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2013年12月26日 (木)

「医は算術」は許されない?

14年度予算案で社会保障費が空前の30兆円超えだと話題になっていますけれども、いくら増え続ける社会保障費に対応するという名目が消費税増税の一番の理由となっていたとは言え、増税した以上のペースで歳出が増えていったのでは意味がないと言う声は当然出てくるわけですね。
来年度の診療報酬がいわゆる厚労族の強力な反対を押し切る形で実質消費税分相当のマイナス改定になったことは象徴的でしたが、主に財務省筋からの圧力で医療に対しても公的支出削減が急がれる中で、先日は厚労省の側から財務省との合意としてこんな話が出ていました。

うがい薬のみ、保険適用外に…医療費61億削減(2013年12月24日読売新聞)

 厚生労働省は、医療機関でうがい薬のみを処方する場合、来年度から保険適用しない方針を固めた。

 25日に開く中央社会保険医療協議会で示す。

 医療機関を受診してうがい薬を処方された場合、初診料や再診料などのほか、薬局で調剤基本料などがかかる。同省は、風邪などでうがい薬しか処方されない程度であれば、医療の必要性は乏しいと判断した。厚労省では、うがい薬を対象外とすることで61億円の医療費削減につながると見込んでいる。

 ただし、他の風邪薬などと一緒にうがい薬が処方された場合は、これまでと同じように保険適用される

<うがい薬>保険適用外に…国費61億円削減効果(2013年12月24日毎日新聞)

 財務、厚生労働両省は24日、医師が処方する「うがい薬」について来年度以降、同時にほかの薬を処方しなければ公的医療保険の対象から外すことで合意したと発表した。同薬の処方だけのために医療機関を受診する人を減らし医療費抑制につなげるのが狙い。25日、厚労相の諮問機関、中央社会保険医療協議会(中医協)に提示し、了承を得る。

 これにより、国費ベースで約61億円の削減効果が見込めるという。うがい薬を巡っては民主党政権当時の2009年、政府の行政刷新会議の事業仕分けで「薬局で市販されているなら医師が処方する必要性に乏しい」として、漢方薬などとともに保険の対象外とする方針が打ち出されたが、結論を先送りしていた。【中島和哉】

このうがい薬というものの効能にも諸説あって、別に水でうがいしても変わらないだとか正しい方法でやらなければ意味がないだとか言われますけれども、個人的にはうがい薬だけを求めて受診する患者の規制で年間60億も節約が見込めるほど医療費がかかっているものかと言う点に意外さを感じましたが、一般内科ではともかく耳鼻科領域ではそういう需要も大きいのかも知れません。
実際に患者負担がどれくらい違うのかと思うのですけれども、イソジンうがい液の場合ですと薬価が3.3円/mlとたかが知れていますが、初診料が270点で調剤基本料40点+外用薬調剤料10点ですから実はこっちの方が高くつきそうで、一方で50mlのイソジンうがい液が500円そこそこで売っているのを見ると、イソジンうがい液一つだけ求めて病院にかかるというのは患者にとってもコストパフォーマンスの良いやり方ではないようですね。
これがアズノールうがい液になると52.1円/mlと一気に高くなりますから処方箋を切ってもらう意味が出てくるのでしょうが、いずれにしてもこういうルールが出来れば他の薬もついでに処方してくれと言い出す人も増えそうですからかえって医療費が増えるというケースもあるわけで、計画通りに医療費削減につながるかどうかは微妙な気がしますがどうでしょうか。

実際上の効能はともかくとしても注目すべきは医療費削減の一手法としてこうした「保険収載薬の保険からの切り離し」が限定的とは言え行われるようになったと言うことで、世間の噂では次は漢方か、外用消炎鎮痛剤かと言う話ですけれども、特に注目されるのが近年何かと話題になっているOTC薬の拡大との絡みで、「一般薬局でも市販されているものは保険外扱いにする」と言う動きが広がるのかどうかです。
最近はかなり強力な薬剤などもどんどん市販化されるようになってきていて、きちんと知識をもって使うのであれば市販薬だけでもかなりなことが出来るようになってきた感がありますけれども、もちろん市販薬も24時間のドラッグストアや通販で入手できるという利便性があることは事実ながら、やはり長期間使い続けるとか多量に使うといった場合には病院で処方してもらった方が安上がりになるのは当然ですよね。
ただ安上がりになるというのはあくまでも窓口での自己負担が安いということであって、回り回って税金なり保険料なりで国民が負担するという構図には変わりないわけですし、特に昨今では「病院など行きもしないのに高い保険料ばかり払わされるのは馬鹿馬鹿しい」という声も根強くある中で、一部の方々ばかりが皆保険制度を濫用してその他大勢の人々に負担を押しつけているという不公平感にも結びつく可能性があります。
そうなると一番判りやすいのは保険扱いで処方しなくてもそこらの薬局で買えるものは自費で買ってくださいという理屈ですが、当然ながら「結果として簡単な薬だけで済むものだったとしても、そう判断するに至る専門家の診察という過程こそが重要なのだ」とは某日医あたりならずとも主張する方々はいらっしゃることでしょうね。

日本では皆保険制度のおかげで窓口負担は非常に安くあがっていることもあって、保険料を払っている以上病院をどんどん利用しなければ損だという考えに陥りがちですし、一部の医師・医療系団体なども長年「皆保険制度で早期受診が出来るから日本人は長生き出来るのだ」式の主張を繰り広げていて、もちろんそれはそれで一面の真理であったとは思います。
ただ日本人が長生きするのが当然になった結果身体は保っても頭の方が保たない人が増えてきたとか、単に病院施設のベッドで寝たきりで生きているだけという方々が増えていっているだけなのに意味があるのか?と言う主張も次第に力を得るようになった結果、最近では健康寿命の延長といった言い方はしても単に長生きすることだけを求めるということはあまり言われなくなってきましたよね。
某先生のように癌検診など無意味だと言う主張も極論ですけれども、とにかく何でもかんでも病院にかかって十二分に検査も治療もしてもらうのがいいと言う考え方も極論と言うべきで、いくら日本の医療が出来高払いだとは言っても極端な過剰診療は保健医療財政を圧迫するだけだと言うのが昨今の流れだと思います。
それではどこを削るかと言うことになった場合に、やはり人の命に直接関わるような重大疾患や救命救急に関わるようなところは最後まで温存したいと誰でも考えるでしょうから、そうなると放っておいても大差はないだろうが「せっかく来たんだから○○をしていきましょうか」式に行われてきたcommon diseaseの診療などは一番狙われやすいんだろうなと言う気はしますね。

アメリカなどでは保険の支払いをするのが民間会社であるだけに外来で行うスクリーニングの項目に関しても非常に厳密な評価がなされていて、日本のように半ば医者の趣味も混じえてコストパフォーマンスの悪い検査をバンバン行うといったことは出来ないようになっていますけれども、公的保険の日本でも最近は財政上の要請からようやく医療のコストパフォーマンスと言うことが言われるようになってきています。
ただもともと日本の医療は世界的に見てトップクラスのコストパフォーマンスを誇ってきただけに、下手にこれを追及しすぎると「乾いた雑巾を絞る」ようなことになりかねないと言う懸念はありますけれども、需要が年々増えている成長産業なのに国が一生懸命規模を押さえようと努力していると言う状況を見ると、やはり「命はお金に換えられない」という命題は今後いつまでも通用するものでもない気がしますね。
近年では急性期、慢性期を問わず医療費抑制の一環として定額払いということが取り入れられていて、限られた収入の中でどこにお金をかけるべきかという判断を一般臨床医も当たり前に行うようになっているはずですが、やはり昔ながらの習慣で頑なに「いや、この検査は絶対にいるから」と赤字も構わずにオーダーしてしまうという癖が抜けきらない先生も散見されますよね。
マスコミや一部医療関係者も未だに好んで「医は算術であってはならない」と言う言い回しを使いたがりますけれども、物理的にかけられるコストの上限が定められるようになってきた時代にあって最も効率的に患者利益に結びつく医療を行っていくためには、あらゆる医療従事者はどうしても算術に長けている必要があるんじゃないかと思います。

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コメント

保険診療の基本的なルールも知らない研修医がいるんですよね。
昔はレセプトチェックなんかで自然に覚えたもんですが今はローテでそういうのさせてないからでしょうか。
ああいうのは誰が教えるべきなんでしょうかね?

投稿: ぽん太 | 2013年12月26日 (木) 08時45分

レセプト切られたら給料カットなんてことはやらないの?
会社に損失与えたら普通始末書くらいは書かされるよね?

投稿: あまちゃん | 2013年12月26日 (木) 09時57分

明らかな知識不足や勘違いで高額な査定を食らえば上司なりから指導はされるでしょうけれども、問題になりやすいのは都道府県等によって査定の基準が違ってくる場合ですよね。
笑うべきケースとしては査定をする側だった老先生が勤務先で査定を食らうといった場合ですが、本来する側される側双方の立場を各人が経験しておくべきなのかなと言う気もします。

投稿: 管理人nobu | 2013年12月26日 (木) 10時24分

稼ぎの無い人を生かしたところで国民の生活が豊かになるわけじゃないのだから、老人医療や難病医療、ナマポや低所得者の医療は成長産業と言えないね

労働力を再生産するという点では医療は経済成長に寄与している。労働しない、できない人を治療しても経済全体にとって利益無し。

スウェーデンの福祉政策ブレーン「どんな理由であれ、職に就いていない人は国家に貢献していない」

投稿: | 2013年12月26日 (木) 10時56分

>そこらの薬局で買えるものは自費で買ってください。
たぶん本音はそうなのでしょう。欧州の町中には薬局は沢山あるが開業医はほとんど見当たらない。
軽いカゼごときでわざわざ受診するというのは日本人だけなのかもしれません。
高齢者や終末期への常軌を逸したレベルの過剰診療や濃厚医療こそ保険適用外にすべきでしょう。
またカゼ薬のPLとかの処方も適用外にしたほうがいいでしょうね。特に高齢者には明らかに有害なので。
レセプト審査を適正化すれば、自然に不適切な処方は淘汰されて、医療費のムダは削減できるはずです。

投稿: 逃散前科者 | 2013年12月26日 (木) 11時01分

高齢者/難病/生保などはそれまでの社会貢献度を綿密に査定すべき。
非生産人口の増加していく社会において「いのちはすべて平等だ」とかいうスローガンで生保を含めて過剰医療を際限なしにごり押しすれば早晩経済が滅びるはず。
開業医の半分は爺医かその予備軍なので彼らの生産性や影響力も今後は低下していくはず。

投稿: 逃散前科者 | 2013年12月26日 (木) 11時40分

ほんとに風邪薬、シップ、うがい薬、整腸剤なんかは薬局で買ってもらっていいんですけどね。

医者に診てもらって処方してもらうと安心感があると言われる方もおりますが、安心感を求めて医療機関を受診するというのはそろそろ何らかの形で制限してほしいです。

そうすると町医者は淘汰されていってしまうのかもしれませんが。。

投稿: 一般外科 | 2013年12月26日 (木) 14時49分

>>レセプト切られたら給料カットなんてことはやらないの?
会社に損失与えたら普通始末書くらいは書かされるよね?

医師のミスでレセプトを切られるということは「原理的」にはありません。なぜなら、レセプトを提出する前に自院で必ずチェックを行い、レセプトを通る形でしか請求しないからです。

レセプトを切られるので多いのは、チェックミス(医師の過失ではない)、治療上必要だったが保険上は認められにくいもの、などです。保険上完全に認められないものはアウトですが、微妙なのは「抗生剤は14日」とか、「屯服薬は10回分まで」とか、酸素の値を指で測る検査を、一月の入院中にで22回もやったのは多すぎ、14回にしろ(これは単純に審査側の言いがかり)とかです。レセプトを切る側もある程度の「ノルマ」があるという、交通取り締まり警察官のような状態になっています。

審査側がミスをした場合、あとから修正で追加の削減などが来ますが、請求側(病院)が病名を一つでも漏らしたら修正不能でごっそり切られる、という非対称性も理不尽で問題です(これも、法的根拠なし、審査機関でも建前と本音が別れる部分)

これはあかんな、という検査をする医師には、もちろん指導が入りますが...。

投稿: おちゃ | 2013年12月26日 (木) 14時59分

>逃散前科者さま

まったく同意です

表面上は綺麗に見えて弱者を重んじるような反競争思想、反市場思想、悪平等思想が経済財政をメチャクチャにした。

ちなみに既得権益保守が弱者擁護左翼の理論を駆使して私腹を肥やしたのが医師会と自民党。腐りきってるわ

投稿: 記者 | 2013年12月29日 (日) 15時28分

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