと言われ顧客満足度を大いに低下させているのは明らかであり、経営的な理由からの無駄な医療が増えることを考えても患者数を減らしても経営が成り立つように移行していかなければならない訳で、事実元々が赤字前提な救急医療などはすでに受診抑制に向けて動いていますよね。
もともと国民の側からすれば今までは医療団体などから「少しでもおかしいと感じたらすぐ病院へかかりましょう」などと早期受診を誘導されてきたのに話が違うと言うものですが、医療を供給する側も受ける側も双方共に無駄に医療資源を浪費しないことを目指すべき時代であると考えると、それではそうしたインセンティブをもたらすためにどのような制度が必要になるかと言う議論になってきます。

健康な人には保険料低減を=民間議員が提言-競争力会議(2014年3月28日時事ドットコム)

 政府の産業競争力会議の医療・介護等分科会(主査・増田寛也元総務相)は28日、健康維持や病気の予防を促すためのインセンティブ(報奨)措置について、民間議員の提言を取りまとめた。提言は、喫煙の有無や運動習慣、生活習慣病の罹患(りかん)率などに応じ、公的保険の保険料を増減させることを例示。その上で「健康増進に努力した者が報われるような、金銭的インセンティブを与えるようにすべきだ」と政府に求めた。

 年々膨れ上がる国の医療費負担を抑制するのが狙い。民間議員は、6月に政府がまとめる成長戦略の改定版に反映させたい考えだ。


医療費の窓口負担、「1回100円」提案 財務省(2014年3月28日日本経済新聞)

 財務省は28日、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会で、医療費の窓口負担で外来受診時に1回100円といった少額の定額負担の必要性を訴えた。40~64歳の現役世代が負担する介護保険料の支払い開始年齢の引き下げも提案した。膨らみ続ける社会保障費の財源確保のため応能負担の拡充を求めた。

 少子高齢化が急速に進んでいるため、医療や介護、年金などにかかる社会保障費の膨張に歯止めはかからない。政府の推計によると、自己負担分を除いた社会保障給付費は2011年度の107兆円から25年度には149兆円にまで増える見通し。財源確保は急がれるが、個人の負担増を感じやすい財務省の提案の実現は容易ではない

 外来患者に少ない額だが定額の負担を求める案は民主党政権時代に検討されたが、日本医師会の反発で見送られた経緯がある。一方で、年金財政も難問山積で財務省は28日の会合で、年金収入の控除の見直しも求めた。負担能力のある高齢者により多くの負担をしてもらうことで、世代内の公平性を保とうとする狙いからだ。

保険を利用しなかった人に保険料を軽減するだとか、外来受診時に一定額の自己負担金を課すべきだと言った制度は以前からずっと言われているもので、これまた一部医療団体の強固な反対で見送られてきた経緯がありますけれども、経営者目線で医療を語る団体からすると医療に対する需要が減るなど経営悪化に直結する、とうてい許容できないと言う発想になるのは当然ですよね。
朝三暮四的に目先の利益を考えるばかりで医療全体を俯瞰的に見る視線を持たないと「とにかく現状を変えることは全て反対!」と言う姿勢になってしまうのかなとも思うのですが、今のように出来高制かつ薄利多売前提の医療制度を堅持し、なおかつ医療費総額はこれ以上大きくは増やせない、そして医師やスタッフらはどんどん増やすと言うことになれば一人あたりの取り分は減っていくのは子供でも判る理屈です。
いくら経営者目線で「もっと頑張って患者を増やせ!売り上げを伸ばせ!」と言われても給料が上がるわけでもない以上現場スタッフは一向に士気が上がらない、そして顧客である患者にしても伸び続ける診察待ちの患者の列をやっとクリアしても相手をするのは疲弊しきった医師によるやる気のない三分診療だとすれば、一体そんな状況をますます悪化させていくことが誰得なのか?ですよね。
仮にも政府に対して診療報酬配分を口出ししようと言うのであれば、例えば国民健康水準に悪影響を与えないレベルで無駄な受診を控えさせるとすれば患者総数はこれくらいに減る、それによって医療従事者の負担はこれだけ減ってより質の高い医療が提供できるようになる、それに対する正当な対価として顧客単価はこれくらいには引き上げてもらうのが妥当だろうと言う風に話を持っていってしかるべきだと思います。
発展途上国よりも安く抑えられている医療単価が医療安全を維持するためにも妥当な水準にまで改善すれば、単なる経営維持のために過労死寸前の薄利多売を追求する必要も失せるだろうし、患者も単なる待ち時間ではなく医療のためにもっと時間を使ってもらえるようになると各方面に利点が多いはずですが、これまた一部医療系団体から強固な反対意見が出され潰されていくことになるのでしょうか。

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コメント

日本病院会調査、病院の外来が縮小傾向に
20%超の病院が外来収入の落ち込みを入院増収で補う
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20140328/342741/?ref=ML
 外来収入の変化はこの1年で平均0.41%のプラスとほぼ横ばいだったが、延べ患者数が減った病院は全体の75.7%に上った(図1)。一方で、1人1日当たり収入(患者単価)が増加した病院は76.9%に上り、患者減を単価のアップで補うことで外来収入を維持している傾向が明らかになった。

投稿: | 2014年3月31日 (月) 08時43分

外来が減って入院が増えるのは病院が重症患者に特化するのだから悪くない気がしますが。
病院からクリニックへ逆紹介をうまく増やせるアイデアってないものですかね?

投稿: ぽん太 | 2014年3月31日 (月) 08時59分

ものすごくシンプルで、
「病院の外来の値段を数倍に引き上げて、患者がクリニックに行きたがるようにする」

いまの制度は、病院の外来の値段を引き下げて、病院が嫌がる患者にクリニックに行くようにお願いさせる、という
病院に責任を押しつける公務員体質丸出しですからね。

責任を国がちゃんととればいいんですよ。

投稿: おちゃ | 2014年3月31日 (月) 09時04分

>病院からクリニックへ逆紹介をうまく増やせるアイデアってないものですかね?

妥結率と薬剤関連報酬をリンクさせるように、辻褄、筋道、脈絡、妥当性は無視して診療報酬を設定できるのですから、

「逆紹介率が低い病院は入院報酬を減算する」というのが最も効果的な方法でしょうね。

投稿: hhh | 2014年3月31日 (月) 10時51分

素人には違いがよくわからないんですが、
診察のたびに100円取るのと初診料とか再診料を値上げするのとどう違うんでしょう?

投稿: てんてん | 2014年3月31日 (月) 11時23分

>患者も単なる待ち時間ではなく医療のためにもっと時間を使ってもらえるようになる

素人には意味不明

投稿: | 2014年3月31日 (月) 11時49分

記事からははっきりしませんが、今までの議論からすると100円の加算は診療報酬ではなく選定療養などと同じ自費扱いになるものと思われます。
診療報酬加算で窓口支払いを100円増やそうと思うと3割負担で200余円の保険支払いが増えますが、自費扱いであれば患者の懐から出る分だけで保険者には一切負担が必要ありません。

投稿: 管理人nobu | 2014年3月31日 (月) 12時21分

>「逆紹介率が低い病院は入院報酬を減算する」

診療報酬が減ると支払いも減る>安くなったとさらに患者が集中するの悪寒w

投稿: aaa | 2014年3月31日 (月) 13時30分

>「逆紹介率が低い病院は入院報酬を減算する」というのが最も効果的な方法でしょうね。
それはすでに実施済みです。

この方法の問題点は、「逆紹介をしたくないのは誰か」という部分が完全にねじれている点です。
一般の方は「大病院が患者を囲い込んで」とおもうかもしれません。そうなら有効な対策ですが、
大病院は放置していても患者は多い+外来はもともと赤字部門ということから、すこしでも
開業医に戻ってもらいたいのです。

なぜそうならないのか、「患者の大病院志向」これにつきます。
いまの日本の医療制度は、海外と異なり、患者への強制力を病院が持つことができません。
そのため、患者家族から罵声を浴びつつ開業医にいくことを「お願い」しないと、赤字で病院経営が
立ちゆかないわけです。

患者のためのサービスをすればするほど赤字になる、患者の満足度を下げて追い出さないと黒字化しない、
この制度が正常でしょうか?

拒否しているのは患者側ですから、患者側が自主的に開業医に戻りたいようなインセンティブをつけなくては
なりません。フリーアクセスを保証するなら、後は患者負担の増大という経済動機しか手はありません。

投稿: おちゃ | 2014年4月 1日 (火) 09時12分

開業の自由は保障で、フリーアクセスは制限?
病院志向で病院が足りないなら、病院を増やすってのが素直な方向では
要するに医者の都合に合わせろってことだよね

病院に集約したほうが、医療資源だって無駄が少ないだろうに
老人は病院に集めて介護した方が無駄が少ないってのと同じじゃあないのかな

投稿: | 2014年4月 1日 (火) 10時13分

↑ フリーアクセス の フリー を 無料(金がなくても可)と勘違いしている? 

>老人は病院に集めて介護した方が無駄が少ない
無駄をなくしても それでも金が足りなくなってきた、ってことだ。

投稿: 感情的な医者 | 2014年4月 1日 (火) 12時52分

>病院に集約したほうが、医療資源だって無駄が少ないだろうに
>老人は病院に集めて介護した方が無駄が少ないってのと同じじゃあないのかな

これは、違うと思いますよ。
大半の病人は、病院レベルのリソースを必要とはしていないのだから。
中小のなんちゃって救急病院がいくつもあるより巨大ER型救急病院一つを整備したほうが効率的(かも)という話と混同してませんかね。
沿岸警備艇を何隻も持つよりも戦艦大和を一隻持つほうが無駄が少ないだろ、と言うに等しいのではないかと思います。

投稿: JSJ | 2014年4月 1日 (火) 13時11分

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