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2014年1月23日 (木)

医療政策の行方はスポンサーの考え方次第?

混合診療というものの扱いについては近年原則的に徐々に拡大傾向にあるとは言え、様々な観点から控えめに言っても必ずしも全面解禁に賛同する意見ばかりではないといったところですけれども、表向きの理由としてはもちろん収入等の経済的条件によって医療内容が左右されることがあってはならないと言うことになっていますけれども、もう少しマクロな医療経済的な理由も隠れていそうな気がします。
要するに日本の医療費支出がその質や規模から想定されるものからするとずいぶんと安上がりでコスパがいいと言われている理由の一つとして、皆保険制度というものは医療費統制の手段としても有用であるということの傍証であるとも言えますが、そうなりますと保険外の診療が際限なく増えていくということは医療費全体の今まで以上の増加要因にもなり得るということですよね。
統制すべきは保険から支払われる公的医療費支出であって、患者が自前で幾ら金を使おうが構わないじゃないかと言う意見もあるでしょうが、例えば画期的な新規抗癌剤を混合診療で使うと言った場合に、抗癌剤以外の副作用対策等の周辺医療行為にも少なくないお金がかかるのですから、要するに今までなら医療対象となっていなかった疾患が対象になるということだけで公的医療支出の増大要因になり得るということです。
その混合診療について先日の政府規制改革会議でこんな話が出たというのですけれども、まずは記事をご覧いただきましょう。

混合診療、患者ごとに判断を=規制改革会議(2014年1月21日時事ドットコム)

 政府の規制改革会議(議長・岡素之住友商事相談役)は21日の全体会合で、保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」について、患者ごとに保険適用を認めるかどうか判断する仕組みを設けるべきだとの認識で一致した。具体策を検討した上で、3月をめどに提言を取りまとめたい考えだ。

 混合診療は現在、原則として禁止されており、保険診療と保険外診療を併用した場合、保険診療分も含めて全額自己負担となる。岡議長は会合後の記者会見で、「今の制度に国民は納得していない」と述べ、患者の負担を軽減すべきだと主張。保険適用を認める場合のルール作りに取り組む考えを示した。

もちろん各個人、各医療法毎に患者や疾患の状況や期待される有効性等々が全く異なるわけですから、個別に審査をして個別に判断しようというのは全くもって妥当な話なのですが、規制改革会議の見解が実際の医療行政として反映されるに当たって問題になりそうなのが(その実現可能性はさておくとしても)誰がそれを行うのか、そして何を目的に行うのかということだと思います。
現行の保険診療におけるいわゆる査定の作業に相当するものは半ば事務的に(実際にアルバイトの人がやっているそうですが)必要な病名が揃っているか、適応症例や算定要件に間違いはないかといった判断で概ねが済んでいるのは大多数が決まり切った医療を行っているからとも言えますが、混合診療となれば基本的には普段見かけることのない医療ばかりを判断しなければならないわけですよね。
当然ながら正しい判断をしようと思えばその道の最新医療事情に精通した専門家の判断が必要でしょうから、まずはそれだけの人員を用意出来るのかどうかということと、そしてそれだけの手間暇・コストをかけて誰がそれを負担することになるのかで、仮に国費で手間賃を負担するともなればこれは混合診療の医療費を間接的・部分的にとは言え一般国民が負担するというおかしな話となってしまいます。

また審査の内容がどうあるべきかと言うことは、同時にどこからを認める認めないの足切りラインに設定するかと言うことと同じ意味を持ちますけれども、結局のところ混合診療を原則認める立場に立って明らかに有害無益というもの以外は幅広く認めるのか、それとも原則的に認めないという立場からいずれ保険収載されそうな確実性の高い医療以外は原則認めないのかと言うところが問題になりそうです。
抗癌剤などは毎年世界中で有望そうな新薬があちらこちらで多数開発が進められていて、当然ながら既存の治療法は無効だったので新薬を使ってみたいと言う患者は多いでしょうが、仮に実際有効な薬剤であったとしても使う医師の側も副作用情報等全く判らないわけですから、慎重に長期入院の上で検査等も念入りに行って(つまり、多額の保険診療コストを発生させながら)使うということになるでしょう。
この辺りの問題はいずれも混合診療が実際にどれほどの規模になってくるのかにも大きく左右される問題で、現行の医療費に対して無視出来る程度の規模に収まるならまあ何とでもなるだとうとは思うのですが、往年のEPO訴訟に見られるように有効であることが判りきっているにも関わらず保険診療上認められていない治療というのは幾らでもあるわけで、現場の「意識改革」次第で規模は幾らでも拡大しかねない気はしますね。
そうした医療経済学的な側面から見て興味深いなと思ったのが先日の社保審で出たこういう話なんですが、これまたまずは記事からご覧いただくことにしましょう。

保険者の意見聴く仕組みの創設承認-社保審医療保険部会(2014年1月20日CBニュース)

 社会保障審議会の医療保険部会は20日の会合で、病床機能報告制度を運用する上で、都道府県が二次医療圏などで各医療機能の将来の必要量を示した地域医療ビジョンを実現するために、医療計画を策定する際、保険者の意見を聴く仕組みの創設を承認した。厚生労働省は今後、次期通常国会で、同報告制度を規定するための医療法と共に、「高齢者の医療の確保に関する法律」を改正する。【君塚靖】

 同報告制度については昨年末の社保審医療部会で取りまとめられた、医療法等 改正に関する意見の中で、医療計画を策定する際、都道府県はそれぞれ設置して いる保険者協議会の意見を聴くことが必要だと盛り込んだ。同協議会の設置は、 根拠法がないため、高齢者の医療の確保に関する法律に明記する。同法施行は、 地域医療ビジョンの策定に併せて、2015年4月になる見通し。

 同協議会の担う役割については、現行で業務となっている、▽特定健康診査等 の実施、高齢者医療制度の運営等に関する保険者や関係者間の連絡調整▽保険者 に対する必要な助言または、援助▽医療に要する費用等に関する情報についての 調査・分析-などを明確に規定する。また厚労省は今後、同協議会が十分に機能 を発揮できるよう、さらに方策を検討する。

この地域医療ビジョン策定について、まずはその第一段階として例の病床機能報告制度が始まるということはご存知のところだと思いますが、先日も厚労省筋から「ちょっとくらいの急変は急性期に転院させずに慢性期で診てもらいたいなあ」だとか、「急性期はお金がかかるからもっと減らしてもいいんじゃないかなあ」といった独語?が聞こえてきたように、医療政策がまずコスト削減ありきで考えられているのは言うまでもないことです。
当然ながら診療報酬改定作業にも金の出し手である保険者の意向が濃厚に反映されているわけですが、象徴的なのは消費税引き上げに対する損税拡大対策として先日初診料を120円(12点)引き上げるという案が出されたところ、保険者側から猛烈な反発を受け結局話が流れてしまったという一件がありました。
要するに医療政策と言えば医療費のスポンサーである国(財務省)と保険者の意向を聞かずして立ちゆくものではなくなっているし、それを制度的にも担保するというのが今回の話の趣旨だと思いますが、当然ながら保険者の意見としては医療供給体制の都合だとか利用者である患者側の希望よりも何よりも、まずは金がかからないことが最優先になりそうですよね。

一面では日本の医療供給システムが急性期に偏りすぎているという指摘は確かにあって、何しろ診療報酬上も急性期にばかりどんどんお金が入るようにしてしまっているのですから町の小病院ですら使うあてもなさそうな検査機械を揃えて何とか高い加算を取ろうとしている、その結果機械を活用するために検査をオーダーするという本末転倒なことになり、医療も歪められるし無駄な医療費もかさむという指摘はあるところです。
今回の病床機能報告に関して言えば地域の実情や医療需給体制の実態に応じて自治体が言わば司令塔役となって、地域内の医療機関再編も行いなさいという期待もかけられているわけですが、要するに金の儲かる急性期から儲けの下がる慢性期・療養型への転換というババを誰が誰に引かせるのかという話であって、私的営利病院が医療供給の大半を占める日本でこの再編は大変な作業になりそうですよね。
民間保険主体のアメリカなどでは医療の内容は医者が決めるんじゃない、保険会社が決めるんだという名文句?があるそうですが、日本でも保険者の判断がより重視されるようになると「あなたは社会的入院ですから急性期病床に入っていてはいけません」なんて事が言われるようになるのかどうかも気になりますが、それ以上に気になるのが誰がそれを言う(言わされる)ようになるのかと言うことでしょう。
ひと頃から社会問題化している医療費(窓口負担)未払い問題に関しても「本来保険者が取り立てるべき分を病院が代行徴収しているのだから、未払い分は保険者が自分で取り立てるのが筋ではないか?」と言う声に対して言を左右にして病院側に仕事を押しつけてきた歴史もあるわけですから、仮に誰かが憎まれ役になる必要があるとすれば間違いなく保険者ではなく病院側ということになりそうですかね。

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コメント

金のない人間が一番偉そうにしてる日本の医療が異常なだけ

投稿: | 2014年1月23日 (木) 08時44分

自分が保険者の立場であったなら全く議論の場に関与できず蚊帳の外ならおもしろくはないでしょうけどね…
ただ地域医療ビジョンについて保険者がどういう考えを打ち出してくるのかはちょっと聞いてみたい気がします。
医療側や行政だけで話し合ってても近ごろちょっとアイデアが煮詰まっちゃってる気がしますし。

投稿: ぽん太 | 2014年1月23日 (木) 09時11分

スポンサーの意志を無視するのは社会常識に反するだろw

投稿: aaa | 2014年1月23日 (木) 09時44分

何かと財政的な側面が議論になるわけですから、財布を握っている側が発言力を強めていくだろうことは当然に予想されたことです。
今後は医療政策決定に関しても医療側も厚労省よりも財務省の顔色をうかがうべきと言うことになるかも知れませんが、そう言えば某日医あたりはそういったツテは用意しているものなんでしょうかね?

投稿: 管理人nobu | 2014年1月23日 (木) 10時53分

混合診療の本質的な問題点にたどり着いたようですね。

投稿: hhh | 2014年1月23日 (木) 12時31分

定例会見でも財務省にケンカを売るような場面ばかりが記憶にありますな>日医
日医としては持病絡みで安倍総理に恩を売りたいのかも知れずですが、担当医に圧力でもかかっておりましょうか

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年1月23日 (木) 15時47分

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