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2014年1月 7日 (火)

季節性に高まるあのリスク

毎年この時期になると風物詩のようにと言うべきでしょうか、あの「とんでもなく危険な食品」の話題が出てくる季節になりました。

餅を詰まらせ…三が日で19人搬送 東京(2014年1月4日日テレニュース24)

 正月の三が日で、東京都内で19人が餅をのどに詰まらせて病院に搬送されていたことがわかった。一時、心肺停止になった人もいたということで、東京消防庁が注意を呼びかけている。

 東京消防庁によると、元日から3日までの3日間で、東京都内で餅をのどに詰まらせて、19歳から94歳までの19人が病院に搬送されたという。このうち17人が60歳以上で、中には、餅をのどに詰まらせて意識を失い、一時的に心肺停止になった女性もいたという。

 東京消防庁は、餅を食べる際は小さく切ってゆっくりとかむなど、注意を呼びかけている。

正月 餅は小さく切って食べて(2013年12月31日NHK)

毎年、正月三が日に餅をのどに詰まらせて病院に運ばれる人が相次ぐことから、東京消防庁は餅を小さく切って食べたり、もし詰まらせた場合は背中をたたいて吐き出させたりするよう呼びかけています。

東京消防庁によりますと、平成21年からことしまでの5年間の正月三が日に、都内で餅をのどに詰まらせて病院に運ばれた人は131人に上り、このうち12人が死亡しています。
ことしの元旦には、品川区の68歳の男性が自宅で雑煮を食べた際、餅をのどに詰まらせて搬送先の病院で死亡するなど、高齢者が搬送された人の93%を占めていて、東京消防庁は特に注意が必要だとしています。
具体的には餅は小さく切ってよくかんで食べ、もし、のどに詰まらせた場合は意識があるかどうかを周りの人が確かめたうえで、反応があれば、あごを支えてうつむかせ、背中を強くたたいて吐き出させるなどの対応をとるようホームページなどで呼びかけています。東京消防庁は「今回の年末年始は休日も長く、餅を食べる機会が増えることも考えられるので十分、注意して欲しい」と話しています。

一部には本邦最強の合法的老人安楽死装置などと嫌なことを言う人もあるようですけれども、記事に見られるように若年者であっても決して油断できないという側面がありますからくれぐれも用心いただきたいと思いますね。
ところで最近ではこの餅というものが海外でも少しずつ知られるようになっていて、基本的に欧米人はこの種のgummyな食べ物は苦手だと言いますけれどもアジア圏では餅文化がある地域も多いですし、餅つきという行為そのものへの伝統文化的な側面からの着目であるとかアニメや漫画で登場する食べ物に対する素朴な興味といった面から一度食べて見たいという声もあるようです。
一方で毎年この時期にこうした報道が続くことからも、餅とはとんでもなく危険な食べ物であるという認識も知られるようになってきたようですが、このあたりは実際のコメントを見る限りふぐに対する「何も好きこのんでそんな危ないものを食べなくても…」という認識と幾らか似通った側面もあるように思います。

“本当に危険なの?” お餅の窒息事故報道に対する海外の反応(2014年1月5日NewSphere)

 新年に日本全国で食べられる伝統食「お餅」。お雑煮やおしるこに入れるもよし、シンプルに砂糖醤油を付けて食べるもよし――様々な食べ方で愛されているお餅だが、毎年高齢者を中心に、のどに詰まらせる窒息事故が多発することは周知の事実である。2013年12月30日、英ガーディアン紙は、日本におけるお餅による窒息事故の現状と、その予防策となり得る「安全なお餅」が開発されたことを報じた。

【お餅の窒息事故には、テクノロジーで対抗?】
 ガーディアン紙は『日本、テクノロジーで餅による死の落とし穴に対抗』と題した記事にて、餅による窒息事故を減らすべく、高齢者が安心して食べることができる歯切れのいい餅が開発された、と報じた。開発者は、大阪に本社を置く株式会社ふくなおのメディカルフーズ事業部。同社によれば、この商品には、餅本来の弾力を保ちつつも、粘着性を弱める酵素が含まれているそうだ。同社は試食モニターなどを通じ、消費者からの好感触を得ているという。

 記事ではほかにも、日本の餅関連のデータを紹介。2011年には、餅をのどに詰まらせ全国で8人が死亡し、18人が病院へ搬送された。また、2010年に実施された、内閣府の食品安全委員会による食品健康影響評価によれば、餅は窒息事故頻度が最も高い食べ物であり、餅の窒息事故の被害者の80%以上が高齢者である、とのデータも引用。日本人の餅の年間平均消費量の約1キロで、そのほとんどが1月の第1週に消費されるとも報じており、窒息事故が新年に集中する現状を裏付けしている。

 同記事へのコメント欄は、お餅が好きだという声や、お餅の食べにくさに共感する声が多数集まった。しかし中には、“これって、イギリスメディアに典型的な誇大報道なの?それとも本当にお餅って危険なの?”と報道の真偽を疑問視する声も見られた。

 また、“単純に、ちょっとずつ食べればいいんじゃない、って思いついた人はいないの?”との発言には、“きっと餅を食べたことがないんだろうけど、ちょっとずつかじるのに適した食べ物とは言いがたいんだよ”と、日本通と思われる他のユーザーがいさめる場面もみられた。

【“雪見だいふく”ヒットを機に、海外にも浸透】
 日本の伝統的な食べ物であるお餅は、北米を始めとする海外でも浸透してきている。アメリカ合衆国のハワイ、サクラメント、リヴィンストン等多数の地域で餅つきイベントが日系人を中心に毎年行われており、日本の伝統行事として餅つきが受け継がれている。ロッテ「雪見だいふく」の類似品が現地メーカーより販売され、これらの商品がヒットしたこともある。一般的に「モチ・アイスクリーム」と呼ばれるこれらの商品のおかけで、日本の「お餅」は日系人以外にも広く認知される食べものとなったようだ。

餅という食品の危険性に関して言えば、もちろん咀嚼や嚥下の能力が劣っている高齢者にとっては危ないのは確かで、小さく切っておくだとかよく噛んで唾液と混合する、あるいはそもそも一人で食べないといったことが言われていますけれども、そもそも危険であることが判りきっている食品を食べさせることがどこまで許容されるのかと言うことが近年たびたび議論されるようになりました。
その一因として数年前にこんにゃくゼリーを間違った食べ方をした結果死亡事故が相次いだ際に「こんな危険な食べ物は規制しなければならない!」と強く主張する方々が一部にいらっしゃったと言うことが挙げられますが、その当時に当「ぐり研」でも紹介しましたように危険かどうかで言えば餅の方がはるかに危険な食べ物であるという客観データは出ているわけですね。
「餅は正月に消費が集中するのでそのように見えるだけでは」「もともと消費量が多いのだから単純に事故件数だけで比較出来ない」という声もありますが、そうした母数の差を勘案した食品安全委員会の検証においても餅の危険性はこんにゃくゼリーを始めとする他の食品を圧して圧倒的に高い(逆にこんにゃくゼリーの危険率はパンなどと同レベルで高くない)と言うことが示されています。
では何故そんな危険な餅が未だに野放しで放置されているかと言えば、まさに「餅は危険な食べ物だと社会的に認知されている」からであって、餅で死んだらあきらめがつくがこんにゃくゼリーだとあきらめきれないという世の認識の問題だと言えそうですよね。

ただ餅の危険性に対する別な考え方もあって、現実的に餅で亡くなる方というのはせいぜい年間数人~十数人のレベルである一方で、アメリカでは食中毒による死者(罹患者、ではなく)が年間5000人にも上るというびっくりするようなCDCの統計もあって、せいぜい数人程度に収まっている日本からすれば統計手法の差を考慮しても「アメリカ人は何故こんな危険な状況を野放しにしているんだ」という話になりかねません。
他方で中国ではいわゆる毒食品問題がたびたび大騒ぎになっていて、富裕層は国産食材には手を出さなくなったなどと言う話もあるくらいですが、そうした場合にこれは危ない、あれは危ないと個別規制することにさほどの意味があるのかで、トータルで見ての食品安全性ということに対する管理が必要になるはずです。
逆に言えば他食品に比較しての特定食品に対する相対的危険性の評価というのは判りやすいしもちろん重要ではありますけれども、絶対的なリスクとしておおむね許容できる範囲内であれば「でもあの食品と比べれば危険だよね?」と言うのも重箱の隅突きと言うもので、せいぜい年間数人程度の限定的なリスクであれば自己責任の範疇ではないか?という意見は、特に餅のような伝統的食品については根強いものがあります。

もともと新年のこの時期と言えばインフルエンザだ、ノロウイルスだと各種の感染症も盛んになる時期で、それらの蔓延によって数人レベルでは済まないお年寄りが犠牲になっているだろうと考えると、「死んでもいいから正月の餅だけは食べさせてくれ」と懇願するお爺ちゃんから無理矢理餅を取り上げるというのもどうなのか、それは許容されるリスクに入らないかと言う考え方は当然にあってもいいはずですよね。
もちろん目の前で餅をのどに詰めて身内が死んでいく場面を見せつけられることになる家族の側にとってはトラウマものの体験ではあって、むしろ餅規制論の本質は死んでいく当事者よりもそれを目の前で見せつけられる家族の側の忌避感という側面もあるわけですから、餅を食べるかどうかは自己責任というだけでは問題の半分しか議論していないということになります。
そう考えると案外スタッフや機材等を揃え管理された環境下での餅提供サービスなんてものにも一定の需要はあるのかなと思ったりもするのですが、やはり商業的なネックとしては国中が休みである1月1日に最も需要が集中するという点にあるのでしょうかね。

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コメント

私の勤務する病院では給食で餅とパンを一年を通して提供しないことにしております。
それまでたびたび発生していた院内での窒息事故が、提供を中止してから半分以下に減りました。

投稿: クマ | 2014年1月 7日 (火) 07時46分

表立って搬送されなくてもかなり多くの事故が起こっている印象です。>もち
でもそこまで嚥下能力が落ちたならもう寿命でいい気もするのですが…
もちが食べられるくらいのときにぽっくり逝くほうが本人も幸せじゃないですか?

投稿: ぽん太 | 2014年1月 7日 (火) 08時48分

この手の話題になるとどうしても虫唾が走るくらい嫌いな
政治家を思い出します。
あの人のこんにゃくゼリーメーカーいじめはひどかった。

くちがさけても「あんなことやったから罰が当たったじゃないか。」と
言ってはいけないですけど。


投稿: 嫌われクン | 2014年1月 7日 (火) 09時52分

むしろ後期高齢者は年一回の餅摂食試験を義務化してもいいなw

投稿: aaa | 2014年1月 7日 (火) 09時55分

こんにゃくゼリー騒動のあれも当時相当にネット上で叩かれていましたけれども、それに乗るばかりだった既存マスコミとの問題意識や検証能力の差異が浮き彫りになりましたからね。
今後ああした煽動的政治手法は行われるそばから検証されることになるのでしょうが、とりわけ上のリアルタイム性で劣る新聞などは頓珍漢な解説を垂れ流すリスクが大きいことを自覚すべきです。

投稿: 管理人nobu | 2014年1月 7日 (火) 11時34分

>くちがさけても「あんなことやったから罰が当たったじゃないか。」と
言ってはいけないですけど。

子供に罪はない、つーか遺伝子的にはアカの他人ですからねえ。理不尽なり…。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年1月 7日 (火) 11時36分

自宅で餅をつめるのは仕方ないで終わりますが、病院内でつめると責任問題になりますな
リスク管理としてはやはり危ないものは出さないがよろしいかと

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年1月 7日 (火) 17時02分

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