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2014年2月14日 (金)

根拠のない主張も説得力がありませんが

ネタとしては少し古い話になりますけれども、地域医療に長年取り組んでいる名郷直樹先生のコラムで先日こういう興味深い逸話が紹介されていました。

捏造論文利用するワクチン反対派(2014年2月11日産経新聞)

 今回は、ワクチンにまつわる論文が捏造(ねつぞう)された話を紹介したいと思います。

 ワクチンについての捏造論文は1998年、医学雑誌『ランセット』に発表されました。この雑誌は、論文捏造で問題になっている高血圧薬「ディオバン」の論文が掲載されたのと同じ雑誌ですが、医学の世界では権威のある雑誌とみなされています。
 発表された論文は「麻疹、風疹、おたふくの3種混合ワクチンによって自閉症が引き起こされる」というものでした。12人の自閉症患者を調査したところ、8人がこの3種混合ワクチンを受けているという結果から導き出した結論でした。
 この論文の影響は世界に大きな影響を与えました。論文発表前、90%を超えていたイギリスのワクチン接種率が、発表後は60%にまで低下したと報告されています。
 その後、この論文は捏造であったことが明らかとなり、2010年には撤回されました。著者のウェイクフィールドは医師免許を剥奪(はくだつ)されています。

 この結果がでたらめであることは別の研究でも明らかです。02年に医学雑誌『ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』に掲載された論文で、ワクチン接種者44万人と非接種者9万人以上を比較したところ、自閉症の発症率はむしろワクチン接種者で低く、統計学的な差がないことが示されています。数十万人規模で比較対照を持つ研究と、12人で比較対照を持たない研究のどちらが信用に足るかは論じるまでもないでしょう。
 そもそも、たった12人の自閉症のうち8人が3種混合ワクチンを接種したというだけで比較対照も示されていない論文が、なぜ権威のある医学雑誌に掲載されたのでしょう。当時のワクチン接種率が90%を超えていることを考えれば、ワクチンを受けている人の割合が低いくらいです。一見するだけで取るに足らない論文ということが分かります。
 しかし、この捏造論文はいまだにワクチン反対グループによって繰り返し取り上げられ、一定の影響を持ち続けています。「ワクチンに含まれる水銀が自閉症を引き起こす」とのデマもこの論文から始まっており、このデマを信じてワクチンに対して不安を抱く人がいるのはとても残念なことです。
 「ワクチンで自閉症になる」という論文は、医師免許を剥奪された著者による捏造論文だということを改めて明確に指摘しておきたいと思います。(武蔵国分寺公園クリニック院長・名郷直樹)

冷静に考えれば、この議論はもう終わっている(フィラデルフィア小児病院感染症研究部主任ポール・オフィット)」というこのワクチンと自閉症との関係については、ちょいと検索しただけであちらこちらで言及されているくらいで未だにそれが事実であるかのように語られている場合も多いようですが、ワクチンのリスクと利益に関して迷いのある方はこうした記事も参照にされてみてはどうかと思います。
無論ワクチンもなんでもかんでも打てばいいというものではなく、経済性も含めた不利益に対して予想される利益が少ないと言ったものも多々あるのは事実ですから、例えば幾ら致死的な重篤疾患だとは言え過去半世紀も発生がなく清浄地域とされる日本で全国民に狂犬病ワクチンを打てというのもやり過ぎでしょうが、逆に若年女性に対する風疹ワクチンなど明らかに推奨されるものもあるわけです。
とかく科学の世界もソース原理主義的なところがありますが、かつて紹介したようにホメオパシー医学教会が自説の根拠だと主張していた論文が原典に当たってみると実は全く真逆の内容であったり、数々の優秀な科学者がホメオパシーを認めていると言うその科学者氏達が単なる他の代替医療の信奉者であったりと、ソースロンダリング的な事も日常的に行われているというのは悲しくもあり、評価するに注意を要するところです。
逆に言えばびっくりするような内容であってもひとたび根拠となるものが確立されてしまうと後々まで影響が残り大変なことになりかねないと言うことはあって、こういう現象は純然たる自然科学よりもJBM(司法判断に基づく医療)等々のような社会科学の絡んだ領域に多い印象を受けるのですけれども、その意味で先日何とも興味深い判決が出たと言うニュースを紹介してみましょう。

M・ジャクソンのファンら、元専属医から慰謝料 1人140円(2014年2月12日AFP)

【2月12日 AFP】仏中部オルレアン(Orleans)の裁判所は11日、世界的な人気歌手の故マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)さんの死によって「精神的損害」を受けたとするファン5人の訴えを認め、ジャクソンさんに対する過失致死罪で有罪判決を受け服役した元専属医のコンラッド・マーレー(Conrad Murray)氏に、被害が認められた原告1人につき1ユーロ(約140円)の慰謝料の支払いを命じた

 裁判を起こしていたのは、オルレアン近郊に拠点を置く「マイケル・ジャクソン・コミュニティー」という団体。マイケルさんの死で苦痛を被ったとする原告34人が、麻酔薬の過剰投与によりジャクソンさんを死亡させた罪で有罪となり、2011年に収監され、4年の刑期を2年に短縮されて昨年10月に出所したマーレー氏を訴えていた。同裁判所は、原告団のうちフランス人2人、スイス人2人、ベルギー人1人の計5人が精神的苦痛を受けたことが証明されたという判断を示した。

 原告団の弁護士はAFPに対し、「私の知る限り、ポップスターに関連した精神的損害という概念が認められたのは今回が世界で初めてだ」と話した。また同弁護士によると、損害は象徴的なものであり、原告らはマーレー氏に実際に慰謝料1ユーロずつの支払いを求めるつもりはないとしている。その代わりに、裁判所によって「被害者」と認定されたことで、米ロサンゼルス(Los Angeles)にある一般非公開のジャクソンさんの墓への参拝が許可されることを望んでいるという。

しかし当事者にほとんど縁もゆかりもない人達が精神的苦痛を受けて損害賠償を云々ということは決して珍しい話ではないとは言え、それが認められてしまったと言うのはまさか賠償金額が少額だったからと言うわけでもないのだと思いますが、ほぼ無関係な赤の他人からの賠償請求でも認められるというのは少なからず意外な印象を受けるところで、色々と応用技も考えられるところですよね。
何かとスキャンダラスだったというマイケルジャクソン氏の晩年については各方面で今も話題になるところですが、当時から色々と言われていたように同氏の専属医師を務めていたマーレー氏が薬物過剰投与の過失で刑事罰を受けたと言う点で、公的にジャクソン氏の死について責任ある立場であると認められた形であると言うことなのでしょうか。
先年の福島原発事故に関連しても、提供された放射能情報が嘘ばかりだったと「トモダチ作戦」に関わった米兵ら100人以上が巨額の賠償金を求めて東電を訴えたと言う報道がありましたが、単にファンであったと言うだけの赤の他人が賠償を認められたと言うことになれば当事者そのものである米兵の方がよほど賠償を認められてしかるべきということになりかねません(もちろん、実際の司法判断は国毎に別々ではありますが)。
フランス国内でどういう法体系になっているのかは存じ上げませんけれども、今後同国内でも「○○によって精神的苦痛を受けた!謝罪と賠償を(以下略」と言った裁判が続出するということになるようであれば、このわずか1ユーロの判決が大きな社会的影響をもたらしたと評価されるようになるのでしょうか。

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コメント

仮に自閉症と関連が薄くてもワクチンの副作用被害が否定されたわけじゃないですので

投稿: | 2014年2月14日 (金) 09時25分

親族身内ならともかくファンだったと言うだけで慰謝料を認められると言うのもどうかと…
この判決に現地じゃどういう評価がされてるのか知りたいですね。

投稿: ぽん太 | 2014年2月14日 (金) 09時50分

医療過誤、医療関連(主に薬害)にて本人と家族が精神的苦痛を受けたといって担当医(処方医)と製薬会社を訴えるというケースが続出して、裁判でことごとく敗訴すれば面白いですね。薬漬けメンタルクリニックがことごとく潰れるかもしれません。

投稿: 逃散前科者 | 2014年2月14日 (金) 10時45分

もちろん日本でただちに同種判決が出る可能性は低いのでしょうが、こうした司法判断が一般化すれば国内外問わず社会的に大きな混乱が起きそうな気がするだけに気になります。

投稿: 管理人nobu | 2014年2月14日 (金) 12時00分

もう世の中なんでもダメモトで訴えた者勝ち

★万引きで懲戒免職など処分、元県職員取り消し求め提訴

万引きをして懲戒免職と退職金不支給の処分を受けたのは不当として、元県職員の男性(59)が
12日、県を相手取り、二つの処分の取り消しを求める訴訟を長崎地裁に起こした。

男性は2012年11月10日、長崎市内のスーパーで食料品を万引きし、13年1月に窃盗罪で
長崎簡裁から罰金20万円の略式命令を受けた。男性は10年にも万引きで停職4か月などの
処分を受けており、県は12年11月19日付で懲戒免職と退職金の全額不支給処分を決めた。

訴状では、男性は犯行以前から職場での人間関係などからアルコール依存症やうつ病などに
かかっており、10年の窃盗事件後、県が十分な原因調査を行わず、男性の精神不調にも対処
しないなど、安全配慮義務を怠ったと指摘。「自らの安全配慮義務違反を顧みず、本件の
『上っ面』だけを問題視した」「長年の勤続の功績を抹消し、退職後の生活保障を全て
奪い去るに値するとは言えない」としている。

県人事課は「訴状を見ていないので現段階ではコメントできない」としている。

投稿: | 2014年2月14日 (金) 12時09分

一方、加害者東電は賠償どころか国から2兆円貰ったw

公害はやった者勝ち、加害者になると金貰えるぞ!


(製薬企業は薬害に備えてpmdaに金払わされているので薬害は全額補償。水俣とかカネミは国が代わりに賠償して企業救済。東電も。どう見ても自民党による製薬企業への差別ですねwwwwwwww)

投稿: 民主党員 | 2014年2月14日 (金) 15時22分

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