« 「死ね」はどこまで許されるか? | トップページ | 報道の自由は敢えて行使しない基本方針を中の人が告白? »

2014年3月 7日 (金)

なかなか難しい新商品の取り扱い

本日まずは、以前からその実用化が期待されていたあの装備がいよいよ臨床現場に本格導入されそうだと言うニュースを紹介してみましょう。

ロボスーツでパワフル介護 30万~80万円で発売へ(2014年3月2日朝日新聞)

 人間が身につけると、パワーがアップするロボット「マッスルスーツ」を、東京理科大の小林宏教授らが開発した。約30キロの荷物を簡単に持ち上げられるようになり、高齢者の介護などに活用できるという。ベンチャー企業を通じて年内にも売り出す。同大が27日発表した。

 ロボットは、背中に装着した人工筋肉を圧縮空気で収縮させ、腰の動きを補助するしくみ。同様に身につける方式の他社の製品と比べると、構造が簡単でコストが安いという。

 すでに介護現場などで試験的に使われており、商品化できると判断してベンチャーを設立した。介護のほか、荷役作業など向けに本格的に売り出す。想定価格は30万~80万円で、当面はリースやレンタルが中心という。小林さんは「将来は介護を受けている高齢者自身も使えるようにして、自立の手助けにつなげたい」と話す。(高山裕喜)

ちょうど1年前にサイバーダインのロボットスーツ「HAL」が安全認証を取得したと言うことで、あちらは患者さんのリハビリ等をサポートするためのものでかなりごつい感じでしたが、今回のものは元記事の写真を見てもお判りのようにまたずいぶんとシンプルかつコンパクトな構造となっていて、これくらいであれば安価かつ使用も容易そうで大量導入にも向くんじゃないかと言う気がします。
最近では大企業が作るロボット以外にも各地で新たなロボットが登場していて、巨大ロボットを普通に市販してますなんてびっくり話も出てくる時代ですから(実際に通販サイトに出品しているのが笑えますが)いったん量産化に目処が付けば身近な領域にどんどん入って来て価格もこなれてくるでしょうし、実際「こんなもの余程の物好きしか買わないだろう」とも言われたロボット掃除機も今や一般家庭にもすっかり定着しましたよね。
「女房と畳は」などと言わずとも世に新しいもの好きは数多く、そこを狙って売る側も常に新規開発の努力を惜しまないのは当然なのですが、他方では何もそんなにまで新しいものにこだわらなくてもいいのでは?と言う疑問の声もあって、医療の世界などでも大した違いもないのに単に新しいというだけで大々的にもてはやされると言うのもどうなんだ?と感じることはままあるものです。
最近ではARBと言うタイプの高血圧の薬が血圧を下げる以外にもこんなに素晴らしい効果があります!と謳っていたものが、実は臨床試験のデータを捏造していたと判明して大騒ぎになった大事件がありましたが、そもそも他の降圧薬に対して圧倒的に高価なARBをそうまでして使わなければならないものなのか?もっと安い薬でもいいんじゃないか?と言う意見も根強くありますよね。
特にこれに医者の処方権と言う問題が絡むと非常に機嫌を損ねやすい先生方が多いというものですけれども、先日何気なく放送されていた新薬のCMが意外なところで問題化していると言うニュースを紹介してみましょう。

「インフルエンザ治療に点滴薬」CMの是非(2014年3月3日日経メディカル)

 「インフルエンザは早期治療が大切」──。昨年12月に塩野義製薬が開始したインフルエンザ早期治療啓発キャンペーンが、医療従事者の間で波紋を呼んだ。子育て中の母親が「インフルエンザは早期受診が重要」と話すテレビCMで、最後にタレントが「今はお医者さんで治す点滴薬もあるのよ」と紹介するものだ。同社はウェブサイトで、症状などを選択して医療機関に持参するためのチェックシートを配布。チェックシートには希望の治療法を選ぶ欄を設け、点滴薬、経口薬、吸入薬の順に表示していた。
 テレビCMの放送開始後、その内容に異を唱える声が医療従事者から上がった。多くは、重症化リスクの高い患者以外でも早期の治療介入が必要であると受け取れる点や、治療薬として点滴薬が強調されている点を指摘していた。こうした批判の声は、一部のメディアでも報じられた。
 批判が相次いだことについて、塩野義製薬は「インフルエンザが疑われた場合、重症化を防ぐために早期受診や早期治療が重要だということを訴えたかった。点滴薬という剤形をアピールする意図はなかった」(同社広報)と説明する。だが指摘を受け、チェックシートから希望の治療法を選ぶ欄は削除した。テレビCMの放送は1月末で終了。「予算や反響などを考慮し総合的に判断した」(同)という。

 今回のキャンペーンが問題視されたポイントは、大きく二つあると考える。
 一つは、インフルエンザの治療で、早期の抗インフルエンザウイルス薬があたかも必須であるかのような伝え方をしたことだ。高齢者や妊婦、基礎疾患の合併などは、重症化のリスク因子となるため、治療薬の必要性は高くなる。一方、こうしたリスクのない患者にも抗インフルエンザウイルス薬を使うかどうかは、医師によって意見が分かれている。しかし、このCMを見た患者は、抗インフルエンザウイルス薬を使わないという医師の判断に納得しない可能性がある。
 もう一つは、治療薬の選択肢として経口薬、吸入薬、点滴薬を同列に扱っていることだ。国内唯一の点滴薬であるラピアクタ(一般名ペラミビル)の添付文書には、「本剤は点滴用製剤であることを踏まえ、経口剤や吸入剤等の他の抗インフルエンザウイルス薬の使用を十分考慮した上で、本剤の投与の必要性を検討すること」とある。こうした情報は消費者に届いていないため、消費者は自分が望めば点滴薬を使ってもらえると考えるだろう。診察室で点滴薬を希望された場合に、その適応を判断し、使えない理由を説明するという業務のしわ寄せが、医療従事者に集中することになる。
(略)

こうした一見特定商品を売り込んでいるように見えず、単に啓発活動を行っているだけに見えるような広告のやり方を「DTC(direct to consumer)マーケティング」と読んでいるそうですが、もちろん患者が興味を持ってより多く病院に押しかければ処方される薬も増え、結果として製薬会社としても儲かるという間接的な効果が期待されているのは言うまでもありません。
それに加えて例えば特定の領域の検査なり治療なりをするのに限られた手段しか存在しないと言う場合、その手段を提供しているメーカーは「○○は素晴らしい!」などとあからさまな宣伝を打つよりも、その領域の意味や重要性を周知徹底させることに専念するだけでかなり直接的に売り上げが伸ばせるし、企業イメージ上もプラスになりそうだと言う計算はあるはずですよね。
今回で言えば「インフルエンザ治療に点滴薬を」と言う部分がまさにそれに当たりますが、塩野義さんとしては「ラビアクタをよろしく!点滴一発で治せるインフルエンザの薬です!」などとあからさまに宣伝しなくてもインフルエンザ治療に点滴と言う方法もあることを周知徹底するだけで自動的に自社の売り上げが伸びるわけですから、一般視聴者からすれば「品の良いCM」を打てるわけです。
しかし処方権を持つ医師からすれば素人の治療介入を示唆するとも受け取れるというもので、結果としてクレームが殺到し放送中止に追い込まれたと言うのは同社の損得勘定的にどうなのかですが、要するに見る人が見れば本音が透けて見えすぎる「何とも品の悪いCM」だったと言うことなのでしょうね。

テレビなどマスコミの刷り込み効果は意外と侮れないもので、某有名人などが「大事な事だから二度言いましたよ」などと宣伝するたびに関連領域の売り上げが激変するなどと言いますけれども、昨今ではさすがに番組内での露骨な(ように見える)宣伝行為はステマだ何だと言われ、それを行う当事者への反感も相まって必ずしも狙ったとおりの効果が出てこないところもあるようです。
一方でその合間に挟まるCMは最初からこれを売りたいと言う目的で行われていることが明白ですからある意味嘘がない、そして近年は震災なども理由なのでしょうが政府公報など営利目的外のCMがそれなりに増えてきていますから、一見すると商売気がないように見えるこの種のDTCマーケティングも同じようなものとして好意的に受け取られる余地があるのかなと言う気がします。
もちろん製薬会社などに限らず営利企業だからと言って何でもかんでも金儲け第一主義と言う批判も当たらないのであって、有意義な活動によって社会に貢献しその過程を通じて健全な利益を上げようと考えている会社も決して少なくないと思いますから、何でもかんでも隠れた商売気など許せない、単なるごまかしだと批判するのも当たらないと思いますが、何しろ例のステマ騒動の余波が未だに続いているご時世です。
例え何らやましいことのない真っ当なことであっても、今の時代下手に変化球で攻めると「こいつらは本音を隠している」「隠しているということは何か悪いことをしているんだろう」と受け取られかねないところもありますから、CMを流す企業の方もその辺りの空気を読んでもらっておいた方が余計な騒動にはなりにくいのかも知れませんね。

|

« 「死ね」はどこまで許されるか? | トップページ | 報道の自由は敢えて行使しない基本方針を中の人が告白? »

パソコン・インターネット」カテゴリの記事

コメント

>症状などを選択して医療機関に持参するためのチェックシートを配布。チェックシートには希望の治療法を選ぶ欄を設け、点滴薬、経口薬、吸入薬の順に表示していた。

さすがにこんなもの持ってこられたら引くわ

投稿: ダン | 2014年3月 7日 (金) 09時04分

そもそも当院には置いてないのでラピアクタっていまだに使ったことないんですが。
元気が良くて平気そうな人にも何でもかんでも高い抗ウイルス薬ってどうなんでしょう。
でも点滴だけで治ると知ったら希望する患者さんは多そうですね。

投稿: ぽん太 | 2014年3月 7日 (金) 09時41分

中国で以前話題になった「自分で診断をつけて来る患者さんお断り」の診療所みたいなもので、こういう医師の専門性を侵害するような行動は反発を招きやすいのかなと言う気がします。

投稿: 管理人nobu | 2014年3月 7日 (金) 11時53分

…トリルダンの時とまったく同じやん塩野義はちっとも反省しちゃいねぇwww

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年3月 7日 (金) 15時07分

ペラミビルは重大な基礎疾患のある重症あるいは重症化の恐れのあるインフル患者に限定投与すべき抗ウイルス剤であり、基本的に病院に入院経過観察が必要な重症例が対象のはず。
それじゃ全然売れないから、軽症例にも打ってもらうためにCM始めた。
2年前にクリニックに製薬会社が1本だけでも置いてくれと卸介して泣きついてきたが(苦笑)。
メマンチンもそうだが、大衆を医療機関に受診させて不必要な薬を買わせるような誘導CMは規制できないのかね。
悪質すぎて虫酸が走るので、BPOで問題にすべきだし、厚労省もさっさと規制してほしい。

投稿: 逃散前科者 | 2014年3月 7日 (金) 16時43分

早期の抗ウイルス薬が必ずしも必要かどうかはさておき、これはいささかやり過ぎでしたな
と言うよりも添付文書をチェックしている厚労省から一言あってもよさそうですが

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年3月 7日 (金) 20時02分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/59245914

この記事へのトラックバック一覧です: なかなか難しい新商品の取り扱い:

« 「死ね」はどこまで許されるか? | トップページ | 報道の自由は敢えて行使しない基本方針を中の人が告白? »