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2013年12月24日 (火)

迷走する公立病院の運営がもたらずもの

来年度の診療報酬改定がどうやら名目プラマイゼロ、実質消費税の損税が拡大する分のマイナス改定になりそうだと報道されていますけれども、昨今の社会保障費削減が求められる流れの中でさほど意外性のない話ではないかと思いますが如何でしょうか?
ともかくも医療業界としてはこれまで以上に自主的な経営改善努力が求められるということになるわけですが、そんな中で先日常勤医の大半が一斉逃散を図りまたも崩壊か?と思われた北海道の松前町立病院から、こんなニュースが飛び込んできました。

町立松前病院長が辞意撤回(2013年12月20日読売新聞)

 町立松前病院の木村真司院長(49)は19日、石山英雄町長と同病院で会談し、辞意を撤回した。木村院長とともに辞意を示していた医師7人の大半は、新年度も残留する見通しだ。

 この問題は、今年春に定年退職した同病院の前事務局長の再任用を巡り、町や町議会の対応に不信感を募らせた医師8人が辞意を示していたものだ。

 町議会は18日、医師らの要求に沿って前事務局長を再任用できるようにする条例を可決。さらに、病院の独立行政法人化に向けた調査費を盛り込んだ一般会計補正予算案を可決した。独立行政法人に移行すると、院長は町側の同意を得ずに職員を採用したり、予算案を作ったりすることができるようになる。

 19日の会談では、石山町長が「町民の命と健康を守るため、なんとか辞意を撤回してほしい」と要請。木村院長は「病院側の権限を認め、運営を任せてもらえるなら、当面はここで医療を続けたい」と応じた。

 医師らを慰留していた「松前病院を守る会」の副会長で薬剤師の川内谷直志さん(49)は「トラブルが再発しないように、推移を見守りたい」と話している。

北海道・松前町立病院長、辞意を撤回 4月以降も勤務 常勤医7人の大半も(2013年12月19日北海道新聞)

 【松前】渡島管内松前町の町立松前病院の木村真司院長ら常勤医10人中8人が辞意を表明している問題で19日、木村院長が「当面、松前で医療を続ける」と述べ、来年4月以降も院長を続ける意向を示した。院長以外に辞意を表明している常勤医7人は、大半が同病院で勤務を続ける見通し。

 同病院で開かれた町と病院との合意事項を確認する会合で、院長が述べた。会合には木村院長や石山英雄町長、渡島総合振興局の中西猛雄局長らが出席した。

 会合で木村院長は石山町長に対し「地方公営企業法に基づく病院管理者としての(院長の)権限を尊重し、病院運営に全面的な協力をしてもらえるか」などを確認。石山町長が了承したため、木村院長は「私に残ってほしいという住民の強い思いを受け止め判断した」と述べ、現職にとどまる考えを示した。

 石山町長は会合終了後、「病院、住民の健康を守る立場から、ひと安心した。院長の判断に心から感謝し、患者の不安を早く解消したい」と話していた。

この逃散(未遂)の件については先日も少しばかり取り上げたところですけれども、院長権限を主張して事務方の前トップの定年退職後の継続雇用を希望した院長と町側が対立、院長に続いて勤務医の大半が辞職の意向を示したということでしたが、結果的には町側の全面敗北という形で落ち着いたようです。
もともと田舎にあって全科診療を掲げる院長の方針に対して全国から分不相応な医師・研修医が集まっていた病院ですから、院長一人が辞めれば病院そのものが崩壊するという危機感を背景に、町役場を包囲したという町民ら5000人のシュプレヒコールを町側も無視出来なかったと言うことでしょうか。
同病院は老朽化に伴い建て替えを計画しているようですが、これまた例によって町側と院長側とで意見が全く食い違っていると言いますから、今後どのような騒動が再燃することになるのかと早くも興味も深まるところですけれども、もともとは急速に人口減少が進む8000人の小さな町がどれほど医療に投資出来るものかと言う素朴な疑問がありますよね。
このあたりは「新小児科医のつぶやき」さんのところで検証されていますけれども、院長・前事務局長のコンビで何とかかんとかやりくりしているとは言えこんな田舎町で医師10人の病院を抱えるというのがそもそも分不相応とも言え、実際本来なら病院に渡るべき道からの補助金の類も町側が取っていたと言いますから、はっきり言えば自転車操業に近い状態だったのではないでしょうか。

ともかくも松前町の事は松前町に任せるしかないとは言え、社会保障費がどんどん削減されかねない時代にあって公立病院の経営も今まで以上にシビアな前提条件の下で将来も見越して再計算しなければならないはずで、単に「先生方もっと売り上げを増やしてもらわないと」とハッパをかけるだけでは早晩立ちゆかなくなるのが目に見えています。
町立松前病院とはいささかその崩壊の規模が異なりますが、かつて300床の基幹病院が突然の閉鎖ということで大いに話題になったのが銚子市立市民病院で、その後2010年から常勤医一人といういささか寂しい状況で再出発を果たしたことはすでにお伝えしたところですよね。
もともと財政難を市側も補填できず破綻に至った病院なのですから、画期的な改善策でも提示出来るということでなければよほどに黒字部門に絞って身の丈にあった診療を行っていくくらいしかないと思いますけれども、どうやらせっかく再開したのに再び焦げ付き始めているというのは松前町などにとっても参考にすべき事例ではないでしょうか。

財政危機問題で銚子市行革審 市立病院赤字補填 市に見直し求める(2013年12月19日東京新聞)

 銚子市の財政危機問題をめぐり、市行財政改革審議会(会長・伊永(これなが)隆史千葉科学大副学長)は十八日、市財政を圧迫する市立病院について、指定管理者と結んでいる赤字補填(ほてん)の補助金交付に関する協定の見直しを市に求めた

 市は会合で、市立病院で本年度見込まれている六億三千五百万円の赤字に関し、補助金として一般財源から支出する方針であることを説明した。

 委員からは、赤字続きの病院管理者に役員報酬を支払う妥当性や市の監査の不十分さを指摘し、「赤字穴埋めの協定はとんでもない」「市民に寄付をお願いできるか」などの意見が出た

 これに対し、越川信一市長は「病院に対して管理監督機能をきちんと果たす。年明けから開く地区懇談会で、市民に赤字を負担する覚悟があるか投げ掛けたい」と答えるにとどめた。 (小沢伸介)

正直赤字を抱えてまで維持する気がないというのであれば最初から再開などしなければいいだろうに…と思いますけれども、これまた以前にもお伝えしたように同病院の破綻で市内の患者が近隣の旭中央病院などに流入し救急がパンク状態になるなど、地域医療崩壊のドミノ倒し現象が危惧される状況だと言いますよね。
田舎の公立病院などというものはもともと住民サービスの側面が大きく、市民なり町民なりが隣の町に出かけていって頭を下げて入院をお願いするなど形見の狭い思いをしている、どうしてうちの町ではいつでも入院出来る病院がないんだと言われれば選挙対策も込みでそれでは病院の一つも用意しようかと言う話になりますけれども、本来医療というものはそういう考え方で整備していられるほど余裕ある業界ではないはずです。
さすがに最近ではそう聞かなくなったような気もしますけれども、一頃は田舎町が都会のベッドタウン化を画策して外から人を呼び込むのに「24時間いつでも診てもらえる町立病院があります!」なんてことを公言していた、なんて話もあるように、単純な経済原則や公平な医療リソース分配と言う考えからすればそこに本来ないはずの医療サービスが用意出来るというのは、非常に強力なアピールになると言うことですよね。
しかし社会保障費削減のあおりで診療報酬などもこれからさらに一段と厳しく切り下げられていくだろう中で、そうした無理矢理用意された住民サービスとしての医療は自治体にとっても多額な支出を強いる諸刃の剣とも言え、要するにこれからはいかに医療を整備するかということと同様に、いかに医療を削るべきかということも議論すべき時代になったと言えるでしょう。

以前に大阪では住民サービスとして無茶な診療を強いられていたとして阪南市立病院があっさり逃散から崩壊へというおきまりのコースを辿ったと話題になりましたけれども、実はその陰で同じ大阪は松原市ではひっそりと市立病院を廃止するという「異例の条例」が可決されていたことはあまり大きなニュースになっていませんでした。
施設の老朽化や医師数減少などで万年赤字が続き、とても建て替えの費用を負担できないということが直接的な原因であったと聞きますが、そもそも大阪府内のようなどこにでも民間病院がある中で公立病院をわざわざ維持する意味というのは、民間病院ではとうてい受け入れてくれないような「市民」をねじ込む先という意味でしかないはずですよね。
当然ながら条件のいい民間病院から引く手あまたのこの時代に、わざわざそんな地雷だらけの病院に行きたがるのはよほどに公立病院でしか出来ない地域医療のあり方に一家言ある先生ででもなければ、それこそ民間病院では到底受け入れてくれないような先生ばかりと言うことにもなりかねませんが、病院の選択枝が幾らでもある一般市民にとってもそんな病院を税金で赤字補填しながら運営することがありがたいかどうかです。

都市部と田舎では話が違うと言う声もあるかも知れませんが、例えば冒頭に取り上げた町の基幹病院たる町立松前病院なども都市部の基幹病院と同様の多忙さであったかと言えば到底そうは思えずで、やはり単純な医療への需給関係よりもそれ以外の思惑も込みで整備された施設であり、経営努力の名の下に医療需要をわざわざ喚起し(言葉は悪いですが)いわば医療費を浪費していたという側面はあると想像できます。
別にそれが悪いというわけではなくて、医療とは言っても商売である以上はルールの中で最大限儲けようとするのは当たり前のことなのですが、一方では医者が足りない、医療費はこれ以上増やせないと大騒ぎして社会保障の行く末がシビアに議論されている一方で、他方では需要もないところに無理矢理需要を掘り出すようにしてリソースと医療費を無駄遣いしているというのもなんだかなあ…ですよね。
民間病院が医療提供の主体を担っている日本では医療が計画通りにはいかないとはよく言われるところですが、考えて見ると民間病院と言うものは一般に需要が十分にある(すなわち、リソースが不足している)地域で健全にやっているものがほとんどであって、ちょっとそれはどうなのか…と疑問符をつけたくなるような経営をしているのはむしろ公立病院が大多数であるというのは逆説的で興味深い現象だと思います。
行っている医療の効率性から言えば民間病院がまず需要があるところをきっちりとやり、どうしても赤字にならざるを得ない隙間を公立病院が埋めていくというスタイルが良いのかなと思うのですが、公立病院が下手に経営努力に走るよりそういう最小最低限に限定した割り切った診療に徹した方が国全体で見ると、公立病院の赤字も総医療費支出もむしろ減らせるようになるのかも知れませんね。

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コメント

松前町完全敗北ワロスww
公衆の面前でこうまで恥かかされたんじゃハラワタ煮えくりかえってるだろwww

投稿: aaa | 2013年12月24日 (火) 08時40分

医療は営利を求めないという建前は完全に破綻しています。
だいいち利益が出せないと経営が続かないのは日医が一番知ってることでしょうに。
あと営利追求の必要がない公立の強みを発揮してる公立病院も少ないですよね。
赤字がかさんでるのも単に経営が下手なだけに見えるケースが多いです。

投稿: ぽん太 | 2013年12月24日 (火) 08時59分

分不相応な病院はたたんでしまえよ
院長らは自分の病院でも立ち上げればいいじゃないかと思う

投稿: | 2013年12月24日 (火) 10時27分

まあたためとまでは言わずとも、自治体が財政上も無理をして不相応な病院を維持することが、回り回って国の財政を圧迫し本当に必要な医療の妨げになっていると言うことが問題でしょう。
万年赤字の自治体病院が黒字化した!なんてニュースが美談かなにかのように報じられていますけれども、それが適正な医療によって達成されているのかどうかという検証もこれからは必要になってくるでしょうね。
利益を上げることが正義であれば啓発と称して住民を囲い込み病気の怖さを叩き込んで、連日過剰診療をするといった悪徳宗教紛いのやり方が正義ともなりかねませんが、財政上もうそれは許されないはずです。

投稿: 管理人nobu | 2013年12月24日 (火) 11時15分

>啓発と称して住民を囲い込み病気の怖さを叩き込んで、連日過剰診療をするといった悪徳宗教紛いのやり方

地域医療のモデルケースとして称讚されそうな悪寒

投稿: tama | 2013年12月24日 (火) 12時33分

国公立はたとえ赤字であっても自分の腹は痛むことなく、税金使って喰っていける、という商売で全く羨ましいですな。民間ならば、整理解雇もありますし、減俸もありますし、ボーナス遅配、ナシ!となることさえあります。時間外手当ても踏み倒すブラックも多数です。こうやって這いずりまわる仕事です。
いゃ〜公務員だったのに、その立場を辞めた自分が自分を笑ってしまいます。

投稿: striker | 2013年12月24日 (火) 19時23分

松前の院長&事務長コンビも単年度黒字まで出したと言うくらいだから、少なくとも経営手腕に関してはそれなりのものがあったのでしょうな
素人の行政に横から口を出されていいことになった記憶がないので、結果的に全権委任の言質を取り付けたことはよかったのではないかと
ただこうなった以上は少しでも失敗すれば鬼の首を取ったように言われるのでしょうが

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年12月24日 (火) 19時34分

こんばんは

>民間病院がまず需要があるところをきっちりとやり、どうしても赤字にならざるを得ない隙間を公立病院が埋めていく

まさに松前はそのような地ではありませんか.
札幌函館間の移動にかかる時間以上に,函館松前間の移動に時間がかかります.江差の方が近いとはいえ道立江差病院もあの程度ですしね……
そういえば松前も元は道立でしたっけか……

まぁ,一度行ってみてください.百聞は一見にしかずです.桜の季節なら少しはいいでしょうから……

投稿: 公務員の北の医師 | 2013年12月24日 (火) 22時17分

そもそもは事務長の再雇用条件からもめたようだが
なぜ、他の再雇用より好条件でないといけなかったのか
いくら病院にとって功労者だったとしてもさ
まあ、医者からみたら、それじゃあんまり・・・に思えたのかも知らんけど

零細自治体で定年後に頼まれる役職なんて、かけずり回っても実費程度のお手当てでほぼボランティアだったりするのに
それなのに住民からは何十万ももらってるように誤解されてて嫌だなんてケースもある
難しいな

投稿: | 2013年12月25日 (水) 10時04分

事務長、事務長って書くとその程度の役職と認識されてしまっている感がありますが、
この事務長本来は事業管理者(一般企業で言う社長)になるはずだったのに、
それを町長?町議会?がつぶしたというのもあるんですけどね。

投稿: | 2014年8月15日 (金) 12時54分

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