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2014年1月 8日 (水)

社会と医学の関わり方 最近の生殖医療の話題に絡めて

生涯未婚率が年々上昇し、今や男性の5人の1人が一生結婚することなく終わる時代だと言いますが、結婚しないというケースと結婚できないというケースが混在しているということがいささか対策を難しくしているようにも思いますね。
当然ながら男ばかりが未婚で終わるというものでもなく女性も同様な状況にあるわけですが、こちらはどちらかと言うと結婚できない比率が高いということなのでしょうか、最近では未婚女性を対象に「将来に備えて」の卵子凍結保存というものが注目されつつあるのはすでにお伝えした通りです。
基本的に産婦人科学会などは卵子凍結保存は医療ではないというスタンスであるようですが、実際のところこうした生殖医療に関しては単に医学的と言うに留まらない社会的側面が絡んでくるものであって、先頃ガイドラインを発表した生殖医学会も医学的適応と社会的適応に分けてこれを示しています。
この社会的適応という部分がなかなか難しいもので、要するに単純に科学的知見に基づくものではなく各人の主観が入る余地も大きくなるだけに、とりわけ利用者側の強い要望でどこまでガイドラインからの逸脱が許容されるかということも問われるわけですが、実際のインフォームドコンセントの様子を日経メディカルの記事から引用してみましょう。

動き出した未婚女性の卵子凍結保存(2013年12月24日日経メディカル)より抜粋

(略)
 生殖工学の研究開発や卵子凍結事業を手がけるリプロサポートメディカルリサーチセンター(東京都新宿区)は、以前から医学的適用の卵子凍結を主に行っていたが、13年5月に社会的適用の卵子凍結も行うようになった。
 同センターでは、卵子凍結に興味を持つ女性を集めた少人数制のセミナーを開催。その後、利用希望者には個別にカウンセリングを実施して、最終的に利用するかどうか判断してもらっている。

 13年12月某日に開かれたセミナーには、20代後半から30代後半の女性約10人が集まった。セミナーでは、同センター附属リプロセルフバンク所長で生殖工学博士の香川則子氏が、卵子凍結保存を「高齢不妊予防医療」として紹介。自然妊娠だけでなく、体外受精の成功率も年齢とともに低下することを説明した(図1)。さらに、卵子の「老化」により、染色体異常発生率や流産率が上昇することなどを解説した。
 一方で、採卵に伴うリスクや合併症の発生頻度、卵子を凍結しても高齢出産自体のリスクはなくならないことなどにも言及し、卵子を凍結すれば全てが解決するわけではない点も強調(表2)。セミナーは1時間半にも及んだ。
 「社会的適用の卵子凍結を推奨しているわけではない。卵子の老化や高齢出産に関する正しい情報を理解した上で、それでも今は卵子を凍結しておきたい、という女性に限って実施している」と同センター代表の桑山正成氏は語る。卵子凍結のセミナー受講後、カウンセリングを受けるのは3~4割程度で、カウンセリングまで進んだ人の多くは凍結保存の利用を決めるという。
(略)
50歳を過ぎても諦めきれず…

 メリットやリスクの他、インフォームド・コンセントの際の重要な説明事項となるのが、凍結卵子の保管や破棄に関するルールだ。諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町)では、02年から11年まで、社会的適用の卵凍結を実施していたが、今は医学的適用の卵子凍結のみ受け付けている。実施をやめた理由の1つが、保管責任の問題だ。
「一施設で卵子保管を行う場合、保管責任に関するトラブルが起こりかねない」と語る諏訪マタニティークリニックの根津八紘氏。
 同クリニック院長の根津八紘氏は、「災害や営業停止などで施設が存続できなくなるリスクのほか、保管期間が過ぎた場合に諦められない女性が多いという問題がある」と話す。根津氏は当時、50歳までという保管上限年齢を定め、利用者からも事前に廃棄に関する同意を得ていた(13年1月より保管上限年齢を46歳未満に変更)。しかし現実には、50歳を過ぎても保管の継続を望む利用者が多く、対応が難しかったケースもあったという。
 この問題は、医学的適用による凍結保存でも生じ得るが、「社会的適用で卵子凍結を希望する女性は、自分の身体や体外受精に関する理解が高くないケースが多かったため、しっかりとした説明がなされなければ、より問題が起こりやすいのではないか」と懸念する。
 それだけに、より細かな説明によって医療行為への認識を持たせる必要があると同時に、破棄の手続きを詳細に定めるなどトラブル回避の手段を講じておくことは欠かせない。根津氏は、「民間医療機関が単独でリスクを負うことを避ける手段として、日本血液製剤機構のような公的な性格を持つ機関が保管する仕組みを考えていく必要があるのではないか」と提案する。
(略)

何しろ昨今では著名人による超高齢出産のニュースも珍しくないだけに、保管期間が50歳までと言われても「お金を出すから保管してください!」と言いたくなる心理も判りますけれども、やはり医学的には妊娠確率は下がる一方であるのに対してリスクは増え続けるわけですから、正直こうした難しいお産を扱う産科医の側からすれば「いい加減にしてくれ」と言いたくなる限度と言うものもあるのかも知れません。
社会的適応のガイドラインを見ても判る通り、医学的知見をバックグラウンドにしているとは言え基本的に合意に基づく契約行為ですから双方の同意がなければ話が進まないのですが、説明をいくらしても納得いただけない場合に契約の文面に基づいて機械的に推し進めるべきなのかどうか、そもそもそうしたトラブルが予想されるケースでは最初から契約を結ばないということも10年単位の期間が絡むことでは難しいのでしょう。
最終的には高齢者に対する積極的医療はどこまで行われるべきかという問題と同様に、社会の側がどこまで高齢妊娠への挑戦に許容的になれるかという「世論」が利用者の個人的感覚を掣肘していくことになるのだと思いますが、原則個人の主観的判断に依存してきた生殖医療の行方を社会の側が左右するものとしてもう一つ興味深い話が出ていましたのであわせて紹介してみましょう。

体外受精、事実婚カップルに拡大…日産婦方針(2014年1月6日読売新聞)

 不妊治療で広く行われる体外受精について、産婦人科医らで作る日本産科婦人科学会(日産婦)は、「結婚した夫婦に限る」としていた条件を外し、対象を事実婚カップルに広げる方針を固めた

 昨年12月の民法改正で、結婚していない男女間に生まれた子(婚外子)に対する法律上の差別が撤廃されたことが理由だ。国も不妊治療の公費助成の対象を事実婚カップルに拡大することを検討する。

 対象拡大は、すでに日産婦理事会での了承を得ており、6月の総会で決定する。

 日産婦は、体外受精や受精卵の母胎への移植について「会告」の形で医師が守る自主ルールを策定。体外受精を結婚した夫婦に限定した規定は、国内で初の体外受精児が生まれた1983年に定めた。民法は、婚外子の遺産相続分について、結婚した夫婦の子どもである嫡出子の半分と規定していたため、生まれてくる婚外子の不利益に配慮した。

 しかし最高裁は昨年9月、家族形態の多様化や国民の意識の変化などを踏まえ、民法の規定を違憲と判断。これを受け、婚外子への遺産相続分を嫡出子と平等にする改正民法が、同年12月に国会で成立し、体外受精の対象を区別する必要性がなくなった

記事のグラフにもあるように近年この体外受精によって産まれた児も急増し今や年間3万人を超えると言いますから、この少子化の時代にあって決して例外的少数派とは言えなくなってきているわけですが、それが先日これまた大きな話題になった婚外子問題とこうした形で絡んでくるとは正直予想していませんでした。
ただ法的に明確な基準のある夫婦関係と異なって、事実婚とは当事者同士がそうと主張すれば客観的に事実婚状態なのかどうかを検証することはなかなかに難しいでしょうから、例えば最初から結婚する意志を持たないシングルマザー希望者であるとか、あるいは同性婚を希望する方々にとっては言葉は悪いですが何らかの偽装に基づいてそれを行うということも行いやすくはなってくるでしょうね。
医療が社会的背景によって変化を強いられるのも何かと面倒な問題を生むものですし、医療の進歩によって社会的背景そのものが変わっていくことも興味深い現象で、あの手この手を駆使して超高齢出産に成功した!なんてニュースがこれほど世間を賑わせることがなければ、そもそも凍結卵氏を50歳まで保存しようなんて発想自体が出てこなかったかも知れません。
久しく以前から「いずれどこかの誰かが”私はクローン人間です”と告白して社会に爆弾を投下することになるぞ」と噂されていますけれども、案外クローン人間なども許容すべきかどうかと言う話は冷静な科学的・倫理的な議論の積み重ねではなく、「クローン人間だからと言って差別してはいけない」という既成事実化や判例の積み重ねによってあっさり決まってしまうんじゃないかと、そんなことも考えてしまいますね。

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コメント

そこまでして産みたいですか 人間の欲望と生命倫理の狭間で
http://astand.asahi.com/webshinsho/asahipub/aera/product/2013102900001.html?ref=recd

投稿: | 2014年1月 8日 (水) 08時35分

体外受精の制限が民法に基づいていたとは知りませんでした。
考えてみたら生殖医療って人間一人新しくつくり出すようなもんですから大変なことですよね。
でも一番の当事者であるはずの子供の意志が置き去りにされてないかが気になります。

投稿: ぽん太 | 2014年1月 8日 (水) 09時05分

>クローン人間だからと言って差別してはいけない

…差別、つーか好きに使っちゃいけない(臓器移植用とかw)のならそもそもイランのでわ…?

>でも一番の当事者であるはずの子供の意志が置き去りにされてないかが気になります。

そんなもん通常の生殖でも置き去りだからして問題なしw<子供は親を選べない的な意味で

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年1月 8日 (水) 09時27分

>そこまでして産みたいですか 人間の欲望と生命倫理の狭間で

思うに他人事とは言え人間一人の運命を同じ人間が左右できる機会というのはそうそうないことで、生殖医療の流行にはいわゆるDQNもといキラキラネームが流行るのと同様の心理が働いているのかも知れずですね。
生物学的発生学的にある状態に至るまでは人間ではないと言う考え方が社会的コンセンサスになっている以上、未だ人ならざるものに対して他者の思惑によって決定されてしまうのはやむを得ざるところかと思います。
と同時にひとたび人と認められればきちんと権利が保護されるべきと言うのも現在主流的な考え方ですが、こうした状況で大人になったクローン人間が突然カミングアウトしたらどうなるかと興味がそそられますね。

投稿: 管理人nobu | 2014年1月 8日 (水) 10時14分

遺伝学的親子かどうかって、現在の家族を破壊してもDNA鑑定で白黒つけたくなるぐらい重要なのかなー
若い卵子に、自分のDNAを移植する方法とかないんですかね

投稿: | 2014年1月 8日 (水) 18時03分

先に縁切り願望があるのでは?

投稿: たま | 2014年1月 8日 (水) 18時21分

DNA鑑定で遺伝学的に無関係になったら、親子関係を完全に消滅させることができるんですかね?

投稿: | 2014年1月 9日 (木) 13時37分

親子関係不存在の裁判をおこし、判決で認められれば親子ではなくなります。この場合、法律は原状復帰が原則ですから、養育などにかかった費用を本来の親から、親であることを否定された親に損害賠償として支払う形になるのでしょう。

投稿: おちゃ | 2014年1月 9日 (木) 14時12分

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