« 今日のぐり:「冨士屋」 | トップページ | 季節性に高まるあのリスク »

2014年1月 6日 (月)

開業医の夜間休日診療への動員開始

次回の診療報酬改定で実質マイナスとなることが確定的とされる中で医療現場への影響が様々に懸念されていますけれども、別にプラス改定であったから状況が好転するわけでもないというニュースが先日出ていました。

産科・小児科医の当直増加、報酬改定効果薄く(2014年1月4日読売新聞)

 産科医、小児科医などの1か月の平均当直回数が増加していることが、厚生労働省の調査で分かった。

 医師全体ではほぼ横ばいだった。政府は2012年度の診療報酬改定の際、勤務医の負担軽減策に1200億円を充てたが、十分に効果が出ているとは言えない状況であることを受け、2月までに新たな改善策を検討する考えだ。

 厚労省は12年度改定の結果を検証するため、13年8~10月、全国の病院1500か所を対象に調査した。このうち、456施設が回答した。

 11年に行った前回調査と比べると、常勤医1人あたりの月平均当直回数は、対象となった9診療科のうち、産婦人科・産科で3・10回(前回2・98回)、小児科で3・03回(同2・98回)など6診療科で増えた。救急科は4・08回(同4・43回)に減少したが、最も多かった。9科全体では、1・91回(同1・92回)だった。2日連続で当直に入った月平均回数は、産婦人科・産科で0・44回と最も多く、前回の0・34回を上回った

色々と解釈の余地がある記事だとは思うのですが、記事の論調として「診療報酬改定にあたって付けられた予算では十分に効果がなかった」という論調で、例えば日医などではこうした文脈を広汎に用いて診療報酬引き上げを主張していることは言うまでもありませんよね。
ただ当直回数というものは当直医を要する施設数とそれぞれに必要な当直医数、そしてそれらに勤務する医師数によって決まるものであって、たとえ1200億が1兆円であったところでこれらのパラメーターが劇的に変化するというものでもないでしょうから、もともとの考え方そのものを変えた方がいいように思います。
例えば小児科領域で言えば近年の少子化を受けて本来であれば仕事は減っていくはずなんですが、実際には各地の自治体が競うように住民受けの良い小児医療費無料化(実際には医療で言うところの小児科の範疇からは外れた領域まで助成していたりもするようですが)を推し進めた結果、どうでもいいような症状なのに夜間だろうが休日だろうが好き勝手に受診する患児(と言うよりも、親)が確実に増えたと言います。
このあたりは親、政治家そして現場医師それぞれにおいて複数の立場が対立している問題でもありますが、少なくとも近年話題になっているコンビニ受診と同様に親の都合で敢えて夜間休日に不要不急の受診をさせると言った行動を多少なりとも抑制すべく、定額負担等の対策を取るべきだという意見は根強いものがありますよね。

結局のところは当直医の存在を法的に義務づけられているのが病院に限られるわけですから、根本的な対策は医療に対する需要を抑制するか、あるいは施設数の削減あるいは医師数(少なくとも病院勤務医師数)の増加等で供給体制を改善するかの二つだと思いますけれども、需要抑制に関しては選挙民の方を向いた政治家は元より、(特に当直義務を負わない方々を中心に)一部医療側からも反対論があるようです。
医療費を削らなければ国が保たないと言うほど医療費支出が増大の一途を保っているのですから、誰が考えても真っ先に需要を削減する策を講じるのが一番効率的だろうと言う話ですが、近年の社会保障は増税とセットで語られるサービスの維持・向上と言う文脈が決まり文句になっている以上、今更サービス悪化を推し進める方向に行くことはないだろうとは想像できますよね。
となるといかにして病院勤務医の当直業務負担を軽くするかという方法論が当面議論されるべきテーマですけれども、先日その一つの方策としてこんなニュースが出ていました。

島根松江の休日診療室、始動 総合病院の負担軽減狙う(2013年12月29日朝日新聞)

松江市の休日の初期救急の新たな受け皿となる「休日救急診療室」の診療が29日、松江記念病院(上乃木3丁目)で始まった。

休日救急診療室は、軽症患者の受診が多い市内の総合病院の負担を減らす目的で開設された。市医師会が実施主体となり、事前に登録した医師会所属の開業医約60人と看護師8人を交代で派遣する。人件費などは市が負担する。
この日は午前、午後の7時間で計40人が受診。午前中に吐き気の症状で受診した20代の女性は「すぐに診てもらえて助かった」と話した。

市医師会の森本紀彦会長は「総合病院や勤務している医師の忙しさを少しでも和らげるため、休日診療室をうまく使ってもらいたい」と話している。
休日救急診療室(0852・27・8111)は、中学生以上が対象で、日曜・祝日と年末年始(29日~1月3日)の午前9時~正午と午後1時~5時に開設している。
必要に応じてCT検査やMRI検査も受けられる。

松江市医師会が休日救急診療室、29日から(2013年12月25日読売新聞)

 軽症患者が救急外来を訪れる「コンビニ受診」を減らし、医師らの負担を軽減しようと、松江市医師会(森本紀彦会長)は29日から、同市上乃木の松江記念病院内に「休日救急診療室」を開設する。

 日曜と祝日、年末年始(12月29日~1月3日)に当面は医師、看護師各1人が対応する。

 松江保健所の呼びかけで、医師会と市民病院、松江記念病院、松江赤十字病院、松江生協病院、玉造厚生年金病院、国立病院機構・松江医療センターが協議。コンビニ受診が深刻な課題だという認識を持ち、運営方法などを話し合ってきた

 診療所には記念病院1階の診察室を充て、午前9時~正午と午後1~5時、中学生以上を対象に内科診療を行う。医師は当番制で、年間約3700人の利用を想定。診療所が入院や、より高度な医療が必要と判断すれば各病院で対応する。

 この日、市や各病院と協定書を交わした森本会長は「各機関が連携し、『オール松江』で取り組みたい」と語った。(石田仁史)

医師会が始めたということであれば中々に意味深な業務だなと思っていたのですが、さすがに保健所の呼びかけで始まったことであるようですね。
それはともかく非常に興味深いのはこの話、新年でも新年度でもなく一般的な医療機関が年末年始の休業に入る12月29日から診療を開始したということで、もちろん元々が休日診療を担当する施設ですから一年で最も長い休日を担当するのは理にかなった行為ではあるのですけれども、普通はまず日曜診療あたりから始めて慣れてから連休にと考えたくなるのが人情というものですよね。
以前なら一部開業医などは年末年始など長い休みの前になると近隣病院に患者を送りつけて自分達は海外逃亡、などということもやっていたくらいですから、当然ながらせっかくの正月休みにこんな仕事に駆り出されるのがうれしいとは思えませんけれども、それが必要になるほど地域医療が逼迫しているという現状認識と同時に、それに応じるほど開業医の認識が変わってきた理由がどこにあるのかです。
このところの診療報酬改定と言えば勤務医の多忙からくる逃散だ、医療崩壊だという現象が注目される中でそれらへの財政的な手当が優先されてきた、一方で開業医は楽して儲けているというメディアの報道も背景にあってか開業医に対する報酬はどんどん切り詰められ医療費増加のつじつまを合わせてきたと言え、要するに開業医は昔ほど楽して儲かるものではなくなったとは言われています。
もちろん長年地域に地盤を持ってきた先代の後を継いで継承開業するといった場合は別でしょうが、今や新規開業はよほど軽装で始めなければ借金返済もままならなくなると脅しがかけられているように、何も考えずに開業しても金が貯まって貯まってどうしようもないと言った時代ではなくなってきていると言いますし、国民世論的にもそんな状況は許容されなくなったということですよね。

開業医が開業医で様々な仕事もあって勤務医とはまた別な意味で多忙だと言う意見もありますけれども、やはり一般論として当直もあり重症患者をより多く抱えている勤務医の方が休みも取れない状況に陥りやすいだろうし、そうした勤務医の方により多く報いるよう診療報酬体系を改めていくべきだと言う考え方は理解出来るものです。
厚労省としてもかねて医療リソースの集約化を悲願としているわけですから、開業医を締め付けて逃散先を塞ぐことには表向きはともかく反対する立場にはないと思いますが、その結果全国的に見ると経営が行き詰まり閉院と勤務医への逆戻りに追い込まれる、あるいは自施設での診療と平行して休日夜間などの当直アルバイトで運転資金を稼がなければならなくなっている開業医が出てきていると言うことです。
要するに勤務医からすれば休日夜間の当直負担が軽くなり、国としても余計な財政支出や医師数増加よりも確実な医師確保策として見込める、そして当の開業医自身にとっても地元で確実なアルバイト先が出来ると、一見すると誰もがハッピーな結果に終わるなかなか良いやり方だと言う気がしてきますよね。
もちろん開業した先生方はそうした勤務医的な勤務体系が嫌で逃散した方々も一定数含まれているでしょうから、いくら地元医師会から募集をかけられても断固として拒否するという方もいるでしょうが、それならそれで自分の才覚裁量で稼ぐか、あるいは楽をした分だけ手にするものも減るという当たり前の夜の摂理に従うだけと言うことになるでしょう。
将来的に開業という営業形態が今以上に割に合わなくなると、こういう形でアルバイトに励む(と言うより、励まざるを得ない)開業医が増えるのかも知れませんけれども、少なくとも厚労省はそうした状況はウェルカムでしょうし、国民や勤務医にしても喜びこそすれ邪魔には思わないでしょうから、要するに開業医に対する報酬はまだまだ切り詰める余地が出来たと言う裏付けとなり得るこれは新事業の始動だと言えそうですよね。

|

« 今日のぐり:「冨士屋」 | トップページ | 季節性に高まるあのリスク »

心と体」カテゴリの記事

コメント

当直回数より仕事量が気になるかな。
寝当直なら回数多くてもそんなに負担じゃないし。

投稿: GENGO | 2014年1月 6日 (月) 08時25分

当直が増えたのは内科が妊婦小児を見なくなったことも大きいんじゃないかと。
あれだけ訴訟連発されちゃ危ない橋をわざわざ渡りたくはないですから。

投稿: ぽん太 | 2014年1月 6日 (月) 09時03分

寝当直の方が当直料が高かったりするというのは、やはり世間一般の常識からするとどうなのかですが、需要と供給のバランスと考えると今後は急性期で当直料が高くなっていくのかも知れませんね。
今回の記事を見ていて本来医師会は開業医側の窓口として病院側とこうした仕事の割り振りについて話し合うべきじゃないかと感じたのですが、個々の会員にとっては「勝手に仕事引き受けるな」なのかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2014年1月 6日 (月) 10時01分

ほどなく辞退者が相次ぎ運営に支障を来す悪寒w

投稿: aaa | 2014年1月 6日 (月) 10時47分

>>当直が増えたのは内科が妊婦小児を見なくなったことも大きいんじゃないかと。

やはり、割り箸とか心筋炎訴訟あたりから自分の専門外はなるべく診ないようになったのではないでしょうか。

投稿: 浪速の勤務医 | 2014年1月 6日 (月) 12時00分

>やはり一般論として当直もあり重症患者をより多く抱えている勤務医の方が休みも取れない状況に陥りやすいだろうし

本来なら一人しかいない場合が多くて代替えが効かない開業医より複数でフォローし合える勤務医のが休みは取れる筈なんですがねえ…、と王者に相応しく年末年始をニュージーランドで優雅に過ごしたオレ様が利いた風な口を叩いてみるてすつ。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年1月 6日 (月) 14時56分

そのあたりの運用で改善できるところをいつまでも放置しているのが病院&勤務医側の課題でしょうな
本来だったら勤務医の方から何とかしろと病院に詰め寄っていてもいいくらいなのだが

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年1月 6日 (月) 16時13分

たくさん働いたほうが収入が多くあるべきだというのは、理想論と言いますか、社会主義的考え方(能力に応じて働き、労働に応じて受け取る)という考え方ですね。
ところが、資本主義社会では資本を提供しリスクを取ったものが多くの収入を得るというのが現実です。開業医と勤務医の違いは、忙しさではなく、リスクの取り方なんです。

「いやいや、地雷を踏む可能性は勤務医のほうが高い」というのはその通りですが、地雷を踏んだ後のダメージは開業医のほうが大きいですよ。借金を背負って倒産なんて可能性もありますからね。勤務医も借金を背負う可能性はゼロではないでしょうが、開業医よりかなり低いのが現実です。ですから、地雷に関しても開業医のほうがリスクは大きいのです。

その上で、社会主義的収入配分であるべきだと考えるなら、リスクを多くとっても収入は同じということになりますから、特殊事情がある人間以外、開業医なんてバカな選択しなくなります。そういう社会(医療の社会主義・共産主義化)を目指すなら、それも良しですけど。

投稿: hhh | 2014年1月 6日 (月) 18時50分

厚労省はまさにそれを目指してそう

投稿: | 2014年1月 6日 (月) 19時27分

いつでも勤務医に戻れる開業医に何のリスクがあるんだよw
一家離散したり首つった開業医なんざ聞いたことねえw

投稿: ケン | 2014年1月 6日 (月) 19時47分

>一家離散したり首つった開業医なんざ聞いたことねえw

貴殿がご存知ないだけかと。
http://search.yahoo.co.jp/search?ei=UTF-8&fr=neciec6&p=%E9%96%8B%E6%A5%AD%E5%8C%BB%E3%80%80%E8%87%AA%E6%AE%BA

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年1月 7日 (火) 09時44分

研修医や若い医師にいつも忠告すること

「そんな症例はみたことありませんね」という表現で、相手を否定するな。それは単にお前が経験が乏しいことの告白であって、存在しないと否定したい時のマイルドな表現ではない。なので、そう言っているのは、自分で自分のことをアホと言っているのと同義だ。

そんなことを言っていいのは、何万症例みた超ベテランだけで、超ベテランはありもしないと思えることが実際起こるのを知っているから、そんな間抜けなことは発言しない

投稿: おちゃ | 2014年1月 7日 (火) 22時23分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/58889123

この記事へのトラックバック一覧です: 開業医の夜間休日診療への動員開始:

« 今日のぐり:「冨士屋」 | トップページ | 季節性に高まるあのリスク »