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2013年12月21日 (土)

コミケに行ったら内定取り消された…と言うのは嘘です(本当)

念のため最初にお断りしておきますと、本日紹介するこちらの記事で取り上げられた話題はあくまでも嘘に基づくネタソースなのですが、一部の方々がそれを真に受けて大騒ぎになったという経緯を報じたものです。
ただそうではあってもこれだけの炎上騒動に結びつくというのは、それ自体関係者各位が「グレーゾーン」であることを自覚しているということの証明であるとも言えそうですよね。

同人誌即売会に行って「内定取り消し」に 創作ブログの「就活記事」にネット騒然(2013年12月19日J-CASTニュース)

 同人誌即売会に行った大学生が、入社予定の会社から内定取り消しされた――こんなブログ記事が話題になっている。

 事実の書かれたニュースではなく、いわゆる「釣り」の創作記事だが、事実と勘違いした人もいて「これで内定取り消しっていいのか?」と騒ぎになり、創作と知っている人からは冷ややかな意見が寄せられている。

「君は著作権法違反の違法なコンテンツを購入した」

   話題になっているのは「就活ニュース:デジタル版」に2013年12月18日に掲載された「同人誌即売会に行った大学生は内定取り消しになる」という記事だ。週刊誌の記事を模したような文章で、漫画同人誌の収集が趣味の大学生A君が、内定取り消しになった理由が書かれている。

   記事によるとA君は同人誌即売会に行ったと、実名のツイッターに書き込んだ。すると内定先の会社から呼び出され、「わが社ではコンプライアンスを重視している。君は著作権法違反の違法なコンテンツを購入した」と、法務部長から問い詰められた。

   A君は同人誌に著作権に違反しているものがあると知っていて、「みんなが買っているし罪悪感はなかった」と言うが、「黙認されていることなら違法行為にも加担するのか」と詰問されると反論できず、その1週間後には内定取り消しの知らせがあった。

   この件について「事情通の就活エージェント」の分析コメントとして、

    「黙認されているから大丈夫だ、との言い訳は、事故を起こさなければ飲酒運転をしてもいい、と言っているのと同じ。同人誌即売会に参加する行為は社会人としての遵法精神に欠ける、と指摘されるのも当然でしょう」

という言葉が紹介されている。

   もちろん同人誌の購入で内定取り消しになることは通常はなく、注目を集めることを狙った創作記事だ。だが同サイトには「創作」「虚構」などの表示がないため、事実と信じた人からは、「これで内定取り消しっていいのか?」といったツイートが出ている。

   また、記事中に「A君には一刻も早く違法行為から足を洗い、真人間として再出発してほしいものだ」という言葉もあり、同人誌の購入=違法行為とする記事の内容に、同人誌ファンから不満の声も多い
(略)

ちなみにこの元ネタである「就活ニュース:デジタル版」は似たような就活にちなんだネタ記事ばかりを掲載しているサイトなのですが、何しろ「矢那やな夫が配信するどこよりも信頼できる就活ニュースサイト」と記載されているだけで何らネタだと判る情報が告示されていないため、あからさまな記事はまだしも今回のような微妙な記事の場合は真に受けてしまう人もいるということです。
それはともかく真に受けた人がそれだけ多く炎上騒動になったというのも、いわゆる同人誌の中でもとりわけ「二次創作物」と言われるものが何らかの反社会的行為に絡む(少なくとも、その可能性がある)と言う自覚を多くの人間が共有しているからとも言え、事実同サイトではこうしたネタ記事配信の是非と並んで二次創作問題についての議論に発展しているようですね。
元記事の方でもややあいまいで誤解を招く表現になっていますが、用語を整理しておくと「同人誌」とはアマチュアがお金を出し合って出版する非営利目的・小発行部数の出版物のことで、過去には数々の文豪などもこうしたものに関わっていたことが知られるなど歴史的に見ると文学青年の登竜門的な重要な役割も果たしてきたことが知られています。
それに対して近年同人誌と言われ真っ先に思い浮かぶのが記事にも取り上げられているように、いわゆるコミケなど漫画・アニメ・ゲーム系二次創作出版物の展示即売会や通信販売といったもので、こちらは少数部数であることは事実ですし同好の士が集まって好きなものを描くと言う側面もありますけれども、多くの場合において営利的な運営がなされているというのも事実ですよね。

別に私的に同人誌を出して金を稼ぐこと自体は本来何ら問題ない行為ですし、後にアマチュアからプロに転じた作家も少なくないように今も有望な作家の発掘の場としても機能しているわけですが、問題は二次創作物と言う言葉が示すように今や非常に多くの同人誌が既存の有名作品のキャラクターやストーリーを拝借して作り上げられた、いわゆるサイドストーリー的な体裁を取っているところにあります。
当然ながら商業出版物には著作権というものがあるわけで、それを無許可で借用していわば有名作品の知名度に「タダ乗り」する行為自体の違法性もさることながら、著明同人サークルともなれば数日間の販売期間で大金を荒稼ぎする、あるいは自サイトで常時販売するといった「商業化」と言われる行為に走るというのは、税法上の問題なども含め反社会的行為と受け取られる余地が少なからずあるということですよね。
特にややこしいのは最近では普通に表稼業としてプロ作家をやっている方々も同人誌に参入していることで、自分の好きな作家のパロを手がけたり表では描けないような類の作品を別名義で出したりするなど様々なやり方があるようですけれども、当然ながら絵柄等からそれと知れ話題になったり大きな副収入源ともなっていたりもするということですから、やはり商業化と版権問題とは現代の同人誌活動と切り離せない課題です。
この点でコミケで幾ら売り上げたといった情報は税務署としてもなかなか把握し難いところがあるでしょうから、実質的に税金もかからずに儲け放題と言うのはやはりどうなんだと言う意見は当然あるのですが、ただコミケという場に関する限りは様々な物理的な制約も存在する以上、かかった労力に対して不当に儲けたと批判されるほどの利益を上げるのは難しいのかなという気はしますけれどもね。

ともあれ他人の著作物を(言葉は悪いですが)パクると言うことに対する原作者の反応は様々で、例えば一部では自分の作り上げた世界観を世間に解放して大勢の作家に自由に作品を書いてもらう「シェアードワールド」ということを行っている作家もあり、商業出版に結びついている場合もあることからやはり「この素晴らしい作品の続きをもっと読みたい!」と言う熱心なファン心理は無視出来ないんだろうなとも思います。
他方でかねてからたびたび問題視されているのが原作のキャラだけを流用するケース、とりわけいわゆるエロパロと言われるような作品で、原作すらまともに読んでないんじゃないかという熱心なファンからの素朴な反発から始まって、通常許容されないような卑猥な内容で大金を稼ぐことが時に一般マスコミにおいても取り上げられるというのは、それだけこれらの市場規模が拡大しているということでもありますよね。
熱心なファンによる同人活動と単なる売るためだけの営利的活動との境界線は外部からは見分けがたいものがありますが、最近の流れとして性表現の規制など一定のガイドラインを設定した上でそれに従えば著作権侵害としないといった扱いを行う著作権者も出てきていて、また同人誌の中から評判のよいものを取り上げてアンソロジーなどの形で表の出版に転用するといった場合も少なくありません。
要するに二次創作だろうがアマチュア作品だろうが良いものは確実にあるわけで、実際にこうした同人活動がプロ作家への登竜門としても機能していることを考えればむやみやたらに規制強化すればよいと言うものではなく、いかに反社会的行為を抑制し気持ちよく永続的な活動として行っていくか、そして何よりも原作者への敬意を担保していくかということが望まれるんだと思いますね。

ちょうど今年2013年には例のTPP交渉に絡んで著作権の問題も取り上げられていて、仮に噂されているように著作権侵害が現行の親告罪から非親告罪に改められたとしても原作者の意図しない告訴によって著作権侵害による訴訟沙汰に発展することのないよう、原作者が二次創作活動を認める旨の意志表示をするための「同人マーク」というものも制定されたということです。
同人マークがついた原作に関しては二次創作活動が認められますが、注意すべきなのは即売会による販売は認められてもそれ以外の店頭販売やネット通販、転売・中古販売は認められないということで、やはり無制限な商業化ということに関しては原作者間でもそれなりに意見が分かれるということもあるのでしょう。
また興味深いことはいわゆるボーイズラブ(BL)等も含めた性的表現も法律や公序良俗に反しない範囲であれば許容されているということで、やはり現代における同人(二次創作)活動の広がりはこれら抜きでは成立しないということも考えると、つまりはこうした社会的に微妙な活動も今や一定の文化として認められるようになってきたと受け止めるべきなのでしょうね。
ただそれが文化活動として末永く続いていくためにはやはり当事者によるきちんとした歯止めが利いているのだと周囲が認識出来ることが必要で、特に性や暴力の表現に関しては成人向けコンテンツの分離・隔離に厳しいアメリカからの横やりが入ってくる可能性があることも考えると、単に売り場で年齢確認を行うと言った程度の対応では厳しいんじゃないかなという気はしています。

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コメント

なにかこれは微妙にありそうな記事ですよねえ。
ネットの記事配信ってこういうことがあるから用心がいるってことですね。
どこかに注釈でも書いておけばいいのに…

投稿: ぽん太 | 2013年12月21日 (土) 10時33分

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