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2013年12月 2日 (月)

医療に吹き付ける寒風は何をもたらすか

このところ財務省筋の一番の関心事はどうやら診療報酬削減に向かっているようで、先日来こんな記事が相次いでいます。

4兆円超の赤字削減を 14年度予算で財制審提言(2013年11月29日日本経済新聞)

 財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は29日、2014年度予算編成への提言書を麻生太郎財務相に提出した。政府の中期財政計画にかかげた国の一般会計ベースで4兆円を超える赤字削減を要請。診療報酬の改定がある医療費の抑制を「最大の焦点」とし、医師の技術料にあたる診療報酬本体部分の「マイナス改定」を求めた

 政府の中期財政計画は社会保障や公共事業などにあてる政策経費を税収でどの程度まかなえているかを示す基礎的財政収支が国・地方あわせて20年度に黒字化する目標をかかげる。提言書は14年度予算編成が黒字化への「試金石」と指摘。「これまで以上に厳しい姿勢で、聖域を設けず歳出削減に努めなければならない」と訴えた。

 個別課題では、社会保障で診療報酬改定への言及に多くを割いた。診療報酬は治療に使う薬や医療資材の値段である「薬価」と、医師の技術料の「本体部分」に分かれる。本体の引き上げは「正負の符号をはき違えている」とし、高収益を上げる医療機関などの高コストな提供体制を疑問視。逆に本体の引き下げが「理(ことわり)」との考えを示した。
(略)

診療報酬6年ぶり引き下げへ 政府方針、消費増税などに配慮、医師会反発も(2013年11月28日産経新聞)

 政府が、国民の窓口負担などで賄われる診療報酬を平成26年度改定で6年ぶりに引き下げる方針を固めたことが27日、分かった。診療報酬の「薬価部分」を減額し、医師の技術料となる「本体部分」を調整して実現する。複数の政府・与党幹部が明らかにした。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)も引き下げを要請する見通しで、プラス改定を求める日本医師会や自民党関係議員らが反発を強めそうだ。

 政府は、来年4月から消費税率が8%に引き上げられるのに加え、27年10月は10%への再引き上げが予定されていることから、「プラス改定で窓口の支払いや保険料が増額されれば、国民にとってダブルの負担となり、理解は得られない」(高官)とし、マイナス改定の方向で調整に入った。

 また、厚生労働省の「医療経済実態調査」で、民間病院の24年度の平均収支は7621万円の黒字(前年度比215万円増)、勤務医の平均収入も1590万円(同43万円増)となったことが判明。政府は、民間病院の経営状況が良好にもかかわらず、新たな国民負担を強いるのは難しいとも判断。今後、与党や厚労、財務両省との折衝を加速化させ、年末の26年度予算編成で具体的な改定率のマイナス幅を決定する。

 ただ、「本体部分」は、備品購入時の消費税分を患者に転嫁できない医療機関の負担を軽減する必要性から田村憲久厚労相が引き上げを目指しており、増額される可能性もある
(略)

もちろん日医などは空しい抵抗を繰り広げることになるのでしょうけれども、日本の医療体制は薄利多売をしなければ儲けの出ない構造を強いられ、とにかくもっと売り上げを上げろと(つまりは、どんどん病人を増やせと)言う方向での圧力がかかる構造になっているのですから、ましてや年々医師らスタッフも増え続けている中で医療費が増えることは当然なシステムになっているわけです。
一方で日本人の総人口が頭打ちになり高齢化も進み、税収面など金銭的裏付けの話は抜きにしても国民世論の大多数も今や「一日でも長生きを」という時代でもなくなっている中で、果たして際限なき医療費増大を構造的に強いられるような医療供給システムが時代にあっているかと言えば、これはやはり一度冷静になって考えてみる必要がありそうですよね。
既得権益保護などと言った話を離れて考えてみると、先日農業分野で減反政策の一大転換が図られたことが話題になったのと同様に、これもむしろ医療の質的転換を図る好機と捉えるべきなのかも知れず、特に今まで不採算部門を平気で抱え込んできた医療機関はこれからはそれなりに淘汰されるか、診療方針の転換を迫られるということになりそうです。
その意味ではむしろ気になったのがこちらの記事なのですが、近年大学も独法化だなんだと改革が推し進められている中で、人材に対しても大幅な改革が強いられそうだと言う記事ですよね。

国立大教員に年俸制 文科省、競争を導入・退職金廃止(2013年11月26日朝日新聞)

 【村上宣雄】国立大学の教員の給与について、文部科学省は、年功序列を改めて退職金を廃止し、業績を反映させる年俸制への転換を進める方針を決めた。「競争がなく、ぬるま湯体質だ」との批判もある国立大の組織全体の活性化を進めるのが狙いで、26日にまとめた「改革プラン」で示した。当面の目標として、理工系を中心に2015年度末までに1万人を年俸制に切り替えるとしている。

 文科省はあわせて、企業からの研究資金などを年俸に組み込む「混合給与」も進める。また、教授の定年退職の際、「弟子」の准教授を無条件に昇進させるのではなく、有能な若手や外国人の登用を促す

 国立大は全国に86校あり、教員の総数は約6万3千人。文科省によると、現在も新規採用や年数を限った契約で年俸制をとるケースはあるが、全体で数千人にとどまるという。

 計画では、勤続年数が長い教授らも終身雇用を維持しつつ年俸制への転換を進める。退職金を廃止する分、毎年一定額を従来の給与に上積みするが、一方で、以後の年俸は査定を反映させる。

ちょうど先日「日本の大学は学舎の墓場だ」などという物騒な記事を見かけて興味深く拝見したのですけれども、確かに全国どこの医学部でもろくに論文を書くでもなし教育に情熱を注ぐわけでもなし、まさに「何の為にいるの?」としか言いようのないような万年講師の先生というのはいらっしゃいますが、そういう先生達は涙目ということになるのでしょうか。
ご存知のように最近は大学研究の資金である科研費の配分も実績に応じて格差をつけようという話になっていて、スポンサーを取れるでもなく実績を挙げるでもない講座など単に予算の無駄遣い扱いされかねない勢いですけれども、逆にそうした「不良債権」を切ろうにも切れなかった側から考えると今回のこの話は意外に強力な大学改革のツールとしても使えそうに思います。
仮にこうした改革で大学病院でも切磋琢磨と淘汰が進むとなれば、今までのように「大学だから」と漫然と経営戦略もなしに行ってきた経営も転換を図られるかで、それこそ大学病院だからといくら査定されようが好き放題なことをやっていいと言う考え方は次第に通用しなくなり、世間並みの当たり前の医療を行うのが大原則ということになるかも知れません。

先日日経メディカルに「「××の検査をして下さい」と来院される患者さん」と言う記事が掲載されていて、要するに一般外来でもよくある診察も受ける前から何をするか決めてやってきている方々にどう対処するかと言う記事なんですけれども、いや普通患者都合で希望される検査は全額自費でしょ?と思う一方で、実は多くの患者が保険診療の限界や費用のことを説明すると納得して引き下がるというのはさもありなんと思いますね。
大学病院などと言うところは「これ以上出来ることはないんですか!?」と言う患者の声に対して採算度外視で応えるところだと言う考え方も確かにありますけれども、それでも出来る治療と出来ない治療があると言うのはもちろん物理的設備的な限界もさることながら、極論すればそこの先生方が興味を持って研究している分野かどうかと言うことだと思います(それはそれで医学の進歩に必要な重要な仕事ですけれどもね)。
それだけに「患者様の希望に少しでもお応えするのが我々の使命」だと言うのは半ば自己欺瞞も入っていて、実は患者の側は単に「もう出来ることはありません」「これ以上は巨額のお金がかかるだけで効果が見込めません」と言ってくれれば納得出来ていたはずなのに、自腹でお金をつぎ込んででも応えてしまうと言うのは研究の足しにはなっても、医療と言う面では必ずしも手放しで称讚される行為ではないかも知れませんね。
近年ますます高度化、長期化して際限のない費用がかかるケースが散見される不妊治療なども「辞めどき」が見いだせない方々にとっては進むも引くも地獄というべき状況でしょうが、それでは未来永劫全額公費で支援すればいいかと言えばそんな訳はないのであって、医療全般においてもそろそろ引くべき時と言うものを考えていかないと、またぞろスパゲッティ症候群と批判された時代の二の舞になりかねないですよね。

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コメント

>国立大教員に年俸制 文科省、競争を導入・退職金廃止

…企業が年功序列と終身雇用を廃止したのと同じ轍を踏みそうな予感…。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年12月 2日 (月) 09時40分

ここで聖域なき改革をという財務省の意気込みはわかります。
医療はそれに比べると覚悟が不徹底というか抵抗勢力化してますね。
ここで医療そのものの構造を根本的にかえないと財務省の求めるようにはならないでしょう。
昔ながらの古き良き皆保険制度はもう限界ってことなんでしょうか。

投稿: ぽん太 | 2013年12月 2日 (月) 09時45分

日医はぶれないなw

日医「かかりつけ医へ手厚い配分を」- ネットプラス改定を要望

日本医師会の中川俊男副会長は27日の記者会見で、2014年度診療報酬改定におけるネットプラス改定を要望した上で、地域包括ケアシステムの中核的機能を担う、
地域の「かかりつけ医」に特に手厚く配分するよう求めた。中川副会長は、「直近の改定は大規模急性期病院中心の配分だった」とし、次期改定では地域に密着した中小病院や診療所への評価を要求した。

また、消費税率の引き上げで増える医療機関の負担への手当てについては、「完全な補てん」を求めた上で、通常の改定分とは明確に区別するよう要望。
「(これが技術的に可能かどうかは)厚生労働省にも確認したが、可能でないはずがない」と述べた。
さらに、財務省が、薬価などの引き下げ財源の本体への充当を不適当としていることについて、「健康保険法において薬剤は診察などと不可分一体であり、
その財源を切り分けることの方が不適当」と反論。薬価引き下げ分は、全体の改定財源として活用すべきと訴えた。
http://www.cabrain.net/news/article.do?newsId=41478

投稿: | 2013年12月 2日 (月) 09時49分

診療報酬を削減するならそれに合わせて診療内容も見直さなければならないと思うのですが。。。

自分の親を大切にしたいのはわかりますが80代後半の大腸癌穿孔・敗血症とかにできることは全部やってくださいと言われても。。

ある程度国の方で高齢者の急性期医療を制限しないと難しいのでは。

投稿: 一般外科 | 2013年12月 2日 (月) 09時58分

ちょうどリパーゼ阻害薬の薬価収載が見送りになったように、特に予防医療の充実も期待される今の時代で何でもかんでも保険診療で例外は認めない式のやり方はやはりちょっと無理があると思います。
年齢別の適正医療もしかりで、小児と青壮年、高齢者が同じ一つの枠で医療をしているというのはおかしいし、ターゲットとなる疾患や求める医療のあり方によって保険のあり方も差があってしかるべきです。

それはさておき上の記事にも関連したことですが、かかりつけ医というものがどのようなものであるべきかということに議論が必要ではないかと思いますね。
特に急性期の病院勤務医にままあることですが、かかりつけの開業医は楽をして儲かる患者だけ取り込んでちょっとでもおかしくなるとすぐ送りつけてくるという不満が不公平感を招いているわけです。
例のかかりつけ24時間対応なんて夢物語が当然ながら破綻している現状で、日医はそれに変わるビジョンを出さないで金だけ寄越せという主張は許容されないでしょう。

投稿: 管理人nobu | 2013年12月 2日 (月) 10時50分

生活習慣病の一次予防なんて自己責任でやるべきこと
メタボなんぞに大金つぎ込むのがバカなだけですから

投稿: 寅 | 2013年12月 2日 (月) 11時56分

農業でいえば、貧しい人は麦を食えばいいわけです。
医療でいえば、貧しい人は粗末な医療でいいのです。不労徒食のやからが100歳まで生きてどうすんのさ??と思う
なんでもかんでも平等なサービスはおかしい。これからは税額によって身分の差をつけるべきですね

投稿: TPP推進 | 2013年12月 2日 (月) 14時57分

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