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2013年12月31日 (火)

開業はもはや逃げ道たり得ない?

今年も残すところあと一日となりましたが、来年度の診療報酬改定ですでに実質切り下げと言う話になっていることもあって、医療従事者の中でも特に経営に関与している方々にとってはなかなかに悩ましい状況なのではないかという気がします。
さて、社会学の専門家で山大医学部医療政策学の助教をされている伊藤嘉高氏が面白い予測を出しているのですが、医師数増加政策によって2030年の山形県内の勤務医数は2008年比122%の3048人まで増加し、他方で患者数が減少していくことから全体では4%(73人分)の医師数の余裕が生まれる、ただし外科系など一部診療科は相変わらず不足している一方で過剰になる診療科も出るとしています。
その上で同時期の開業医がどうなっているかという推計を患者数の変動と合わせて推測しているのですが、まずは記事から抜粋させていただきましょう。

診療所(医院、クリニック)の将来患者数を予測する―1開業医当たり20%以上の減少!?(2030年山形県)(2013年12月28日ブログ記事)より抜粋

(略)
開業医数の将来推計―山形大学医学部新設の影響により大きく増加

開業医数(診療所医師数)については、興味深いデータが得られる。まず、2008年の勤務医/開業医の年齢別分布を見ると、次のようになる。山形大学医学部新設~定員120人時代に入学している層に当たる年齢層の医師数が多く、開業医数も多い。

2008年職種別医師数の年齢構成

60代以上の医師数は少ないが、これは定年退職しているためではなく、山形大学医学部が新設される以前に医学部に入学している年代に当たるからである。この点について、上記の論文では医師異動(県外流出、開業、退職等)コホートモデルを作成して検証しているが、このコホートモデルを今後の医師異動に適用すると、2030年の勤務医/開業医の年齢別分布は次のようになる。

2030年職種別医師数の年齢構成

やはり、(山形大学医学部新設~定員120人時代に入学している層に当たる)60、70歳代の医師数が大幅に増加する。その結果、2030年の開業医数は、2008年比で120.5%に増加し、1,029人に達する。さらに、診療科別に見ると、次のようになる。

診療科別に見る開業医数の変化

開業医1人あたりの患者数―1開業医当たりの患者数は2割強の減少

以上のように、患者数の減少と医師数の増加が見られるなかで、開業医1人あたりの患者数はどうなるのだろうか。2030年の診療所医師1人あたりの患者数をみたのが下の図である。内科群は内科系の診療科をまとめたものであるが、その患者数は100人近く減少する。

2030年診療所医師一人当たり患者数の変化

上のデータを増減率で並び替えると、次のようになる。全体では、2008年の患者361,391人/医師854人=423.2人から、2030年は患者343,988人/医師1,029人=334.3人となり、2008年比で79.0%となる。

2030年診療所医師一人当たり患者数の増減率

もちろん、診療報酬や政策誘導により病院の外来の縮小が進み、在宅医療が推進されていることを考えれば、2030年の開業医1人あたりの患者数がこれほどまでに減少することはないであろう。高齢の医師の割合が高まることも考えなければならない。

ただし、診療科によって以上のような患者数の減少の違いが生まれるとなれば、医師のキャリア・パスにも大きな影響を及ぼすことになる。先に見たように、病院勤務医の分析では、外科では23.7%の更なる上乗せが必要となる一方で、新卒医師の半数以上が余剰になりかねない診療科も生まれることが明らかとなっている。
(略)

病院と診療所で客層も異なってくるわけですが(例えば病院であれば入院や難病等高い診療報酬の発生する患者がより多い)、病院の場合は複数診療科でやっている関係上特定診療科の利益率が下がっても他科で補うことも可能である一方、原則単科が多い診療所では顧客数の変動が直接的に経営に反映されると考えられます。
今回の予測では外科系など一部を除いて開業医の患者数はかなり減少してくるということで、特に耳鼻科のように34%も患者数が減るようなことになれば当然経営上も大きな影響がないとは考えがたいところですから、特にマイナー診療科に進むことを考えている先生ほど今後は将来の開業時も見越した長期的な需給予測も必要となってくるのではないかという問題提起だと思いますね。
もちろん「だから医師の進路も含めて国が管理すべきなのだ」と言えばまた別な話になってきますけれども(そもそも国がきちんと医療を管理できるようなら現状のようにはなっていないでしょう)、医療の世界もこれからは「病院は不景気でも潰れない」だとか「幾らでも銀行が金を貸してくれる」などと言う浮世離れした状況ばかりではなく、世間並みに経営戦略を誤れば当たり前に立ちゆかなくなる時代になってきたとは言えそうです。
そうなるとこれまた世間と同様に体力のない小資本ほど経営が厳しくなってくるのかと言うことで、21世紀は実に開業医受難の時代になりかねないわけですけれども、もう一つ開業医にとって不利なのは患者から見れば「どこの科にかかればいいのか判らない」「大きな病院の方がやっぱり安心」と言う心理からクリニックよりも総合病院の方が…と言う気持ちにはなりやすいのは否めない事実でしょう。
もちろん医療資源の効率的活用の観点からも診断もついた安定期の患者はどんどん総合病院から開業医へ逆紹介すべきなのでしょうが、未だ何科のどんな病気とも判らない初診患者がどうしても単科クリニックにかかることを躊躇しがちである現状に対して、面白い対応をしている開業医の先生方が先日紹介されていました。

開業医連携で「総合病院」(2013年12月25日朝日新聞)

 横浜市保土ケ谷区の旧東海道近くにある15の診療所が、緩やかな連携を続けている。旧東海道を病院の廊下に見立て、各診療所が患者を紹介し合い、全体で「総合病院」のように患者を見守っている

 15診療所がつくるのは「アライアンス保土ケ谷」。代表を務める宮川政昭・宮川内科小児科医院院長の呼びかけで、2001年7月に発足した。内科、外科、小児科、眼科、皮膚科、泌尿器科、耳鼻科、精神科の八つの診療科がある。内科医も、高血圧や糖尿病などの専門分野に分かれる。

 相鉄線天王町駅とJR保土ケ谷駅を結ぶ旧東海道沿いなどに立ち、ほとんどが半径500メートル以内に収まる。高齢者でも歩いて15分前後で移動できる距離だ。

 医師は互いに顔見知りのため、B5判の紹介状には2~3行程度の依頼文を書く欄しかなく、紹介状の作成料もとらない。1カ月に150件前後の紹介状のやりとりがある。電話で「○○先生よろしく」で済ませることも増えてきた。

 連携は例えば、こんな感じだ。前立腺肥大の患者が、川村クリニック(消化器内科)から増田泌尿器科に紹介されてきた。血液中のPSA(前立腺特異抗原)の値がやや高かったが、増田光伸院長が診察すると、すぐ大きな病院を紹介するほどでもない。様子を見ることにした。

 「専門外のクリニックなら、すぐ病院に紹介していたケース」と増田院長。「本当に必要な患者だけを病院に紹介すれば、患者は病院で長時間待たなくていいし、病院の勤務医の負担軽減にもつながる」とメリットを強調する。

 また、皮膚科医は男性と女性がいるので、女性患者には、患部によっては女医を紹介するなど、きめ細かい対応ができる。

 年1~2回の定例会は、他の診療科の最新情報について学ぶ場にもなっている。宮川代表は「病院内の医局のように、気軽に相談し合っている。地域の診療所がうまく連携すれば、患者には『総合病院』があるのと同じ意味になる」と話す。

 横浜市医療政策室の修理淳担当理事は「経験が豊富な開業医同士の『診診連携』は、超高齢社会のモデルケースの一つ。今後、各地に広めていく取り組みが必要だと思う」と話している。

単科の開業医でもまだまだやりようはあると言う話なんですが、患者の側からみて総合病院的に各科専門家に気軽に紹介してもらえるメリットもさることながら、各施設の先生方にとっても専門外の患者を扱いかねるという際に気軽に相談できる状況にあるというのは非常に頼もしいことですよね。
医療の専門分化が進むのは求められる医療レベルが高まっている以上ある程度仕方ないところですが、一方で一人開業となると総合医とまでは行かずともやはり専門外の患者もある程度診るgeneralな能力も要求されがちで、「オレ開業したら自分の診たい患者だけ診るんだ」的な夢を語っていた方々にとっては非常にストレスの貯まる状況ではないかと思います。
特に今後は診療科によっては開業医も余ってくるということになれば、よほど専門性を売りに出来るような希少価値のある診療科を掲げるのでなければ経営的に専門外の患者も引き受けざるを得ないでしょうが、同じような思いを抱いている近隣開業医同士である程度患者を融通しあえるとなれば安定的な患者確保にもストレス軽減の上でもずいぶんと有利にはなるでしょう。
もちろん一定の集積が必要ということなら全国どこでもやれる話ではないでしょうが、勤務医であることによる当直や入院等々の様々な業務に耐えきれず開業を選ぶという先生方にとっては特に参考になりそうな話で、病診連携と言う縦の関係のみならず診診連携という横の関係もこれからの開業医にとっては必須の人脈となっていくのかも知れませんね。

昨今全国的に流行りだという医療モール方式の開業も同じ流れと言って良いと思いますが、やはり医療リソースというものは分散配置するよりもある程度集約化した方が効率が良いのは確かで、特に診療報酬切り下げで新規開業はなかなか元を取るのが難しくなっている昨今、いかに経営上のコストを減らしていくかということも非常に重要ではないかと思います。
アメリカなどでは開業医を目指す医師は日本と違ってまずは家庭医研修を受けますが、ここでは様々な関連法規や経営的なノウハウと並んでスタッフや同業者とのコネクション作りの教育が非常に重視されるのだそうで、日本でも今後は「勤務医がきつくなってきたから開業」といったことではなく、もう少し戦略的に開業ということを考えていかないと経営上も非常に不利な勝負を強いられかねませんよね。
その意味で今後の課題としては検査等のリソースまでも共有出来れば経営上も患者利便性からも効率的でしょうし、逆に言えばクリニックがある程度集積している地域においては外注の検査センター的な需要も見込めるかも知れず、いわゆる医療主導による経済成長戦略という流れで見ても大病院のみならずこのあたりにもまた一つのビジネスチャンスがあるのかも知れません。

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コメント

おめでとうございます,

以前ニュースで見た記憶があるのですが,某隣国の方に
「地球温暖化で,世界のいろいろな地域が危機にさらされているのをどう感じますか」
と問うたら
「私が住んでいる地域は寒いから,もう少し温暖化した方がよいですな」
の答え.

こんな感覚で勤務医を続けてはならぬといつも肝に銘じ,今年も仕事をしたいですね.こちらから開業医に挑むくらいのことをしてゆきたいものです.

投稿: 北の医師 | 2014年1月 1日 (水) 15時25分

医療統制の手段として開業医に対する国からの規制強化はありでしょう。
医師会も競合する同業者が増えすぎると困るから利害は一致するんじゃないですか。
今でさえもう開業したらウハウハって時代じゃないですけどね。
これからは医師もちゃんとした市場リサーチが必要となるでしょうね。

投稿: ぽん太 | 2014年1月 4日 (土) 09時46分

>「私が住んでいる地域は寒いから,もう少し温暖化した方がよいですな」

日本とヨーロッパで自動車等の環境性能に対する認識が異なるのも、結局はこうした前提条件の違いが原因だと言う話がありますよね(あちらは温暖化よりも紫外線増加の方がよほど大問題)。
医療も理想的にはオーダーメードなのでしょうが、日本の皆保険制度はそういうものには対応しきれないところがありますし、医療の標準化推進も個別対応を(主に心情的に)やりにくくしている側面がありそうです。
そのあたりを制度的に改めるべきなのか、あくまで現場対応で何とかするのか、それとも制度がそうだからと患者に納得いただくのか等々が本年も医療の課題になってくるかと思います。

投稿: 管理人nobu | 2014年1月 6日 (月) 09時58分

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