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2013年12月18日 (水)

医師の労働環境改善とは

昨今は国立大学や国立病院も独法化が当たり前という時代ですが、行政改革の一環として先日こういう話が出てきたそうです。

国立病院職員「非公務員」に…労働条件を弾力化(2013年12月16日読売新聞)

 政府の行政改革推進会議(議長・安倍首相)がまとめる独立行政法人改革に関する報告書の原案が16日、明らかになった。

 国立病院機構の職員を「非公務員」にすることや、理化学研究所など「研究開発型」法人が研究者の業績に応じた給与を支給できるようにすることなどが柱だ。現在100ある独法の統廃合は最小限にとどめる。

 行革推進会議は20日に報告書をとりまとめる。政府はこれをもとに独法改革の方針を24日に閣議決定し、2015年春から実現したい考えだ。

 国立病院機構(143病院、常勤職員約5万5000人)の職員は法律上、国家公務員扱いとなっている。医師を含め原則65歳で定年退職しなくてはならず、短時間勤務の正職員を雇うことができないなど「職員確保がむずかしい」といった指摘があった。原案は、機構職員を公務員から外し、給与水準や労働条件を自由に定められるようにする。

しかし医療に関しては日本の場合公立病院や非営利病院よりも一般の民間病院の方が圧倒的に多いという事情があって、それが医師や施設など医療リソースの計画的(強制)配置を妨げる主因だと指摘されていたところなんですが、一見するとこれはそうした国の本音を実現していくにあたって逆風になりかねない話ではありますけれども、実現にあたっては厚労省あたりがどう考えるかですよね。
世間の一般論として言えば公務員を非公務員扱いにするのは「格下げ」だと言われそうですが、医師の場合に関しては給与体系の決まったルールがない民間病院の方が国公立病院よりも待遇が良いのが当たり前ですから、普通に考えると待遇改善につながるということになりそうです。
特に実際には常勤で仕事をしているのに公務員定数の関係で非常勤扱いされている先生方にとっては朗報でしょうが、逆に田舎の公立病院一筋で何十年ものたくっている永年勤続公務員の先生にとっては積み上げてきた年功序列の給与や期待していた多額の退職金はどうなるんだと、ちょっとした悲報かも知れません。
ただ近年の医療改革の流れとしてやはりしっかり働いている人には十分に報いるべきだという考え方があって、ほぼ純然たる年功序列で決まってきた医師給与体系が今後は出来高払いなども含めた自由度の高いものに変わっていく途上にあるのだとすれば、現行の杓子定規な公務員給与体系では到底対応できなくなってくるのは当然と言えるでしょうね。
ところで雇用ということに関しては医療に限らず様々な考え方があって、かつてのように激務でも高報酬を目指すのが正義という考えから、今は低賃金でも自分の生活を守れる暮らしがいいだとか、あるいはきちんとした安定雇用が一番だとか色々な価値観がある中で、先日こんな記事が出ていたのを紹介しておきましょう。

医療職の雇用の「質」って何だろう?(2013年12月12日日経メディカル)

 厚生労働省は、2014年度から医療機関のスタッフの「雇用の質」の改善に本格的に取り組む考えだ。今年8月の2014年度予算の概算要求で、その目玉として各都道府県ごとに設ける「医療勤務環境改善支援センター」(仮称)の設置費用など、約3億円を要求している。

 既に今年度から、勤務環境の改善に取り組む病院に、社会保険労務士や医業経営コンサルタントなどをアドバイザーとして派遣する事業をスタートさせた。来年度は、こうしたスタッフを医療勤務環境改善支援センターに配置し、労務管理と経営の両面にわたって、ワンストップで個別の医療機関のニーズに応じた「勤務環境改善計画」の策定、実施、評価などをサポートする体制づくりを目指す。

 厚労省は、2011年度にも雇用の質の向上に取り組んだが、それは主に看護師を対象としたもの。今回は、医師を含む全医療スタッフに対象を広げた。医療勤務環境改善支援センター事業の経費を、労働基準局と医政局という二つの局の予算で賄う計画となっている点も、同省の意欲の表れだ。

ワークライフバランス向上がメーン

 ところで、雇用の「質」とは具体的に何を意味するのだろう。マンパワー不足の解消、すなわち雇用の「量」の確保とは一線を画した取り組みであるのは当然のこと。厚労省の資料では、ワークライフバランス(仕事と生活の調和)による離職の防止などを中心的な対策として捉えている。

 例えば、毎年違う看護師を100人ずつ3年間雇用する場合と、同じ看護師を100人ずつ3年間雇用する場合とを比べると、雇用の量は変わらない。しかし、勤続年数が増えることによる経験の蓄積を考慮すれば、3年間メンバーが変わらない方が、医療安全面では望ましいだろう。厚労省は、この点も雇用の「質」向上のメリットとして挙げている。

 時間外勤務の削減や短時間正職員制度の導入などによって、離職の防止が図られ、平均勤続年数が延長できれば、確かに雇用の「質」は改善されたといえるだろう。

 しかし、「質」を口にするのであれば、勤務環境改善やワークライフバランスだけでは、十分な対策とはいえないのではないだろうか。仕事のやりがいや公平な人事考課など、もっと業務に直接かかわる部分の見直しも同時に実現してこそ、本当の意味で雇用の「質」が改善されたといえるはずだ。

 医療勤務環境改善支援センターを活用して雇用の「質」を改善しようとする医療機関には、そこまで視野に入れた取り組みを求めたい。同センターに配属される予定の専門スタッフにも、それに応えられるだけの突っ込んだアドバイスを望みたいものだ。

日本の医療現場の不思議な点として特に医師において顕著に見られることですが、多忙かつ激務な急性期基幹病院で日々奴隷労働に勤しんでいる先生は給料が安いのに、暇な療養病床でのんびり勤務している先生は給料が高いという逆転現象があって、一つには先に述べたように医師の給与がほぼ年功序列で決まってきたことから、相対的に年齢層の高い後者の方が給料は高くなりやすいと言う事情はあるでしょう。
ただもう一つの不思議な点として上げられるのが昔から楽で収入も良い施設に必ずしも医者が集まるわけではないという現象があって、自分のやりたい医療が出来ないだとか最先端の医療を学びたいだとか色々な理由はあるのでしょうが、心身共に酷使され金銭的に報われるところも少ないのに「いい病院」に行きたがる先生が多かったというのも事実ですよね。
では「いい病院」とは何かと言うことなんですが、一般的に最先端の医療技術を駆使して高度な医療を行うのがいい病院であって、古くさい薬を使いありきたりな治療しか出来ないのは悪い病院だと言う考え方があったわけですが、考えてみると昨今盛んにヨイショされることが増えてきた家庭医だとか総合医だとか言うものは、どちらかと言えば後者の立場を最初から目指しているようなものですよね。
それが故にかつてはこうしたgeneralistとはspecialistとしてやっていけなくなった老先生が仕方なく転落していく境遇であるかのようにも見なされていたところがあって、先に言うような楽で暇な施設で働きたがる医者が少ない(少なかった)と言うのもspecialistとしてやっていける若い間はそれを極めないのは罪悪だ、と言ったような価値観が当たり前のものとしてすり込まれていたせいもあるかと思います。

ただ最近はそうした当たり前だと思われていた医師の価値観も次第に変わってきていて、最初からQOMLを重視した職場を目指す先生方も増えてきたせいかいわゆるドロップアウト先になるような楽なポストはほぼ埋まってきたと言う説もあるようですが、制度的にも専門医資格の一つとして総合医が認められるといった話があるように、generalistもまた一つのspecialistとして地位を確立されつつあるようです。
もちろん大病院でどこの診療科にかかればいいのか判らない患者をさばく総合診療の先生と、老健で二昔ほど前の医療を相も変わらず続けている先生とでは同列に扱うのもどうかと言うことですが、基本的に急性期も含めて医療がガイドライン化、標準化されていく流れにあるというのは、そこらの医師に出来ない治療をやってしまう本当の意味でのspecialistは実はそう多くは必要とされていないと言うことなのかもしれません。
医療費削減が国策となっている中で考えると余人に真似の出来ない特殊技能を持つ先生には専門医加算なり何なりで余計なお手当を出すべきと言うことになるでしょうが、名前だけの専門医が量産され給料だけは高いのに専門性の壁を口実にちょっとでもそこから外れた患者はみないと言うことになれば非常に非効率的で、今後専門医認定を厳しくするというのもそうした状況を危惧してのものだとも言えそうですよね。

いささか脱線しましたが、雇う側からすれば「いい病院」と言う看板で安く大勢の医者を酷使できる状況が都合が良かったのも事実で、そうした価値観が続いた限り自ら進んで悪い雇用環境に甘んじようとする医者も一定数いたと言えますが、医師もようやく逃散だ、立ち去り型サポタージュだと言われるように労働環境に意識が向き始めた中で今後どのようなところを目指すようになるかです。
特に今後注目されるのは条件のいいドロップアウト先はほぼ埋まったとも言われる時代にあって、医学部定員大幅増によって続々参入してくる若手の先生方がどのように振る舞うかですけれども、一つの見方としてはそうした古来の価値観とは別に雇用先がないと言う消極的な理由で多忙な施設に流れてくる先生が増えるという可能性はあるでしょうし、多くの病院側もこれを期待しているわけですよね。
他方では初期研修もそこそこにドロップアウトしてしまうことにも躊躇がないと言われるほど世間並みにQOMLを重視し始めた今の時代の若手が果たして自らそんな選択をするだろうか?と言う疑問もあって、その場合にはやはり医師不足の施設は他力本願ではなくまず自ら労働環境を改善するという努力をしなければならないということになるでしょう。
もちろん急性期=多忙で悪い職場というわけではなく、急性期でバリバリやりたい仕事も出来るが交替勤務制の完備等々でアフターファイブも充実させられるという施設が理想であることは言うまでもないことで、ひとたびそうした環境を整えた施設が大勢の医者を集め巨大化し始めると、一気に医療現場の再編が進み厚労省の目指すようなリソースの集約化が達成される可能性もあるわけですね。

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コメント

急性期の多忙な病院にQOMLを重視した若手医師が勤務すると、院内でサボタージュするような気がします。
労働環境改善なんてことを表立ってやると叩かれるのは見えてますから・・・
それが、多忙な病院にとって結構問題になりそうな気がします。

あと、国立病院機構の医師が公務員で無くなったら、製薬会社の接待を受けてもおとがめ無しになるんでしょうかねえ?

投稿: クマ | 2013年12月18日 (水) 08時00分

国立病院のあれは出来ないんじゃなくしないんだと思ってますけど。>待遇
だからルールが変わってもやることは変わらないんじゃないかと。
そんな病院でも行きたがる先生がいる限り同じことが続くでしょう。

投稿: ぽん太 | 2013年12月18日 (水) 08時47分

逆にこういうルール改定によって各施設に対する踏絵として機能するようにはなるかも知れませんね。
何ら改善するのに障害がないのにそれでも現行制度を続けるというのはつまりはそういう施設なのだと言うことで。

投稿: 管理人nobu | 2013年12月18日 (水) 11時51分

若手だと救急医療を含めて急性期病院で給与が安くても診療する事に意義を感じる部分もあるでしょう。
ある程度臨床経験を積まないと医者として機能しないという側面もある。
最近は大病院の診療科部長がアラウンド60で開業するケースが少なくないようで驚かされます。
学会などでいくら偉くても、院長以外はいつまでも病院にはいられない。開業するか施設長になるか。
定年制が廃止されて、高齢化してプライドだけ高くて働けない部長に30〜40年と死ぬまでエンドレスで居座られて、そういう爺医が病院に年々ふきだまっていくというのはどうでしょうか?日々忙しい病院としてはデメリットではないと思いますし、新陳代謝を失って錆び付いてしまうのではないでしょうか?
また病院は外来機能を大幅に縮小して、病院外来は重症および入院適応のみ診療。慢性安定患者を再診で継続診療しても報酬得られない)ような制度にすべきだと思います。

投稿: 逃散前科者 | 2013年12月18日 (水) 12時41分

現時点、民間だろうが、国公立だろうが、基本的に、病院での医師待遇、年収評価は年功序列です。
非公務員化によって・・・、働かない、働けない、二周くらい遅れている爺医を解雇しやすくすることが、
目的かもしれませんね。それくらいしか、旨味ないと思います。

癌センターや、有名施設病院の前期、後期修練医の待遇なんて、
コンビニバイトのアルバイトと同じような待遇か、それ以下ですので、これ以上
奴隷待遇を下げようがない。よって、若手なんて、上層部にとっては全く眼中に無いはずですから。

医学しか勉強してこなかった狭視野な勤務医集団ですから、
労使待遇交渉なんてのは、これっぽっちも、考えられないのですから、
このアイデアは使用者の思うつぼとなります。(苦笑)

投稿: striker | 2013年12月18日 (水) 23時15分

つーか格差反対だの医療の平等だの、「大きな政府」の推進や反市場主義を推進してきたのは医師自身ですから。

保険診療という共産主義(中流以上の健常者への搾取)を容認するくせに、なんで勤務医に「適正な対価」を払う必要があるんですか。

勤務医を奴隷にしているのは、資本主義(財政の少なさ)ではなく、共産主義(物価とサービスの統制)です。

そして医療の共産主義を守ってるのは資本家である開業医(医師会)です。

奴隷医師が文句を言うなら、需要と供給、消費と生産の市場原理を禁止して「適正なサービスと適正な価格の市場での自由な交換」を踏みにじっている医師会です。

医師会が保険診療という「労働者と企業(消費者)への搾取」と「共産主義」を止めない限り、奴隷医師解放は無いです。残念ですね。

左翼思想から脱却した「真っ当な自由経済を尊重する」勤務医の組合を作ったらいい。民間労働者はストの権利があるのだから、

文句があるなら救急車を叩き出せばいいんだ。これは労働者の権利なんです。(そして、患者と言えど適正なカネ出さずに治療を受ける権利は無い)

投稿: 記者 | 2013年12月19日 (木) 14時55分

バカ医師「市場原理だと弱者が医療を受けられなくなる!!!格差反対!!!」→労働者と企業の保険料負担増→勤務医待遇引き下げ圧力へ(爆笑


左翼イデオロギー(結果の平等)を推進して自ら貧しくなる糞勤務医(民医連工作員)はいつ矛盾に気が付くのか?

投稿: 記者 | 2013年12月19日 (木) 14時58分

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