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2014年1月10日 (金)

コストをかけずに医療の充実を図る工夫が求められる時代

昨日は朝日から医療費を無駄遣いして歯科が儲けるのはケシカラン!とお叱りをいただいた記事を紹介しましたけれども、本日の本題に入る前に医療費の無駄遣いと言うならこっちの方がよほど問題では?と思ってしまいそうな事例を紹介してみましょう。

大月市立中央病院、黒字化へ常勤医9人増(2014年1月8日山梨日日新聞)

 大月市は、経営再建を目指す市立中央病院の改革プラン2013(2012~19年度)をまとめた。19年度までに、12年度に9人だった常勤医を2倍の18人に増やし、1日平均入院患者数を132人に引き上げるなどして黒字化を目指す。09年度からの3年間の前回プランでは黒字化を掲げたが達成できなかった。市は「新病棟による業務開始や救急医療体制の構築を図り、病院の安定経営を進め、黒字化につなげたい」としている。

 市は09年に総務省の公立病院改革ガイドラインに基づき、09~11年度で市立中央病院の黒字化を目指す改革プランを策定。だが、常勤医不足や整形外科の休診などで、「病院経営の根幹である入院収益が伸びず厳しい経営状況」(担当者)。11年度で黒字化できず、12年度も約1億500万円の赤字となった。

 今回、経営健全化を目指すとともに新病棟建設を含めた病院再生を図るため、新たな改革プランを策定。12年度からの8年間で、前回より期間を延ばした。提携先の東京女子医科大へ医師派遣要請を行い、病院経営の根幹となる常勤医の確保を目指す

 常勤医を16年度に16人、プラン最終年度の19年度に18人に増やすという数値目標を設定。1日平均入院患者数を12年度の78人から132人、同外来患者数を12年度の274人から400人に増やすなどし、19年度での黒字化を目標に掲げる。

 市担当者は「前回は国の指導により3年間で黒字化を目指すプランで、スケジュール的に実現が厳しかった。今回は新病棟建設を踏まえた長期的な取り組みで、実現性を高めたい」としている。

一読して何ともバブリーなと言うのでしょうか、今のご時世に計画通りうまくいったらよほどに僥倖に恵まれていたんだろうなあと感嘆を禁じ得ないだろう話なんですが、注意していただきたいのは全国で多数の病院が赤字経営を続けている、特に田舎公立病院などは赤字垂れ流しで自治体からの補助金で維持されている中で、その経営再建の手法はと言われるとこうした話が出てくるのは珍しくも何ともないということです。
患者さんにアンケートをしてみれば「病院が古くて汚い」と言われるから新しく建て替えよう、医者は多い方が稼ぎも増えるからもっと増やそう、診療科も足りないから新しく開こう…等々、もちろん全国で経営がうまくいっている病院というのは多くの場合は施設も綺麗だし医者も多いのは事実でしょうが、どうも原因と結果を混同し(敢えて意図的に?)取り違えているんじゃないかなと言う気がしてしまいます。
公立病院経営破綻の原因としては過大な設備投資と高い人件費負担が双璧だと言いますが、元々公立病院の病床あたり建設コストは民間病院のそれと比べてはるかに高いと言われるのに、昨今では建設業界の人手不足とコスト高騰もあって各地で公立病院建設業者の公募で辞退が相次ぎ業者が決まらないといったケースが出ているほどですから、今回もよほどに高いコスト支出が見込まれることでしょう。
もちろん公立病院の場合はこうした建設自体が地元への公共投資的な役割も担っているのでしょうし、それはそれで懐が潤うという人間も少なからずいらっしゃるのでしょうけれども、病院黒字化を少なくとも表向きの目標に掲げている以上はもう少し現実的に足下を見た計画を立てられた方が良かったんじゃないかという気がします。

医療と言えば長年拡大路線が続いてきたことは医療費の伸びからも明らかなことで、それもあって何かと言えばスタッフを集め経営規模を拡大し…式のやり方が正義であるかのように言われていますけれども、皆保険制度を堅持した上で医療費総額は抑制するという大枠が財政上の要請からも確定的なものとなっている現状で、こうした規模拡大による利益の確保という考え方がいつまでもうまくいく道理はないですよね。
それではどのようなビジネスモデルが時代にあっているのかと言うことですが、もともと公立病院の場合は経営効率という点でどうしても民間病院にかなわないところがあることから、昨今では民間で対応出来ないが地域にどうしても必要だという部門だけに資源を集中したりだとか、都市部であればいっそ公立病院は廃止するという選択をするケースも見られるようになってきました。
スポンサーである市民様の意向が届きやすい公立病院の存在は行政にとって大きな売りにはなるのでしょうが、では地域の医療福祉の向上は大赤字を垂れ流してでも立派な公立病院を維持していかなければ達成出来ないのかと言うとそんなことはなくて、お金をかけずに知恵をかけることでサービスの質を向上しているケースが見られるのは注目に値することだと思いますね。
先日非常に興味深く拝見したのがこちら八王子市の高齢者救急搬送の取り組みなんですが、全国どこでも高齢者救急と言えば引受先を見つけるのに大変な苦労をしている中で、八王子市ではお金をかけるのではなく知恵と工夫をこらすことで成果を上げているそうです。

高齢者救急で成果上げる八王子市 「八高連」の何がすごいのか?(2014年1月9日日経メディカル)より抜粋

(略)
慢性病院や介護施設も巻き込んだ高齢者救急対策

 八王子市は、人口約56万人のうち約13万人が高齢者。年間救急搬送数2万4000件のうち、高齢者の救急搬送数は約半数に上り、近年は搬送先の選定が困難な事例が目立つようになっていた。

 「市民も巻き込んだ市全体での対策が必要だ」――。八王子市の2次救急病院である清智会記念病院理事長の横山隆捷氏は11年、同様の問題意識を持っていた当時の八王子消防署長とともに、高齢者救急に特化した「八王子市高齢者救急医療体制広域連絡会(八高連)」を発足させた。横山氏は、市や区、消防署などの単位で設けられる八王子市救急業務連絡協議会の会長を務める。同協議会は、救急業務の適正化、円滑化のため、救急医療機関と消防署が地域の救急医療について話し合う組織であり、八高連はその下部組織という位置づけだ。

 もっとも医療界において、関係者の連携をうたうこの手の試みは珍しくない。八高連が異色だったのは、救急医療に直接かかわる医療機関だけでなく、慢性期医療や精神医療を担う医療機関の他、あらゆる関係者を集めたことだ。

 町会・自治会の代表者に加え、市の救急業務連絡協議会の会員でもある医療機関の院長、3次救急を担う大学病院のセンター長、介護・医療療養型病院の院長、介護施設の関連団体のトップ、精神病院の院長、介護保険の関連事業者、地域包括支援センター長、市の医師会長、市職員など、八高連には15団体、延べ147機関が名を連ねる。この理由について横山氏は、「急性期病院は在院日数を短縮しなければならず、慢性期病院にも空き病床はない。介護施設との連携まで含め、高齢者の救急医療は1カ所の医療機関では解決できない状況になっている」と説明する。

救急医療情報のフォーマットを作成

 八高連は11年、分科会も含めて年間27回の会議を開催し、2ページ建ての「救急医療情報」を作成した(写真1)。市内の高齢者に、既往歴や服用薬、かかりつけの医療機関、緊急連絡先などをあらかじめ記入してもらい、玄関や冷蔵庫など救急隊の目の付くところに張ってもらえば、万一の救急要請時に、救急病院に従来よりスムーズに受け入れてもらえる可能性がある。

 加えて「もしもの時に医師に伝えたい事があればチェックしてください」という項目に、「できるだけ救命、延命をしてほしい」「苦痛をやわらげる処置なら希望する」「なるべく自然な状態で見守ってほしい」との選択肢を設け、やんわりとした表現で終末期医療に関する事前指示の項目を設けた。任意ではあるものの、患者や家族に終末期医療について考えてもらうきっかけになることを期待している。
(略)

2012年4月から本格稼働しているというこのシステム、市民らに実に30万枚にも上る救急医療情報の用紙を配布し記入してもらったそうで、施設入居者などは全員に記入を求めているというケースも少なくないそうですが、単純に救急搬送時間の変化を見ても現場到着後出発までの平均時間が21分24秒から20分10秒へ、病院到着後の医師への引き継ぎ時間も11分21秒から9分8秒に短縮したと言います。
それ以上に現場で好評だと言うのが心肺蘇生など「どこまでやればいいか?」があらかじめ判明していることで当事者も望んでいない救命救急処置を行わずに済むということで、ご存知のように人工呼吸器などはいったん付けてしまうと外すというのもなかなかに難しいものがありますから、医療リソースの効率的活用と終末期に関わる本人意志の尊重の両面から望ましい結果であると言えそうですよね。
また副次的な効果として今まで救急など受けていなかった慢性期施設なども救急を受けるということが出てくるようになった、そして三次救急への搬送が減り結果としてより多くの本当の救急患者が受けられるという望ましい現象が見られたと言うのですが、全国的にそうあってもらいたいと考えられている医療業務分担ということが意外なところから達成されているというのは非常に興味深いことではないかと思います。

(略)
 救急医療情報の活用により、患者や家族が望まない不要な搬送が避けられる事例も出てきた。12年12月、施設に入所し、呼吸困難に陥って救急要請があった100歳代女性の心不全患者は、患者は救急隊の到着時に心肺停止していたが、救急医療情報などを基に、本人も家族も高度医療を希望しないことが確認された。そこで患者は、3次救急医療機関ではなく、本人や家族の希望でかかりつけの病院へ搬送された。13年2月には、施設に入所していた90歳代女性患者が意識を消失し、施設が救急要請。本人も家族も高度医療を希望しないという事前の情報に基づいて、救急隊が往診医に連絡を取り、施設で死亡確認が行われたケースもある。

東京医大八王子医療センターの新井隆男氏は「高齢者の救急医療において、搬送前に一度、かかりつけの医療機関に判断を仰ぐステップを踏むことが重要だ」と話す。

 救急要請があれば、救急隊は患者を救急病院へ搬送するのが基本。ただ、救急隊が救急医療情報に記されたかかりつけの医療機関に一度連絡を取ることで、『じゃあうちに連れてきて』となるケースも出てくる。3次救急を担う東京医大八王子医療センター救命救急センター長の新井隆男氏は、「積極的な治療を希望するかどうかにかかわらず、バイタルサインと意識レベルだけで判断すると、高齢患者は3次救急へ搬送することになるケースが多い。しかし、かかりつけの医療機関に判断を仰ぐことで、個々の患者に合った対応が可能になる」と話す。

 その結果として、3次救急医療機関の応需率が高まる効果も確認されている。東京医大八王子医療センター救命救急センターが、救急隊から要請を受けた患者を収容できた応需率は、10年度の80%から、11年度には87%、12年度には89%へと向上した。新井氏は「正確には調べてみないと分からないが、心肺停止で見つかり、介護施設などから死亡確認のためだけに運ばれてくるような患者の数は減ったような気がする」と口にする。

療養型医療機関も奮闘

 これらの成果が出た背景には、従来は患者を受けていなかった医療機関が、高齢患者を受け入れるようになったという事情もある。救急医療を手掛けていない療養型医療機関が65歳以上の救急患者を受け入れた件数は、10年度は237件、11年度は261件にとどまっていたものの、12年度には335件に伸びた(図1)。特に、夜間の受け入れ件数は12年度に102件に増えていた。2次救急病院や診療所を含む慢性期医療機関が65歳以上の高齢者救急を受け入れた総件数に占める、療養型医療機関が受け入れた割合も、昼間と夜間のいずれでも伸びている

 高齢患者を受け入れているのは、救急告示していないものの、救急要請された高齢患者を長年診ていたり、直前まで入院させていた医療機関と見られている。「慢性期病院にも救急車が入るようになったのは、予想外の効果。正直、驚いた」と横山氏は話す。退院後の行き先となる医療機関まで巻き込んだ八高連の取り組みが実を結んだと言えるだろう。
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特に驚くと同時に注目していただきたいのはこれだけのシステムを構築するのに直接的な新規投資がほとんど行われていないという点なんですが、もちろんこうした劇的な効果が見られた背景には、県域内のあらゆる施設が一同に集まって実際に顔合わせをし何度も意見交換をするという多大な手間ひまがかかっているというのも事実であって、その意味では(実際に金を出すかどうかは別にして)人件費はかかってるはずじゃないかとは言えますよね。
しかし従来救急受け入れが難しい、大至急対策を講じなければといった話になると自治体がお金を出して三次救急にベッドを確保しようだとか、同じく大金を投じてER型救急センターを整備しようだとかハコモノ重視で話が進んでいたところがあったことは否めず、施設間の連携を強化すると共に患者側に事前の意志確認を行うという一手間を加えることで直接的な支出を増やさずにこれだけの効果が出るものなんだなと改めて気付かされます。
三次救急など基幹施設ではベッドが足りず救急も断らないといけない一方で、町の中小病院などは空きベッドをどうにかして埋めなければ経営が成り立たないと腐心してきたと言うアンバランスがあった訳ですが、事前の患者意志確認や施設間の意志統一といった下ごしらえを入念に行うことで、関係者それぞれにとっても望ましい結果がもたらされたということですね。

特に八王子市の場合は各施設の人間が直接顔を合わせることで夜間のスタッフの勤務態勢などお互いに知らなかった各施設の実情までも知ることで互いに何が出来、何が出来ないかと言うことが実感として判ったことがこうした結果につながったと言いますが、やはり医療とはマンパワー集約型産業の典型である以上お互いの顔が見えてこなければ信頼関係の構築は難しいということでしょうか。
療養型などではいわゆる救急告示などとても出来ないと言う状況であっても、かかりつけ患者の死亡宣告くらいならもちろん出来るはずで、その意味で今まで制度に従って画一的に救急指定かどうかで判断されていた搬送が、実際に救急隊からも各施設の顔が見えるようになったことでより適切な振り分けがなされるようになったと言えそうです。
こうした実例を見たあとでは冒頭の大月市のケースでも「病院経営の根幹である入院収益が伸びず厳しい経営状況」などと簡単に言っていますけれども、それでは病床稼働率を上げるためにどれだけ知恵を絞り工夫を凝らしてきたかと考えると結局自分達のロジックでしか考えていないという点で、どうしても疑問符が盛大につくと言わざるを得ないでしょうね。

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コメント

八王子ってけっこう大きな町なのによくこんなこと出来ましたね。
救急はかかりつけや基礎疾患情報があるだけでもずいぶん違いますもんね。
やっぱりリーダーシップ発揮する人がいないとダメなんだなあ…

投稿: ぽん太 | 2014年1月10日 (金) 08時48分

>常勤医を16年度に16人、プラン最終年度の19年度に18人に増やすという数値目標を設定。1日平均入院患者数を12年度の78人から132人、同外来患者数を12年度の274人から400人に増やすなどし、19年度での黒字化を目標に掲げる。

これで納得して金出すんだから市議会もチョロいわなw

投稿: aaa | 2014年1月10日 (金) 09時32分

八王子市は盆地なので夏は暑く冬は寒いことで有名。しかも気温差が大きいので、高齢者も心臓・脳血管など救急疾患になりやすい環境でしょうね。高齢者が多いとなれば相対的に救急件数は増える。
人口も多いが、面積が広いので、各施設関係者が集まって会談するのを頻繁に行うのも大変なはずで。
こういうシステム作りは早急に全国的にやっていかないと今後さらに高齢者救急パニックが悪化しますね。

投稿: 逃散前科者 | 2014年1月10日 (金) 11時00分

誰かが音頭を取らないとさっぱり話が進まないというのは本当にその通りで、特に医療の場合行政など外野はどこまでも素人ばかりなのですから、当事者側から働きかけないと頓珍漢な計画ばかりになってしまいます。
八王子の状況は知らないのですが、東京ですから各大学の関連病院の系列も入り乱れているでしょうにこういうやり方が成功したというのは非常に参考になるケースだと思いますね。

投稿: 管理人nobu | 2014年1月10日 (金) 11時09分

田舎町でやりそうなことを東京でやったというのがおもしろいですな
しかしこれが大成功したら他地域は面目丸つぶれのような

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年1月10日 (金) 17時03分

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