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2013年12月 5日 (木)

無理を強いると見えてくるものがある?

先日は厚労省の調査によって勤務医が業務負担軽減策として求める対策は医師の増員が8割増と圧倒的に多数派で、給与増などその他の対策は各々4割にも満たなかったと言う報道がありましたが、厚労省の出している元データ(速報版)を見ますともう少し面白いことが判ります。
例えば現場で勤務状況を改善するために現在やっていることに対しての評価が出ているのですが、これで高い評価を得ているのが前述の「医師の増員」や「勤務シフト制導入」で4割程度から効果有りと評価されている一方で、意外なほど評価が低かったのが「短時間勤務の導入」や「外来診療時間の短縮」で、「どちらかと言えば効果があった」という甘めの判定を加えても評価する声は半数にも達しません。
一般に多忙な施設では額面の勤務時間や外来のコマ割などハナから無視しての業務を強いられていると考えれば納得出来る話ですが、全般的な業務状況も前年よりも悪化したと言う声が多いと言う現状を見ると、医療現場はますますブラック化していると言ってもいいのかも知れませんよね。
医者の給料が安いことで知られるドイツでは逆に労働管理が厳重になされていて医者のストも当たり前、有休消化は病院にとっての義務という状況ですが、日本の場合給料は標準並みの水準に対して世界的に見ても一番過酷な労働をしていることから、やはり最近の各種調査によっても「金をもらうより休みをくれ」という声が多数を占めているというのは妥当なことではないかなと言う気がします。

ただいつも思うことですが、確かに医療現場(少なくともその一部)が日常的に過酷な労働を強いられているのは明らかな事実で、これに対して常に人員不足解消の要求があることももちろん理解出来るのですが、一体に増え続ける医療需要に対して無制限に応需していくことが正しいことなのかどうかと言う視点も必要で、近年ようやく議論にも登るようになってきていますよね。
例えばとある地域基幹病院では近隣医療機関からどんどん紹介を受け入れ「紹介するならあの病院へ」「あの病院に任せておけば大丈夫」と非常に信望が厚かった、しかしその内情は慢性的な過重労働でスタッフの不平不満が溜まり続け、ついにはお約束の集団逃散で手術もろくに回せなくなり救急受け入れも停止、外来も半ば崩壊状態に陥ったと言います。
それではそんな基幹病院が破綻して地域医療が崩壊したと言えばさにあらず、患者の方では「あそこはやたらに待たされるから他の病院に紹介してくれ」とむしろドライな程に割り切っているし、逆紹介が増えて地域の医療機関に業務分担が割り振られた形にもなり、結局は患者数もそこそこ落ち着くべき水準に落ち着いてそれなりに安定した状態で業務を回していると言います。
患者も馬鹿ではありませんから何も考えずに病院に来ているわけではなく、待ち時間などのリスクと得られる利益とを考慮しつつ病院に行くかどうかを決めているわけで、早い話が医療現場が一生懸命頑張って患者様の利便性を追求するほどますます医療需要は増加し、さらに沢山仕事をこなさなければならなくなると言うことです。

国は医療費を総額で見ていますから、今のように医療がどんどん薄利多売化してパイだけが大きくなればますます診療報酬を削減し安売りを強いるのは当然で、その結果さらに仕事を増やす=医療需要を喚起しなければ経営が成り立たなくなるという悪循環に陥っているのが現状ですが、ではこれを避けるためにどうすればいいのかです。
一つには昨今日医の反対論に遭いながらも(苦笑)言われているのが混合診療の導入で、いわば公定価格以外に各施設の裁量で儲ける道が確保出来るのですから薄利多売を強いられずじっくり診療に取り組めるようになる理屈なんですが、どうも日本では医療は皆に平等に薄利多売粗製濫造でなければならないと訴える方々がいらっしゃるのは付加価値を付けられるだけの自信がないということか?と勘ぐられかねません。
付加価値の提供に対して妥当な報酬を得られないということは医療の質的向上に対するインセンティブが働きがたいと言うことでもあって、日本に最先端医療の導入が遅れがちであることの一因であると言う声もありますけれども、最近では厚労省もこの付加価値を評価する方向での独自加算を大病院などを中心に認めるようになってきたと言うのは、医療は完全に平等であるべきと言う考えの限界を認めたということでしょうか。
一方で医療においても完全平等の建前を捨ててハイローミックス戦略を取るとしてもハイばかり整備しても駄目で、むしろ医療需要として大多数の場合はローの方が求められているのですが、先日厚労省の医政局長から同省の長期医療戦略がうかがえるこんな気になる発言が出ていたことを紹介してみましょう。

病床機能、回復期は急性期とセット望ましい-原医政局長、急変時の対応求める(2013年12月2日CBニュース)

 厚生労働省の原徳壽医政局長は、11月30日に東京都内で開かれた日本医療社会 福祉協会設立60周年記念講演会で講演した。病床機能情報の報告制度についての 説明では、回復期機能を担う医療機関には、急性期機能もセットで持ってもら い、急変時にも対応してほしいと述べた。【大戸豊】

 原氏は医療ソーシャルワーカー(MSW)にもかかわる政策として、病床機能の 報告制度や地域医療ビジョンなどを説明した。
 厚労省の「病床機能情報の報告・提供の具体的なあり方に関する検討会」で は、医療機関は、▽高度急性期▽急性期▽回復期▽慢性期―の4つの機能のうちから、 「現状」と「今後の方向」に照らし合わせた上で、機能を報告するという案が示 されている=表=。
 原氏は、回復期機能には、さまざまな機能が入ってくると指摘。1つの病院が 回復期機能を単独で提供するというのではなく、急性期機能とセットで担っても らいたいとし、「患者が回復期に移ってからちょっと急変した時に、『うちでは 診られません』と言って急性期に送り返したのでは、何にもならない」と強調した。
 原氏は「少々の急変ならば、急性期の病棟と連携しながらできるような形を、 ある程度セットで考える方がいい」と述べた。その一方で、リハビリテーション を集中的に提供する機能については、単独の病院での提供も考えられるとした。

 また、慢性期機能については、いろいろな議論があるとした上で、高齢化の進 展で患者がどんどん増えていく中、病床利用率を高めても、病床数は足りなく なってくることが予想されるため、「療養病床の中の医療で、本当に病院でなけ ればいけないのか、施設では駄目なのか、家族がいる時に在宅ではどうかなどを 真剣に考えていく必要がある」とした上で、慢性期機能を担う病院についても、 少々の急変には対応できるくらいの能力を持ってほしいと述べた。
 原氏は、「機能分化をしていくと、患者の動きがある」とし、「高度急性期の 病院から、患者の住まいの近くの病院に移ってもらうことを真剣に考えていかな いと、高度急性期はうまく回らない。ここはとても大事なポイントではないか」 と強調した。
 また現在、各医療機能における患者の状態像や調査項目をどのようにすべきか 頭を悩ませているといい、「在院日数や主要な処置などにより、どのような患者 がいるのかを推定するようなデータとか、病院にどのような機器があるといった ことも聞きたい」と述べた。
(略)

しかし全員急性期に送って高度医療なんてことをされると金が幾らあっても足りないから、ほどほどのところで収めてほしいという願望をマイルドに表現するとこうなるらしいと拝見したのですが、現状の機能分化がなされていない段階でならともかく、機能分化を政策的に推進した上で「回復期・慢性期の施設でも急変に対応を」と言うのは患者さんに死ねと言っているに等しいですよね(しかし「少々の急変」とは斬新な表現ですが)。
急変に対応するために必要な各種機材もタダではなく、購入したとしても保守契約の期限というものがありますから一定期間内に減価償却をしなければお金を捨てたのと同じ理屈で、逆に言えば元が取れないことが判っている高価な機材を導入するはずがないと考えれば、今後回復期・慢性期に指定された施設では様々な機材が年々減って急変に対応したくても出来ない状況になるでしょう。
機能的な限界はさておくとしても、例えば何故今現在も療養病床で急変が見られないかと言えば診療報酬のまるめによって「手厚く診れば診るほど赤字になる」と言う現実があるからで、今後機能分化をしても他機能も一定程度担えと言うのであれば診療報酬上もそれに相当する加算なりと出さなければ、施設側もわざわざリスクだけが増えるような行為には手を出さないと思いますね。

理想的には大きな敷地に各段階の施設をひとまとめにしておいて、状況によってフレキシブルに各施設間を患者が移動できる「モール型」の医療連携が望まれるのでしょうが、今までの日本の医療では大病院から町の小病院まであらゆる機能が何でもありの「デパート型」を志向した結果、多くの施設であれもない、これもないの中途半端さばかりが目立つという「田舎のよろず屋型」に陥っていたきらいがあります。
最近は多科クリニックが一つのビルに集積したモール型の開業が目立ってきていますけれども、これも事務処理や検査機材などを共用するなど工夫すればもっと利益率が上がりそうですが、見ていますと単に各階にそれぞれのクリニックが入居しているだけと言う状況に留まっているようで、これまた多くの場合私的な施設が医療を担っているという日本の現状が示す限界でしょうね。
厚労省としてはかねて医療の集約化を目指していることは周知の通りで、そうなると効率化のためにも多数の医療法人が分散配置されている現状はよろしくないはずで、今後はアメとムチを駆使して法人の統廃合を進めるという方向に誘導するとなれば、一番手っ取り早いのは潰したい施設には徹底して彼らが嫌がることを仕掛けるというやり方でしょう。
例えばある程度の規模的集中がなければどうしてもコスト的にペイしない要件を強いるといったやり方でもリソースの集中を促すことは出来るかと思いますが、そうしたゴールが設定されているのであれば負け組確定の施設にとってはどこで手を引くか?と言う計算も必要になってくるでしょうし、すでに負け戦が見えているのにスタッフに最後の一兵卒まで玉砕戦を強いるなどあってはならないことですよね。

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コメント

外来部門独立みたいな形で大病院はリハや療養を切り離すことになるんですかね?
うまいこと施設間で患者を回せれば今まで以上に儲けになりそうですけど。
規模の大きいところが有利ってのは厚労省も望んでることだから問題ないって感じで?

投稿: ぽん太 | 2013年12月 5日 (木) 08時56分

金は出さないが努力はしろというのはどうなんだろう?
不採算部門はどんどん切り捨てて経営努力するしかないね!

投稿: 立花亮 | 2013年12月 5日 (木) 09時41分

医療法人「社団」と「財団」の合併が可能に
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/41537.html

どんどん合併して経営合理化しろってことでしょ

投稿: | 2013年12月 5日 (木) 09時45分

当然4区分全てを握っている大きな法人ほど有利ではあるでしょうが、民間施設同士でも法人の壁を越えて提携する動きは活発化してきそうですね。
あとは現場のスタッフがそうした再編を損と受け取るか得と受け取るかで、どこの施設が勝ち組になるかが決まってくるかと思います。

投稿: 管理人nobu | 2013年12月 5日 (木) 10時44分

上に政策されば下に対策ありで、臨床研修制度が最もたるものですが、国の思惑とは別な方向に事態が進むことがあり、先行き不明ですね。毎年のように医療制度が変わって現場は混乱する一方で、一昔前と違って医療従事者、特に医師もだいぶドライになったから、割りに合わないと思う業務からは逃げ出すだろうし、最終的には医療の受け手にシワ寄せがくるんでしょう。 

投稿: | 2013年12月 5日 (木) 11時04分

政策されば→あれば の間違いです。

投稿: | 2013年12月 5日 (木) 11時06分

回復期病院に急変時対応を求めるのは酷なのでは。

治療後に寝たきりに近い状態になった高齢者なんかは、急変の可能性があるなら状況によってはDNRを確認してから受けてもらったほうが互いのためになると思います。

投稿: 一般外科 | 2013年12月 5日 (木) 11時57分

出来ない施設に出来るだけの対応をと言う真意を汲めってことだなw

投稿: aaa | 2013年12月 5日 (木) 12時09分

脳卒中後の少々の急変は重大疾患(重症細菌感染症や腸閉塞など)の可能性も高い。
少々の急変→死亡につながる
救急医療をやったことのない人間が軽々しく言うなと。
回復期から急性期へのリターンをやめろと言うのなら、独立した回復期リハビリなど存続できない
回復期と急性期が併設されている病院でなければ無理。

投稿: 逃散前科者 | 2013年12月 6日 (金) 11時16分

>回復期と急性期が併設されている病院でなければ無理。

まさに狙い通りの効果を金を使わず達成できて厚労省は笑いが止まらないでしょうね。
仮に問題視されても単なる官僚の非公式コメントを民間が勝手に判断しただけと言い逃れできる。

投稿: 柊 | 2013年12月 6日 (金) 13時19分

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