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2014年3月26日 (水)

医者の激務と言うものに関わる歴史的変遷の行方

近年「医者の激務」がコンテンツとして訴求力があると言うことが判明したせいか、マスコミ各社もこの問題を好んで取り上げるようになった感がありますが、見ていますとちょっとそれは今どきどうよ?と思わされるような「激務ぶり」が取り上げられている場合もあるようです。

医師不足で激務 固形物食べず自ら点滴しながらオペする医師(2014年3月22日NEWSポストセブン)

 地方には医者不足に悩む病院もあるようだ。38才の看護師女性が、激務のため不健康な毎日を送る医者について話してくれた。その内容はというと…。

 よく“医者の不養生”とかいうけどひどいもんです。
 うちの医局の先生たちの不健康さといったら、ふだんの食事は昼も夜もカップラーメンとコンビニのおにぎり。あとはレトルトもの。病院の食堂のバランスよく栄養のあるものだって食べられるのに「その時間がもったいない」んですって。しかもすんごい早食い。あれは食べるっていうより流し込みです。
 地方は医者不足で、当直勤務も前より増えてるから、睡眠もまともに取れてない先生がほとんど。休日は記憶がないぐらい寝たおすそうです。人間ドックだって生まれてこのかた、1度も受けたことがないなんて先生もザラですよ。
 固形物を口にする気力がないといって、休憩中、ブドウ糖を点滴してオペに向かう先生を見ると、痛々しさと同時に途中で倒れたりしたら患者さんはどうなるか心配で。患者さんは医者を“問診”して自己管理がしっかりできている医者を選ぶことですね。

しかしまあ、いやしくも医学的専門知識を持っている人間なら栄養や休養の不足による効率低下と食事休養時間のロスとどちらがマシかと言う損得勘定は出来て当然なんですが、まともな結論が出せないほど思考力が低下しているということでしょうか、ともかくもこれでは「自己管理のしっかり出来ている医者を選ぶべき」だと言う結論に関しては同意するしかないですよね。
ただ今現在は医療安全向上のためにも医療関係者の激務は解消されるべきと言う目的意識はようやく広く共有されるようになりましたが、その方法論を巡ってはやれ医者をOECD平均並みになるまでどんどん増やせだの、やれ応召義務を撤廃し不要不急の受診は断れるようにしろだのと様々な意見があって、結果としては個人レベルで「嫌なら辞めろ」式の逃散行動が一番有効かつ即効性が高いと言うことになってしまっています。
ともかく医者稼業に限らず緊急性ある業務が関わるような仕事であれば何であれ、ある時点においては休む間もないほどの激務に追われると言う事は当然あることなんですが、それが日常的に行われているのだとすれば仕事の質を保つ上でも非常に問題で、例えばレジデントの激務が問題視されたアメリカでは2003年から週80時間の上限を義務づける”80-hour rule”が制定されたのはよく知られていますよね。
日本においても飛行機のパイロットやトラックの運転手においては法律等で厳重な労働時間制限が設けられているというのに、同様に日常的に他人の命を預かっている医師の労働管理が野放しであることはいささか奇異な印象を受けますけれども、どうもその理由の一端が当事者自身にもありそうだと言う記事が全くの別ルートから先日出ていました。

医学部でのパワハラ、過去5年で100件超- 全国医学部長病院長会議が公表(2014年3月20日CBニュース)

 全国医学部長病院長会議が20日に公表した「パワーハラスメント(パワハラ)に関する全国アンケート調査」の結果によると、過去5年間に医学部・医学科でパワハラと認定された事象が116件あったことが明らかになった。同じく5年間に附属病院で認定されたパワハラは、156件だった。同会議は、この結果を5月に開く理事会・総会に諮り、同会議としての対応策を協議する。【君塚靖】

 同会議は昨年12月、パワハラに関するアンケート調査を実施。医学部・医学科とその附属病院では、雇用形態が異なるため、それぞれに質問し、医学部長・医科大学長と病院長が回答した。パワハラの規定あるいは対応マニュアルが整備されているかどうかとの問いに対し、全国80の回答数のうち、医学部・医学科は69(86.3%)、附属病院は73(91.3%)で、それぞれ整備されていると答えた。

 厚生労働省の定義では、「業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えること」がパワハラとしているのを踏まえ、特に医師や教員の「業務の適正な範囲」についての認識を聞いたところ、医学部・医学科も附属病院のいずれも7割程度が、「一定程度までの時間外業務は適正」と回答。また1割以上が、「必要なら長時間あるいは連日の時間外業務が適正である」とするなど、業務範囲を適正かどうかで線引きする難しさも浮き彫りになった。

 アンケート結果を取りまとめた同会議の當瀬規嗣・パワハラに関するアドホック委員長(札幌医科大教授)は同日の記者会見で、「夜も昼もなく、診療や研究をするというのが、われわれの中では一般常識的なことになっている。それを若い医師などに、どの程度やってもらえるのかということになってくる。『必要なら長時間あるいは連日の時間外』というのは、受け手によってはパワハラにとらえられる可能性も出てくる」と述べた。

しかし職場におけるパワハラと言う定義をどう解釈すべきなのか微妙なところですけれども、昔ながらの「アホ馬鹿死ね」式の指導と言うものが近年改善されてきているように思えるのはパワハラ解消と言う問題意識を持ったためと言うよりも、研修システムの改変に続いて新卒研修医としていわゆるゆとり世代の大量流入が起こり始めたことの方がより直接的なきっかけであるように感じるのは自分だけでしょうか?
それはともかく、非常に興味深いのは管理職がなるべく安上がりにスタッフをこき使いたいと言う心境は理解出来るとして、当事者である医師らにおいても「一定程度までの時間外業務は適正」と言う意見が多数派を占めていた、そして決して少なくない数が「必要なら長時間あるいは連日の時間外業務が適正」と答えるなど、働かせる側にとっては何ともありがたい調査結果だと言えますよね。
この辺りは昨今話題のブラック企業問題においても「働いている当事者が望んでやっているのだから法令違反だと一律ブラック扱いはどうか」と言う意見が出るところですし、先の”80-hour rule”に関しても制定時に「若いときに限度一杯を経験しておかないでどうするんだ」式のどこかで聞いたような反対意見が続出したとも言い、また薄給激務で昔から有名な研修病院なども今も変わらず人気を博していると言う事実もあるわけです。
「日本人は何でも自己修練の場にしてしまうから」などとワーカホリックを国民性に求めようと言う人もいますけれども、結局のところある程度以上能力の高い人ほど法定労働時間等々の万人向けの規制通りに仕事をしていたのでは物足りないし、自分のキャリアを積み上げるためにももっともっと仕事を沢山したいと考えてしまうのは万国共通のことなのかなと言う気がします。
無論自分の仕事を自分で管理した上でやりたいだけ仕事をするのであればご自由にでしょうし、事実医師は管理職であるから労働時間の法的規制には引っかからないのだと言った主張を大まじめにする人も少なくなかった訳ですが、他方でそれを周囲も当然視するようになってくると冒頭の記事のようにとても労働を管理しているとは言えない、仕事に追われ振り回されている状況になってしまうのでしょう。

この問題の歴史的な変遷も非常に興味深いところがあって、例えば先日大規模な医師ストがあったお隣韓国では、研修医が「我々も低賃金で働く契約労働者だ」と不平不満を訴えると言う日本でも一昔前に見られたような声が上がっているそうですが、これまた当時の日本と同様市民からは「そんなに大変なのか」と言う声と「どうせ将来の高給が約束されているくせに」と言う声が混在しているそうで、まさに一昔前の日本ですよね。
その後日本では一方では医師の業務過多に対する市民の理解が進み様々な社会的配慮が行われるようになった、そして他方では不平不満を言っているだけでは何も変わらないと医師自らが業務過多解消に向けて逃散だ、立ち去り型サポタージュだと言った形で行動に移るようになったわけですが、その結果として従来であれば落ちぶれた医師の行き場と見なされていた療養型などの「ぬるい職場」が見直されてきてもいます。
要するに一口に医師と言っても30万人近くがいて、能力体力から家庭環境や人生の目標など様々なバリエーションがあるものを全て同じ医師と見なして扱うのは、バリバリの臨床医も研究者や医系技官も同じ医師免許所持者としてカウントする厚労省と同じように愚かしいことですし、仕事の方も職場職場で全く違うのですから本来的には適材適所で人材分布が行われれば皆がそれなりに幸せになれていたはずなのです。
ところが医者の世界では「ぬるい職場で働くなど医者として終わっているのも同じ」と言った類の妙な感覚がまかり通っていた、その結果大学医局などは嫌がる医師をなだめたりお願いするなどして「仕事が楽で給料がいい職場に行ってもらう」などと言う世間の常識に反する奇妙な事が行われてきた訳ですが、この医局人事による緩衝機能が破壊された頃からいわゆる医療崩壊と言う現象が言われ出したのは周知の通りですよね。
そしてさらに時を経て崩壊した現場で疲れ果てた医師達もようやく世間並みの常識に目覚め始め、「あれ?楽して儲かるなら割の良い職場じゃね?」と言う声が上がり始めた、そして頻発する医療訴訟のリスク回避と言う意味からも激務の急性期基幹病院から療養型等のぬるい職場に医師の自発的移動が起こってきたのが過去数年の流れだと言えそうです。
その結果急性期の施設では激務がさらに悪化し業務量自体を制約するしかないと言うかつてない考え方がようやく採用され始める一方で、かつては忌避されドロップアウト先としてしか認識されていなかった楽して儲かる職場はほぼ埋まったと言われるのが現状ですが、今後最終的には需給バランスが平衡状態に達し厳しい職場は給料が良く、ゆるい職場はそれなりと言う給与体系に再編されていくことになるのでしょうか。

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コメント

奴隷化した医師は24時間持続点滴しながら診療にあたるべきだなw

投稿: aaa | 2014年3月26日 (水) 08時54分

過度の業務を強いることもパワハラに当たるとは知りませんでした。
これあちこちでひっかかりそうなんですけど大丈夫ですかね?

投稿: ぽん太 | 2014年3月26日 (水) 09時42分

>これあちこちでひっかかりそうなんですけど大丈夫ですかね?

出るとこに出れば全滅でしょうね。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年3月26日 (水) 10時30分

>奴隷化した医師は24時間持続点滴しながら診療にあたるべきだなw
仮にも医師たるもの、胃瘻造設してこそ「医者の不養生」の誹りを免れると愚考します。

投稿: JSJ | 2014年3月26日 (水) 10時40分

本当に胃瘻だとかリザーバーだとか入れた方が楽でいいと言い出しかねない先生がいそうなのが怖いのですが、ともかくそういう勤務状況が本人はもちろん患者にとっても決して良いことではないと言う理解は必要でしょう。
今回のパワハラ問題も意外性の感じられるものではあるのですが、特に下の立場にある先生方にとっては単純な労基法無視などよりも使い勝手のいい業務改善圧力になるんじゃないかと言う気はします。
無論これもセクハラの解消などと同様、まずはそれをやっている側に自分は悪いことをしているんだと言う罪の意識を持っていただく必要があることですけれどもね。

投稿: 管理人nobu | 2014年3月26日 (水) 11時20分

パワハラって規制する法律がありましたっけ?
労働時間違反みたいに明確なルールがあればいいんですけど。

投稿: てんてん | 2014年3月26日 (水) 11時53分

日勤ではさすがにありませんが当直時には点滴した若かりし日…
まあ過労と言うより風邪で体調が悪かったのが主因ですが気恥ずかしかったですな

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年3月26日 (水) 16時55分

神戸の震災の時には、ステロイドの点滴によりほぼ不眠不休で1週間ほど働いていたようですよ。

投稿: てんてこまい | 2014年3月26日 (水) 22時53分

あくまで個人的な意見ですが、
病院勤務医の激務を緩和させるには病院を完全にオープン化して、地域連携開業医も含めて、救急や外来を輪番パートタイム(日勤半日か夜勤)で手伝うようにさせるしかないと思いますが。もちろん地域の病院業務を手伝ったらそれ相応の診療報酬が貰えるようにするとか。結局医者はカネで動かすしかないし、限られた資源(医者)を有効活用するしかない。
激務が多少でも緩和されれば勤務医の逃散も多少抑制できるのではないか?
私が何年も前に集団逃散した病院の地域は医師会の夜間休日診療所もなくて、開業医は5時で終了でしたからね。
逃散して誰もいなくなった後に慌てて時間外診療所作ったようですが、時既に遅しで今は悲惨な状況になってるようでorz

投稿: 逃散前科者 | 2014年3月27日 (木) 11時16分

みんなで平等に仕事を分け合っても「前よりも楽になったんだからもっとできるはずだ」とさらに仕事を押しつけられるだけですよ。
法律無視の職場は逃散逃散でさらに人手不足にして誰も勤務出来なくなるまで徹底的に追い込むべきです。

投稿: トマト人 | 2014年3月27日 (木) 11時37分

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