« アメリカにおいて尊厳死を巡ってにわかに激論 | トップページ | 全国に先駆けて栃木で大規模な病床再編開始 »

2014年1月30日 (木)

自転車事故賠償も自動車事故並みの時代に

自転車に関する話題と言えば昨年末に例の通行区分帯の統一が行われたばかりで、これによって自転車も左側通行という「車輛並み」の扱いを受けるようになったわけですが、実際の道路を見ていますとまだ徹底されているようには見えないところで、やはり他の動力の付いた車輛に比べて免許取得など教育のルール(あるいは罰則も、ですが)に欠けていることも一因ではないかという気がします。
とは言え交通事故に占める自転車事故の割合は増加傾向で今や2割を占めるといい、特に自転車対歩行者の事故が急増していると言う点から考えると、今や自転車は被害者側ではなく加害者の側と認識され始めているということが言えるかと思います。
その象徴的な事例として記憶に新しいのが昨夏に小学生の自転車が高齢者に突っ込んで意識不明の重症を負わせた事故に対し親に9500万円という高額賠償が命じられた判決ですが、近年ではこの事故に限らずあちらこちらで「自動車並み」の高額賠償判決が続出するようになってきていることが注目されています。

自転車死亡事故に賠償命令4700万円 原告「車並み判決」評価(2014年1月28日産経新聞)

 東京都大田区の横断歩道を歩行中、赤信号を無視したスポーツタイプの自転車にはねられ死亡した主婦、東令子さん=当時(75)=の遺族が自転車の男性(46)に約1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は28日、約4700万円の支払いを命じた。

 原告側は「自転車による被害は軽く見られがちだが、自動車と同様の扱いをしてくれた」と判決を評価した。自転車の人身事故では昨年7月、神戸地裁が加害者側に約9500万円の支払いを命じている

 事故は2010年1月に発生した。判決などによると、東さんは時速15~20キロの自転車にはねられて転倒し頭を強打、5日後に死亡した。男性は重過失致死罪で在宅起訴され禁錮2年、執行猶予3年が確定した。


自転車死亡事故:4746万円賠償命令…東京地裁(2014年01月28日毎日新聞)

 信号無視の自転車に衝突されて死亡した東京都内の女性(当時75歳)の遺族が、自転車に乗っていた会社員の男性(46)に1億636万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は28日、4746万円の支払いを命じた。三木素子裁判長は「男性は脇見をして前方を注視していなかった。青信号で横断歩道を渡っていた被害者に何ら落ち度がない」と述べ、高額の賠償責任を認めた

 訴えていたのは、亡くなった東(あずま)令子さんの夫(83)と長男光宏さん(43)。
 判決などによると、事故は2010年1月10日、東京都大田区の交差点で発生。横断歩道を渡っていた東さんに、競技用自転車に乗った男性が赤信号を無視して時速15〜20キロで衝突。東さんは転倒して頭を強く打ち、5日後に死亡した。三木裁判長は事故と死亡の因果関係を認定し、「男性は自転車を運転する際の基本的な注意義務を怠った」と指摘した。
 この事故で東京地検は10年8月、男性を重過失致死罪で在宅起訴。禁錮2年、執行猶予3年の有罪判決が確定した。

 判決後、光宏さんは東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見し「被害が悲惨なことは自動車事故と変わりなく、悔しい思いが理解してもらえた」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。代理人の正田光孝弁護士は「自動車事故と同様の賠償額を算定してくれた」と評価した。
 自転車事故には刑法の自動車運転過失致死傷罪が適用されず、男性はより刑の軽い重過失致死罪で起訴された。光宏さんは「命が軽く扱われるのはつらかった」と振り返り、「乗り方を間違えれば、自転車も凶器になることを知ってほしい」と訴えた。【川名壮志】

 ◇相次ぐ高額賠償、車と同様の責任

 自転車で歩行者を死傷させた人に高額な賠償を命じる判決は各地で相次いでいる特に歩行者が歩道や路側帯など「保護される場所」にいた場合は自転車側の責任を100%としたり、歩行者側に過失があっても軽くしたりする判断が目立つ
 神戸地裁は昨年7月、自転車で坂道を下っていて路肩寄りを歩いていた女性とぶつかり意識不明となるけがをさせた小学5年男児(当時)の母親に、損保会社の支払い分も含め9520万円の賠償を命じた。判決は、女性にも前方不注意があったとする母親側の主張を退け「母親の指導や注意が不十分」と指摘した。
 自転車は手軽な乗り物だが、歩行者を死傷させれば、裁判所は車と同様の賠償責任を認める傾向にある。【北村和巳】

刑事でも有罪と言うことであまり同情の余地がない状況とは言え、注目いただきたいのは加害者責任という点では自転車も自動車同様という判断をしている点で、それがこれまた自動車並みの損害賠償額にも現れていると思いますが、問題は自転車ユーザーがこうした危険性を予知できるほど交通法規に習熟しているのかという点、そしてこうした巨額の賠償金額を自転車ユーザーが誰しも払えるものなのかと言う点かと思います。
「母親の指導や注意が不十分」とされ責任を認定した先の小学生事故の親に対する損害賠償請求においてもそうですが、今回の事故においても「男性は自転車を運転する際の基本的な注意義務を怠った」と断じられているというのは道路を運行する以上自転車乗りには交通ルールなど相応の知識を備えて注意を払う義務があるということですが、実際にそうした教育機会がどれほどあるかと言えば大いに疑問ですよね。
無論のこと現代法治国家においては「そういう決まりがあるとは知らなかった」は刑罰免除の対象にはなりませんから「知らない方が悪い」でFAなのですが、小児に対しても容赦なく高額賠償が命じられ始めたという現実を見るにつけ一つにはユーザーに対する教育の徹底、そして当然ながら事故が起こると言う前提での対応というものが必要になってきます。
乗り物としての危険性は自分の身に及ぶ危険性と他人に及ぼす危険性の両面から考えるべきだとすれば自転車は「ぶつかれば自分にも相手にも重大なダメージを及ぼす可能性がある」という非常に損な乗り物とも言え、この上日本では高額賠償金リスクも加わるとなればリスクとメリットとがトレードオフになりがちな現代社会においては今後やや使いづらい乗り物になってしまうかも知れませんね。

賠償金支払い能力についてはようやく保険業界でもこの自転車事故リスクというものを再認識しつつあるようですし、自転車業界の側でも先日は上限1億円の保険付き自転車を売り出すというニュースが出たようですが、最も加入率が高いと思われる車体整備保証も兼ねた上限2000万の保険がつくTSですら利用者わずか2%レベルと言いますから、遠からず自転車「無保険車」の賠償金未払いが社会問題化しかねませんよね。
自動車事故の場合は損害賠償額が非常にシステマチックに決まっていて、しばしば恣意的とも言われる医療訴訟の損害賠償と対比して語られることも多いのですが、減ってきたとは言え年間数千人の死者が出るほど「身近にありふれた」ものでいつ誰が加害者になるか判らないという恐さがあり、そしてそれが故に法的な強制もあり誰もが保険に入っているということが「取れるところから取る」民事訴訟では大きな意味を持ってきます。
ちなみに面白いと思ったのは自動車大国アメリカでも近年エコ意識の滲透からか都市部を中心に自転車利用が増えているというのですが、当然ながら環境的にも人々の認識的にも自転車対応になどなっていないこともあり事故が頻発している、ところが例えば車と自転車がぶつかっても警官も「自転車が悪かったんだろう」とろくに調べないし、陪審員も「私もいつぶつかるか判らない」と車の側の肩を持つ傾向があるということです。
危ない乗り物に乗るのだから自己責任だと言う国民性も反映している考え方なのかも知れませんが、道路も狭く利用者も多いことからアメリカ以上に自転車事故が起きやすいと思われる日本では今まで「自転車=交通弱者」と言う扱いで来た、しかし今後はそうとは限らないと言う点ではアメリカ同様に自転車側の意識改革が必要になりそうですね。

いささか脱線しましたが、自動車事故の場合誰もが保険に入っていて取りっぱぐれがないと言う点で(万一保険がなくても)一定の支払い能力のある医療訴訟などと同様、遠慮なく「被害者救済」的な金額を出しやすいということですけれども、医療訴訟の場合は金銭的な問題よりも医療崩壊という社会現象に結びつくこと(すなわち、社会的デメリット)が明らかになってきた頃から、判決もひと頃と比べてかなり渋くなってきた印象があります。
自転車の場合はまださほど多くの判例が蓄積されていないとは言え、今後高額賠償による何らかの社会的デメリットが明らかになってきた時点でやはり司法の側からリアクションが出るのかどうかですが、自転車を少しでも安全に使わせるために道路環境などを整備するコストを考えると、車やガソリンを買うと言った直接的経済効果の薄い自転車利用に手間暇に見合った社会的見返りが期待出来るかどうかです。
利用者の側から見ても最も利便性を享受しているだろう子供自身はともかく親にとっては様々なリスクばかりが目立つようになってきた、そして親自身にとっては「メタボ解消にいい」だとか「地球環境にやさしい」と言ったやや即物性に乏しいメリットしかないとなると意外とコスパは悪いのか?とも思わされるところで、今後の自転車普及にどのような影響があるのかと言う点からも注目すべき状況かも知れませんね。

|

« アメリカにおいて尊厳死を巡ってにわかに激論 | トップページ | 全国に先駆けて栃木で大規模な病床再編開始 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

子供の事故で一億近い賠償金を予想してる親はそんなにいないですよね。
こういう日常生活の低リスクの事故に対する安価で包括的な保険ってないものですかね?
家族まとめて月数千円なら念のためかけておこうかって思う人もいそうに思いますけど。

投稿: ぽん太 | 2014年1月30日 (木) 09時13分

新たな当たり屋事件多発の悪寒w

投稿: aaa | 2014年1月30日 (木) 10時36分

自転車乗りですけど、保険は自動車保険の特約に入れています。自動車同様、対人無制限です。
自転車乗る人は、大人ならたいてい自動車の保険に入っているでしょうから、ついでに入っておくことを勧めます。

それからコンビニでも自転車保険は扱っており、簡単に保険に入れますね。

投稿: 検査医 | 2014年1月30日 (木) 10時44分

当家でも家族単位の自転車保険に加入していますが、今後は子供のいる家庭では次第に必須になっていくんじゃないかと思います。
被害回避だけでなく加害者責任回避という観点からも、学童以下の年代層への本格的な交通教育が求められる時代になってきたということでしょうか。

投稿: 管理人nobu | 2014年1月30日 (木) 12時32分

ムチャクチャな乗り方してるガキはホント腹立つわ
警察もどんどん取り締まったらいいんだよ

投稿: | 2014年1月30日 (木) 16時57分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/59030980

この記事へのトラックバック一覧です: 自転車事故賠償も自動車事故並みの時代に:

« アメリカにおいて尊厳死を巡ってにわかに激論 | トップページ | 全国に先駆けて栃木で大規模な病床再編開始 »