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2014年2月13日 (木)

徐々に変わりゆく救急搬送のあり方

すでに少し以前から高コストな急性期医療を絞り込み、かわりに慢性期あるいは在宅医療を強化するという話が出ていたことはご存知だと思いますが、先日厚労省からもう少し具体的な話が出てきたようです。

重症向け急性期病床4分の1削減へ 医療費抑制で転換(2014年2月7日朝日新聞)

 症状が重く手厚い看護が必要な入院患者向けのベッド(急性期病床)について、厚生労働省は、全体の4分の1にあたる約9万床を2015年度末までに減らす方針を固めた。高い報酬が払われる急性期病床が増えすぎて医療費の膨張につながったため、抑制方針に転換する。4月の診療報酬改定で報酬の算定要件を厳しくする。

 全国に約36万床ある急性期病床の削減は、診療報酬改定の目玉のひとつ。実際は急性期ではない患者が入院を続けるケースも目立ち、医療費の無駄遣いと指摘されてきた。急性期病床以外での看護師不足も招き、「診療報酬による政策誘導の失敗」といった批判も強まっていた。

 急性期病床を減らすため、厚労省は4月から、入院患者7人当たり看護師1人という手厚い配置をすると病院に支払われる「7対1入院基本料」の算定要件を見直す。

まあしかし、ひと頃は「人の命は地球よりも重い」ともてはやされたはずの急性期病床も今やずいぶんと酷い言われようだなと思うところですが、国民の認識も厚労省あるいは財務省の認識と同じほどに進んでいればよろしいのですけれどもね。
基本的に病院に来るような人は急ぎ医療が必要であるから来るのだと(少なくとも公式には)見なされる立場ですから、とりあえず急性期病床を充実しておけばどんな患者が来てもまあ何とかなるだろうと言う考え方は一見妥当なのですが、実は日本のように三次救急クラスの重症向け施設に直接患者が駆け込んで来て「一週間前から風邪で」と言い出すと言うのは実は世界的に見るとそう一般的なことではありません。
日本と同様に皆保険制度を敷き医療費抑制に実を挙げてきたイギリスの場合、まずは指定されたかかりつけ医を受診し専門医受診の要有りと診断されなければ勝手に病院にかかれないようになっていて、それが嫌なら自費で私的病院に受診すると言うゲートキーパー方式になっていることが知られていますが、同国の医療費抑制政策の是非はともかくこのゲートキーパー機能については近年日本でも注目されているところですよね。
その背景にあるのは救急崩壊と言われるような救急受け入れ困難の事例が全国的に注目を集めるようになっていると言う事情もあるわけですが、全国的に見ると相変わらず救急搬送は増える一方にも関わらず何施設も受け入れを断られるような「たらい回し」のケースは減ってきているということで、消防庁が主導し全国的な搬送のルールを作ってきたことが多少なりとも効果を示しているということなのでしょうか。

ともかくも国策として決まったことは決まったことで、これはこれでなるようになっていくと思いますが、こうした受け入れ施設側の削減に伴い重症患者の受け入れ状況も変化していくと思われますから、現状に即して制定されただろう一部の診療ガイドラインはある程度実地に即した改訂が必要になるかも知れずで、例えば脳梗塞や心筋梗塞などでタイムリミット超えのケースが増えてくるといった場合にどう考えるべきなのかでしょう。
他方では重症者向け病床がこれだけ削減されるということは、とりわけ地方などでは施設の統廃合ということも視野に入れる必要があると思いますが、その場合順調に受け入れが決まったとしても物理的に搬送時間が延びることになる救急隊としては今まで以上に搬送業務以外の領域に手を出すべきなのかどうかと言う点も議論が必要になってきそうです。
この点では今春から救命救急士の業務が拡大され、心肺停止前の輸液や低血糖時のブドウ糖溶液投与などが特定行為として行われるようになる予定なのは将来的な救急搬送長期化に合わせ車内医療の拡大に向けた布石なのか?とも勘ぐってしまうところですが、これまた制度設計が着々と調えられていく中で未だ全く問題無しとはしないようです。

「指導救命士」創設、MC協議会が認定へ- 消防庁作業部会が制度案(2014年2月9日CBニュース)

 総務省消防庁の救急業務に関する検討会の作業部会が、若手の教育などに当た る救急救命士を「指導救命士」として認定する制度案をまとめた。救急医らが加 わる都道府県メディカルコントロール協議会(MC協議会)が、指導救命士を認定 することを明記。また、各地の消防本部の枠を超え、全国的に活躍する場を提供 する必要性も挙げた。この制度案は、検討会の報告書に盛り込まれる見通しで、 早ければ年内にも認定制度が創設されそうだ。【新井哉】

■特定行為の業務拡大、「資格要件」求める声も

 救急救命士の教育体制をめぐっては、医師から具体的な指示を受けて行う「特 定行為」の業務拡大に伴って、専門知識などを習得する研修時間が増加。今年4 月からは、心肺機能停止前の輸液とブドウ糖溶液の投与も特定行為に追加される 見通しで、メディカルコントロールを行う医師らに、搬送患者の緊急性や重症度 などを医学的な視点から伝える必要性から、教育体制の拡充や見直しが求められ ていた。
 ただ、消防本部ごとに教育方法に違いがあったり、指導を担う人員体制に格差 があったりするのが実情で、関係者からは、認定看護師制度のように、「指導的 な立場を担う救急救命士にも、資格要件があれば良い」といった意見が出ていた。
 指導的な立場を担う救急救命士の呼称をめぐっても、さまざまな意見が出てい た。消防関係者を対象に行ったアンケート調査では、「救急スペシャリスト」や 「メディカルオフィサー」といった“横文字”に加え、「事後検証救急技術指導 者」や「統括救急指導員」といった“お役所的”な呼称も寄せられたという。

■優秀な人材、全国的に活躍する場を

 作業部会では、こうした提案を踏まえ、地域での呼び方は自由としながらも、 「報告書や国から示す場合などで、全国統一的な呼称が必要」と判断。委員らで 検討した結果、指導救命士に一本化することを決めた。認定の基本的な考え方に ついても、救急医などの地域の医師が加わる都道府県MC協議会が認定するとし、 人選には「実務的に(下部組織の)地域MC協議会が関与する」とした。
 作業部会は、優秀な人材を全国的に活用する方策も提案。指導救命士が地域MC や消防本部の枠を超え、全国的に活躍する場を提供する必要性にも触れ、「国な どが積極的に関与することが求められる」とした。
 また、一般の救急救命士から指導救命士を目指す際のインセンティブについて は、昇任や昇格、人事評価への加点は、各消防本部の考え方や制度の違いで「全 国一律的に実施することは困難」とする一方、国が胸章や肩章の「標準エンブレ ム」を示すことで、差別化を図ることを求めた。

興味深いのはちょうど特定看護師制度と言うものも昨今議論が続いていて、先日は新たに特定看護師という公的資格を創ることに対しては日医らから根強い反対意見がありまとまらなかったと言う話が出ていたと記憶するのですが、こちらでは指導役の救命救急士に対して実質的に新たな資格を認定するということが特に反対もなくまとまったように見えるのですが、やはり議論の参加者の違いなのでしょうか?(苦笑)
それはともかく実際の教育にあたってどうやってトレーニングを積むかということが非常に大きな課題で、もちろん看護学生が相互に点滴の練習をするなどと言ったように表立っての場ではなくてもトレーニングは出来るでしょうが、資格として認めるということであればやはり公的な場所で認められた研修を積む必要がありますよね。
過去にたびたび歯科医の全身麻酔というものが警察沙汰になっていて、歯科医と言えども口腔外科など全身麻酔を必要とする手術は当然あるのでしょうが、歯科医の場合全身管理のノウハウがないためガイドライン等に従って届け出をした上で医科で麻酔研修を積まなければならないと言う面倒なシステムになっているようで、うっかりこの届け出を怠ると警察のご厄介になってしまうということです。
救命救急士の場合に研修後医の法的な位置づけがどのように用意されているのかは承知しませんけれども、ある程度年期を積んだ看護師でも静脈路確保の際に神経損傷を起こして患者とトラブったと言ったケースがままあることを考えると、研修を受け入れる側の施設担当者も事故の際の責任をどう取ったらいいのかと正直頭が痛いところなのかも知れませんね。

もちろん今の時代個人に責任を負わせるような体制は許容されないのは当然で、何かあれば施設として医賠責保険等で対応するのが当然ですけれども、やはり慣れない行為をやった結果トラブルを起こしてしまったとなると当事者である救命救急士の心的ダメージも相当なもので、「そうまでして危ないことに手を出さなくても…」と考えてしまう人が出るのはむしろ当然かと思います。
その意味で業務負担が増える以上それに対してどう見返りを用意するかという議論が出てくるのは当然なのですが、今回の議論を見る限りではあくまでも公的には名誉的なものだけで各現場の自主的な判断に委ねられているように見えるというのは、今まで何かと全国統一の基準で動いてきたように見える救急隊であるだけにインセンティブの約束をするのがそんなに嫌なのか?とも受け取られかねませんよね。
こと医療の現場に関しては資格よりも実力が優先されるという傾向があって、その意味では能力がある人がどんどん手を広げてやっていくことは全く悪いことではないと思いますが、実力も意欲もある先生ほど難しい患者をどんどん押しつけられ訴訟リスクが高まると言う逆説と同様、努力している人間の方が損をするような制度設計にしていたのではうまくいかないのではないかなと懸念するところです。
そしてまた、救急を受ける側の多くの医師にとっては「そんなことよりもきちんと正しい報告が出来るよう真っ当な医学常識を身につけてくれ」と言いたいところだと言うのも本音でしょうから、ドラマなどでも取り上げられそうな見た目に華々しい道ばかりが本当に社会にとって有用なものであるとは限らず、日々の基本業務こそが最も重要なのだという当たり前の認識も改めて再確認していただきたいですよね。

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コメント

名前だけのなんちゃって救急病院を削減するならまあ判るんですけどね。
でもどうやって削減するかっていうといつもの通り診療報酬で誘導するだけみたいで。
救急の出来る病院が潰れて経営のうまい病院が生き残るってことにならなきゃいいんですが。

投稿: ぽん太 | 2014年2月13日 (木) 08時53分

救急病院経営者の会員も多いから日医は大反対なんだろうなw

投稿: aaa | 2014年2月13日 (木) 09時56分

本音で言えばもちろん医療資源の集約化を目指しているのでしょうが、その前段階としてある程度の経営体力のある病院しか生き残れないようにする腹づもりなのかも知れません。
ただ診療報酬と言えば全国一律ですが医療の事情は地域ごとにバラバラですので、どこを基準に制度を考えるかによって劇的な医療崩壊が発生する地域も出ることでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2014年2月13日 (木) 10時48分

たしかに名前だけの救急指定(大学病院など)しか存在しない地域が少なくない状況で、病院がいくらでもあるとされている首都圏ですら
30〜40km先からの遠方の患者を受け入れている本物の救急病院が存在するというのが現実ですからね。
今以上に急性期ベッドが減らされれば、時間切れで死亡するケースが増えるでしょうし、助かる見込みの少ない高齢者などは搬送先がなくなるのではないかと思います。不必要な救急搬送を淘汰して間接的に自然死を促すという狙いでしょうか?
高齢者の家族に直接クレームを言われる救急隊員の人材不足にならなければいいとは思うのですが。
名前だけで救急受け入れ実績のない救急指定病院は指定取り消しでいいと思います。その多くは大学病院だと思いますが。

投稿: 逃散前科者 | 2014年2月13日 (木) 14時36分

聞くところでは療養からの看取りは救急で受けないとか、いろいろと運用改善?も画策しているようですな
ただそれをどうやって実現するかというと、けっきょくは現場の判断に一任されそうな悪寒がw

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年2月13日 (木) 14時58分

自民党医療利権議員の橋本岳とかいうキチガイがまたファビョってるな

規制緩和絶対反対のゴロツキ利権屋。

安倍が下痢したのは天罰。

投稿: 民主党員 | 2014年2月13日 (木) 15時27分

自民党工作員のブログ主はNHK経営委員(安倍軍団)のテロ称賛発言をスルー。

NHKの極右偏向(経営委員が政治活動やテロ活動)のほうがリベラルメディアより悪質。

なぜNHKの偏向を批判しないのか?

あと3時間以内にNHK批判記事を書かないならテロリストで自民党工作員で利権貴族バカ医師と認定する。

もう開業医を禁止するしかない

こんなに開業医がウハウハなのは日本だけ

自民党の票田で金田になってる保険料ドロボーの開業医制度を廃止しましょう

ついでに強制保険制度も廃止(国民の選択の自由を奪うのは人権侵害 皆保険は社会主義思想 共和党もそう言ってる)

投稿: 民主党員 | 2014年2月13日 (木) 22時42分

他人のブログに湧いて出ないで、自分のブログ作って思う存分書けばいいのに

投稿: | 2014年2月14日 (金) 13時55分

kitty guyに構っちゃだめw

投稿: | 2014年2月14日 (金) 14時53分

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