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2013年12月 9日 (月)

特定秘密保護法で医療は崩壊する!?

先日はいわゆる特定秘密保護法が両院を通過して成立したわけですが、いわゆる市民団体等々の方々を中心に反対運動が盛り上がっていた中で、各種医療団体が反対の声を上げていたことをご記憶でしょうか?
何となく国家機密に関わるような遠い世界の話のようにも思えるこの法律ですが、回り回って医療現場にもそれなりの影響があるかも知れないという懸念を抱く方々が相応にいらっしゃるということで、まずはこちら某御高名なる大先生の主張から取り上げてみましょう。

「医療の根本崩壊も」 国主導の情報操作に懸念(2013年12月6日東京新聞)

◆県済生会栗橋病院院長補佐 本田宏

 国民の「知る権利」やプライバシーを侵害する恐れがあると指摘されている特定秘密保護法案が五日、参院の特別委員会で強行採決された。「特定秘密保護法案に反対する医師と歯科医師の会」を設立し、医師として反対を表明してきた県済生会栗橋病院(久喜市)の本田宏院長補佐(59)は「薬害エイズのような命に関わる情報が公表されなくなる危険性がある」と国主導の情報操作に強い懸念を示している。 (増田紗苗)

 「憲法の定める基本的人権と平和を脅かすものであり、命の最前線で仕事をする私たち医師、歯科医師はこれを見過ごすことができない」-。与党の強硬姿勢で同法案が成立へと進む中、本田医師たちは三日、インターネット上で法案の反対を訴える声明を発表した。

 本田医師が訴える思いの底には、第二次世界大戦中に医療が国策として人体実験などに利用された負の歴史がある。「医者は患者の権利を守らなければならないというのが先の大戦で得た教訓だ。しかし、このままでは医師が『特定秘密の取扱者』として患者の病歴や治療歴の提供を強制される恐れがあり、国策に利用される可能性をはらんでいる。患者に危害が及び、医療の根本を崩壊させかねない、とんでもない法案だ」と語る。

 本田医師は、医療環境を充実させるために医師数の増員や医療費の増加を国会やメディアで訴え、医療費を抑制しようとする国と対立してきた。同法の成立により「何が特定秘密なのか分からず、国の都合の悪いことを訴えると、同法に抵触しているとして取り締まられる恐れがある」と強い危惧を抱く。

 さらに、本田医師は市民の責任についても言及した。

 「歴史は繰り返す。市民の知らない間に戦争に突入していたように、憲法九条があるから大丈夫と思っていたらもう遅かった、ということになりかねない。今回の法案も、選挙で自民党が圧勝したときから予想できた流れだ。『世界最大の悲劇は、善良な市民の沈黙と無関心だ』というキング牧師の言葉を今、思い返さなければいけない」

ちなみにこれまたマスコミに盛んに登場される某精神科医の方は「秘密保護法に反対してる人がみなキライだからきっと良い法律なんだろ、という意見をネットでよく見る。反対を語れば語るほど逆効果になるくらい嫌われてるちゅうことを、私を含めたいわゆるリベラル派は考えてみなきゃ。」と身も蓋もないことをつぶやいて話題になったそうですが、ともかくも大先生の主張ではどこか抽象論、観念論めいていて具体性が感じられません。
実際のところ医療にどんな直接的な影響があるのかと言うことがメディアでも少しずつ取り上げられるようになっていますけれども、基本的にはいわゆるスパイ行為を働いた個人に対する調査の過程において、医療現場に課せられた守秘義務との絡みでどこまで答える義務があるのか?ということに焦点が当てられているようですね。
昨今は論文や学会発表などでも何かと面倒な手続きが必要とされるなど世界的に医療の守秘義務ということがうるさく言われる中で、これは時代に逆行する話ではないか?という懸念は当然出されてしかるべきだと思うのですが、先日「立ち去り型サポタージュ」で有名な小松先生がこの点に関してこんなことを書いています。

特定秘密保護法案:医師に情報回答義務はあるのか/小松秀樹(2013年12月4日医療ガバナンス学会)

●報道
2013年12月3日の毎日新聞は、「特定秘密を取り扱う公務員らに対する適正評価について、行政機関から照会を受けた病院は回答義務が生じるとの見解」を政府が示したと報じました。

「内閣官房の鈴木良之内閣審議官が参院国家安全保障特別委員会での法案審議で『照会を受けた団体は回答義務がある』と述べた。共産党の仁比聡平氏が『病院 に調査があったときに回答を拒むことはできるか』とただしたことへの答弁。仁比氏は『患者は主治医を信頼して話せなくなる』と指摘した。法案の12条4項 は、特定秘密を扱う公務員らが適任者か判断するため、『公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる』と規定しているが、病院などの団体側 については義務規定がない。鈴木氏の答弁は、政府がこの条文を事実上の『義務規定』とみなし、医師らに情報提供を強要する可能性があることを認めたもの だ。」
(略)

法律で照会できると規定されていても、漫然と回答することが許されるわけではありません。弁護士法23条の2は、弁護士会が弁護士の求めに応じて、「公務 所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる」としています。犯罪歴を報告したことが、最高裁で、過失による違法な公権力の行使にあ たると判断された事件がありました。解雇事件を会社側から受任した弁護士の求めに応じて、弁護士会が「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」と して、京都市の区長に係争相手の前歴を照会しました。区長が前科を報告したところ、会社側が前科を公表し、経歴詐称を理由に予備的解雇としました。犯罪歴 は個人のプライバシーでも最も重要なものであり、みだりに公開すべきものではありません。報告することが必ずしも必要だったわけではないとして、違法とさ れました

法案が成立した場合、司法はどのように関与できるでしょうか。医師が回答を拒否した場合、罰則があれば、司法に持ち込まれる契機になりますが、罰則はつい ていません。あいまいな強制力で争点を生じさせないようにすれば、司法の場に持ち込まれにくくなります。適正評価の対象となっている個人が、医師や医療機 関を訴えることは考えられません。勝訴することが、本人のメリットにつながらないからです。
三権分立は権力の暴走を防ぐための仕組みであり、健全な国家運営に必要なものです。照会・回答は、人権に関わる問題であり、司法による判断が重要な領域です。司法をできるだけ排除しようという意図があるとすれば、危険だと言わざるをえません。
(略)

医療分野でかねてから問題になっていることの一つに「患者が明らかに犯罪的行為に関与していることが疑われる場合において、それを警察等に通報することは守秘義務違反にならないか?」と言う問題があって、例えば違法薬物の使用が疑われる場合や昨今話題のDVが疑われる場合など、多くは確実な物証がないこともあって患者との信頼関係との兼ね合いで頭を悩ませるケースが多いのではないでしょうか?
とりあえずは警察や検察といった司法の側から令状を持って来た場合にはもちろん協力するのにそう躊躇することもないでしょうが、今回のケースがそれに相当する扱いになるのかどうかは秘密保護法による照会にどの程度の法的拘束力があるのかと言うこととも絡むことで、令状に相当する明確な権威の裏付けもないまま当時者の独断でほいほいと照会されても正直困るなと言うところではないかと思います。
平成16年に厚労省が「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」と言うものを公表していて、その中には「他の法令等との関係」として「医療・介護関係事業者は、個人情報の取扱いにあたり、法、基本方針及び本ガイドラインに示す項目のほか、個人情報保護又は守秘義務に関する他の法令等(刑法、関係資格法、介護保険法等)の規定を遵守しなければならない」と定めています。
文字通りに解釈すれば他の法令で規定があるのならそちらに従ってねということになるかと思うのですが、そもそも前述の記事にもあるように医療施設の義務規定としては法に明記されたものではなく、単に法案審議の過程において出た一答弁で「政府がこの条文を事実上の『義務規定』とみなし、医師らに情報提供を強要する可能性がある」と解釈されているだけという、いささか曖昧なものになっているのが気になりますよね。
現実的には法律において罰則規定がないという点ではいわゆる応召義務と同じことで、小松先生も書いているように答えたからと言って当事者から訴えられるという性質のものでもないとは思いますけれども、何とももやもやした印象が残るところではあります。

実際のところこうした情報提供によって「患者に危害が及び、医療の根本を崩壊させかねない」かどうかですが、当面多発しそうだと考えられるのは例えば機密を扱う立場に立つ者が違法薬物を常用しているかどうかやある種の精神疾患に罹患しているかどうかなと、そうした職務に携わることが適切であるかどうかを医学的に問われるといったケーズではないかと想像します。
ただ現段階においても毒物劇物取扱責任者資格などのように「心身の障害により毒物劇物取扱者の業務を適正に行うことができない者」や「麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者」などを欠格事項で排除しているケースは多々あり、そうした場合には薬物中毒ではない云々の診断書(個人情報)提出を求められているわけですから、秘密保護法絡みのケースだけ特別視して個人情報は一切出さないというのもおかしな話に聞こえます。
実のところ近年の個人情報保護重視という流れの中でこのあたりの個人情報提供は非常に微妙な問題となっていて、そもそも患者が事実を素直に話しているという保証もない以上そんな診断書そのものに意味があるのかという議論もあって、各施設とも顧問弁護士と相談しながら「本日医師が診察した限りではそうした徴候はない」云々と非常に腰の引けた注釈を添えて誤魔化している場合もままありますよね。
そう考えると無届けてんかん患者による事故で運転免許更新手続きの不備が問題になったように、むしろ国家機密に関わるような重大な判断において医療機関からの情報提供にそこまでの信頼性があるものだろうかと言う点の方が気になるくらいで、問い合わせをした側も嘘でもないが本当とも言い切れないと言った感じの情報提供を前に判断に迷うことになるんじゃないか?と言う気がしないでもありません。

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コメント

医療に限定して言えば崩壊だとか大騒ぎするほどのものでもない気がしますけど…
本田先生はマスコミ慣れしてるから過剰に大げさな言葉を使うのが好きなんでしょうか。
非現実的な極論は冷静な反対論者にとってもマイナスでしかないような。

投稿: ぽん太 | 2013年12月 9日 (月) 08時45分

ホンダラ教徒は教祖様のキツい言葉責めほど喜ぶ体質の方々だから無問題w

投稿: aaa | 2013年12月 9日 (月) 09時50分

有田芳生認証済みアカウント ‏@aritayoshifu
https://twitter.com/aritayoshifu/statuses/408559753443295233
参議院議員会館前で抗議している人たちにマイクで訴えてきました。
歩道の近くでは「革マル派」が、その後ろでは民主青年同盟が横断幕を持っています。
決戦の本会議は9時20分から開かれるようです。 pic.twitter.com/rOnfnvGz36

投稿: | 2013年12月 9日 (月) 11時02分

まあなんと言うのでしょう、やはり「語れば語るほど逆効果になる」タイプの方々というのも一定数いらっしゃるわけで、そこは自覚しておいていただいた方がより世間の理解は得られやすいかも知れませんね。
個人的には一般論として職業人系の団体が畑違いの領域に何でも見境なく口出ししているように見えるのには違和感を覚える方なのですが、世間的にはそれだけ発信力を期待されている立場だということなんでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2013年12月 9日 (月) 11時15分

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