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2014年2月 4日 (火)

習慣性を伴う嗜好品の経済的損得勘定

喫煙という行為に関しては年々世間の風当たりが強くなる一方ですが、先日アメリカの厚労省から喫煙の及ぼす経済的悪影響に関して中々に驚くべき数字が発表されたのをご存知でしょうか。

米厚生省が発表喫煙で損失30兆円(2014年1月31日リアルライブ)

 喫煙に関連する疾患を巡り、米国では年間約50万人が死亡、約1600万人が健康を損ね、それにより毎年3000億ドル(約30兆円)近い経済損失が生じているという報告書を、1月17日に米厚生省が発表した。

 喫煙による健康被害はよく知られている。しかし報告書は、肺がんだけではなく、糖尿病や肝臓がん、大腸がん、関節リウマチ、目の加齢黄斑変性、男性機能不全の原因にもなるとも指摘している。
 山梨大医学部名誉教授の田村康二氏が言う。
 「確かに、タバコの害は皆さんが考えているほど甘くはありません。現在、すべての疾患の8%が、喫煙が原因になっているといわれています。同様に飲酒をしている人にも同様のことが起きているんです」

 加えて米厚生省は、吸わない人も受動喫煙で脳卒中になる恐れがあるとしている。さらに、1965年に43%だった米国人の喫煙率は18%に低下したが、新たな喫煙者が毎年生まれている状況に変わりはないと警鐘を鳴らし、若者をターゲットにした、たばこ業界の売り込み姿勢を徹底的に批判している。
 「ハワイなどのマーケットに行くと、タバコはレジの後ろの鉄棚の中に入っている。しかも、鉄柵には錠がついています。販売は禁止されていませんが、多くの場所で喫煙が禁じられているのです。一方、日本は分煙は進みましたが、税収確保のため国は積極的に動かない。そもそも、かつては禁煙運動の先頭に立たなければならない医師の55%が喫煙していたぐらいですから、意識は低くて当然の話です」(同)

 消費増税を機に止めるか…そう悩んでいる人は、今回の報告が背中を押してくれるかもしれない。

ちなみに蛇足ながら、現在の医師の喫煙率は一般国民平均の1/3ほど(オトコ2%、女3%)であり、とりわけ呼吸器科医師の喫煙率は最も低いという調査結果が出ているということも書いておかなければフェアではないのでしょうね。
さて、おおむねこうした数字は大きめのものを出してくるものだと思うのですが、仮に試算の1/10だとしても決して小さなものではないと言えるでしょうし、少なくともこうした叩き台となる数字が出てしまった以上は今まで以上に禁煙の推進が個人レベルの健康増進のみならず、国の財政的にも求められるということになりそうですよね。
管理人個人としては公共の場でのマナーを守り、周囲に迷惑をかけない範囲であれば自己責任で好きにしたらいいのではないかと考えるのですが、慢性の呼吸器疾患で見るからに息も絶え絶え、担当医からは絶対的な禁煙厳守を言われている患者がそれでも病室から抜け出して煙草を吸っている、なんて光景は決して珍しいことではなく、煙草というものの習慣性の強さを思い知らされたという先生方も少なくないと思います。
ただそうした悪影響もあくまで個人の範疇に留まっているのであればまだ良いのですが、いわゆる受動喫煙の問題を別にしても喫煙者と言えども何かしら健康を損ねた場合は当然治療を受けるわけですから医療費支出がかかる、それも年間何兆円単位で余計にかかると言うのでは社会的影響としても無視出来ないものがありますから、日本においても分煙ではなく禁煙を推し進めるべきだという声が大きくなるかも知れません。
日本の場合国民皆保険制度でどんな基礎疾患やリスクがあろうが保険料も医療給付も変わりませんが、先年麻生氏が主張したように「頑張って健康を維持しようと努めてきた人間にそれなりのメリットがないのはおかしい」という考え方は以前から相応に広く共有されていて、特に医療財政上の問題から保険料が上がったり給付が制約されたりと言うことにでもなれば民間保険同様、リスクによる階層化も議論に上がって来そうです。

それはさておき、ここで改めて注目いただきたいのが個人レベルの嗜好に関わる問題をどうこうするにあたって一つにはもちろん周囲の迷惑だ、公共マナーだと言った数字に表しにくい評価軸も一つの推進力になるわけですが、国家レベルでより強力な政策的推進を行うにあたってはやはり財政的な面からその影響を評価していった方が説得力がありそうだと言う点ではないでしょうか。
記事にもあるように日本において公的な禁煙の推進が今ひとつだと言われるのも、今のところ喫煙による医療費高騰等々の支出増よりも煙草販売による少なくない税金収入の方が国に取ってはありがたみがあると考えられているからだとも言え、明らかに前者のデメリットが後者のメリットを上回ると立証されれば少なくとも財務省などは問題をいつまでも放置するとも思えません。
逆に言えば一見して有害なように見えても金銭的メリットの方が大きいと考えられることであればそれが敢えて推進される場合もあり得るということなんですが、先日これまたアメリカから興味深い試算の結果が出ていたことを紹介してみましょう。

ハーバード大“大麻合法化の経済効果は87億ドル” 規制や裁判の費用も節約(2014年1月23日NewSphere)

 コロラド州は全米で初めて個人使用目的の麻薬売買を合法化した。2014年1月1日から、21歳以上の成人は、医者の処方箋なしで、大麻を合法的に購入できるようになった。他の州においても麻薬を合法化する動きが広がっている。その原因を探ってみた。

【大麻合法化は財政危機を救う?】

 アメリカの新聞モーニング・コール紙によると、コロラド州において、21歳以上の住民は大麻を一度に1オンス購入できる。一般的に、大麻の値段は8分の1オンスにつき30ドルである。コロラド州は大麻に29%の税を課している。
 1月1日、個人使用目的の大麻の販売が開始され、販売額は100万ドル以上に上った。一週間で販売額は500万ドルに達した、とアメリカのサイトであるデイリー・ネブラスカンは報道している。大麻の合法化により、コロラド州には今年7,000万ドルの税収があるだろう、と州税務課は予想している。その内、4,000万ドルは教育に使われ、残りは大麻規制に当てられる予定である。
 大麻の合法化により、税収が増加するだけでなく、麻薬規制の施行や裁判にかかる費用も節約できる。コロラド州の司法局によると、2012年と2013年、大麻を12オンス以上所持したとして起訴された犯罪者数は73%減少した。大麻の公共消費罪の起訴数は17%減少した。
 ハーバード大学の調査によると、大麻の合法化は国家全体で87億ドルの財政節約になる。75万件近い大麻関係の逮捕者もゼロ近くまで減少すると同調査は予想している、とMSNのサイトは報道している。
 国家および州の財政が圧迫されている中、税収増加の道を探る他州も大麻の合法化に踏み切るであろう。しかし、大麻は健康に有害であると懸念されてきた。大麻の危険性に関する賛否両論はいかに?

【大麻は飲酒より危険性が低い?】

 オバマ大統領は、「大麻は悪徳で、時間を無駄にし、かつ健康にとって大変有害であるが、飲酒以上の危険はない」と述べた。オバマ大統領の発言は「ニューヨーカー」誌に1月27日に掲載予定である、とUSAトゥデイは報道した。
 オバマ大統領に発言に対し、「とても危険である」とニューヨーク市の医療関係者は反論した。大麻が飲酒より安全である理由としてよく挙げられるのは、大麻を吸ってすぐに死ぬことはない。しかし、過剰な飲酒で死ぬことはある、というものだ。同医療関係者は、タバコを吸ってすぐに死ぬことはないからといって、タバコの危険性が薄まる訳ではないと指摘した。
 デイリー・ネブラスカンによると、ハワイ州でも大麻の合法化の動きがある。日本人にとって観光のメッカと言える場所で今後大麻の個人使用が認められたら、「大麻観光」が広がる可能性がある。海外で大麻を使用しただけなら、帰国後も罪に問われることはない。しかし、日本国内では、大麻は法で厳しく制限されている。わずかでも大麻を持ち帰るなら、即逮捕である。

記事にもあるオバマ大統領の先日のコメントはそれなりに議論を呼んだものでしたが、諸外国では長年にわたる使用経験から大麻使用者の行動については「陶酔行動は危険なものではなく、ユーモラスなもの」と捉えられており、しかも大麻は安価で多くは自家栽培されることから取引を巡って犯罪の誘因となり得ず、要するに自傷他害の恐れがない社会的に無害なものであると認識されてきたという経緯があります。
一方で近年の研究では従来言われていた無害な(と言うのも妙ですが)副作用に代わって「精神異常の急激な進行や加速、重大な神経不安症など精神に深刻な影響を及ぼ」すことが判ってきていて、特に「青少年期に大麻を使用し始めた人に現れる確率が高い」ことが明らかになってきたと言いますが、ここでの試算はそうした近年の研究成果で知られた医療経済面でのデメリットを過少評価している可能性もありますでしょうか。
ただいずれにしても日本人的感覚からすると麻薬の類を認めることで社会経済的な利益が出るというのは極めて意外に思えるのですが、確かに危険性がさほど深刻ではなく経済的リスクも大きくないものに対して多額のコストと手間暇を使って規制を行うことは効率的ではなさそうだとは言え、むしろかつての禁酒法のように禁止による社会的リスク増大の方が高くつくと言う可能性も出てくるということなのでしょうね。

ともかくアメリカではこの薬物使用の合法化ということが大きなビジネスチャンスと捉えられているようで、先年はマイクロソフトの元役員がマリファナ販売会社を立ち上げて大儲けを狙っている、なんて記事が出ていましたが、将来的に大麻産業は400億ドル市場に成長する余地があるとも言い、過去には禁酒法廃止によって酒造会社が一気に世界的大企業に成長したという学ぶべき歴史もある以上「二匹目の泥鰌」を狙いたくもなるでしょう。
副次的な効果としては今まで禁止薬物である以上こうした薬物使用歴を公にする人間は限られていて、正しい統計的データが得られていなかった可能性が高いと思われますけれども、合法化によって誰もが薬物使用歴を気兼ねなく正確に申告できるようになれば、今まではっきりしなかった有害事象についても正しい評価が出来るようになるのではないかと思います。
その結果実は思った以上に有害性があり医療費支出の増加にもつながりかねないと言うことになれば損得勘定の前提条件も揺らぐことになりかねませんが、その頃には煙草と同様社会的にも完全に大麻使用の習慣が根付いてしまっているとすれば、必要性は指摘されながら禁煙政策が遅々として進まないのと同様の現象がまた改めて繰り返されることになるかも知れないですよね。

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コメント

薬物濫用に伴う生産性の低下をどう評価するかで違ってくる気がします。
昼間っからラリってる人間が増えても売り上げでもうかったからいいんだと言い張るんでしょうか。

投稿: ぽん太 | 2014年2月 4日 (火) 08時42分

頑張って健康を維持した結果、健康なまま認知症になるのもなあと思う

投稿: | 2014年2月 4日 (火) 09時13分

酒飲みの迷惑ぶりはぜったい過少評価されてる
職場の飲み会強制なんて法規制していいレベル

投稿: 鎌鼬 | 2014年2月 4日 (火) 09時16分

煙草は吸った事ないんですが大麻はあります。
*合法な外国でですよ!ううう嘘じゃないぞっ!!!!111

…見事になんともなかったんですがもしかして騙されたのかな?

>昼間っからラリってる人間が増えても…

昼間から酔っ払ってる以下ry

>酒飲みの迷惑ぶりはぜったい過少評価されてる

酒がおkなのは単に歴史が長いからだと思う…。あと禁酒法w

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年2月 4日 (火) 09時45分

個人的にはこの種の嗜好品にはいずれも手を出さないので、周囲が迷惑を被らない範囲であれば自己責任でマナーに注意しつつご利用くださいと言うことなのですが、結局は社会生活への影響がどうかでしょう。
依存度の高まりによって日常生活にも障害をもたらすようであれば医学的有害性とはまた別に社会的には問題となり得ると言う点では、ネトゲにはまり込んで引きこもると言ったケースと似たようなものかと言う気がします。
親の遺産なりで特に生活に不自由がないのであれば個人の自由という考え方もあるだろうし、社会全体がそうなると困るという考え方もあるでしょうが、歴史的に考えると社会が困るほど大勢がハマる可能性は低そうです。
むしろヲタク全盛の時代ですから、何にしろハマった人はハマった人で有効活用して生産性のある道を探る研究が進むことを期待したいところですかね。

投稿: 管理人nobu | 2014年2月 4日 (火) 11時54分

バカな日本人観光客が成田で大勢パクられるようになるんだろw

投稿: aaa | 2014年2月 4日 (火) 13時43分

酒の害が「過剰な飲酒で死ぬことはある」ことだけってことはないでしょう。
急性毒性も慢性毒性もあるし、事故や傷害事件の原因にもなってることは
明らかだと思います。

一方、不思議に思うことは大麻って煙を吸うのが普通ですよね。
タールが含まれてるんだから発癌性だってあるだろうし、COPDの
原因にもなりそうに思うんですけどどうなんでしょうか。

投稿: 嫌われクン | 2014年2月 4日 (火) 17時15分

10代後半で600キロ超まで太ってしまった男性、国王から治療を命じられ減量を成功
http://www.cnn.co.jp/world/35043407.html
10代でここまで太ってしまうって、医学的に原因はあるんでしょうか
国王命令で治療ってなぜそんなことに、と思うけど

投稿: | 2014年2月 4日 (火) 18時11分

飲酒の危険性かくのごとしだよ
これでも酒飲んでたからって心神喪失で無罪放免なのか?

友人の子どもを熱湯の風呂に落として死亡させたとして、愛知県警稲沢署などは3日、
同県稲沢市祖父江町島本堤外、トラック運転手、森和徳容疑者(42)を傷害致死容疑で逮捕した。

 容疑は、2012年12月9日午後6時ごろ、自宅浴室で、遊びに来ていた友人の会社員、
椿肇さん(57)=同県一宮市=の長男で小学4年の健(たける)君(当時10歳)を90度以上の湯の中に落とし、
全身やけどで死亡させたとしている。容疑を認めているという。

 同署によると、森容疑者は風呂を沸かした際、健君に「風呂を沸かすスイッチを止めて」と依頼したが、
健君が忘れたため、湯は90度以上になっていたという。森容疑者は当時、酒に酔った状態だったといい、
「冗談半分で浴槽の上で健君を抱きかかえたら、落としてしまった」と話しているという。

 椿さん親子は森容疑者の家に十数回遊びに行っており、森容疑者と健君は仲が良かったという。
【渡辺隆文、三上剛輝】

毎日新聞 2月3日(月)22時6分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140203-00000118-mai-soci

投稿: | 2014年2月 4日 (火) 19時47分

自主的にラリって事件を起こした場合は心神喪失による免責を認めるべきじゃないと思うけどね
交通事故だって酒飲んでたら余計に厳罰になるのにバランスが取れない

投稿: イソリン | 2014年2月 5日 (水) 07時25分

>交通事故だって酒飲んでたら余計に厳罰になるのにバランスが取れない

酒を飲んだ時点で運転は不可なので二重の過失という論理はまあわかりますな

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年2月 5日 (水) 15時28分

> 福岡市で車が暴走して15人が重軽傷を負った事故で、警察が危険運転傷害容疑での
> 立件を視野に捜査していることが分かりました。
>
> 4日深夜、福岡市天神の繁華街で、普通乗用車が信号停車中の車などに次々とぶつかりながら
> 交差点に進入し、15人が重軽傷を負いました。車を運転していた36歳の男性は、
> 事故直後、警察官に「脱法ハーブを吸った」と話していたということです。
>
> *+*+ tv asahi +*+*

ラリって車振り回したら重罪だがラリって包丁振り回したら無罪?

投稿: | 2014年2月 6日 (木) 08時22分

眠くなる風邪薬を飲んで、車を運転して事故ったら、二重の過失になってるんでしょうか?

投稿: | 2014年2月 6日 (木) 09時29分

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